さまざまな自転車アパレルブランドの取り組みを見ていくと、自転車ウェアがファッション業界とのつながりを強めようとしていることが伝わります。それは、路上のアウトサイダーだったサイクリストのあるべき権利を獲得しようとする流れ。その舵取りは海外の主要なブランドたちが担っていて、MAAPもその中のひとつに挙げられます。
「最近のMAAP良いんですよ」と話し、ここ半年MAAPウェアを着続けているRyujiが、その狙いやコンセプトをMeiとともに語ります。
Review/Ryuji & Mei
Text & Photo/Tats
*本レビューのウェアはMAAP提供のものです。
1. 競技ウェアとしてのMAAP
2人が着用するジャージは、いずれもProグレードのMen’s Emblem Pro Hex Jersey(Ryuji)とWomen’s Flow Pro Jersey(Mei)。炎天下を走り、そのパフォーマンスを確かめながら対談した。
Mei:Ryujiさん今シーズンはほとんどMAAPを着ていますね。
Ryuji:ずっと好きだったんですが、特にここ最近は良い流れをつくっているなと感じていて積極的に選ぶようになりました。
Mei:私も昨年から着るようになって、レーシーなつくりなので「ちゃんと走ろう」といつも思わせてくれます。国内のホビーレーサーも着ているし、海外ブランドの中でも割とレースで使われるイメージが強い。
Ryuji:MAAPはここ2〜3年でレースシーンにもさらに力を入れるようになって、今チームイネオスにいるトム・ピドコックは、昨年までMAAPがサポートする「トリニティ・レーシング」所属のシクロクロッサーだったんですよね。まだ発足してから間もない若いチームですが、ロード、シクロ、MTBの各カテゴリで若手をどんどん育成していて、グランツールで活躍するピドコックのような選手を排出しています。そんなチームに供給するブランドなのでクオリティが高い。
Mei:だからウェアに安定感があるんですね。MAAPよりも安価なウェアを着たとき比べると、背中とかの空気の通り方が違い過ぎるんです。「あ、ちゃんとフィット感だけでなく高強度のパフォーマンスまで考えられているんだな」っていう感覚。
Ryuji:そうなんですよね。僕たちが着ている「Pro」グレードのジャージは、その名前の通りレーシーです。シルエットはもちろん、襟が低くて、丈が短くて、そしてタイト。同じMAAPの「Training」シリーズと比べると、レースシーンでストレスがかからない設計*で、個人的にすごく好きなフィット感です。
※Trainingはお腹の部分の締め付けが強くて、体型を選ぶつくりになっている
着用サイズ:メンズXS(169cm)、ウィメンズXS(167cm)
Mei:全体的なフィット感は私も好きです。着心地が良いし、体のラインが綺麗に出るのでサイクリストを美しく見せてくれるシルエットです。柔らかい生地なのでストレスも感じないですし。
ひとつだけ、ウィメンズでこれから選ぶ方に気をつけて欲しいことがあって、去年レビューしたEcho Proジャージと比べると、同じProシリーズでも袖のつくりが少し違っています。Echo Proの袖はよく伸びるつくりだったんですが、Flow Proジャージの袖は伸びにくいタイプ。この設計は空力は良いかもしれませんが、腕が太いとソーセージアームになりやすいので、気になる人はワンサイズ上げたほうが良さそう。
Ryuji:袖のつくりは見落としがちなので、見ておいたほうが良いかもですね。
2. ファッション業界とのつながり
Mei:Ryujiさんの着ているPro Hexジャージ、色味が絶妙ですね。レトロな感じもあって可愛い。
Ryuji:今シーズンのほかのブランドではあまりない色味なんですよね。スペアミント色というか。MeiさんのFlow Proジャージも深いグラデーションがすごく洗練されている。
Mei:めっちゃ格好良いです。
Ryuji:MAAPって毎年デザイントーンを結構変えてくるブランドなんですが、そうなると「コンセプトがブレているんじゃない?」と感じる方、結構いるんじゃないかと思います。
Meii:確かに、そう感じてしまうのもわかります。
Ryuji:ただ僕はちょっと違う捉え方をしていて、まずMAAPってデザインコンセプトをほとんど発信しないんですよね。デザイナーの頭の中にあるというのは関係者から聞いたことがあるんですが、基本的に何を表現しているのかは受け手側に委ねている。
だからひとりの受け手として考えると、あえてシーズンごとにこれまでとは違う雰囲気を作っているのは、MAAPが考える「今シーズンらしさ」というのを毎回アウトプットしているんじゃないかなと。だから新作の華々しさは毎シーズン目をみはるものがある。
Mei:そういうのって、よりファッション業界に近いやり方ですよね。
Ryuji:そう。サイクルウェアのデザインが全体的にトレンドのアースカラーやペールトーンに引っ張られるようになっている中で、常にMAAPらしさを追求しているんだなって。
