Cannondale SuperXレビュー:速くて自由で、日本のグラベル環境で最も現実的。

「速さ」と「自由」は両立しないと思われてきた。速いバイクは用途が限られ、自由なバイクは速くない。そういうものだと受け入れてきた。でも本当にそうだろうか。

4年前、四国に越してきてから、僕はずっと同じ悩みを抱えていた。僕の住む南予地域は農林業が盛んで、農道が張り巡らされている。舗装路を走っていると、至る所に脇道が現れる。その先には、必ずグラベルがある。オンロードを走りたい。グラベルも走りたい。シクロクロスだって楽しみたい。でもそのすべてを満たすバイクがなかった。1台で全部できるバイクが欲しかった。

そのタイミングでCannondaleから新型『SuperX』がリリースされた。SuperSix EVOを初代から第四世代まで乗り継いできた僕にとって、Cannondaleのバイクの先進性にはいつも刺激を受けていた。グラベルレースをメインターゲットにしたこのマシンが、僕の日常にも応えてくれるのか。速さと自由を、本当に両立できるのか。
それを確かめてみたくて、2025年8月に購入。約4ヶ月乗ってきて感じたことを、余すところなく伝えたい。

レビュアー

Ryuji@ryuji_ride
会社経営者。スポーツバイク歴16年。POCアンバサダー。過去には競技者として打ち込み、表彰台に上がった経験も持つ。自転車専門誌の編集者、サイクルウェアメーカーといった経歴から業界にも精通。所有バイクはCannondale SuperXとFactor Ostro VAM。

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edit / Tats@tats_lovecyclist

SuperXの歴史と進化

初代『SuperX』(2011年)は、Tim JohnsonやStephen Hydeといったライダーたちがナショナルチャンピオンシップを制したシクロクロス専用マシンだった。2022年には『SuperSix EVO CX/SE』として生まれ変わり、2024年にはLachlan MortonがUnbound Gravelの史上最速記録を樹立している。しかし名前の混乱は残った。

2025年、SuperXは明確なミッションを持って復活した。グラベルレースで勝つこと。そしてシクロクロスのDNAを忘れないこと。

新しいSuperXは、前モデルから約100g軽量化され、LAB71バージョンでは56cmフレームが900g未満を実現している。SuperSix EVO譲りのカムテール形状を採用し、シートチューブとリアトライアングルにフレックスゾーンを設け、D型断面のAero Carbonシートポストが路面からの衝撃を吸収する。

タイヤクリアランスはフロント51mm、リア48mm。フロントは余裕を持って50mmタイヤを受け入れる。リアは48mm表記だが、これは泥詰まりを想定した数値で、実走では50mmタイヤの装着が可能だ。Delta Steererによる完全内蔵ケーブルルーティングを採用し、アウトフロントジオメトリによって高速安定性と俊敏なハンドリングを両立している。

技術の進化は、フォルムの洗練に繋がった。SuperSix EVOから受け継いだエアロダイナミクスの技術が、SuperXのシルエットを美しく仕上げている。ホリゾンタルに近いトップチューブが描くラインは、シクロクロスレースでバイクを担ぐ際の機能性を求めた副産物。機能が形を決め、その機能がフォルムの美しさに繋がっている。

SuperXは、グラベルレースの頂点を目指すマシンとして、性能だけでなくその佇まいも新たに生まれ変わった。

 

なぜセカンドグレードを選んだか

グラベルバイク市場は、大きく2つの方向性に分かれている。レース志向の高速型と、快適性・汎用性重視の冒険型だ。
SuperXは、明確に前者に属する。軽量化、エアロダイナミクス、レーシングジオメトリ。すべてが速さを追求している。同時に、最大51Cまでのタイヤ対応という汎用性も持ち合わせている。この両立がSuperXの独自性だ。
市場には、さらに軽量性に特化したモデルもあれば、より極端にエアロを追求したモデルもある。SuperXはバランス型だ。軽量性とエアロ性能を両立し、快適性も犠牲にしない。

