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サイクルウェアを含め、ロードバイクに乗るときのスタイルはかつてないほど多くの選択肢に溢れ、ブランド、素材、色、サイズ、小物合わせまで組み合わせは数え切れないほどあります。トレンドも年々移り変わり、サイクルジャージを例にとっても、数年前と今ではつくりが大きく異なるようになりました。
そんな中で多くのサイクリストは、色々なものを試しては失敗し、紆余曲折を経ながら自分のスタイルを構築しているのが現状です。
ただ、優れたスタイリングというものはある程度「型」のようなものがあり、色合わせや小物選びなどの基本を知ることで、自分に合ったウェア選びはより楽しい道のりになります。
ウェア選びは「好きなものを着れば良いじゃん」というのが極論になるのかもしれませんが、「美しいロードバイクの組み方」があるのと同じように「美しいサイクリストのスタイリング」というものは一定存在します。
今回はさまざまなブランドの中でも特にカラー展開が豊富なPas Normal Studios(パス・ノーマル・スタジオ)のスタイリング例を参考にしながら、自転車ジャーナリストである吉本氏とともにロードバイクスタイルの基本について話していきます。
語り手
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吉本 司(@kop_2014) 月刊自転車専門誌「Cycle Sports」の前編集長を務めた吉本司氏。現在は自転車を軸に様々な活動を行っている。スポーツバイク歴は35年以上で、ロードバイクのみならずすべての自転車選びを好み、機材からウェアまでジャンルを問わず幅広い知識を持つ。 |
Tats(@tats_lovecyclist) Love Cyclist編集長。スポーツバイク歴10年。ロードバイクを中心としたスポーツバイク業界を、マーケティング視点を絡めながら論じることが好き。同時に海外のアパレルブランドと幅広い交友関係を持ち、メディアを通じてさまざまなスタイルの提案を行っている。 |
Model / Hiroko, Miki, & Masanaga
Photo / Tats & Tong Liu
Edit / Tats [PR]
1. 色合わせ
レースシーンと日常のシーンを切り分ける
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Tats:最近ロードバイクに乗るときは、Tシャツなどラフな格好で走るケースもありますが、全体で見るとそれはまだマイノリティなので、今回はタイトなジャージ+ビブショーツのスタイルに絞って話していきたいと思います。
吉本:ここ最近はビブショーツ含めて本当に色の選択肢が増えましたね。
Tats:以前の原色中心のラインナップから大きく変わっています。
吉本:遡ってみると、2000年代まではみんなロードレースを見て、そのスタイルを真似する時代でした。レースで着るウェアは集団の中で目立つことが目的だったので、色使いがパキッとしていた。
逆に今ではライフスタイルの中の自転車という位置づけが強くなって、目立つのではなく調和するカラーに変わっています。
Tats: Raphaがチームスカイで黒をベースにしたウェアを出してきたあたりがターニングポイントですね。
吉本:そう。昔は黒いウェアはほとんどなかったんです。
そんな流れの影響か、今年のツールでマイヨヴェールの色のトーンが落とされているんですが、目立たないということで評判があまり良くないんですよね。
Tats:あれ評判良くないんですね。深い緑が良いなと思ったのですが、確かに集団の中では埋もれて見えます。レースシーンと日常では切り離して考えないとですね。
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落ち着いた緑に変わったマイヨ・ヴェール
吉本:日常のシーンでは、やはり2020年前後からのカラービブの台頭がスタイリングの幅を広げました。
Tats:昨年あたりから取り入れる方が少しずつ増えてきた印象ですね。以前はビブと言えば黒とネイビーしか選択肢がなかったのが、グレーやブラウン、ワインレッドなど深みのあるカラーを中心に広がってきた。今年はパープルやベージュなど、より明るくて鮮やかな色も出てきています。
吉本:明るい色は今年らしいと感じますね。
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ビブから始めるスタイリング
Tats:ここからは実際にジャージとビブを組み合わせながらスタイリング例を見ていきましょう。
そもそもビブは高価なので、私服のように何着も持って色合わせを楽しむというのはちょっとハードルが高いかもしれません。だから結局黒やネイビーを選ぶ人がほとんどだということを聞きます。
吉本:黒は永遠の定番ですからね。カラービブを履いたあとでも黒を履くとやっぱりこれが基本だと感じる。夏だったら白ジャージに黒ビブでコントラストをパキッとさせると、爽やかで実用的なスタイリングができます。
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王道の白×黒は清潔感もある
Tats:ネイビーもどんな色にも合わせやすいですが、ネイビー×ネイビーのように同色で揃えたり、ネイビー×オレンジのように補色を使ってコントラストをつくるなど、カラーチャートを意識しながらまとめていくと、より印象強くなります。
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クールな印象に仕上がる同色セットアップ
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夏っぽさ溢れるオレンジ×ネイビー
吉本:定番のビブでも新鮮な雰囲気です。
次のビブショーツ、何色にする?