最近の「ニューエラ」とか「P.A.M」といったストリート系ブランドとのコラボレーションもあって、Meiさんの言うように、 MAAPが自転車ウェアをファッション路線に持っていきたい意図がすごく感じらる。
← MAAP x New Era/MAAP x P.A.M →
Mei:これまで自転車ファッションって“陸の孤島”感がありましたが、少しずつファッションブランドというくくりに入っている感じがしますね。Rapha、PNS、Attaquerも近い取り組みをしているので、この界隈で全体的にそうなろうとしているからなんだな、と。
Ryuji:サイクリングカルチャーの地位を上げるための取り組みを各ブランドやっていますね。
特にMAAPは、ストリートカルチャーとの親交を深めて社会への存在感を高めながら、一方では競技界に対してもトリニティ・レーシングを通じてパフォーマンスを強化している。ファッション一辺倒でも競技一辺倒でもない、そのバランス感がすごく良いと思っています。
MAAP推しアイテム①セットアップベースレイヤー
Women’s Flow Team Base Layer(¥8,000)
ウィメンズはジャージとセットアップできるデザインのベースレイヤーと展開。日本だとライド中にインナーを見せるカルチャーはないが、Meiは「セットアップ感があって、着ているだけでテンション上がる」と語る
3. MAAPビブショーツの選び方
Men’s Team Bib Evo(¥30,000)
Mei:もう一度パフォーマンス面に目を戻すと、ビブショーツはTeam Bibが今シーズンがっつりリニューアルされましたね。これもすごく好きです。
Ryuji:MAAPのビブは今「Pro Bib(¥32,000)」「Team Bib(¥30,000)」「Training Bib(¥21,000)」の3グレードがあるんですが、価格の近いProとTeamはどちらを選ぶか迷いどころだと思うので、この違いについても話しておきたいと思います。
Mei:これ、まず生地が違いますね。Teamの方が生地に厚みがあって柔らかい感じ。Proの方が生地は薄くてシャリシャリしている。なので一見Teamsの方が高そうに見えます。
Women’s Team Bib Evo(¥30,000)
Ryuji:真夏に着るのならProの生地が快適ですね。全体的なフィット感も違っていて、Teamは「全体的にタイト」という感じでつくられています。特に裾のグリッパー部分が太くてしっかりしていて、ちょっと着るのが大変なんですが、きゅっと包み込まれる感じ。対してProはサスペンダーとグリッパー部分がタイトで、それ以外は程よくフィットします。でもTeamとProで一番違いを感じるのはパッドですね。
Mei:私はTeamのパッドがすっごい好みです。ウィメンズとメンズでパッドは違うつくりなので、これはウィメンズの話ですが、Teamの方は前側が薄くて尾てい骨部分が厚くなっているんですね。Proの方は左右のお尻と股の3点に厚みがある感じ。どちらもサポートはしっかりしていて、ライド中痛くなることはありませんが、Teamの方が包み込まれる感じになっていて快適です。
Ryuji:メンズの方は個人的にProのパッドが好きですね。TeamはProよりも全体的に厚いので、ヒルクライムなどで後ろ荷重してどっしり座ってもOK。ただちょっとごわっとした印象はあります。
Proは全体的にフラットで薄めなので、しなやかにお尻に吸い付きます。頻繁にポジション移動したり前乗りするのであればProの方が合います。
Mei:私たちの走り方をベースにどちらが合うかレビューしていますが、基本的にどちらもレーシーであることは変わりないので、好みで選べば良いかなと思います。
Pro BibとTeam Bibの特徴まとめ
Pro Bib(¥32,000) | Team Bib(¥30,000) | |
生地 | 薄くシャリシャリ | 厚く柔らかい |
フィット | 要所でタイト | 全体的にタイト |
パッド(Mens) | フラットで薄め | 全体的に厚め |
パッド(Womens) | お尻と股をサポート | 尾てい骨をサポート |
MAAP推しアイテム②春秋に重宝する軽量ジレ
合わせやすい色味の軽量ジレ「Draft Team Vest(¥15,000)」は、軽くて携行性が高いので1枚もっておくとかなり重宝する。後ろはポケットなしのメッシュなので 、季節の変わり目(3〜5月後半、10月〜11月)に最適。
4. バランス感覚から生まれるウェア
競技の世界から生まれたサイクルウェアだからこそ、レースに対するリスペクトがあるウェアは自ずと多くの既存のサイクリストに受け入れられるもの。
だからファッションに力を入れて社会とのつながりを深める中、同じくらいレースシーンにも注力するというバランス感覚を持つ近年のMAAP。さらにBluesign認定の素材を採用して生産工程へも配慮する。
こうした「攻め」と「守り」を両立する設計思想から感じられるのは、トップブランドとしての熱意。
絶妙なラインナップの今シーズンもさることながら、以降の展開も楽しみにさせてくれます。