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1年前にイタリアンブランド『UDOG(ユードッグ)』のロードシューズ「CIMA」をレビューして以来、その履き心地の良さからロードサイクリングでは常にCIMAを履いていましたが、グラベルバイクの使用率が高くなったここ半年は、UDOGのグラベルシューズの登場を強く待ち望んでいました。
そして「DISTANZA(ディスタンザ)」が3月に発売されるという話を創業者のAlberto Fonte氏から事前に受け、ヒアリングとテストの機会をもらいました。
ロードシューズで新たな時代を切り拓いたUDOGが、グラベルをどのように解釈してどのようにプロダクトに落とし込んでいるのか、その仕上がりを詳細にレビューします。
レビュアーの主なスタイル
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▼ギア
バイク:Factor LS
タイヤ:Huchinson Overide TLR 35c(セミスリック)
ペダル:Crankbrothers
▼ライドスタイル
・ロードバイクと同行することが多いためスピード重視
・ロード/グラベル問わず多くのライドを上記ギアで行う
・撮影のため歩行時間は多め
review/Tats(@tats_lovecyclist)
photo/Miki, Atsushi
*本レビューのシューズはUDOG提供のものです。
Contents
1. グラベルライディングの解釈
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DISTANZAと枯山水 ©Udog
DISTANZAの公式ビジュアルに用いられているのは“禅ガーデン”に置かれたシューズ。なぜ日本の枯山水をモチーフに用いたのかを聞いたとき、Fonte氏は次のように答えました。
「グラベルライディングは競うものではなく、バランスを取るための手段です。平和でストレスのないものであると私たちは信じており、それは禅の精神と繋がっています」
枯山水が表現する美意識や自然とのつながりは、彼らが考えるグラベルライドそのもの。
それは実際に、多くのグラベル経験のあるサイクリストたちが賛同する点だと思います。
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人の気配もなく生々しい路面の感覚の中で走っていると、ロードサイクリングとは違った野性的な感覚──登山に近いがもっと荒々しい──が沸き起こってくる。そこには、ほかの誰かや数字と競争する要素はなく、自然の一部に自分をぽんと置いてうまくやりくりするような感覚しかない。
*
UDOG(ユードッグ)のブランド名は‘underdog(アンダードッグ)’に由来しており、それは競技において勝ち目がない「噛ませ犬」のこと。DISTANZAは、「どうせ勝つことはないだろう」と思われているブランドの反骨精神と、グラベルライディングに対する本質的な解釈が掛け合わされて生まれています。
2. シューズに美意識を
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2色展開のDISTANZA。それぞれアウトソールの素材が異なる
モデル | DISTANZA | DISTANZA CARBON |
---|---|---|
カラー | アッシュグレー | シンダーブラック |
サイズ展開 | 38-48 | 38-48 |
アウトソール | ナイロンカーボン強化 ラバーアウトソール |
フルカーボンコンポジット ラバーアウトソール |
重量 | 330g | 315g |
価格 | €180 | €250 |
これまでロードシューズCIMAを1年使ってきて、UDOGらしさを感じるのは、他ブランドのトップモデルに並ぶパフォーマンスに、イタリアンシューズらしい美的感覚を共存させていること。
DISTANZAを履いていてもその感覚は変わらず、既存のシューズにはない新しさと、グラベル環境を生き抜くためのディティールの中に、美意識と反骨精神が詰め込まれています。
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佇まいだけで存在感を放つDISTANZA
3. あえてのレースアップ
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DISTANZAにはレースアップが採用されています。
BOAダイヤル全盛の時代にレースアップ。それだけでアンダードッグ(噛ませ犬)的であるにも関わらず、 「レースアップは美的だから」と言い切って採用したUDOG。
確かに、履くのが面倒で、履いたあと調整しづらい、というネガティブな要素があってもなお履きたくなるのがレースアップシューズの“美的”な魅力であることは、多くのサイクリストが知っています。
もちろんレースアップはただ美的であるというだけではく、ダイヤル式よりも軽量にできるし、圧力が均等に分散され、甲高でもフィットしやすいというメリットもあります。
総合的にUDOGのレースアップシステムは非常によく出来ており、フィットしやすく緩みにくいため、一度UDOGシューズを試すとBOAシステムでなくても気にならないことは確かです。
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UDOGオリジナルのシューレースはフラットな形状で、ライド中に緩まない
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結んだ部分は目立たないようにタンに収納する構造。ここにも美的感覚が現れている
4. 逞しさ&可愛さ爆発、アウトソール
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DISTANZAのアウトソールは、カーボンソールの上にラバーソールがつま先部分まで覆う大胆な形状。
「このデザインは、大きな山で見かける山肌やゴツゴツした岩からインスピレーションを得ています。丈夫で快適なシューズでありたいと思い、トレイルマウンテンシューズを参考にしています」とFonte氏は話します。
一見サイクリングシューズに見えないし、ロードシューズにあったようなクリーンな雰囲気に逞しさが上乗せされています。
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つま先の存在感は可愛いとさえ思える
