
和歌山の熊野を舞台に、RCCメンバーが距離195km/獲得3,500mの山岳ルートに挑む『Rapha FAR02 KUMANO 2026』。LOVE CYCLISTからはTatsとRyujiのふたりがオフィシャルフォトグラファーとして参加した。完走率55%、パンクが続出した過酷な1日を振り返る。
フォトグラファー & ライダー
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| Tats(@tats_lovecyclist) 編集長。ロードバイクを中心としたスポーツバイク業界を、マーケティング視点を絡めながら論じることが好き。今回は前日に一部区間を試走し、当日は車で帯同しながら撮影。 | Ryuji(@ryuji_ride) 会社経営者。スポーツバイク歴17年。自転車専門誌の編集者、サイクルウェアメーカーといった経歴から業界に精通。今回は200km走りながら撮影(過酷)。文中の走りに関する記述はRyujiによるもの。 |
よみがえりの地

熊野古道の脇を抜けていく
『FAR(ファー)』とは、約200kmを走る年2回のRCC(Rapha Cycling Club)限定ライドイベント。自分の限界を発見するための冒険をテーマにしているため、自己完結性を重んじているが、コントロールポイント(CP)での補給やメカニックの巡回など、挑戦を支える最低限のサポートが用意されている。

和歌山のルートを知り尽くす辻啓氏
今回のルートを手がけたのは、海と深い山に囲まれた和歌山を愛するサイクリングフォトグラファーの辻啓氏。古くから“よみがえりの地”とされてきた熊野を、2023年の「Rapha Prestige Kumano」以来、再びRCCメンバーに走ってほしいという思いから引かれたルートだ。

那智勝浦を出発し、三重や奈良の県境を越え、山間を大きくアップダウンしながら進む
総走行距離195km、獲得標高3,500mというコースプロファイルだけで過酷なライドになることは想像できるが、山奥は手入れが行き届いているとはいい難い路面が続き、より難易度が高まっている。参加者への救済策として、ショートカットコースが用意されている(とはいえショートカットも距離172km/獲得2,500mなので楽ではない)。
熊野の洗礼

スタートとフィニッシュは、紀伊半島随一の温泉郷「ホテル浦島」のなぎさ館。まだ暗さの残る早朝に85名のライダーがスタートリストへサインをして走り出していく。

参加者は単独や脚の合う仲間と走る「ソロ/自由グループ」と、ライドリーダーがペースを管理する「RLグループ」に分かれて出走する。RLグループはさらに平坦35km/h前後で9〜10時間を想定したファストと、28〜32km/hで13〜14時間を想定したミドルの2段階に分かれていて、どのグループを選ぶかで走り方は大きく変わる。


薄明かりの中を走り出す



内陸へしばらく進むと、野生の路面が待ち受ける。年中アスファルトが湿っている箇所も多いため、苔にタイヤをとられないように慎重に進んでいく。序盤ですでにパンクやスリップが発生し、ひとりまたひとりと熊野の洗礼を受けていく。

過酷さと風景の美しさは比例し、進めば進むほど息を呑むような景色が眼前に広がる。だから歩みを止めることはできない。

ファストグループの足取りは軽い


熊野本宮館に設けられたCP1

何があっても駆けつけるサポートカーがいた事は、参加者にとっての安心に繋がったはず。今回はRaphaロゴが貼られたMazda CX-60がイベントに華を添えていた。

日本一の高さを誇る大斎原の鳥居(約34m!)
最初のコントロールポイントは熊野本宮館。館の目の前には熊野三山のひとつとして熊野信仰の中心を担ってきた熊野本宮大社が鎮座し、その先には明治期の大水害まで社殿が置かれていた旧社地・大斎原が広がる。

かつて上皇から庶民までが幾日もかけて熊野古道を歩き目指したこの地だが、ライダーたちは早朝から79kmを走り、数時間でたどり着いた。
CPには和歌山ならではの補給が用意されている。梅酢ドリンクは、本来なら酸っぱいはずなのに疲れた体にはごくごく入っていく。疲労が少しだけ軽くなり、先へ進む力が戻る。
←ナッツや熊野本宮の釜餅は最高の補給 | →Maurtenのジェルとパウダーも心強い存在で、持久力が底上げされる感覚がある
完走率55%のリアル

完走率55%という数字が示すとおり、このコースは甘くなく、DNFの参加者が出たうえにパンクも各所で多発していた。

パンク修理の光景を何度も見ることになる
痛々しい姿も何度も見ることになる
走っている最中は、このまま進んでいいのか?それともラインをずらすべきか?あるいは止まるべきか?そんないちかばちかの判断を迫られる瞬間が何度も訪れる。
それだけ、苔むす奥の細道はサイクリストに厳しく、スリップしそうな路面のフィードバックを慎重に感じ取りながら進んでいった。


