Text by Ryuji(@marusa8478)
S-Worksがまたやってくれた。
S-Worksシューズといえば、レースシーンからのフィードバックと圧倒的な開発リソースで、長年Specializedが熟成を重ねてきた至高のシューズという印象があります。プロレーサーの中には供給外の選択肢として選ぶ選手も多く、一般ユーザーの間でも圧倒的な人気を誇るS-Worksシューズ。
2018年に登場した現行の「S-Works 7」はすでにベストセラーモデルとなっており、2020年には、さらなる改良によって高い通気性を持たせた「S-Works VENT」が登場しました。
そのVENTの実力を、これまでS-Worksシューズ(4&5世代モデル)を愛用していた経験を持つ僕Ryujiが詳しくレビューします。
*本レビューで使用するS-Works VENTはSpecialized Japan提供のものです。
1. S-Works VENTスペック
カラー | ホワイト、ブラック |
サイズ | 36〜44(40以降ハーフサイズ展開あり) |
アッパー | Dyneemaメッシュ |
アウトソール | FACT Powerlineカーボンソール |
重量 | 220g(片足、41.5) |
価格 | ¥44,000(税込) |
酷暑でも快適にライドできるように開発された「S-Works VENT」(以下VENT)。
外観は、各所に配置されたメッシュ素材のギミック感が少々強め。プレーンタイプの「S-Works 7」と比較すると、アッパー部のメッシュやアウトソールのベンチレーションなど通気性の向上を狙ったマテリアルが目立ちます。
カラー展開はホワイトとブラックの2択。“足下は白”が定番ですが、やはりどんなコーディネートにも落とし込めるということで、僕はホワイトを選択しました。
2. VENTを選んだ理由
レビューするにあたって、まず最初に僕がこのシューズを選択した理由からお話しします。
とにかく僕は暑がりです。人よりも足からの放熱が激しい体質なのか、夏場になると足がオーバーヒートしてしまいそうになることもしばしば。冷えたボトルの水を直接シューズにかけてなんとか凌いできましたが、本当に耐えがたい苦痛を味わってきました。
ブエルタでの炎天下の登りでも、あなたの街の猛暑日でも、快適にライドできるよう開発された
VENTの説明キャプションにはこのように書かれています。こうしたメーカーの謳い文句は、いつもの僕であれば信用しません。大抵の場合、実際に使用してみると数値ほどの実感はできないためです。
それでもこのシューズを選んだのは、以前使用していたS-Worksシューズの感触にとても好感があったから。そしてSpecializedなら何かやってくれるかもしれないという、同社の開発力への期待感も込めています。
3. 履き心地
日本人の足型に対応
まずは履き心地から見ていきます。僕の足型は「甲高・やや幅広」で、多くの日本人の足型に似ていると思います。
足を入れてみた第一印象としては、薄い素材感に反してアッパー全体の強度が高く、生地自体が伸び縮みする感じはありません。踵のサポートもしっかりとしているので、全体として申し分ないホールド力があるように感じました。
甲部分は少し低めに作られています。僕の場合、履いてしばらくの間は少し甲を圧迫する感覚がありました。ただ走っているうちにシューズ自体の形状が慣らされて、気にならなくなっていきます。
これまで使用してきたS-Worksシューズにも同じ印象を持っていたのですが、今作も甲部分より爪先、そしてシューズ先端の形状に過度なタイトさがなく、僕のような日本人型の足にも対応してくれるプロダクトデザインとなっています。
ダイヤルのホールド方式の違い
またBoaダイヤルのホールド方式に関しても気づいたことがあります。
以前使用していたFizikの「R1B UOMO」もBoaシューズでしたが、左右から足を包み込む“ラップホールド式”でした。ラップホールド式は、ダイヤルを回していくと足の左右方向からホールドされる感覚が強く、幅広な足に対しては左右部の圧迫感が出てきます。
VENTの場合、Boaダイヤルを回すと、左右方向ではなく上下方向にホールド力が変化します。そのためダイヤルによる圧迫感はなく、この点においても自分の(幅広めな)足に適していると感じるポイントでした。
付属インソールについて
S-Works 7と異なるインソール。メッシュ部分を広げて通気性を向上。
インソールは裏面がメッシュ状のものを採用。全体的な硬さや土踏まずのアーチの補強は、特別こだわった作りにはなっていないように感じました。
良くいえばクセのないインソールなので、どんな人の足にもそれなりにフィットしてくれますが、使用後に自分に合ったインソールを入れ替えことも選択肢の一つかと思います。
BOAダイヤルの操作感
