Text by Tats(@tats_lovecyclist)
最後のリムブレーキホイールを使い倒す。
ハイエンドフレームが皆ディスクブレーキ専用モデルに置き換わる現在、リムブレーキモデルは進化のピーク地点を迎えています。その中で展開される機材は、これまでのロードバイクの歴史の中で最も優れた性能を持つという解釈が可能。
僕はこの先、多くのサイクリストと同様にディスクブレーキモデルへの乗り換えを考えているものの、欲しいディスクモデルを待つ間に、まだ知らないチューブレスタイヤの世界を早く体験したいとも思っていました。だからあえてこのタイミングで、チューブレス対応の「Campagnolo BORA WTO 60」リムブレーキモデルを導入。
段階的に機材の進化を自分の身で感じていくということは、自転車の世界を深く楽しむことに繋がります。最新のリムブレーキホイールが、どのような進化のピークをもたらすのか、その詳細をレビューします。
Contents
1. なぜBORA WTO 60にしたか
期待していたこと
チューブレス化
最たる目的はチューブレスタイヤに履き替えること。
2年以上チューブラーを普段使いしてきましたが、運用コストが高いこと(1回のパンクで1.5万飛ぶ…!)、タイヤ交換に非常に手間がかかること(リムテープ剥がしで爪がもげる…!)、ラッテクスチューブは空気の抜けが早いこと(毎回シュコシュコ大変…!)などから、「走りやすさ」と「運用の手間」のバランスが悪く、次のホイールでクリンチャーあるいはチューブレスにするということは早い段階で決めていました。
そして購入した2018年は、性能の高いチューブレスタイヤが出揃い始めた“チューブレス元年”とも言える年(以前からチューブレスは存在していましたが、ビードがあがらない&タイヤをはめづらいといった課題がありました)。ちょうどホイール刷新を検討し始めたタイミングでCampyの最新チューブレスモデルが発表されたため、迷わずWTOを選択します。
ハイプロファイル&エアロ最適化の効果
WTOは“Wind Tunnel Optimized”に由来する通り、空力を最もフィーチャーしたCampy初のモデル。空力のメリットはVengeやほかのエアロフレームで実感していたため、ホイールにおいても風洞施設で最適化されたハイプロファイルモデルがどれだけ効果的なのか非常に興味がありました。
もちろん存在感のある見た目も選定ポイント。
あえて犠牲にしたこと
軽さ
WTO60は前後1547g(ZONDAとほぼ同じ重量)。このリムハイトでは十分に軽量ですが、それまで使い慣れていたRolf PrimaのTdF4SLは前後1195gのため、タイヤも考慮すると300gほどの重量増。
明らかにヒルクライムではマイナス影響しか考えられませんが、僕自身のライドスタイルではアップダウンの多い都市エリアを走ることが多く、その限りは、重量増をエアロ効果のメリットが打ち消してくれるのでは、という期待値があります。
軽やかな外観
RolfPrimaは重量だけでなく、ペアードスポークの美しさと本数の少なさからくるすっきり感がたまらなく、フレームとの相性も最高でした。
逆にWTOの60mmハイトとG3組は、ホイール単体で見ただけでものすごく強い存在感。もちろん、「格好良い」と思えたからこそ導入を決めましたが、まったくバイクの雰囲気が変わってしまうことは理解する必要がありました。
2. BORA WTO 60 デザイン&スペック
デザイン
光沢の強いグロッシーなリム&威圧感のある60mmハイト
シンプルなステッカーデザイン。オールドスタイルの自己主張感がなくてすごく良い
ある程度想定はしていたものの、実際に装着すると、ハイト60mmはその想定以上にバイクの重厚感が出ます。
いかにも「重そう」というハイトは、一気にレーシーな雰囲気で周囲に威圧感を与え、生半可な走りはすることは許されない気持ちにさせます。
Cento10 Airの主張の強いフレームカラーに重々しいホイールは、ガンダムのプラモデルの両手にビームライフルを持たせたようなやり過ぎ感が出てしまう点はやむなく目をつぶる必要があります。まじでやり過ぎた(笑)
スペック
ハブ
USB/アルミハブの形状は従来のBORAシリーズから大きく変わって、Rovalのホイールと同じエアロ形状に。トレンドを感じられる流麗なフォルム。
リム
チューブレス/クリンチャー対応の2-Wayリム。
内幅19mm・外幅26.5mmと従来のBORAシリーズと比較して幅広になり、25c/28cタイヤが最適な組み合わせに。60mmハイトホイールの性質上、25cとの組み合わせがベター。リム幅があるのでチューブレスのセットアップもかなりラク。
