欧州の自転車店復活を支える仕組みと、日本にそれがない理由

パンデミック後の不況やD2Cブランドの台頭によって、独立系自転車小売店が衰退するという論調が流れていたが、欧州では地元の自転車店は健在で、今後も存続していく兆候が見られる。
その発展を支援することに尽力している団体が、ドイツ発祥の購買協同組合『ZEG』だ。Gran Fondo Cyclingによるインタビューをもとに、その仕組みと哲学を整理する。

自転車ショップ同士が繋がる組織

ZEGは60年以上前に設立された、自転車小売業者による協同組合だ。加盟店は協同組合の持分を取得し、意思決定ワーキンググループを通じて組織の運営に直接関与する。現在はヨーロッパ全土で1,000店超の自転車専門店が加盟しており、単なる仕入れ組合を超えた多機能な組織に成長している。

ZEGのサービスは多岐にわたる。たとえば、個店で10個のパーツを注文する代わりに、ZEGが各個店の注文をとりまとめて100個注文することで、有利な条件を引き出すことができる。
こうした一括購買による仕入れコストの削減にとどまらず、整備士向けのワークショップトレーニング、デジタル化支援、マーケティングサポート、店舗デザイン提案、法律相談まで含まれる。

欧州でも、SpecializedやTrekといった直営店戦略を強めるメーカーが多いが、ZEGの加盟店は、協同組合としての仕入れコスト優位と、加盟店でしか手に入らない自社ブランドを武器に対抗している。直営店が「メーカーの世界観を徹底管理する場」であるとすれば、ZEG加盟店は「地域に根ざした専門家が複数ブランドを横断的に提案できる場」として差別化を図っている。

ZEGは、小売店の本質的な強みは「物理的な近さとアフターサービス」だと強調する。その思想のもとで成功している店舗は、販売だけでなく、ワークショップ、グループライド、地域イベントを組み合わせたコミュニティハブとして機能するようになっているという。

日本にZEGはない

日本の自転車小売市場にZEGに相当する組織は存在しない。大手チェーンストアと独立系専門店が並立する構造であり、マーケティングや技術のノウハウを共有する仕組みはない。

そもそもZEGが生まれたドイツを含む欧州には、協同組合を社会インフラとして活用する歴史的蓄積がある。農業、金融、小売のいずれの分野でも、個人が組合を通じて集団的な力を得るという発想が19世紀以来の伝統として根付いている。ZEGはその延長線上で生まれた。

では、なぜ日本にはZEGのような組織が生まれないのか。

まず構造的な背景として、欧州では代理店を挟まないメーカー直販(直取引)の比率が高く、個店が単独でメーカーと対峙せざるを得なかった歴史がある。だからこそ、小売店が束になって仕入れ交渉力とリスクヘッジ能力を持つことに必然性が生まれた。

対して日本の場合、メーカーと小売店の間に「代理店」という中間層が存在し、小口流通や在庫リスクの緩衝材として機能してきた。個店のままでも仕入れが成立する環境があることは利点でもあるが、代理店が流通を支配する垂直構造においては、代理店が上流にあり、小売店はその下流に位置づけられる。そこでは、ZEGのように小売業者同士が連帯したり、自ら製造に踏み込んで川上を握るという仕組みが生まれにくい。

また“暖簾文化”のように、商人には店の個性とオーナーの裁量を守ることへの強いこだわりがあり、同業者は競合という感覚があるところも多い。
「コミュニティハブとしての自転車店」という概念自体は日本にも芽吹いており、走れるショップ、カフェとの複合業態、グループライドを起点にしたコミュニティ形成といった取り組みが各地で見られる。しかしそれらはあくまで個店の創意工夫であり、ZEGのように組織として制度化・共有化されているわけではない。

もちろん、日本でZEGを立ち上げるのは現実的ではない。ただ、チェーン展開でも単独経営でもなく、オーナーシップを持つ組合員として仕入れ力やノウハウを互いに共有しながら、地域に根ざした専門店として独立性を保つというモデルは、日本の小売店でもそのエッセンスを小さなスケールで取り入れる道はありそうだ。

*参考: Long live the independent local bike shop – What’s Behind ZEG?(Gran Fondo Cycling)

著者情報

TatsTats Shimizu(@tats_lovecyclist)
編集長&フォトグラファー。スポーツバイク歴12年。海外ブランドと幅広い交友関係を持ち、メディアを通じてさまざまなスタイルの提案を行っている。同時にフォトグラファーとして国内外の自転車ブランドの撮影を多数手掛ける。メインバイクはStandert(ロード)とFactor(グラベル)。