SpecializedがBoa社と独自開発したBoaダイヤル。アルミ削り出しの輝きがとても美しい。
独自開発のBoaダイヤルは、ホールドとリリースを1ノッチずつ行うタイプ。ダイヤルを上に引っ張って全開放できる機構は搭載されていないので、シューズを脱ぐ際はダイヤルを回し続けて開放する必要があります。
4. 通気性
VENTの最たる特徴が通気性。甲部分〜爪先に少し余裕のある形状となっていることが、通気性に大きく寄与します。
スペースがあることで、シューズ先端の通気口(“ベンティッド・マウスポート・トゥボックス”という)から取り入れた空気が効率よく排気され、気流の流れを促しています。
実際に走っていると通気口から入る風を足先で感じられるほど涼しくて、もうすばらしいの一言。
人の足は不感蒸泄(体に感じる汗ではなく皮膚から自然に水分が排泄されること)の役割を果たしているので、放熱がかなり重要な要素になります。そのため、夏場でなくとも放熱性のあるシューズを選択することは好ましいといえます。
とはいえ、厳冬期にこのシューズだけの状態で走ることはおすすめしません。多分足が死んでしまいますので、必ずシューズカバーを着用しましょう(防風性の高いシューズカバーさえあれば冬も乗り切れると思います)。
5. パワー伝達性
アッパー部分は薄手なので、剛性について不安に見えますが、実際のところは剛性不足を全く感じません。
EXOSシューズと同じ高剛性カーボンアウトソールを搭載
トルクをかけたとき、アウトソールは一切たわまないほど高剛性。
踵のサポート(PadLockヒール)もはっきりしていて、足全体がシューズと一体になっている感覚になります。
こうしたつくりから、力が逃げることなくペダルを踏みこむことができます。
シューズとの一体感を生む踵のサポート
また同じ足のサイズのライドメンバーとシューズを履き替えて比べる機会がありましたが、皆が口を揃えて「軽っ!」と驚いていました。
僕自身は、直前まで使用してきたシューズも軽量の部類に入るものでだったので、あまり重量面のメリットを感じられていませんでしたが、41.5サイズで220g(片足)という軽さは、間違いなくペダリング中のスムーズさやパワー伝達効率に繋がっていきます。
6. 耐久性
アッパーの強度に貢献している“Dyneema”と呼ばれる素材。
「超高分子量ポリエチレン」という繊維に付けられた商品名で、耐衝撃性・耐引裂強度に優れます。
ラミネートされたDyneemaに爪をたたて引っ掻いてみても、簡単には破れる感じはなく、耐久性もしっかりと確保されています。
とはいえ、メッシュ部分は目の粗い生地を使用しているので、引っ掛けてしまったりしないようには注意が必要です。
またメッシュは汚れも染み込みやすいので、綺麗な状態を保つにはこまめに洗濯してあげる必要もあるかと思います。
7. サイズ感
VENTのサイズ選択について、僕がこれまで使用してきた主なシューズと比較します。
Specialized – S-Works VENT |
41.5 |
Specialized – S-Worksシューズ(第4&5世代) | 41.5 |
MAVIC – ゼリウムマックス1 | 42.0 |
GIRO – Factor Techlace | 42.0 |
Fizik – R1B UOMO | 42.0 |
僕の足は約26.5㎝でEUのサイズ表記では41.5がベストだと感じていますが、欧米ブランドのシューズは幅の狭いつくりが多く、S-Works以外は全て42を選択。
経験上VENTに関しても41.5を選択しましたが、思った以上に爪先部分の空間が広めだったので、あまり空間を開けたくないという方はワンサイズ小さめでも履けるかもしれません。ただシューズのサイズ感はシビアなので、できれば実店舗での試着をお勧めします。
8. もう手放せないVENT
“より涼しく、より速く”をキーワードに誕生したVENTは、そのコンセプトが見事に体現されています。
一見するとS-Works 7と大差ないようにも見えますが、アウトソールやアッパーの補強など、細かいディティールはVENTだけのために突き詰められたもの。そしてこの素晴らしい通気性は一度履いたら手放せなくなります。
VENTを手に入れたことで、憂鬱な夏場のライドに対する僕の考え方は変わりました。涼しい秋の使用においても、足を快適に保ってライドの質自体を向上させてくれます。もう足のオーバーヒートに悩む必要はないし、通気性と引き換えにパフォーマンスが低下することもありません。
圧倒的な開発力で常にトップに君臨し続けるSpecializedが新たに提案するシューズは、S-Worksの名に恥じないプロダクトに仕上がっています。
Highs
- ・素晴らしい通気性
・高いパワー伝達性
・幅広めの足にもある程度対応する形状
Lows
- ・ダイヤルの全開放機構がない
Text by Ryuji(@marusa8478)