吉本:黒やネイビー以外に初めて挑戦する場合は何色が良いでしょうね。
Tats:個人的にはライトグレーが推しです。この色だと、ジャージに暗いトーンを持ってきても明るいトーンを持ってきても合うので、黒ビブよりも全然使いやすいなと感じています。使用機会が多くなるのでコスパも良い。
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使いやすいライトグレー。黒を合わせると洗練された無彩色セットアップに。
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明るいトーンを持ってきても調和する
吉本:なるほど。やっぱりジャージの方がラインナップ的にも価格的にも色で遊びやすいので、下を無彩色にしておくというのはひとつのアイデアですね。黒×グレーのように無彩色がハマると格好良いですし。
逆にビブを色付きにした場合も、上を無彩色にすればハズレはなくなります。
Tats:ですね。とはいっても、カラービブって意外とどんな色でも合わせやすいんですよね。一度上下での色合わせの楽しさを知ってしまうと、どんどん沼にハマっていくと思います。
カラービブスタイリング例
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ジャージ/Mechanism Dusty Teal、ビブショーツ/Mechanism Pro Black
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ジャージ/Mechanism Dark Olive、ビブショーツ/Mechanism Dark Olive
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ジャージ/Mechanism Navy、ビブショーツ/Mechanism Bronze
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ジャージ/Mechanism Coral、ビブショーツ/Mechanism Dark Navy
2. サイズ選び
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Tats:次はサイズの選び方について見ていきましょう。
吉本:サイズが合っているかどうかは、色合わせ以上に大事なところですね。
シティライド用につくられた一部のラインナップを除いて、ジャージに関しては体にぴったり沿っていることがサイズ選びの出発点になります。
たとえRaphaやPNSのようなハイブランドを着ていても、オーバーサイズになっているケースをときどき見かけることがあって、すごくもったいないなと感じてしまいます。見た目を損なうだけでなくて、ジャージの性能も引き出せない。
Tats:もし欲しいブランドの取扱ショップが行動範囲にある場合は、試着に行ったほうが良いですね。
そうでなくても、そもそも自分に合ったサイズ感がよくわかっていない場合は、まずはウェアを取り扱っているショップに行って、そこでアドバイスをもらいながら最初の1着を選ぶというのも良いと思います。
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まずはサイクルウェア独特のサイズ感を知ることから
吉本:この時代でもあえてウェアを取り扱っている店舗は、ウェアが好きなところが多いので、行けばちゃんとしたアドバイス受けられると思います。
僕は今PNSを好んでいますが、正直PNSのサイズ感は当初受け入れがたいものでした。「こんなにタイトに着ちゃっていいの!?」と思えるほど。でもその方が実際に写真で見るとサマになるんですよね。
Tats:最初の違和感めっちゃわかります。さらに同じブランドでも、シリーズによってフィット感は違うことがサイズ選びの難しさを加速させています。例えばPNSのEssentialとMechanismだったり、Raphaのコアとプロチームだったり。このあたりはできる限り直営店に行ってサイズ感をわかっておくのが安心ですね。
吉本:「それぞれのブランドの着方」というのがありますから。ブランドのサイトやInstagramを見て、先にビジュアルイメージを固めると、実際に自分で着たときのサイズ感の参考になると思います。
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ブランド公式の着こなしを基本コーデの参考に
Tats:近くにショップがないときは、各ブランドが記載するサイズガイドを参考にすることになります。
吉本:よく悩むのが、自分の体型がサイズガイドの谷間にいる場合ですね。
Tats:あるあるですね。
吉本:これはだいたい下のサイズを選ぶのが正解だったりします。よほど締め付けが苦手という場合を除いてはですが。上を選ぶと前傾した時にもたつく場合がある。今のウェアってよく伸びるので、ちょっと小さくてもちゃんと着られるはずです。
