最近気になるロードバイク関連のモノ・話題(2026年夏):アンバサダーのミスマッチ/TdF機材トレンド/レースですか、通勤ですか?/東京は走る場所じゃない

こんにちは。最近のトピックや業界の話題に触れたりする、半年に一度くらいの不定期企画です。今回は4つのトピックをお届け。

text & photo / Tats@tats_lovecyclist

アンバサダーの役割とミスマッチ

どの業界でもそうだが、色々なブランドのアンバサダーがいる。
自転車関連ブランドに関しては、ときどきアンバサダーの選定基準や起用の目的に対して疑問が投げかけられ、サイクリストの間で議論を呼ぶことがある*。こういうミスマッチは、アンバサダーに期待する役割が、代理店側とユーザー側とでズレるために起こりやすい。

*国内のアンバサダーは、ブランドと直契約する場合と、国内代理店と契約する場合があるが、本テーマで書くのは代理店と契約する場合の話となる

例えば、フォロワーが多くて見た目が良いという理由で、投稿内容やスタイルをよく見ずにアサインするというケースや、担当者が特定のインフルエンサーをお気に入りで、その人と接点を持つためにアンバサダーになってもらうといったケースが存在する。

本来のアンバサダーの役割は、ブランドが設定する世界観を体現して、そこから適切なターゲット層にリーチしてエンゲージメントを獲得することにある。上記の例のようにフォロワー数や好みだけで選んだアンバサダーが、世界観を適切に体現できるかどうかは定かではない。

ただ、そもそも日本のアンバサダーに対して、海外ブランドの世界観を厳密に体現させる必要があるのか?という問題がある。
日本のマーケットは特に欧州圏に比べて極めて小さく、ブランドの世界観に合うサイクリストはかなり限られているのが実情だ。表現力を取ればリーチを失い、リーチを取れば世界観が崩れる。

アンバサダーに近い文脈の話で、かつてPas Normal Studiosのセールスマネージャーに、日本国内での着こなしや文化的な受容のされ方が本国の世界観から離れている点についてどう思うか聞いたことがある。彼の答えを平たく言えば「それはコントロールできないし仕方がない」というスタンスだった。つまり、世界観の構築はデンマーク本国をはじめとした欧州諸国で完結させており、極論を言えば、アジア圏ではその完成された世界観への憧れによって製品が売れれば、現地のユーザーがどのように着こなそうが構わないということだ。

こうした本国側のスタンスを鑑みると、国内ではできる限り多くのターゲットにリーチできるインフルエンサーをアンバサダーにするという割り切りは現実的な戦略だと言えるかもしれない。

ただ、このリーチ獲得への割り切りは、長期的なブランド資産を毀損するというリスクもある。本国で洗練された世界観が構築されていても、国内でミスマッチな露出が広がれば、本来ブランドを支持していた、感度も購買力も高いコア層が離脱する。そうなると、中長期的なブランドの寿命と競争力は失われてしまう。

ここから先は理想論だけれど、マーケットの限られた国内において、代理店に求められるのは、数を持ったインフルエンサーを探してアンバサダーにすることではなく、ブランドの美学に沿った「伸びしろの大きいサイクリスト」を見つけ出して、長期的な視点でアンバサダーとして彼らと一緒に成長していく姿勢だ。市場が小さく理想的な人材がいないのであれば、時間をかけて育てていく。そうした中長期的な投資の覚悟を代理店サイドに持ってほしいと思っている。

 

TdF2026から見る機材トレンド

今年のツール・ド・フランスで使用された機材の中で、気になった4つのトレンド。

① クライミングバイク不要論

かつては山岳ステージのために、各チームが軽量バイクを用意するのが常だったが、今年はその専用機の居場所が急速になくなりつつある。

その象徴的な例が、バーレーン・ヴィクトリアスが使用するビアンキの新型『Specialissima』の動向だ。
同車はビアンキ史上最軽量(55サイズでフレーム重量750g)で、前作比で16W空力性能が向上したフラッグシップ・オールラウンダーとして今年リリースされたばかりだが、難関山岳ステージで大半の選手が選択したのはエアロロードの『Oltre』であり(55サイズでフレーム重量815g)、新型スペシャリッシマは数えるほどしか投入されなかった。

この背景にはエアロバイクの軽量化がある。Oltreだけでなく、Giant Propel Advanced SLやCervélo S5も、エアロでありながらUCI下限の6.8kgをほぼクリアし、軽量機を持ち出す理由がない。
「軽さ」は競争の主戦場ではなくなり、あとは同じ重さでいかに空気を切るかの勝負になっている。