2025年のSuperXは、最上位のLAB71フレームと通常フレームの2グレードに大きく分かれる。それぞれに異なる完成車モデルがラインナップされている。

  SuperX LAB71 SuperX 2 SuperX 3
フレーム LAB71 SuperX, Series 0 carbon
(56cmで900g未満)
SuperX Carbon
(通常フレーム)
SuperX Carbon
(通常フレーム)
国内展開サイズ 46, 51, 54 46, 51, 54 46, 51, 54
コンポーネント SRAM Red AXS XPLR(1×13速) Shimano GRX 825 Di2
(2×12速, 48/31T, 11-34T)
Shimano GRX 820
(2×12速, 48/32T, 11-36T)
ホイール Reserve 40/44
(DT Swiss 180ハブ)
Reserve 40/44
(DT Swiss 370ハブ)
DT Swiss G1800
(アルミニウム)
ハンドル Cannondale SystemBar R-One
(一体型カーボン)
 Vision Trimax Aero
(アルミニウム)
Cannondale
(アルミニウム)
サドル Fizik Vento Antares 00 Prologo Dimension AGX T4.0 Prologo Dimension AGX STN
完成車重量 7.4kg(56cm) 8.5kg(56cm参考値) 9.1kg(54cm)
税込価格 ¥1,980,000 ¥1,030,000 ¥630,000

Cannondale内のSuperXの立ち位置

Cannondaleのバイクラインナップを見ると、SuperXの立ち位置が明確になる。

Topstoneは、快適性と汎用性を重視している。Kingpinサスペンション、ラックマウント、よりアップライトなジオメトリを採用。バイクパッキングやツーリングに向いている。速さよりも冒険を楽しみたいなら、Topstoneだ。

Synapseは、ロード寄りのグラベル対応バイク。42mmまでのタイヤクリアランスがあるから、グラベルライドもこなせる。基本はロードバイクなので、オンロードがメインで、ときにグラベルを楽しむなら、Synapseも選択肢に入る。

SuperXは、その中間にありながら、独自の領域を持つ。レース性能を持ちながら、日常の使い方にも幅がある。速さと自由。この両立が、SuperXの魅力だ。

SuperX 2を選んだ理由

LAB71 SuperXは魅力的だった。SRAM Red AXS XPLR、SystemBar R-One一体型ハンドル、Reserve 40/44カーボンホイールを装備し、重量はわずか7.4kg。専用設計の軽量フレームを持つ完璧なレースマシン。

でも、僕はSuperX 2を選んだ。
決め手は色だった。色?と思われるかもしれない。でも、これまで黒系のフレームに乗ることが多かった僕にとって、久しぶりに白色のフレームが欲しかったというのが正直な話だ。

もうひとつ、カスタムの余地があることも重要だった。LAB71は完成車として完璧すぎる。おそらく、あのバイクを買った人はそのまま乗るだろう。SuperX 2も、実は組み替える必要性はあまりない。標準仕様のShimano GRX 825 Di2とReserve 40/44カーボンホイールは優れた組み合わせで、多くの人はそのまま乗るはずだ。SuperX 3も同じだろう。でも、あえてそこをカスタムすることで、今の自分の感性やスタイルに限りなく合うバイクに組み上げたかった。

 

SuperX 2をLAB71寄りにカスタムする

コンポーネントはSRAM RED eTap AXS E1とSRAM FORCE eTap AXS E1のミックス構成にした。1xドライブトレイン。フロント44T、リア10-46Tという構成は、シンプルで軽く、僕の走り方に合っていた。オンロード7割、グラベル3割。このバランスに44Tは理想的だった。

ホイールは用途で使い分ける。オンロードでは28〜32Cタイヤとロード用ホイール。グラベルでは40CのVittoria Terreno T50をReserve 40/44に履かせる。そして時には50Cも履かせている。タイヤはすべてチューブレス化した。

