S-Works Torchレビュー:ハイエンドシューズの新領域。

これまでスペシャライズドシューズの定番と言えば「S-Works 7」が挙げられてきた。シルエット、剛性感、フィット感など、シューズとしての完成度が非常に高く、シリアスレーサーから一般サイクリストまで 幅広く浸透していたことは記憶に新しい(まだ現役のサイクリストも多いと思う)。
その後継モデルとして2022年7月に登場したのが、「S-Works Torch(トーチ)」だ。S-Worksシューズ第8世代となる本モデルの名称は、「S-Works 8」ではなく、従来からミドルグレードで展開されていた「Torch」の名を、S-Worksグレードに適用したかたちとなる。
S-Works 6→S-Works 7と続いてきたナンバリングタイトルを本作で外した意図とは。レビュアー4人による実際の使用感から、S-Works Torchのコンセプトや狙いを詳しく紐解いていく。

レビュアー

Rokuto(@rokuto521
スポーツバイク歴16年。小さい頃から自転車と遊ぶことが当たり前の環境で育ち、今もさまざまな種類の自転車に囲まれて暮らしている。メインバイクはSpecialized Venge。
Masanaga(@masa_cannondale10
千葉県在住。いち早く自転車シーンのトレンドを取り入れ、周りに新しい風を吹き込む新社会人。長身を活かしたスタイリングでシンプル&クリーンな着こなしを好んでいる。
Mei(@meisan_no_yakata
学生時代からLove Cyclistに参画し、現在はデジタルマーケティング会社に勤務するビジネスパーソン。ブルベやヒルクライムなどさまざまな自転車の楽しみ方に触れてきた中で、今は「ひと山、ひとカフェ」というライドスタイルを確立。
Rin(@f430_lisa_
スポーツバイク歴7年。さまざまなコニュニティを通じて仲間と出会い、価値観を共有しながら自身のライドスタイルを確立。一昨年はバンクーバーに留学し、現地のコミュニティに入ってライドを楽しむなど、さまざまな視点を絡めながら自転車と向き合っている。

Edit & Photo / Tats [PR]

1. S-Works Torch

S-Works Torch (¥49,500)

現在S-Worksシューズは、Torch以外にExosVentAresというラインナップがある。それぞれの強みを端的に挙げると、超軽量のExos、高い通気性のVent、パワー伝達に優れたAresとなる。
S-Works 7の後継モデルとうたわれているS-Works Torchには、どのような性格が与えられているか。

山、平坦、グラベルなどさまざまな道を走りながらテスト

S-Works 7とのスペック比較

モデル S-Works Torch  NEW  S-Works 7
サイズ展開 36-45(ハーフサイズあり) 36-45 (ハーフサイズあり)
アッパー オリジナルの新素材 Dyneema®メッシュ
クロージャー BOAダイヤルx2 BOAダイヤルx2
+ベルクロストラップ x1
アウトソール カーボンソール
7と同等の剛性指数
カーボンソール
剛性指数15.0
重量 225g(サイズ42) 224g(サイズ42)
価格 ¥49,500 ¥41,800

S-Works Torchは、デザインの系譜は7を受け継いでいるものの、設計はすべて刷新されている。
アッパーは新素材になり、アウトソールの幅は4mm広くなり、ベルクロストラップが廃止された(値上がりもした)。
スペック表だけでも、明らかにS-Works 7の使用感から変えてきていることが伺える。 

「I-Beam」と呼ばれる、中央がせり上がった新形状のアウトソール。剛性と強度を高める構造だという

7にあったベルクロストラップは廃止され、クロージャーは2つのBOAダイヤルのみ

 

2. コンセプト:S-Works 7とは別の領域へ

実際の使用感から読み取れるのは、Torchの設計は「自然な履き心地」に重点を置いているということだ。どちらかと言うとレーシング性能に振っている7と比べると、その性能に履き心地の良さをプラスしたような印象を受ける。

特にTorchらしさを与えているのは、アウトソールの素材、BOAダイヤルの位置、ヒールカップの3つだ。

アウトソール

親指の付け根にあたる部分がピンポイントで柔らかく、つま先が自然にフィットして心地よい

新素材となるアウトソールは、場所によって硬さが異なるつくりとなっている。特に母指球、小指球の位置する箇所が柔らかくなっていて、そのおかげで4mm幅広になったトーボックスがより広く感じる。

足全体を包み込まれる感覚で、無駄な締め付け感を一切排除しているかのよう。

S-Works 7にあるトー側のベルクロテープは、締めると指上部にアウトソールが当たることもあるが、Torchではより自然に包む構造で当たりにくいようになっている。

BOAダイヤル

質感の高いBOA。トー側のBOAはちょうど甲の位置に配置されているため、どんな甲の高さでもフィットできる

BOAダイヤル「S-3」はS-Works 7から継承されている。左右にひとコマずつ回転することで調整し、引っ張ってリリースする構造はない。
S-3のクリック感は本当に気持ちよく、オーディオのボリューム調整のような外観と相まって、ひとコマずつフィッティングを調整すること自体に喜びを覚える

