アピデュラやウルフトゥースなどを取り扱う自転車カンパニー「オルタナティブバイシクルズ」が3年半かけて開発した携帯工具『Sardine(サーディン)』。
その形状からは、これまでの携帯工具とは異なる全く新しい使い勝手になるであろうことが想像できます。実際に使用し、その実力を確かめました。
equipt「Sardine」レビュー概要
特徴
長さ95mm、重量38gの携帯ツール(税込¥7,400)/ビットはヘックスの6,5,4,3とトルクスのT25
Highs:
取り回しが画期的で扱いやすい/ほぼすべての用途をカバーできる/ビットの交換が不要/省スペース
Lows:
ビットが露出しているので携行注意/カラーオプションが1色のみ
レビュアー:Miki(@r_miki1991) スポーツバイク歴5年。AIの研究開発職。ロードバイクを始めた当初は仲間とストイックに走り込んでいた。その後Pas Normal Studiosを着始めたことをきっかけに、PNSやLove Cyclistのコミュニティに加入。それぞれのスタイルに刺激を受けながらライドを楽しんでいる。 |
*本レビューのSardineはAlternative Bicycles提供のものです。
1. 携帯工具に対する思い
“携帯工具界のクリスキングを目指す”と語る開発者の北澤氏。
サーディンは、搭載するビットを頻度の高いものだけに絞ったミニマムな構成(ヘックス6,5,4,3+T25)になっています。
個人的に、無駄を削ぎ落として特定の用途に特化した製品に惹かれてしまう性で、サーディンの発売を知ったときに「使ってみたい…!」と心惹かれたのは、このコンセプトがとても魅力的だったから。
真ん中が少し膨らんだ流線形の形状が可愛らしく、持ったときの手馴染みも良い
高級感のあるアルミ削り出しボディと艶やかなブルー。実物はSNSで見た印象以上に高級感があります。
規則的に並んだアルミ切削時の加工線と、彫られたブランドロゴが目に楽しくて、ずっと触っていたくなる。
これまで使っていたのはPB SWISS TOOLSのバイクツール(写真上)。多機能だったものの、実際には使うことのないビットがあって最小構成にしたいなと感じていた
サドルクランプ、ステム、ボトルケージ、ディレイラーハンガー、スルーアクスルなど、出先のトラブルのほとんど対応できる
自転車歴が長くなるにつれて、走行中数々のトラブルに遭ってきましたが、その経験から携帯工具に必要なものも明確になっていきました。それがサーディンのビット構成とほぼマッチしています。
ビットアダプタを取り付けた状態
ただこれまではマウント調整用にプラスドライバーも持ち歩いていたので、必要なときはPB Swissのビットアダプタをサーディンに取り付けて使うようにしています。この運用は携行物を最小限に減らせるし、後述の使い勝手と合わせてベストだと感じています。
2. サーディンの真骨頂「早回し」
ストレートで早回し→L字にしてトルクをかける→180度切り返してさらにトルクをかける
この一連の動きがシームレスにできることが、サーディンの真骨頂。
従来のマルチツールの形状は似たようなもので、特に視認性の悪い位置にあるボルトには工具を挿し込むことすら苦労していました。
対して一度挿したら締め終わるまで抜かなくてよいサーディンの使い勝手は画期的。北澤氏が「世界一使いやすい」と話していますが、その理由が納得できます。
そしてこのスピード感は、出先でとてもありがたい。
特に手がかじかむ冬とか、一刻も早く涼しいカフェに辿り着きたい真夏とか、グループライドで仲間を待たせるのが忍びないときとか、基本的にマシントラブルは素早く完了させたいもの。早回しでサクサク作業を進められて心理的な負担も減ります。
3. 工具として良い点/気になる点
良い点
「早回し」に加えて以下3点がサーディンの使い勝手を高めています。
①使えない箇所がない
一般的なマルチツールでは干渉してしまってアクセスできないボルトやネジが稀にありますが、サーディンではそれがありません(少なくとも私の自転車では)。
②ビットの交換が必要ない
どのビットにもアクセスできる
これまで持っていたPB SWISS TOOLSのバイクツールセットは使いやすかったものの、ビットを交換する作業が地味にストレスでした。サーディンは片手でビットをくるっと回すだけでビット変更できるのが素晴らしい。
くるくる回る。回転の抵抗がちょうど良くて、作業時もヘンな動きをしない
スルーアクスルに使える6mmはT字のみ
これが意外と自宅でメンテナンスする際にも役立ちます。屋外で洗車をしたついでにメンテナンスをするとき、あれも足りない、これも足りないと工具箱へ何往復もする手間が省ける。
ちゃんと使いやすいマルチツールだからこそ家に据え置きの工具を代替できます。
ただしこのサイズ感からもわかるように、無理にトルクをかけると破損する可能性もあるので、高トルクで本締めが必要な箇所は、仕上げにトルクレンチを併用しています。
③省スペース
最近はグラベルブームやワイドタイヤの台頭でスペアチューブも大型化していて、結果としてツールケースを圧迫しています。
私も近いうちにオールロードのバイクに乗り換える予定があり(現在納車待ち)、ツールケースのスペースを空ける必要がありました。本体が小さく細長いので、ツールケースに余裕が生まれています。
気になる点
サーディンは完成度が高く、工具としての使い勝手において不満は特にありませんが、強いて挙げるなら以下の2点です。
①ビット先端が露出している
サーディンはボトルケージの下に装着できるホルダーも別売りされていますが、個人的には露出するところに設置したくないため、先端を保護するスリーブかケースのようなものがあると良いなと感じています。
裸のままだとバックポケットには入れられないし、私が使っているMORIMONOのサドルバッグやポーチはダイニーマでできており、露出したビット先端で突き破ってしまうかもしれません。レザークラフトでケースをDIYしようか検討中…。
②カラー展開
今後は本家クリスキングのように豊富なカラーバリエーション展開に期待。個人的にはマットバーボンを熱望しています…!
4. よりライドに集中するための工具。
常に持ち運ぶ“イワシ”
携帯工具は多機能であることも重要ですが、重量・サイズ・使いやすさは、機能の充実とトレードオフの関係にあります。サーディンは決して多機能ではないものの、普段のライドで遭遇するトラブルのほとんどに対応しながら、作業効率を爆上げするという設計思想。
ただし、携帯工具に希望する要件をはっきり持っているサイクリストでないと、サーディンのポテンシャルを最大限引き出せないだろうとも感じます。
自分は6,5,4,3+T25で足りるか。足りないと感じる場合はアダプタとビットを別途携帯するか。それでも対応できないトラブルに見舞われたら潔く輪行で帰るか、あるいは近くのショップに持ち込むと割り切るか。
そうやって、サーディンをベースに自分で対処する範囲をしっかり線引きすることで、メンテンナンスに対する感度が高まって、安心してライドに集中できるようになると思います。
equipt「サーディン」詳細ページ(Alternative Bicycles)