コクピットはSystemBar R-One(通称MOMOハンドル)に変えた。ケーブルがスッキリして見た目が美しい。軽量で、振動吸収性も優れている。美しいバイクを自分好みのパーツで組み上げることで納得の一台に仕上がった。

コンポーネント(フロントシングル)、ハンドル、サドルの変更、タイヤのチューブレス化によって、完成車重量は7.6kg(ペダル、ボトルケージ無し)になりLAB71の完成車とほとんど変わらなくなった。標準仕様のSuperX 2(8.5kg)から約900g軽量化している。

 

実走インプレッション

オンロードでの性能

SuperSix EVOを初代から第四世代まで乗り継いできた僕にとって、SuperXのオンロード性能は興味深かった。特に第三世代と第四世代LAB71を所有してきた経験があるからこそ、同じCannondaleのDNAを受け継ぎながら、グラベルにも対応したバイクがどこまでロードバイクに近づけるのか、その答えを知りたかった。

28Cタイヤとロード用ホイールの組み合わせで走ると、SuperXはグラベルバイクであることを忘れさせる。軽快で、速い。第四世代SuperSix EVO LAB71ほどの鋭さはないが、EVO譲りのエアロ性能によって、十分にロードバイク的な走りを見せてくれる。

フロント44T/リア10-46Tのギア比は絶妙だ。平坦での巡航は44Tで十分にこなせる。高速域でもギアが足りないと感じることはない。登りでは46Tのローギアがあるから安心だ。リアだけのシフト操作はシンプルで、ライドに集中できる。

振動吸収性も優秀だ。フレックスゾーンとAero Carbonシートポストが振動を吸収してくれる。長時間のライドでも身体への負担が少ない。“SuperSix EVO SEで失われていた快適性を取り戻した”という同社の主張は本当だった。

ただし、純粋なロードバイクと比べると、わずかに違いを感じる場面がある。重量は遜色ないが、ジオメトリーの違いが影響しているのだろう。瞬間的な加速やコーナーの立ち上がりで、ロードバイクほどの鋭さはない。反応がほんの少しだけ遅れる感覚だ。
とはいえSuperXは、グラベルバイクであってオンロードでの性能は、あくまでもプラスアルファだ。そう考えれば、この走りは十分すぎるほど優秀だと思う。

グラベル・トレイルでの走り

40CタイヤとReserve 40/44でグラベルに入る。SuperXは高速型のグラベルバイクだ。速いのは当たり前だった。
整備されたグラベルロードでは、スピードを維持しながら走れる。アウトフロントジオメトリのおかげで、高速域でも安定し、コーナーでは俊敏に曲がる。

ここで、SuperXの真価が見えてくる。細かな石やギャップに弾かれにくい。路面の情報を繊細に感じながら、少ないストレスで速く走ることができる。これは、フレックスゾーンとAero Carbonシートポストの効果だろう。路面からの衝撃をうまくいなしながら、タイヤのグリップを保つ。バイクがバタつかない。ラインを維持できる。

スピードの維持がしやすい。これが、高速型グラベルバイクとしてのSuperXの特徴だ。荒れた路面でも、ペダリングのリズムが崩れない。推進力を失わない。疲労も少ない。

僕のホームコースは、落ち葉が積もったトレイルに近い道が多い。こういった路面では、50Cタイヤを履かせることもある。驚くのは、50Cという太いタイヤを履いても、機動性に違和感がないことだ。もったりした感じもなく、しっかりと走る。泥詰まりを考慮した設計になっているから、泥や落ち葉が詰まる心配もない。フレーム設計そのものが太いタイヤを受け入れるように作られている。28Cから50Cまで、どのタイヤ幅でもバランスが崩れない。これがSuperXの懐の深さだ。

ヒルクライム・登坂性能

SuperXは軽い。カスタム後はさらに軽くなった。この軽さは登りで効いてくるし、1x44T×10-46Tのギア構成は登坂でも問題ない。46Tのローギアがあれば、急勾配でも踏み切れる。