グラベルシーンでは歩行することもあり、特につま先は痛みやすい部分ですが、この形状のおかげでシューズへのダメージを気にせず進むことができる。僕自身は撮影で山肌をかき分けて歩く場合も多く、それでもカーボンソールがほぼ傷つくことがないので、遠慮なくがつがつ歩いています。
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ラバーソールがカーボンソールを保護するかたちになるため、底部は傷つきにくい(岩場を歩くとさすがに傷が残る)
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歩いてなんぼのグラベルシューズ
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フルカーボンソールの剛性感は十分に高い
5. アッパーの妙
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シューズの合う/合わないを決める一番の要素はアッパーの形状。つま先が狭かったり甲が低すぎたりすると、日本人の足型には合わないケースがあります。イタリア靴は往々にして日本人泣かせですが、UDOGはどちらかというとアメリカ的なアッパー形状に寄せています。
これはサイクリングシューズ全体的な流れにも沿っており、トーボックスは広く、ヒールカップは狭くて高さのある形状。
この形状とニットアッパーは相性が非常に良く、スニーカーを履いているような感覚です。他ブランドのシューズの中には、最初きつくて使っているうちに馴染んでいくものもありますが、DISTANZAは最初から足に馴染んでくれる。
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「3Dエンジニアリングメッシュ」と呼ばれるアッパーは部位によって織りパターンが異なる。ヒールカップは耐久性とサポート強化のために厚く、ほかの箇所はフィッティングのために柔軟なつくり
ではニットアッパーの柔軟性は、ペダリングの手応えさえ軟弱にするのか?いいえ、次項のテンションラップシステムがそれを解決しています。
6. テンションラップシステムがあればこそ
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デザインも美しいテンションラップシステムは、UDOGのアイデンティティと言っても過言ではない
UDOGは柔らかいアッパーの固定力を高めるために「Tension Wrap System(TWS)」という仕組みを開発しています。
従来のレースアップは足の甲だけを締め上げるつくりですが、TWSは専用の紐がシューズの底部を包むように通ることで、足全体を包み込むようにアッパーを締め上げる斬新な設計。ここにイタリア人の職人魂がめいっぱい込められているかのよう。

紐(赤矢印)を締め上げると、TWS(緑矢印)が引き上げられてアッパーが足を包み込む
アッパーが柔らかいからこそこの仕組みが活きており、シューズの方から自分の足に合わせに来てくれる感覚はかなりの心地良さです。ペダリングのしやすさ、長時間の疲れにくさはTWSがなければ考えられないだろうと思います。
7. サイズ選び
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[表1] サイズ展開(商品ページにも記載)
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[表2] 他ブランドサイズ比較(元ページ)
Distanzaは38〜48の11サイズ展開(ハーフサイズなし)。
サイズ選びの方法は2通りあります。
①ソックスを履いた状態の足の長さを測り、[表1]から対応するサイズを選択する
※足の長さを測る方法はUDOGが公開するPDFファイルを参考にします
②今履いているブランドのサイズに対応するUDOGのサイズを[表2]から選択する
僕は①の方法を用いて41を選択。甲高・幅広の典型的な日本人型ですが、サイズガイド通りで適切にフィットしています。
8. DISTANZA総評
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2ボルトのグラベル/オフロードシューズはここ1年で多くのブランドが参入しており、サイクリングシューズの中では今最も熱いカテゴリ。それぞれレース寄り、ロングディスタンス寄り、ライフスタイル寄りなど用途に応じた特性を備えている中、DISTANZA(= イタリア語で「距離」)はその名の通り、ライドやハイキングなどで長い距離&長い1日を過ごすための快適性を考えて開発されています。
もともとUDOGに対してはCIMAを通して好意的な印象しかありませんでしたが、DISTANZAを使ってみてもその印象は変わらず、グラベルの新しいスタイルに一歩足を踏み入れた喜びを感じています。
DISTANZAは初めてグラベルシューズを求めるサイクリストにも比較的手頃な価格であり(€180/€250)、時代の先端を行くスタイルは十分投資に見合うものです。
レビューまとめ
こんなサイクリストに合う
・グラベルライドを好む
・歩行を含むライドを好む
・スニーカーのような履き心地を好む
・シューズの新しい価値観&デザインを自分のモノにしたい
・美学とアイデアと野心を持ったブランドを応援したい
着用感(走行時)
・スニーカーのように最初からフィットする
・広いトーボックスは幅広の足型でも余裕がある
・ニット素材は部位によって硬さが適切に変えてあり、甲高でも馴染みやすい
着用感(歩行時)
・ラバーソールのおかげで歩きやすく滑らない
・つま先カバーが耐久性を高める
剛性感
・フルカーボンコンポジットアウトソールは剛性感十分
・高強度/低強度どちらにも対応するバランスがある
その他
・かかとのストラップでシューズの着用が容易
・黒は泥汚れが目立ちやすいため都度洗う必要がある
購入方法
・ナイロンカーボン:€180、フルカーボン:€250(€200以上購入で送料無料)
・D2Cブランドのためオンラインでのみ購入可能
レビュアー
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Tats(@tats_lovecyclist) 編集長。スポーツバイク歴10年。長年Webやデジタルマーケティングのコンサルティング領域で数多くのクライアントを担当してきたことから、スポーツバイク業界においてもマーケティング視点を絡めながら論じることを好む。同時に海外のアパレルブランドと幅広い交友関係を持ち、メディアを通じてさまざまなスタイルの提案を行っている。メインバイクはFactor O2、Factor LS。 |
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