サイクルモードライド大阪でプレゼンスの高まりを強く感じたカテゴリが、E-スポーツバイク。
LOVE CYCLISTの読者の多くは、純粋な自分の力で走ることに喜びを感じるサイクリストたちのため、アシストが入るバイクに興味を覚えないかもしれません。
ロードバイク市場はそういったサイクリストの存在感が強いので、僕自身もメディアやショップがE-スポーツバイクを推薦するコンテンツを見るとき、誰をターゲットに訴求しているのかがわかりませんでした。坂を苦しみながら登ることが極上のご褒美なはずなのに、なぜ楽ができる自転車を推してくるのかと(狂気)。
サイクルモード内でE-スポーツバイクに試乗することで、バイクそのものの乗り味は一定理解しました。このインプレッションだけをお伝えすることは容易ですが、それ以上にアシスト付きスポーツバイクが活躍するマーケットの将来的な可能性がどこにあるのかという観点はまだ多く語られていません。
そこで、シマノのコンポーネンツを搭載したバイクを元に、その可能性をいちサイクリストの視点で率直にまとめていきたいと思います。
1. SHIMANO STEPS
SHIMANO STEPSを構成するユニット
シマノが提供するE-スポーツバイク(電動アシストスポーツ自転車)用のコンポーネンツは“SHIMANO STEPS E8080シリーズ”。
日本のレギュレーションに適合させたこのコンポのシステムは、パワーをアシストする“ドライブユニット”と“充電式バッテリー”、そして手元でアシストレベルを制御する“スイッチユニット”と“サイクルコンピューター”から構成されます。
SHIMANO STEPSを搭載した発売中のバイクは、2019年3月時点で7台。
シティサイクルタイプ
MIYATA “CRUISE” – ¥269,000(税別)
MIZUTANI “Seraph E-01S” – ¥380,000(税別)
LOUIS GARNEAU “ASCENT e-sports” – ¥330,000(税別)
※シティサイクルタイプには“DAVOS E-600” – ¥430,000(税別)もあります。
MTBタイプ
MIYATA “RIDGE RUNNER” – ¥369,000(税別)
Merida “eBIG.SEVEN 600″ – ¥359,000(税別)
BESV “TRS1″ – ¥462,000(税別)
MTBタイプも充実しているのは、先行する欧州がロードよりMTB市場の方が大きいことも理由のひとつ。電動MTBは欧州のスポーツ自転車市場の25%を占めると言われているほど巨大なマーケットに成長しています。
ただ欧州で流行しているとはいえ、ロード市場が強い日本ではE-スポーツバイクマーケットの捉え方は変わってきます(後述)。
2. 試乗インプレッション
今回のサイクルモード大阪で試乗したのは、クロスバイクタイプの“CRUISE(クルーズ)”とMTBタイプの“RIDGE-RUNNER(リッジランナー)”。
指向の違う2台に乗って、それぞれが活きるシーンを感じ取っていきます。
アシストの威力
アシスト調整スイッチ
アシストレベルはEco-Normal-Highの3段階。
ゼロ発進はEcoほど控えめで自然なアシストが得られ、Highになると背中を押されるような強力なアシストになります。
試乗コースのためそこから高速域まで持っていくことは困難でしたが、それでも速度が乗ってきて20km/h近くなると、次第にアシストの力は弱まり、自分の力で自然にペダルを回しているような感覚に。
踏み脚の緩急に合わせてスムーズにアシストが調整されるため、特に力を使うゼロ発進や坂道で、無理なく走ることができます。
このアシストによってラクになる感覚は、ロードバイクを軽量化してラクになるのとは全く違うベクトルの感じ方。
軽量化の方は、ペダリングによるインプット1.0に対して、これまでは重量のロスで出力0.8になっていたものが、ロスが少なくなって0.9になるという類の変化。
対して電動アシストはインプット1に対して出力が1.5に増幅されるようなフィーリングです。そのアシストパワーが想定よりもはるかにパワフルでした。
CRUISEとRIDEGE-RUNNERの乗り味
CRUISE
クロスバイクタイプの“クルーズ”は、そのカテゴリ通りシティ・ツーリングを主に用途としたバイク。
普段使い用バイクとして乗りこなしやすく、ストップ&ゴーやスローペースでのサイクリングがとても容易。
SHIMANO STEPSのアシストの滑らかさや力強さもそのままで、重心が低いことによる乗りやすさと、ゼロ発進の軽さによって、街乗りモデルでもE-スポーツバイクらしさが表れていると感じられました。
アシストが入るタイミングについてはある程度慣れが必要で、坂道では無理なく力を温存して走るために軽めのギアでくるくる回すように意識して走ります(あまりトルクをかけ過ぎるとアシストの恩恵を得られない)。
RIDGE-RUNNER
MTBタイプの“リッジランナー”。