Tats: Love Cyclistの各ブランドのレビュー記事ではモデルの体型と着用サイズを記載しているので、それも参考にしてもらえるかなと思います。
吉本:あと年齢によってサイズ感を変えるのは大事だと近頃実感しているんです。
Tats:というと。
吉本: PNSだと、Mechanismのレーシーなフィット感がきついな、と思うようになっていて、最近はEssentialを好むようになってきているんです。もう若い頃と脂肪の付き方が違うんで(笑)、Essentialのシルエットがちょうど良くフィットします。
生地の質感もマットですし、Mechanismとはまた違ったちょっと上品な着こなしにもなるので、ミドルエイジやレーシーな雰囲気を少し和らげたいような着こなしをしたい方にもお薦めしたいです。
Tats:ミドルエイジとEssntialの組み合わせ、良いですね。
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ジャージは締め付けがきつすぎないEssentialを好む吉本氏
3. 小物選び
Tats:ジャージとビブのスタイリングが決まったら、次はヘルメット、アイウェア、ソックス、シューズあたりの小物系を合わせていきます。
吉本:小物の色については「白か黒を選ぶ」というのが基本ですね。そこがとっ散らかるとウェア側の色選びがかなり難しくなります。
最近はヘルメットやシューズの色にグレーという選択肢も増えているし、小物は無彩色系で固めると、第1章で話したようなウェアの色遊びがやりやすくなります。
ヘルメット
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Tats:吉本さんはヘルメット何色持っていますか?
吉本:グレー、白、ネイビーですね。あと黒を持っていないのでひとつ欲しいなと思います。(お店においてあったKASKの新作Elementoのブラックを見て)これめちゃめちゃ良いですね(笑)。
Tats:めちゃ似合ってます(笑)。やっぱり無彩色ですよね。僕も同じようなラインナップです。
ただ最近思っていることなんですが、ジャージやビブの主要な色展開が、原色ではなくニュアンスカラーになってきていることで、白いヘルメットを合わせづらくなっているな、と。ちょっと頭が浮いた感じになってしまうことがあって。
吉本:それはありますね。特にグロス系は悪目立ちするので、そういう意味では、白ならマットホワイトを選ぶのが良さそうです。最近ラインナップが増えていますし。
ほかにPOCやSweet Protectionのちょっとくすみ系アイボリーも良いし、グレーも使いやすい色です。
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落ち着いたトーンのヘルメットは全身のまとまりを生む
Tats:あとヘルメットは形も大事ですね。
僕らのコミュニティではKASK、POC、Sweet Protectionあたりが多いのですが、こういったブランドとほかのブランドとの違いってなんでしょうね。
吉本:あれはですね…やっぱり「“戦隊系”かそうでないか」というのが境界だと思います。戦隊系の形はガチ感が出るんですよね。最近のウェアとはかなり合わせにくい。
Tats:その表現(笑)。だとするとやはり上で挙げたブランドあたりだとハズレがありません。
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アイウェアは顔立ちで合う合わないが変わるので、自分に合ったものをいくつか試しながら絞り込んでいく必要がある
足元
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Tats:ロードシューズは基本白ですね。白シューズは本当に何にでも合います。
グラベル系だとまた違った選択肢がありますが、ジャージ+ビブのタイトでクリーンな組み合わせには白が王道だと感じられますね。
あとは自分の足に合うかどうかです。
吉本:最近はミドルグレードやローワーグレードのパフォーマンスが上がっているので、レースが主目的ではない限り、デザインとフィット感が自分に合えばどのグレードを選んでもOKになっています。
Tats:確かに、以前はハイエンドじゃないとどこか野暮ったさのようなものがありましたが、FizikとかSpecializedを中心に、全体が底上げされてきていると感じます。あとUdogのような価格を抑えた新興ブランドも出てきているので選択肢が増えていい時代だなと感じています。
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デザインが全体的に底上げされているシューズ
吉本:ソックスも白ですよね。
Tats:そうですね。白、黒、ネイビーあたりが基本ですね。数年前はソックスに派手なデザインを持ってきてコーデのアクセントにすることもありましたが、最近はとにかくシンプルに、全身で調和するように合わせるようになりました。
吉本:ソックスの長さについても話しましょうか。
Tats:僕が知っているのはここ10年ですが、ちょっとずつ長くなっているんじゃないでしょうか。