事前の案内では28C以上推奨と言われていたが、どのタイヤ幅が正解かはライダーによって異なると感じた。
路面は推奨の28Cであってもスリップするリスクは高い。安定を求めるならもっと太いグラベルタイヤでもいいかもしれないが、3,500mアップすることを考えると後半脚が持つかわからない。
ただ完走したライダーたちは28C前後が多かった。



ライドリーダーたちの青ジャージが集団を力強く引いていく

ソロでペースを崩さず淡々と進むライダー


あまりの過酷さに「誰がこのコースつくったんや?オレや…」の問答を延々と繰り返す辻氏
136km地点のCP2(円満地公園)には14時の関門が設けられていて、それを過ぎればショートカットルートへ回る。判断はソロライダーなら自分自身で、RLグループならリーダーが下す。脚と時間と天候を天秤にかけながら、それぞれのライダーが答えを出していった。

このあと今日最も長い上りが待ち受けているので、しっかり補給して準備しておく
進むしかない


CP2を出発するとすぐに激坂が始まる。坂ではサイクリストは2つの表情しか選べない。苦悶するか、苦笑するか。
どちらの顔をしていても、我々は上へ進む以外に選択肢はない。





平均勾配7.4%、5kmの上りを終えて一息つく。道中写真を撮る余裕はほとんどなく、ただ木々がこすれる音と仲間の息遣いを聞きながら上を目指した。

最高地点にある妙法山の巨大な卍。まだ「まじ卍」と言うくらい気力は残っている

圧巻の光景に、人の力の及ばない神秘的なものを感じる
コース終盤には日本三名瀑に数えられる「那智大滝」を見ることができる。原生林に囲まれた断崖から133mの高さを一気に流れ落ちる姿に、滝そのものを神として祀る熊野の自然信仰を体感できる。

夕暮れに差しかかる頃には雨が降り出した。カメラを一時しまって、最後の上りへと向かっていく。

太地町から見える妙法山の「卍」に、ロードバイクの移動距離の長さと速さを実感する。もうすぐフィニッシュなのがまじ卍。



完走した参加者が続々とフィニッシュになだれ込み、ショートカットコースで一足先に着いたメンバーとともに、無事に戻ってこられたことを祝福する。参加者の笑顔は、今度は苦笑いではなく喜びの笑みだ。苦しみの先の幸せな瞬間がひとりひとりの間ではじける。

フィニッシュは19時台まで続き、長い1日が終わる
Raphaプロダクトの完成度

当然だが、参加者は全員がRaphaを着用している。雨まで含めて200kmを走り切って、やはり「Raphaはモノがいい」と感じた。耐久性が高く、着心地は最高で、過酷な環境に長く身を置くほどその差ははっきりと体に伝わってくる。
さまざまなブランドを行き来して改めて、Raphaプロダクトの良さを実感することになった。
これこそがRapha


Raphaには創業当初から掲げてきた“苦しみの先にこそ栄光がある(Ex Duris Gloria)”というモットーがある。2004年のブランド始動時にロンドンで開かれたのも、ツール・ド・フランスで苦しみ抜いた名選手たちを讃える「Kings of Pain」という展示だった。
今回、RCCの中に入り、そこで感じた200kmの自分自身の苦しみや仲間の痛みは、すべてがRaphaの原点を思い出させてくれた。Raphaが掲げたフィロソフィーが、20年余りを経た今でも、FARの中にそのままの形で息づいている。

道中は本当に苦しかったけれど、その苦しみを越えようとする意思を、コミュニティの存在が後押ししてくれることもわかった。獲得標高3,500mというプロファイルは、後半になるにつれて進む気力を削いでいくが、それでも上へ上へ進み続けようとするのは、そばにいるコミュニティがもたらす意思の力だった。
参加して本当によかったと思う。Raphaの哲学とそれを共有するコミュニティの力がある限り、栄光を目指すサイクリストの意思は途絶えない。
熊野という“よみがえりの地”がこのライドの舞台に選ばれたのは、必然なのだと思っている。

Rapha FAR02 KUMANO 2026
開催日:2026年9月19日(土)
会場:ホテル浦島 なぎさ館(和歌山県)
コース:195km/獲得標高3,500m
対象:Rapha Cycling Club(RCC)メンバー
ルート設計:Kei Tsuji
写真・動画:Tats、Ryuji(LOVE CYCLIST)










































