2023年秋:最近気になるロードバイク関連のモノ・話題

こんにちは。最近のトピックや業界の話題に触れたりする、半年に一度くらいの定例企画です。この企画も6年目になりますが、今は業界のさまざまなところで大きなうねりが起きているので、以前のように牧歌的に新しい商品を取り上げるというより、業界全体に関わる話題を中心にお届けします。

text/Tats@tats_lovecyclist

忖度しているのは誰?

あるメーカーから聞いた話。
インフルエンサーに商品を提供してレビューをしてもらったところ、気になる部分含めて正直に話してほしいと伝えていたにも関わらず、アップされたレビューは「忖度なし」と言いながら終始良い点を伝えるだけだったとのこと。それだと逆に胡散臭く感じるので、正しくプロダクトを評価してほしかったと残念そうに話していました。
ちなみに僕がその商品を使ってみたときは、気になる部分があることは明確でした。にも拘わらずそのことを伝えなかったのはなぜか。

理由① 提供という関係性を踏まえて伝える内容を配慮した
理由② ネガな部分を把握できる知見に欠けていた

①②どちらにしても、発信者は正しい情報を視聴者に伝えているとは言えません。
「既存メディアは広告主に忖度して真実を伝えないから、ブロガーやYouTuberが伝えることは正しい」という都市伝説は今も流行っていますが、この事例の通り、忖度する主体は既存メディアとは限らないし、情報の正しさはどの媒体でも100%担保できないのが実情です。逆に今の既存メディア(特に紙媒体)は、広告主が出稿をどんどん取り下げているので、広告ページが減っており、忖度する対象がほとんどないようです。

発信者側が「忖度なし」と言うことが流行っていますが、実際のところそれを判断するのは受け手側です。本来発信者側が言う事ではありません。

情報というものは、伝える側のバイアスが必ず入ります。情報を受け取る側は、発信者の経験値、専門性、ステークホルダーとの関係性などを念頭に入れた上で、その情報がどんなスタンスで発信されているかを判断する必要があります。

たとえ発信者が「忖度していない」と言っていたとしても、情報元と関係性がある場合は何かしらの配慮が働くことは避けられません。受け取った情報を「価値」と感じるか「忖度」と感じるかは、受け手がどれだけ発信者の後ろにあるものを把握できているかにかかっています。

 

Apple Watchがパワー計測対応

Apple WatchがWatch OS 10からサイクリング機能を大幅に強化し、パワーメーター連携ができるようになりました。これによりGPSサイコンが担っていた領域をApple WatchとiPhoneの組み合わせで代替できるようになる可能性があります。

AppleWatchと接続したiPhoneの「ワークアウト」アプリでスピードやパワーなど各項目を表示できる

現在AppleからApple Watch Ultra 2を借りて、新しいサイクリング機能をテストしています。発売日から1ヶ月ほど使用していますが、かなりGPSサイコンに近い使い方ができています。ただ機能面で不足していると感じる部分もあるので、その点含めて近日中に詳細なレビューを掲載します。もちろん忖度なしで。

 

自転車ショップにコミュニティが回帰している

自転車のコミュニティづくりは、かつて自転車ショップが担っていましたが、ここ10年くらいのスパンでSNSに取って代わられるようになりました。
ショップ離れが起きた背景として、海外通販やD2Cブランドの台頭、自転車の楽しみ方の多様化、コロナ禍の接客制限、クセの強いショップが敬遠されるようになったことなどが挙げられます。

代わりにサイクリストたちは、自分で価値観の合う仲間をSNSで探して繋がるようになりました。
一方で、ショップから一時離れたことで、逆にショップの価値を再認識する流れが生まれます。自転車の状態を「正しく」維持できるのはショップだけであり、「専門的な」情報が得られるのもショップだけ。リアルに集まれる「場所」があるのもショップだけ。

そんな中で、ショップ側のあり方も変わっていきます。かつてショップに集まる人々はレースに出ることを目的とした「チーム」がほとんどでしたが、ここ最近はスタイルを持つショップが増え、その価値観に賛同するサイクリストが集うかたちが生まれています。レースを目的としないショップのコミュニティというあり方。

そうしたコミュニティが今どんどん拡大していることからも、これからは、SNS型コミュニティとショップ型コミュニティが相互作用して、地に足の付いたより良い自転車のコミュニティが生まれていくのだろうと感じています。

 

 

独立型メディア「Escape」の運営レポート

会員制独立型メディア「Escape」が、3月にローンチしてから半年が経過しました。会費は月額¥1,000/¥1,600または年額¥10,000/¥13,500から選択できます(閲覧権限の異なる2つの選択肢がある)。
現状Escapeの発信内容はテキスト記事とPodcastの2つ。ローンチ当初はレース系の情報がメインでしたが、次第にテック系やライド系の情報も充実しており、特にテック系のレビューは非常に読み応えがあります。

