hypersupp.レビュー:成熟したウェア市場に、新たな上海ブランドが食い込む。

個人的に定期的にもらう質問が「最近おすすめの新しいウェアブランドはある?」だ。 ここしばらくの間は、強く推したいと思える存在は現れていなかった。既存のブランドが成熟しているがゆえの停滞感とも言えるかもしれない。
しかし、2024年に登場した上海発の「hypersupp.(ハイパーサップ)」は、久しぶりに感性に深く刺った。なぜhypersupp.なのか。その理由を詳しく見ていく。

モデル

anna Ryuji
Anna@annannanna1002
Specializedライダー(S-Crew)。走ることが大好きで、休みのたびにさまざまな山に遠征。思い立ったら日帰りで磐梯吾妻スカイラインに行くほど行動力に溢れる。メインバイクはS-Works Tarmac SL8。
Ryuji@ryuji_ride
愛媛在住。スポーツバイク歴16年。POCアンバサダー。自転車専門誌の編集者、サイクルウェアメーカーといった経歴から業界や最新プロダクトに精通。所有バイクはCannondale SuperXとFactor Ostro VAM。

モデル & 著者

Tats Tats Shimizu@tats_lovecyclist
東京在住。編集長&フォトグラファー。海外ブランドと幅広い交友関係を持ち、メディアを通じてさまざまなスタイルの提案を行っている。同時にフォトグラファーとして国内外の自転車ブランドの撮影を多数手掛ける。

model / Anna, Ryuji, & Tats
text & photo / Tats@tats_lovecyclist

*本レビューのウェアの一部はhypersupp.提供のものです。

世界観があるか/ないか

MAAP |↑PNS | hypersupp.↓

現在のサイクルウェアのトレンドセッターは、『Pas Normal Studios(PNS)』と『MAAP』の2ブランドだ。 デンマークのPNSはレースをリスペクトしたオーセンティックな世界観、オーストラリアのMAAPはストリートカルチャーを取り入れたポップな世界観。アプローチは対照的だが、いずれも我々を強く魅了し続けている。

それに対し、今次々と現れる多くの中国ブランドに欠けているのが、この「世界観」だ。デザインやクオリティのレベルは高いかもしれないが、ブランドが発信する内容からは、どんなサイクリストに着てほしいか、どんな自転車の世界にしたいのかが見えづらい。

これはウェアだけに限った話ではない。ほぼすべての中国発ブランドのプロダクトには世界観が存在していないと感じている。品質は向上し、“ビジネス自転車”としては見られるが、そこに自分の身を染めたいと思えるような、憧れる世界はない(これについてはまた別記事でちゃんと書きたい内容でもある)。

“SUPP.”のインパクトが目に焼き付く

その中で唯一、世界観を構築しようとしていると感じられるウェアブランドが、上海の『hypersupp.』だ。
2024年に立ち上がったばかりだが、当初は正直なところ、PNSやMAAPの良いとこ取りのような印象で、よくある模倣ブランドのひとつに過ぎないと思っていた。
しかしシーズンを重ねるごとに、少しずつオリジナリティが現れ、フレッシュなイメージを構築しようとしているのがわかった。WebやInstagramでの見せ方、起用するインフルエンサーの選定も、他の中国ブランドとは一線を画すため、これは面白いブランドが出てきたと感じるようになった。

Suppは試してみたいと、メンバーの中で最初に購入したRyuji

そしてラブサイメンバーの中でも、ファッションへの感度が特に高いRyuji*やAnnaが「hypersupp.は着てみたい」と話すようになったことで、我々の中で一気に熱量が上がった。
*Ryujiや以前アパレル会社で働いており、現在は古着屋を経営

その感覚が間違っていないと実感したのは、昨年夏にホノルルセンチュリーライドをhypersupp.を着て走ったときのことだった。 エイドで補給をしているときに、MAAPやAttaquerなどを着こなすスタイルある海外のサイクリスト数名から、「そのブランド気になっていたんだ。すごくかっこいいね」と声を掛けられた。 すでに米国圏の一般サイクリストにも「着てみたい」と思わせるだけの存在感を獲得していることに驚いたし、やはりhypersupp.はこれから伸びるだろうと感じた。

 

クオリティ

Pros

シルエット:hypersupp.の最も優れている点はシルエットだ。丈は短く、非常にタイトなつくりになっている。着用するとスタイルが良く見え、明確にサイクリストらしい体型を維持している若い層をターゲットにしていることがわかる。
カッティングも身体にぴったりと沿い、余計なシワが生まれない。おそらく他ブランドのOEMで学習した成果なのだろうが、新興ブランドにかかわらずよくできていると感じる。