吉本:そうなんです。2000年代はくるぶし+3cmくらいが標準だったのが、ちょうどランス・アームストロングが長いソックスを履き始めてから、どんどん長くなっていきました。当時ランスの丈感はダサいと一般的に思われていましたが、今はふくらはぎ下部を覆うくらいがスタンダードになりました。
Tats:それくらいの長さのものを選ぶのがトレンドではあるけれど、身長が低い場合だと脚が短く見えるというデメリットもある…。だからあえて短めのソックスを選ぶというスタイリングをする方もいます。
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ソックスの長さは脚の見た目上の長さに影響する
吉本:身長は難しい問題ですね。今のウェアの標準的なシルエットは、欧州起源なので高身長向けにできていて、そもそもアジア系には厳しい世界なんです。
Tats:つらい。そこは個々の体型に合わせて工夫するしかないという。
吉本:ただPas Normal Studiosのジャージで言うと、丈が短めなので、これは低身長でも間伸びしない雰囲気になると思います。似合うジャージが見つからないという場合は、一度PNSを試着してみるというもの良いのではないでしょうか。
Tats:あぁなるほど。ブランドの丈感と身長との関係性で選ぶのはひとつの解決策になりそうですね。
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丈の短いPNSのジャージ
4. スタイルとファンクションを知る
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Tats:こういったウェアまわりの知見って、実際のところかなりお金を使って得られたものですね(笑)。
吉本:そうなんですよ、お互いかなり自己投資しながら紆余曲折を経ていると思います。ただそこに至るまでが無駄な出費だったかというと、実際はそうではないんですよね。
みんな色んな情報を仕入れながら短距離で答えを見つけようとするんですが、実は短距離だと知見が得にくい。趣味で最短距離を追い求めるのは逆に非効率で、回り道を楽しむのが趣味なんだと思います。
ウェアも機材選びと一緒で、色々試して自分の血肉にしていくのが醍醐味なんだろうなと。
Tats:ですね!今回僕たちが話したのはあくまで基本の部分なので、それをベースに自分ならどうスタイリングしようかと考えるのが一番面白いプロセスだと思います。
未だに「RaphaやPNSを着ればおしゃれ」という考え方は一般的にあると思うんですが、こういったブランドを選ぶなら、“おしゃれになること”を目的にするのではなくて、“自分に最適化する楽しさ”にフォーカスされれば良いなと思っています。
吉本さんが言うように、ウェアも機材の一部なので、自分に最適化していくという意味では、ウェア選びもタイヤやサドル選びと同じようなものです。そしてそれが最終的に走りの楽しさに繋がっていく。
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ウェアは走りに影響する重要なファクター
吉本:ウェアは「スタイル」と「ファンクション(機能性)」の両面があるんです。RaphaやPNSはなんとなくスタイル部分しかフォーカスされない傾向がありますが、実際のところウェアはファンクション含めて全体が底上げされているのが現状です。
ここ十数年のスパンで見ると、まずASSOSやCastelliがファンクションを育て、その後RaphaやPNSがスタイルをリードしてきたというような流れかな、と。その流れの中でお互いのブランド同士で良い循環効果が生まれた。ASSOSなどはデザインがかなり良くなっているし、スタイル系と呼ばれるブランドはファンクションの突き上げが起きています。
Tats:こういった視点に立って、スタイリングの楽しさを知ってもらえると嬉しいなと思います。
Pas Normal Studiosのラインナップを見る(MAGNET)
スタイリング協力:MAGNET
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多摩川のガス橋近くにあるショップ『MAGNET』は、Pas Normal Studiosのラインナップを豊富に取り揃えています。
アパレルショップのように洗練された内装とディスプレイは、女性でも入りやすいと評判。ウェアを実際に手にとって試着できるだけでなく、数多ある色やコレクションの中からコーディネートの提案もしてくれるので、どれが自分に似合うか、第三者の意見も聞きながらフレンドリーに相談できます。
PNSの世界観を体験したい方はぜひ訪問してみてください。
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Model / Hiroko, Miki, & Masanaga
Photo / Tats & Tong Liu
Edit / Tats
[PR]提供:Magnet合同会社
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