もしUCIが重量制限6.8kgを引き下げれば、クライミングバイクとエアロバイクの分化が再び起きるかもしれないが、現行ルールが続く限りは、クライミングバイクの存在はより儚いものになるしか道はない

② Sramの台頭と、1xのテストは続く

ドライブトレインの勢力図が動いている。今年の男子23チームの内訳は、シマノが13、Sramが9、Campagnoloが1。依然シマノが最大勢力ではあるものの、Visma・EF・Decathlonなどが乗り換えてSramが9まで伸びた。女子もSramの割合が増えている。

 シマノSramCampagnolo
2025男子1751
2026男子1391
2025女子1561
2026女子1281

男子/女子ともにSramのシェアが増加

そして、Sramの浸透と同時に1xドライブトレインもヴィンゲゴーをはじめ表舞台で活躍するようになった。ただし1xはまだ一部のテスト段階で、しかも現状は事実上Sramだけの選択肢でもあることから、TTを除いて全体に占める使用率は依然として低く、特定の選手による戦略的かつ限定的な運用に留まっている。

ちなみにホビー層でも、Sramのシェアが伸びている上に、1xで組みたいという声も大きくなっている。トップレース層を越えて、ホビー層でより速く1xが浸透していくかもしれない。

③ 内幅23mmリム✕28cタイヤが標準に

ワイドタイヤ化が進むなか、今年のプロトンでは多くのチームが28cや30cを履いたが、リムの方はむしろ細くなり始めている。

ホイールの内幅は長らく広がる方向に進み、内幅25mmに28cという軽量・空力に振った組み合わせが一時の主流だった。ところが2024年のUAE Tourで、内幅25mmのZipp 353 NSWからタイヤが外れるクラッシュが起き、フックレス設計への不信が一気に広がる。これを受けてUCIは「内幅25mmのリムには最低29mm幅のタイヤを」という規制を敷き、25mm内幅に28cという組み合わせが事実上使えなくなった。

それを受けてEnveは、ポガチャル向けに内幅23.5mmのSES 4.5 Proを供給したのだが、プロの世界では、内幅23mm前後のワイドリムに28cという組み合わせがひとつの標準になりつつある。

④ サイコンはGarmin・Wahooの二強

サイコンは男子23チームのうちGarminが12、Wahooが8、女子21チームのうちGarmin8、Wahoo11だった。Garminの独擅場はすでに失われており、Wahoo/Garminの二強状態が継続している。
ただ中国のMageneやiGPSportもワールドツアーの舞台に食い込み始めており、二強がこの先も安泰とは限らない。
一般ユーザーベースで言えば、Wahooは最近Corosとの提携を発表し、Garminプラットフォームの牙城を崩そうと狙っているし、中国ブランドのデバイスは広く浸透しつつある。数年後にこの勢力図がどうなっているか追っていきたい。

こうして並べてみると、今レース基準でバイクを組むとしたらどんな構成が最速か、その正解が見えてくる。またここには挙げていないが、ショートクランクは依然として選択肢のひとつであり、ハンドル幅はUCI規定ギリギリまで狭く抑えられており、各社さまざまな形のエアロヘルメットが投入されているなど、空力改善と効率化の流れが全体を覆っている。
これまでの常識が少しずつ裏返り、機材の進化はまだまだ面白い部分があると感じられる年だったと思う。

 

レースですか、通勤ですか?

この10年で上記のようなトレンド含め機材は大きく進化したが、変わったのは機材だけではなく、ロードバイクへの向き合い方も変化した。

先日、知人のロードバイクを選ぶために量販店へ足を運んだとき、店員の方から最初に「用途はレースですか、通勤ですか」という二択を投げかけられた。やりたいことはこの二択には当てはまらないので「レースには出ないが毎週ライドを楽しみたい」と答えると、予算を伝える前に「それならアルミでも十分楽しめます」と勧められた。

この量販店だけの接客スタイルかもしれないが、“レースに出ないのなら速さは要らない”という前提を元にしたこのやりとりは、10年前と形を変えておらず、今の感覚からすると違和感が強い。

今ではどちらかというと「速さはレースのためだけのものではない」という価値観が一般的になっている。
その日のライドで仲間とその瞬間を競うこと、巡航速度を伸ばしてただ走り続けること、なるべく速く移動していつもと違う道を探求すること。これらすべては、順位やゼッケンがなくても楽しめるし、実際にそういたスタイルのサイクリストは多い。