ハイエンド着用層を狙ったモダンなシルエットに仕上がっている

価格:そして価格がかなり抑えられている。半袖ジャージ$109.00(≒¥17,000)、ビブショーツ$139(≒¥22.000)と、ハイブランドと比較すると1万円以上の価格差がある。これは後述の生地感や細部のつくりに影響する部分ではあるが、この価格でこの仕上がりは正直にすごいと思った。

縫製やシルエットなど仕上がりに対して価格の満足度が優る

デザイン:デザインのフレッシュさ。Palaceのようなストリートブランドをオマージュしたロゴなど遊びがある。これをパクリといってしまえばそうなのだが、全体をうまくまとめて説得力のあるデザインに仕上げているところは巧いと感じる。着ていると気分が高揚するし、自然とペダリングに熱が入る。

ロゴのアレンジがかわいい

スタイリング:商品ラインナップやデザインも豊富で、気温に応じた秋冬のレイヤリングもしやすい。人気のため在庫切れも頻発するが、補充も早いため商品の動きは活発だということがわかる。

重ね着してスタイリングが完成する

ビブショーツもタイツもポケット付きがラインナップされている

白いトーカバーがすごくいい。他ブランドのトーカバーはほとんどが黒だが、白いシューズに合わないのが難点だった。冬はオーバーシューズがなくてもこれで乗り切れる

サポート:サポート体制も良い印象だった。コミュニケーションはInstagramのDMを使っている。英語OKでレスが早いので、サイズ違いの交換対応などもスムーズに進んだ。
中国からの配送になるが、注文から10日くらいで届く(当然関税は発生するので注意)。

Cons

細かなクオリティ:価格なりの部分で気になるところもある。 夏物は生地が若干薄いため、バックポケットにスマホにような重いモノを入れると少し垂れ下がってしまう。せっかくジャージのカッティングや縫製は良いだけに、今後こういった細部をブラッシュアップしていってほしいと思う。
ジャケットなどもハイブランドに採用されているような最新のアウトドア生地は使われていない。それでも正しくレイヤリングすれば冬のライドでも十分走ることができる。

夏用の薄手ジャージは、スマートフォンを入れるとポケットに引っ張られて形が崩れる(冬物はこうはならない)

パッドが赤い点も惜しい。見えない部分のコストカットだろうが、高級感が損なわれる要因となっている。ハイブランドは例外なくパッドの色にまで気を配っている。
ただパッド自体はElastic Interface®製のものなので、性能は申し分ない。長距離でも普通に走れる。

ビブのパッドはすべて赤い

 

サイズ感

hypersupp.はMAAP/PNSと近いサイズ感だ。サイズガイドに従えばほぼフィットすると思うが、参考までに、モデルが着用しているサイズを記載する。

メンズ

177cm / 60kg(B88 W76 H90)

  hypersupp. PNS
Mechanism | Essential
MAAP
Evade Pro
半袖ジャージ S S | XS XS
長袖ジャージ XS S | XS XS
ジャケット XS S | XS XS
ビブショーツ/タイツ S S | XS S

ウィメンズ

160cm / 48kg

  hypersupp. PNS
Mechanism | Essential
MAAP
Evade Pro
半袖ジャージ XS XS | XS XS
長袖ジャージ XS XS | XS XS
ジャケット XS XS | XS XS
ビブショーツ/タイツ XS XS | XS XS

 

あの時代の高揚感を再び

ウェアブランドヒエラルキーの頂点にMAAPとPNSがいる構図は変わらない。デザインや機能だけでなく、2020年代のサイクリングカルチャーを牽引する存在として、2つの存在は相変わらず絶対的だ。

でも、それら「正解」のブランドだけを着続けるのは、個人的には少し退屈さを感じ始めていた。2010年代の、ウェアブランドが群雄割拠するあの時代の高揚感を再び欲しいと感じるようになっていた。完成されたブランドの世界に居るだけでなく、新しいスタイルを求めたい、と。

今の厳しい時代に、さまざまな気温に対応できるラインナップを揃えられる体力のあるブランドは、工場を持つ中国メーカーからしか現れづらいだろう。残念ながら、かつてのように欧米豪から出現することはあまり期待できない。
その中で上海からhypersupp.が現れた。生地や細部のコストカットという側面はある。しかし(未成熟ではあるものの)それを補う世界観を構築しつつある。

気取らずに着られる気軽さとスタイルの良さ。日常着で上質なハイブランドとトレンドのファストファッションをうまくやりくりするように、MAAPやPNSだけでなく、hypersupp.も選択肢のひとつにあることでスタイリングに自由度が増している。
中国ブランド?と最初は思うかもしれないが、hypersupp.は一度手にとって見てほしいと思う。

hypersupp.公式サイト

model / Anna, Ryuji, & Tats
text & photo / Tats@tats_lovecyclist