フレームの剛性感は、昨今の優秀なロードバイクのそれと同じ方向性で、ペダルに力を込めたとき、パワーの受け止めに対しては硬い反応を示す。パワーロスを感じない。でも、路面からの振動に対してはうまくいなしてくれる。パワー伝達と快適性を、両方とも高い次元で両立している。

登りでの姿勢も楽に感じる。アウトフロントジオメトリは前荷重になりすぎず、バランスが取りやすい。長い登りでも疲れにくかった。

 

欧米的なグラベルはないからこそ

1台で3つの役割、複数ホイールという選択

ロードバイク、グラベルバイク、シクロクロスバイク。それぞれに専用マシンを揃えることもできる。でもSuperXなら、ホイールとタイヤを換えるだけで、1台3役をこなすことも可能だ。

例えば、オンロード用にカーボンホイール、グラベル用に別でワイドリムのホイールを使い分ける。バイクを増やすより、ホイールに投資する方がスマートだ。保管スペースも最小限で済む。メンテナンスも効率的になる。

28Cタイヤとロード用ホイールを履けば、ロードバイクとして十分に機能する。40-50Cタイヤを履けば、グラベルやシクロクロスに対応する。フレームは同じ。変えるのは、ホイールとタイヤだけ。

ただし、純粋なシクロクロスレースを目指すなら、注意が必要だ。SuperXのジオメトリはグラベルレース向けに設計されている。専用シクロクロスバイクと比べると、タイトなコーナーでのクイックさや、急激な方向転換の俊敏性では一歩譲る。安定性を重視した設計だからこそ、グラベルでの高速走行に強い。シクロクロスは「できる」が、「最適化されている」わけではない。

これらの柔軟性は、SuperXの強みではあるが、同時に割り切りでもある。

日本の環境に最適化された使い方

日本のグラベル環境は、欧米とは違う。整備された長距離グラベルロードは少なく、林道や農道が点在している。純粋なグラベルライドとして、何時間も未舗装路だけを走り続けることは難しい。
この環境で専門性の高いグラベルバイクを選ぶと、週末しか活躍しない。平日のトレーニングライドでは、舗装路での減速感や重さがストレスになる。結局、ロードバイクばかり乗ることになる。

SuperXなら、平日は28Cタイヤで舗装路を快適に走り、週末はグラベルに行く。1台で、毎日使える。従来のグラベルバイクにあった舗装路での減速感がない。重さを感じない。このストレスの少なさが、毎日乗りたくなる理由だ。

日本でグラベルバイクを選ぶなら、グラベル専用マシンとしての出番は少ないかもしれない。でも、この守備範囲の広さがあるというだけで、選ぶ価値は十分にある。

SuperXが最適な人

・ロードもグラベルも、どちらも妥協したくない
・週の大半は舗装路を走るが、週末はグラベルも楽しみたい
・シクロクロスレースにも興味がある
・複数台所有するより、1台を使いこなしたい
・舗装路での減速感やストレスを感じたくない

SuperXが合わない人

・バイクパッキングで長距離を旅したい(ラックマウントがない)
・アップライトな姿勢で、のんびりとグラベルを楽しみたい
・ロードレースにフォーカスしていて、グラベルには全く興味がない

 

「次はどこを走ろうか。」

バイクを選ぶということは、自分を理解することだ。
四国に移住してから僕は気がついた。オンロードだけでは満足できない。でもグラベルだけでも物足りない。両方を、高いレベルで走りたい。

日本の道路事情を見ていると、四国の環境だけが特殊ではない。日本中どこでも、舗装路が大半を占め、グラベルは点在している。専門性の高いグラベルバイクでは、週末しか活躍できない。SuperXは違う。毎日乗れる。毎日乗りたくなる。専門性を犠牲にせず、汎用性を手に入れたSuperXは、その答えを示してくれた。

次はどこを走ろうか。SuperXは、いつも「どこへでも」と答えてくれる。

Cannondale SuperXモデル一覧(公式サイト)

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