Wilier Rave SLRレビュー:“グラベルレーシングバイク”で走る意味。

昨今グラベルカテゴリにはレース化の波が押し寄せており、それに応える形で数々のグラベルレーシングバイクが生まれています。
そのひとつが、Wilierが2021年秋に発表した『Rave SLR(レイブ エスエルアール)』。

Raveのコンセプトは近年のWilierの先進性を物語っており、以前Wilierに乗っていた僕にとって「これは是が非でも乗ってみたい」と感じるほどの魅力がありました。

そこで今回WilierコンセプトストアPUNTO ROSSO TOKYOに協力いただき、3ヶ月に渡る長期間テストバイクをお借りしました。
「グラベルレーシングバイク」というカテゴリが、一般のサイクリストにとってどう活きるか。本レビューでは、その乗り心地と得られる体験を詳細に見ていきます。

テストライダー

Tats Tats@tats_lovecyclist
177cm/60kg、バイクサイズ: M
編集長。スポーツバイク歴9年。ロードバイクを中心としたスポーツバイク業界を、マーケティング視点を絡めながら論じることが好き。現在のメインバイクはFactor O2(ロード)とLS(グラベル)。以前はWilier Cento10に乗っていた。

1. 2つの性格を与える

ひとえにグラベルバイクといっても、バイクパッキング向けのアドベンチャーモデルもあれば、グラベルレースシーンで活躍するための軽量モデルもあります。さらにロードバイクもタイヤクリアランスが広くなっていて、ロードバイクとグラベルバイクの境界さえ曖昧な昨今(とりあえずはメーカーが謳う分類に従うしかない)。

だからロードバイクなりグラベルバイクなりを探すときは、「これはどのポジションのバイクなんだ?」ということを把握した上で、自分の走り方に合ったバイクを選ぶ必要があります。

イヴァール・スリックの走りが見られるアンバウンドグラベルのダイジェスト(1:55)

その点、Rave SLR(以下Rave)は、2022年6月に開催された世界最大のグラベルレース「アンバウンド・グラベル」で、Raveに乗ったイヴァール・スリックが優勝したことから、グラベルレースシーンを主体としたバイクのように感じられるかもしれません。
しかしWilierはRaveに対し、2つの異なる性格を与えるという新技を展開しています

▼2つのRave完成車オプション

セットアップ グラベル オールロード
グループセット Shimano GRX Di2 Shimano Dura Ace 9270 Di2
ホイールセット Wilier Trienstina SLR36GRV Carbon Disc Wilier Trienstina SLR42KC Carbon Disc
タイヤ Vittoria Terreno Dry 700×38 Vittoria Corsa Speed 700×32
ハンドルバー J-Bar Integrated Carbon Zero-Bar Integrated Carbon

*このセットアップは本国サイト記載のものです。日本国内で購入する場合は内容が異なる場合があります。

『GRX+ローハイトホイール+太めのグラベルタイヤ』というグラベルレース向けのセットアップと、『R9270+ミドルハイトホイール+やや太めのレーシングタイヤ』という舗装路寄りのセットアップ。
「セットアップで対応する道を変える」というアイデア自体は目新しいものではありませんが、Wilierはグループセットやハンドルバーまで変化をつけることで対応範囲を広げてきました

自分がどんな道を主体として走るのか──カンザスのグラベルロードか、ロンドンの市街地か、房総の内陸部か──次第で、最初のセットアップでグラベル/舗装路どちらに寄せるかが選択できるようになっています。

ここで察しの良い方はわかると思いますが、ホイール&タイヤの組み合わせでスタイルを変化させる「1バイク2ホイール」という運用が最近グローバルで謳われてます。多様なスタイルを探求するサイクリストが増えている中で、バイクを2台購入して使い分けるよりも、1台で運用したほうがポジションや重量の違いに戸惑うことはなくなるため、Raveはその思想をストレートに形にしたバイクと言えます

 

2. 外観とジオメトリ

テストバイクはメーカー完成車ではなく、オールロード寄りのオリジナルセットアップ

Raveの特徴

・レーシングとグラベルの中間ジオメトリ
・軽量&高剛性フレーム(950g)
・電動コンポディスクブレーキ専用(ワイヤー完全内装)
・タイヤクリアランス 42c

Raveは同社のロードバイクであるFilante SLRやZero SLRと同じカーボンミックスで作られていますが、グラベルライドで受ける振動や“石つぶて攻撃”を考慮して、カーボンの積層が追加されています。そのため、Zero SLRがフレーム重量780gなのに対し、Rave SLRは950g。軽量ロードと比較するのはあんまりですが、グラベル用フレームであることを考えるとかなり軽量です。

Rave SLRジオメトリ(公式サイトより)

RaveのフレームサイズはXS〜XXLの6種類(国内はXLまで)。ジオメトリはやはりグラベルバイクらしさが現れています。
特に緩やかなヘッド角やスタック&リーチの値からは、ある程度安定したハンドリングを意図したものだと読み取れます。
ただ全体的にはCannondale Supersix SEやCervélo Asperoのような“グラベルレーシングバイク”と謳われるモデルに近い値。

エアロロードFilanteと比較しても、Raveジオメトリのアグレッシブさ具合がわかる

シート角はFilanteと同じ74°で立っており、またホイールベースはグラベルバイクの中では短めであり、一般的なグラベルバイクと比較すると、堅牢性よりもスピードを重視していることが明らか。