内径側はシェイプがラウンド形状でつるりとしています。
ニップル
ニップルはほかのCampyホイールと同様に、マグネットを使った“Momag(Mounting Magnet)システム”でバルブ穴に通されています。この方法はリムの外周に穴を空ける必要がないので、剛性が上がり負荷も分散されるように。
スポーク
扁平型のステンレス製3Dエアロスポーク
フロントはスポーク18本
リアは21本のG3組。Campyはこれじゃないと。
BORAシリーズの比較
同じBORAシリーズのうち、リムハイトの近いモデルのスペックを比較。
モデル | 重量* | タイヤ | リム内幅 | スポーク | ベアリング | 価格* |
BORA WTO 45 | 1,496g | 2-Way(TL/CL) | 19mm | F18/R21 | USB | ¥295,000 |
BORA WTO 60 | 1,547g | 2-Way(TL/CL) | 19mm | F18/R21 | USB | ¥295,000 |
BORA ONE 50 | 1,485g | CL, TU | 17mm | F18/R21 | USB | ¥285,000 |
BORA ULTRA 50 | 1,435g | CL, TU | 17mm | F18/R21 | CULT | ¥411,000 |
*シマノ用/クリンチャー/リムブレーキモデル
スポークパターンはすべて同じ。WTOはONEと同価格帯でスペックも似ており、ONEをエアロ化・チューブレス化・ワイドリム化した位置づけになっています。
3. BORA WTO 60 走行レビュー
2018年12月にWTO 60を導入して以来、半年以上一緒にライドして得たPros&Consを詳細化します。
トータルフィーリング
全体が底上げされたディープリムホイール
WTOは「60ミリハイトなのに○○」という印象がすごく出るホイール。つまり、
- ・60ミリなのに登れる
・60ミリなのに踏み出しが軽い
・60ミリなのに乗り心地が良い
といったように。
何かが突出して弾けるようなホイールではなく、弱点が補われるように全体が底上げされた万能なディープリムホイールという印象が顕著。だから乗り心地としてはクセがなく、初めてのディープリムでも素直に扱うことができます。
もちろん平坦の伸びはこれまで使ってきたホイールと比べると強力で、空力を活かした高速巡航が可能。
でも様々な道を走る中で、フラットコース以外も苦手に感じる道が少なく、ディープリムでも単なる平坦用ホイールではなくなっていることを感じます。
ホイールの進化がBORAにもたらしたもの
ホイールメーカーによる個性の違いが過去と比べて薄くなっているという話は、旧くからロードバイクを知る人から聞くことがあります。
これは各モデルの性能が全体的に上がり、ピラミッドの頂点へ進むように目指すべきホイールの方向性が定まってきているということ。かつて「30万以上のホイールはどれを買っても同じ」と業界の人に聞いた箴言に通じています。
フレームは進化によってエアロモデルと軽量モデルの境界があいまいになっていますが、ホイールも同様に苦手とされていたカテゴリを補える性能を持つように進化しているかのよう。
新型BORAはその点が顕著に表れているホイールであり、だからこそ「万能性」というありふれた言葉が適用されます。
カテゴリ別フィーリング
初期加速(0→30km/h)★★★★☆
踏み出しは想像より全然軽く、不満の出ないレベル。
当然信号等で何度もインターバルを繰り返すと、軽量ホイール以上には疲弊します。
後期加速(30km/h→40km/h)★★★★★
リムの剛性感はトルクを推進力に変えやすく、加速性は素晴らしいと感じます。僕自身トップスピードに乗るまで時間がかかる脚質ですが、従来より仲間のアタックに反応しやすくなっています。
加速性を楽しめる剛性感
高速巡航(40km/h〜)★★★★★
高速巡航時のエアロ性能はさすが。Rolfは風抜けするスポークと回転の良いハブで高速巡航しやすいホイールですが、WTOはエアロ形状と重さのあるリム、そしてチューブレスの転がり抵抗の低さによって、風を鈍く切り開くように巡航するホイール。エアロポジションで淡々と踏み続けたときの推進力は、その高剛性のフィーリングとともに快感になります。
自分だけがわかる、重厚感ある風切音もぞくぞくする。ここがWTO自身のハイライトだと思います。
登坂力 ★★★☆☆