Rokuto「一度試着すると、フィット感と質感が良くて誰もが購入したくなるんじゃないかと思います。」

ヒールカップ

斜めのラインが格好良い、左右専用設計のヒールカップ。深さはあるが、アキレス腱周辺のカーブを緩くすることで余裕を出しているのが独特。
カップが高めに取られているおかげか、ホールド性がかなり高い。だからつま先にスペースがあっても足が暴れることがない。

* * *

こうしてヒールカップとBOAダイヤルで抑えるところを無理なく抑え、柔らかさを部分的に変えるアッパーによって、自然なフィット感が実現されている。
これを「高い快適性」と表現するとありきたりになってしまうが、Torchは質感の良さと心地よさがバランス良く落とし込まれている、相当ハイレベルなシューズだ

 

3. デザイン:“今”のウェアと合わせやすく

7からTorchになり、履き心地だけでなく、デザインもよりナチュラルなものになった。
特にS-Worksロゴが小さくなり、ベルクロストラップが廃止されたことで、シューズの存在感は抑えられ、「S-Works履いてます」感がなくなったことは、僕たちにとってとても喜ばしい。バイク本体やウェアとはるかに合わせやすくなった。

公式サイトではバックサイドが見えないが、後ろからの格好良さは随一だと感じる。

王道ホワイトシューズ

NDLSS x S-Works Torch

ロードシューズの王道カラーであるホワイト。ただの白シューズとは違い、アッパーの素材感とヒールカップの光沢感、BOAのシルバーがバランス良くまとまったデザインで、足元に高級感を与える。

Pas Normal Studios x S-Works Torch

クールに締めるブラック

Rapha x S-Works Torch

黒シューズは、ヘルメットと同系で揃えることで、全体にまとまりが生まれる。
Torchの落ち着いたブラックは、ウェアの色味を引き立てながら足元をキリッと引き締めてくれる。

ディティール感溢れるネイビー

マットなネイビーは、どのウェアにも合わせやすい。ヒール部分はネイビーからブラックへのグラデーションになっているため、マットカラーにありがちなのっぺり感が薄れている。このあたりにデザインへの高い意識が感じられる。

ネイビーだけは、ソールにキラキラした粒があるのが特徴(最初傷だらけになったのかと焦った)。後ろを走っていると、つぶつぶがチラ見して可愛い。

 

4. パフォーマンス:剛性感と心地良さのバランス

アウトソールの剛性指数はS-Works 7と同じとされている。
実際に剛性感は全体的に高く、踏み込んだときの反応もクイックだ。それでいて、トルクをかけたときに跳ね返されず、適度にしなるようになっている。このしなりのおかげか、ペダリングのリズムが取りやすいし、痛みや疲労に繋がる路面からの振動は吸収してくれているように感じる。

アウトソールの剛性感とアッパーの自然なフィットのバランスは、長時間のライドでも窮屈さを感じにくい。
各メンバーとも、最初はタンや踵の部分で違和感を感じることがあったが、何度か履いていくうちに柔らかく馴染んでいった。
もともとストレスを感じにくいつくりなので、何か違和感があれば、BOAで細かく調整していけば次第に心配なく走ることができるだろう。

 

5. サイズ選びの注意点

S-Works TorchのアウトソールはS-Works 7から若干幅が広くなっている。
そのため、7のときに幅に合わせるためにサイズを上げていた場合は、Torchではハーフサイズダウンしたものも試した方が良さそうだ。

各モデルが着用するサイズも参考にしてほしい。

  Rokuto Masanaga Rin Mei
Torch着用サイズ 42 44 38.5 39.5*
ほかの所有シューズ
(サイズ)
Shimano RC9 (42) Giro Empire SLX (44) LAKE CX332 (38.5)
GIRO Empire ACC (39.5)
Rapha Pro Team shoes (40)
甲の高さ 普通 普通 普通 少し高め
足の幅 普通 普通 狭い 広め
外反母趾で母指球のあたりだけ広い

*Meiは試着の上で39.5を選択したが、実際に走ってみると少し親指が当たる感覚があった。外反母趾など悩みを抱えている場合は、ペダリングまで考慮したサイズ選びが必要かもしれない。

 

6. しなやかに走る、僕たちのための“新”定番シューズ。

S-Works 7以降、S-Worksシューズには Exos(軽量)、Vent(通気性)、Ares(パワー伝達)といったレース向けの特性が際立つモデルがラインナップに加わった。

次のTorchに与えられた個性は「快適性」。派手な見た目やガチガチの剛性感を求めるようなレーシングシューズと比べると、一見地味な特性だが、快適さは普段のライドで最も重要だ。
また快適性に寄せたとはいえ、Torchの剛性感や質感はS-Worksグレードの上質なものであることは変わりない。

だから「S-Works 8」ではなく「S-Works Torch」なのだろう。レーシングの系譜を受け継ぎながら、新たな時代のスタイルを受け入れるために、再構築されたシューズがそれだ。
ちゃんと走りたいし、スタイリングは妥協しない。そんな僕たちの要望に応えられるS-Works Torchは、S-Works 7以上の定番ハイエンドシューズになるべき存在だと思う。

S-Works Torch(Specializedオンラインストア)

Review / Rokuto, Mei, Masanaga, & Rin
Edit & Photo / Tats
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/ Specialized Japan