テストバイクには舗装路向きのカーボン一体型ハンドルバー「Zero Bar」がセットアップ

タイヤクリアランスは42c。45c以上を許容するグラベルバイクが多い中、少し狭めの設定

バイクパッキング用のダボ穴はどこを探してもない潔さ

細いタイヤを付けたときロードバイクだと言われても違和感がないほどクリーンな外観は、「オールロード」という性格を与えるのに違和感ない

このようにジオメトリである程度バイクの性格は推測できますが、実際のライドでどのようなフィーリングを得られるかを次の章で見ていきます。

 

3. グラベルレーシングの乗り味

Raveは完成車の時点で2ホイール訴求をしているように、今回のテスト期間でもホイールを付け替えて、Raveの性格を確認しました。

  ホイール タイヤ
グラベル用 Enve 45 Michelin Power Gravel 35c(チューブレス)
ロード用 Black Inc THIRTY Schwalbe Pro One 28c(チューブレス)

いずれのホイールでも共通して言えるのは、「よりロードバイク的な体験に近い」ということ。
アドベンチャー系グラベルのように、少しアップライトなポジションで落ち着いたスピードで走る性格ではありません。Raveはスピードを出したくなるし、実際に容易に高速域に入ってくれます

28cを履かせたときの乗り味は、ロードバイクそのもの。中でもクイックな反応と上りの軽快感は、軽量フレームならではで、その爽快感はエンデュランス系ロードを容易に上回っていると感じられます。

テスト中は舗装路だけのライドでもあえてRaveを使用し、ロードバイクと一緒に走りましたが、35cでも軽快さは損なわれず、空気圧3.0で35km/h以上踏み続けることもありました。

ハンドリングは、軽量ロードのような切れの良いクイックさはないものの、意図通りに挙動する安定感があります。
シクロクロスのようなタイトなハンドリングを必要とするシーンでは厳しそうですが、石の上で細かくハンドルが動くグラベルシーンでは安定しており、スピードに任せてハンドルに身を委ねることができます。

極端に荒れたグラベルになると、タイヤクリアランスの限界を感じます。グラベル場として有名な北富士演習場の一部は、ひとつひとつの石が大きいダブルトラックが網目に走っています。35cだと、空気圧を下げても石と石の間にタイヤを取られて思うように進みません。Rave限界値の42cにしたとしても、やはり48cくらいは欲しくなりそう。
もちろん、こうした特殊な場所に行かなければ(ほとんどのサイクリストが近場にハードなグラベルはないはず)、河川敷や田んぼのあぜ道のような身近なグラベルシーンで走る限りは何の問題もありません。

Raveはアドベンチャー系グラベルと比較して振動吸収性に優れているとは言えません。キングピンのようなサス機構はないため、乗り心地はタイヤの太さと空気圧に依存します

乗り味には関係ないが、28cだと見た目上クリアランスが広すぎて美観を損ねる。このフレームは32cくらいからが収まり良さそう

 

4. ミックスライドに「速さ」を。

スポーツバイクマーケットは今も「速さ」や「強さ」に支配されています(その是非についてここでは語らない)。
その中で、Raveのような「グラベルレーシングバイク」というカテゴリは、ロードバイク乗りが次に選ぶグラベルバイクの最大シェアを担うものだと考えています。

それはロードバイクにある「速さ」が受け継がれているから。
スピードによる爽快感に支配されたライダーにとって必要なのは、車種を乗り換えたときもその感覚を味わえること。

日常の延長上でグラベルライディングをする場合、国内では舗装路に未舗装路を織り込んだミックスライドが基本となります。そして舗装路の割合が圧倒的に多い。
グラベルレーシングバイクであれば、舗装路がロード的に爽快であり、未舗装路もアグレッシブに駆け抜けられる(もちろん意図的にスタイルを変えたいのであれば、アドベンチャー系グラベルバイクがある)。

100年以上バイクを作り続けてきたWilierは、CentoやZeroシリーズといった名車で一時代を築いてきましたが、ディスクブレーキ化やグラベルカテゴリへの参入については少し足踏みしていたような印象がありました。ただ、近年Zero SLRやFilante SLRがリリースされ、そしてRaveという新しいコンセプトのバイクが登場したことで、完全にモダンなディスクブレーキにもグラベルシーンにも対応し、再びマーケットの成熟に一役買う側に回っています

「グラベルレーシングバイク」であり「オールロード」でもあり、さらにセットアップ次第で「ロードバイク」にもなり得るRave。これまでの分類の壁をぶち抜くWilierの新たなバイクは、そのスピード感とともにロードサイクリストのスタイルを広げてくれる存在になり得ます。

カラー 仕様 価格
完成車
サンドグリーン
マットブラック
デュラエース DISC Di2
/WH-R9270-C36-TL
1,496,000円(税込)
アルテグラ DISC Di2/マダックス 1,050,500円(税込)
フレームセット
サンドグリーン
マットブラック
ディスクブレーキ・電動変速専用
+ステム一体型ハンドル付属
781,000円(税込)

*記載価格は2022年8月時点のものです。

Rave SLR詳細ページ(PUNTO ROSSO TOKYO)

Text/Tats@tats_lovecyclist
Photo/Rin, Rokuto, & Tats
Thanks!/PUNTO ROSSO TOKYO