パッと見でわかるように、SHIMANO STEPSとフレームデザインの融合がすごく良い感じ。クルーズはバッテリーが強い存在感を示しているのに対して、リッジランナーはフレームに馴染むようなデザイン設計。
よりスポーティな外観なので、E-“スポーツ”バイクの名に相応しくて格好良い車体です。
乗り味もサスペンションが効いてとてもしなりが効く気持ちよさ。
MTBカテゴリは僕は門外漢ですが、かつて友人のモデルを借りて走ったとき以上に、坂道でのパワフルさを実感します。
* * *
試乗のフィーリングから、SHIMANO STEPSはまさによりスポーツに近いカテゴリとの相性が良いと感じました。
スポーツバイクの良さがそのまま活かされ、さらにアシストによって不足分を補える。サイクルスポーツをより身近にするポテンシャルを感じることができます。
重量についての課題
逆にデメリットだと感じたのが重量。どちらも20kg前後と、スポーツバイクよりも街乗り用電動アシスト自転車に近い重量。
特にE-スポーツバイクを借りてから試乗コースまで押して歩くあいだ、車体がとても重いと感じました。
クロスバイクの場合は街中で押して歩くシーンも多々あると思うので、ハンドルを握ってしっかりバランスを取る必要があります(普段ロードの軽さが染み付いているので余計にそう思ってしまうのかもしれません)。
あるいはMTBの場合は、車載するときに持ち上げて積み込むのに苦労しそう。
走行外で重量がデメリットに働く点は、E-スポーツバイクを選択するときには必ず考慮すべきポイントとなります。
ただこの重量は、走ってみると感じることはなく、逆に走行時の安定感につながっているというメリットもあり、スポーツバイクの軽さに慣れない初級者にとってはより走りやすさを感じると思います。
インプレッションまとめ
Highs
- ・アシストがパワフル&スムーズ
・特にゼロ発進が本当にラク
・重心が低いので車体が安定する
Lows
- ・押して歩くとき車体の重さが負担になる
・自由にカスタマイズできる要素が少ない
3. E-スポーツバイクの活きるシーン
こういった乗り味の特徴を考えると、あまりにもロード的な乗り方──“苦しみの果てに喜びがある”という精神性が身体に染み付いているサイクリストにとって、電動アシストというカテゴリには興味を持ちづらいのが当然ですが、そもそもE-スポーツバイクがターゲットとしているのは、僕らのような一部のマニアックなサイクリストだけではないということを前提として語る必要があります。
アンチテーゼとしてのE-スポーツバイク
アシストは24km/h以上になると自動的に切れる仕様になっています。そのためE-スポーツバイクが活きる場面は、必然的にそれ以下の速度域で走るとき。
つまり、
- ・通勤などで市街地を軽やかに走りたい
・旅先でいろいろなところを回りたい
・山を登りながら景色を楽しみたい
といった、走ることだけにフォーカスしなくても良いシーンが最適に。
さらにスポーツバイクではなくあえてE-スポーツバイクを選ぶ層が挙げるであろう精神性が、
- ・速さは求めなくて良い
・つらくなくても良い
・汗をかきたくない
・ジャージ&ビブスタイルは受け入れられない
といった既存のシリアスライダーが持つような概念とは真逆のもの。従来の価値観と真逆のものを捉まえると、E-スポーツバイクの存在感がよりくっきりと見えるようになります。
この価値観こそがE-スポーツバイクの真髄の部分。
4. E-スポーツバイクが僕らと交わる世界へ
今後の転換を象徴する“SPORTS e-BIKE”サインボード
今自転車業界は、金属フレームの再熱・バイク×キャンプの楽しみ方・グラベルロードジャンルの追加などによって、カーボン全盛のスピード原理主義だけでなく、「緩やかに楽に行こう」という価値観を含めた“多様性”を認めやすい方向へとシフトしつつあります。
その流れの先鋭にあるのが、E-スポーツバイクという存在。
2018年は「E-スポーツバイク元年」と呼ばれましたが、完成車で30万円以上がほとんどのため、気軽に入手しづらいラインナップしかまだないことは確か。しかし、これからマーケットが広がって価格がこなれていく頃には、スポーツバイクの新しい世界が広がっている可能性があります。
これらのことから、当初は明確なターゲットが見えないカテゴリだと僕自身思っていたE-スポーツバイクは、「手軽にスポーツバイクを求めるクラスタ」と、「受け入れられやすいデザインや価格帯のプロダクト」が登場し、両者が交わるのを待っている状況なのだと理解しました。
SHIMANO STEPSという滑らかなアシストを実現する国産のコンポが市場に出始めているだけに(お世辞でなくシマノはモノづくりに対する姿勢がものすごく真摯)、長い目でこのカテゴリがグロースしていくことを期待しています。
そして僕自身も、自分の脚だけで登ることがすべてではないと考えるようになったとき(それは老いたときかもしれませんが)、E-スポーツバイクはひとつの選択肢として考えることになるだろうと思います。