Escapeが、運営の透明性を購読者に伝えるために報告書を掲載しています。個人的に気になっていたことをかいつまんで記載します。
※非会員でも月に記事5本は読むことができるため、詳細はリンク先を確認ください。

ロードマップ

1年目はメディアの立ち上げと体制の確保、コンテンツの充実などが挙げられていますが、2年目はさらに拡大を目指しています。

  1. XCOにフルコミット(XCO=クロスカントリー)
  2. メンバー・サミット(2024年春)、全スタッフをツアー・ダウンアンダーに招待
  3. アプリの立ち上げ
  4. より多くのコミュニティ・サービスを立ち上げる(詳細未定)

特に3や4は、メディアが拡大路線に行くときに必ず通る部分なので気になるところですが、詳細が記載されていないため、早い具体化を期待します。

収支

メンバー数≒収益ですが、現状メンバー数は公開していません。僕がローンチ前に登録したときの会員番号は6000番台だったので、英語メディアの強さをそのときに思い知ったのですが、ローンチ後の数ヶ月経って会員数の伸びは緩やかになっているもよう。
どちらかというと1年目に登録した年会費メンバー(会員の90%を占める)が2年目も継続するかどうかが勝負だろうと思います。

メンバーの属性

・男性70%、女性30%
・健康的なライフスタイルを送っており、金銭的にも豊かである(80%が週3日以上ライドし、50%が年収10万ドル以上)
・教育水準が高く、社会的意識も高い(80%が大学または大学院卒)
・米国、英国、豪州が購読者数のTOP3

日本のサイクリストの一般的なデモグラフィーとかなり乖離していますが、メンバーシップに加入するだけあって、“質の高い”読者が集まっているようです。

 

サイクリングアパレルのカジュアルラインが好き

子育てで買い物の時間が滅多にとれないこともあり、私服はオンラインで購入することがほとんどですが、ここ2年くらいはサイクリングアパレルブランドのものを頻繁に着るようになりました(サイクルウェアを注文するついでにカートに入れる)。
デザインが良いのはもちろん、スポーツウェアブランドなだけあって、着心地も機能性も高く、何度洗濯しても全然ヘタらない。長く着られるのでめちゃめちゃコスパ良いものばかり。
私服探しは結構リソースを食うので、忙しいサイクリストにとってはこれがひとつの解だと思っています。

Raphaが渋谷キャットストリートに店舗を構えてライフスタイルウェアに力を入れるようになりましたが、同様にMAAP、Universal Colours、Café du Cycliste、Black Sheepなどもオフバイクウェアを充実させています。
毎シーズンの新作発表時は、サイクルウェアだけでなくどんなカジュアルラインを出してくるのかチェックするのが楽しみになっています。

トップスCafé du Cycliste、パンツBlack Sheepというサイクルウェアオタクコーデ(Photo by Miharu

 

Wiggle CRCどうなる

Wiggle logo

10月19日の報道で、Wiggle CRCの親会社が資金調達を打ち切られたと発表され、Wiggleブランドは存続の危機に見舞われていす。

Wiggleは2016年にChain Reactionと合併して「Wiggle CRC」グループになりました。
その後Wiggle CRCは、2021年12月に世界的なスポーツ小売業者「Signa Sports United」に買収されています(Sigma Sportsではないので注意)。
今回の報道では、Signa Sports United(以下SSU)の親会社「Signa Hodings」が、SSUへの出資を打ち切ったことが明らかになりました。以下経緯。

・2023年6月に、SSUとSigna Holdings間で資金提供に関する合意を締結。そこには2023年9月1日から2025年9月30日の期間で1億5,000万ユーロ(約230億円)をSSUに提供する約束が含まれていた。
・同年9月には、SSUの運営資金をカバーし、継続企業として確保するための補足契約も結ばれた。
・同年10月に、Signa HoldingsはSSUに対し、これらの合意を取り消すと通知した。

資金提供が打ち切られたことで、SSUの流動性は危機的な状況にあります。
SSUは営業モデルの見直しをせざるを得ず、不良資産の処理または清算を行うと発表しています。特に自転車部門の業績は経営陣の期待値から外れているため、Wiggle CRCも厳しい措置が取られる可能性が高い状況です。

2年前にWiggleの中の人にインタビューしたときは、日本の売上は英国に次ぐシェア2位を占めていたということでした。それだけ日本のサイクリストにとっても縁の深いサービスだけあって、この急展開はかなり衝撃的です。
身売りなどで存続する可能性もありますが、同社の経営危機は業界全体に波紋を広げることになるので、しばらく動向を注視したいと思います。

消えないでdhb

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著者情報

Tats Tats Shimizu@tats_lovecyclist
編集長。スポーツバイク歴10年。ロードバイクを中心としたスポーツバイク業界を、マーケティング視点を絡めながら紐解くことを好む。同時に海外ブランドと幅広い交友関係を持ち、メディアを通じてさまざまなスタイルの提案を行っている。メインバイクはFactor O2(ロード)とLS(グラベル)。