あるいは「速くなくてもいい」という投げかけも以前からよく聞くが、競技用自転車である以上、速く走る方がそのポテンシャルを発揮できることは間違いないし、速くなくていいならほかの自転車を選んだ方が幸せなこともある。
ロードバイクを選ぶ以上、速さや機材のポテンシャルを求めるのは自然なことだ。これは10年前も同じだが、ただ今はレースを目的とせずに、その「上質な機材体験」そのものを楽しむ層が多い
だから“レースに出ないのなら(妥協して)アルミで十分”という等式は次第に成り立たなくなった。

また速さだけでなく、「距離」においても感覚が変わってきている。ブルベをはじめとした“超”長距離ライドが一定層に浸透している一方で、一般的なライドにおける100kmは、走行距離の一般的な目安ではなくなっている。

もともと100kmは脱初心者の入口のように語られていたし、一度のライドで100km走ったかどうかが距離の判断軸になっていた。けれども毎週のように常に100km以上走ることは、仕事や家庭などの影響でハードルが高いサイクリストは多い。弱ペダブームからも10年以上経っていることから、当時独身時代にロードバイクを始めて、結婚などのライフステージの変化で走り方の調整を余儀なくされた方は多いはず。

僕自身も、子どもが生まれてからは、走る体力よりも、走るための時間をどう調整するかが重要になった。だから距離を目安にするのではなく、走れる日に、走れるぶんだけ走るというスタイルに変わっている。もちろん100kmでも300kmでも走れることは素晴らしいし、自分でも長距離走れるときはそうしているけれど、20kmでも50kmでも走ること自体が素晴らしい体験だ。最適な距離はそのときどきのライフステージによって異なる。

速さについても距離についても、大事なのは他者や慣例が決めた指標に対して自分がどうかを評価するのではなく、今の自分にあった指標を元に自分にできる選択をすることだ。そうした余白を受け入れやすくなったことが今の時代の良いところだし、レース/通勤の二元論のように「ロードバイクに乗るならこうでなければならない」という縛りではなく、「ロードバイクはこう楽しみたい」という自分の軸を常に持っておくことが、この趣味を長く続けることに繋がると思っている。

 

東京は走る場所じゃない

「東京住みはロードバイクで走るには向いていない」と言われることがある。
都心は交通量と信号が多くてまともに走れない。郊外に出ようにも関東平野がはるか彼方まで続いているので、自走で山に行くには片道最低 2時間以上走らなければならない。
確かにこの話を聞く限り東京のライド環境は終わっている。

ただ環境は捉え方次第で変わる。制約に嘆くか、制約の外側に目を向けるか。都心に住んで10年以上走ってきた実感として、これほど走り方の選択肢を広げられるエリアはそうないと感じている。

トレーニング目的なら、東は荒川を淡々と踏み、西は尾根幹を進み、都心は皇居を回り続ける。
抜けた景色がほしいなら、北関東の渋峠、東北の浄土平、富士山麓の明神三国峠、伊豆半島の西伊豆スカイラインへ車で日帰りで行ける。海沿いなら三浦や外房へ行けば良い。
美味しい食事目的なら、世界最多の飲食店数を誇る都心で毎回新しい選択肢がある。
そしてナイトライド。都内の夜はビルと都市交通のきらびやかな明かりのなか、東京の治安の良さも相まって、世界でも稀な、夜安心して走れる環境になる。

個人の資質もあるけれど、おそらく山の近くに住んでいたら今ほど自転車のモチベーションは上がらなかっただろうなと思う。
郊外の自然を堪能できることと、大都市の文化的資本を味わえること。東京エリアに住んだときのライド環境の振れ幅の広さは、世界でも有数だろうと思う。

範囲を広げるためには車での移動を組み合わせることはマストだけれど、ほかと比較して走りづらいと嘆くのではなく、自分たちの環境に合った走り方を見つけることで、そのエリアは恰好の遊び場になる。東京はたまたまその振れ幅がとびきり大きい。

著者情報

TatsTats Shimizu@tats_lovecyclist
編集長&フォトグラファー。スポーツバイク歴12年。海外ブランドと幅広い交友関係を持ち、メディアを通じてさまざまなスタイルの提案を行っている。同時にフォトグラファーとして国内外の自転車ブランドの撮影を多数手掛ける。メインバイクはStandert(ロード)とFactor(グラベル)。