想定よりもかなり登れる。アップダウンコースでの短い坂であれば、重量を感じる余裕もないほど。4〜6%の斜度が続く富士スバルラインのようなヒルクライムでもそれほど重さは感じず、シッティングで淡々と登ることが可能。
ただし8%を越えると勝手が異なります。これは重量の問題というよりも、リム剛性が高いことが主な原因。トルクをかけたときに反動を使ったリズムを取りづらく、かなり脚を消耗します。斜度あるヒルクライムははっきり苦手なので割り切りが必要。
それなりにこなせるヒルクライム
ハンドリング ★★★★☆
ハンドリングの扱いづらさはないものの、若干ダウンヒルのカーブは膨らむ傾向にあるので注意は必要。
またディープリムは横風に弱いと言われますが、ビル風のような突風を除けばハイトが30mmでも60mmでも高速走行中に受ける抵抗に大きな差はなく、強風に煽られるのではという心配はありません。
ダンシング ★★★☆☆
リム剛性の高さから、しなりを使ったリズムを取りづらいのが難点。
同じハイプロファイルでも、Vengeのようなディスクブレーキフレームを使うとエンドの剛性が高いためシャキシャキしたダンシングができますが、リムブレーキモデルのエンドと高剛性リムの組み合わせはダンシングの難易度が上がります。
慣れである程度回避できるものの、得意ジャンルではない印象。
乗り心地 ★★★★★
チューブレス化の恩恵を多大に受けた素晴らしい乗り心地。チューブレスは気密性が高く、体重60kgの僕の場合は空気圧5〜5.5barで乗ることができます(タイヤはSchwalbe Oneを使用)。
ハイプロファイルは路面凹凸の影響を直接受けやすくなりますが、それを柔らかくカバーできるチューブレスは、例えるなら浅煎りコーヒーとダークチョコレートを同時に口に含んだような運命的な組み合わせ。
ブレーキング ★★★★☆
基本的なブレーキ性能は良好。レバーの引きに応じてリニアに効く感じがリムブレーキらしい。
またウェットでの制動力が落ちない表面処理「AC3(All Condition Carbon Control)」はさすがと思えるテクノロジー。雨天ライドを何度も経験したものの、ドライとほぼ同じ制動距離で停止することができます。
ウェットで制動力を発揮するAC3リム
4. WTO45 vs WTO60 比較インプレッション
WTO60購入後に45mmハイトのWTO45が発売されました。「45と60を同時に発表すると60が売れないから」とは代理店の弁。後出しで45を発表するのはずるいと思いながらも、WTO45を仲間から借りてテスト。
60と比較するとすっきりしたリムハイト
カテゴリ別比較
WTO45 | WTO60 | |
初期加速 | ★★★★☆ | ★★★★☆ |
後期加速 | ★★★★☆ | ★★★★★ |
高速巡航 | ★★★★☆ | ★★★★★ |
登坂力 | ★★★★☆ | ★★★☆☆ |
重量は50g程度の違いのため、初期加速に大きな違いは感じられません。登坂力の評価の違いは、リム剛性の違いによる登りやすさが影響しています。スピードに乗った後は明らかにWTO60優位。
インプレッション
- ・WTO60の万人向け感をより強めた感じで、とてもさらっとした印象のホイール
・乗り味に対する個性をほとんど感じないが、瞬発力や登坂力は若干WTO60よりも高い(極端に登坂力に優れるという感じはしなかった)
・都市部のライドやヒルクライムにWTO45ひとつで対応できる安心感が強い
5. 万能性を繰り出すポストモダンホイール
WTO60もWTO45もあまりホイール特有のクセのようなものは感じづらく(特に45は無臭レベル)、どんな脚質のサイクリストが選んでも乗りこなせるホイールに仕上がっています。
ワイドリム&チューブレス&エアロという業界トレンドのエッセンスをわかりやすく最適解で注ぎ込んだWTOは、乗り味もわかりやすく万能。そしてフレームの相性を選ばないスリークなデザインも至高。
リムブレーキモデルが最終形にある今乗るためのモデルとして、Campagnoloがもたらしたホイールの進化は、このマルチタレント性に帰結することを理解しました。
新時代のBORAは、30万を切る価格も含め、最高にハズレのない仕上がりを味わうことができています。
Highs
- ・普段使いできる万能ディープリム
・チューブレスの偉大な快適性
・高速域の反応と気持ち良いフィーリング
・ウェットでも落ちないブレーキ性能
・どんなフレームにも合わせられるデザイン
Lows
- ・ダンシングのリズムが取りづらい
・8%を超える坂は予想以上に脚を消耗する