ロードバイクデザインの変化とその先にあるもの

ロードバイクデザイントレンドの変化

ロードバイクは舗装路をいかに速く走ることができるかという観点をベースに開発が進められてきたため、「前モデルより49g軽量化」「空気抵抗12%削減」「BB周りの剛性アップ」といった、どこかで聞いたことのある訴求コピーが各社から毎年のように溢れ返ります。
年々テクノロジーがアップデートされてきたとはいえ、スピードという観点でロードバイクの技術レベルはほぼ行き着くところまで来ていて、またほとんどのバイクは台湾や中国の特定の工場で集中的に作られているため、フレームの個性において各メーカーの差異はほとんどないというのが現状です。

そんな中でどうやって自ブランドのバイクを手に取ってもらうか?この観点で最も重要なポイントのひとつとして挙げられるのがデザインです。
ロードバイクにおけるデザインとは、カラーリングやロゴといった「グラフィックデザイン」と、フレームの形状や組み合わせる機材の規格といった「プロダクトデザイン」の2つに分けられます。
この2側面から、各メーカーが自社ブランドを売るために、デザインをどのように変化させてきたのかを見ていきたいと思います。それにより、今後ロードバイクデザインがどう展開していくのかが見えてきます。

1. ロゴデザインの変化

まずグラフィックデザインの観点から、フレームに必ずあしらわれる各メーカーのブランドロゴが時代とともに変化する様を見てみます。

トラディショナルブランドの変化 – より速く

20世紀前半より以前に創業したイタリアの伝統的なブランド──ピナレロ・ビアンキ・ウィリエールなどのヴィンテージロゴは、何度かリニューアルしている例もありますが、時代に合わせて変化をしていることが見て取れます。

トラディショナルブランドのロゴ

いずれも従来の雰囲気を大きく変え、細いスチールフレームから太いアルミやカーボンフレームに大きくデザインされることを前提に、文字の視認性を上げ、速さをイメージさせる斜体へとイメージ転換
Wilierはもともと斜体でしたが、強弱をはっきりつけ、ダウンチューブに並行に収まるようにロゴの上下ラインを揃えています。

こういった、「フレームにおける視認性を高めること」と「斜体によるスピード感の表現」は、ほかのブランドも含めほとんどのロゴデザインの基本となっています。

モダンブランドの変化 – よりストイックに

20世紀後半に登場して斜体のロゴを使っていたスコット・フェルト・ジャイアントなどのモダンブランドも、ここ最近でロゴの変更を行っているものがあります(Giantだけはコーポレートロゴは変更せず、フレーム用のロゴだけ変更)。

モダンブランドのロゴ

そのリニューアル傾向は共通していて、従来は少し丸みを帯びて柔らかい雰囲気を持っていたものを、いずれも角張ったシャープなデザインに変更し、より勝負の場で戦えるようなイメージを形成しています。

これは、「ロードバイクはもっとストイックにスピードを求めるべき」という観念が近年業界全体を覆ったため、ロゴデザインをよりシャープにすることでその流れに合わせてきていることが読み取れます。

ポストモダンブランドの登場 – よりスマートに

ポストモダンブランドのロゴ

しかし、ミレニアム世代に登場したポストモダンブランドであるキャニオン・ファクター・チャプター2などのロゴは、明確にそれ以前とは異なる雰囲気を持っていて、特に「スマートさ」を感じさせるようになっています。それは以下の2つの特徴によるものです。

ひとつは「装飾」を限りなく省いているということ。“A”を簡素化していたり(CANYON、FACTOR)、文字の底をカットしたり(CANYON)、従来に少なかった横に長い平体のフォントを並べたり(Chapter2)と、全体的にすっきりしたデザインフォントを採用して加工しています。

もうひとつはレタースペース(文字間隔)に余裕があること。文字間が詰まっている前述のモダンブランドが「スピードに対するストイックさ」を感じさせるのに対して、ポストモダンブランドは「ゆとりのあるスマートさ」を感じることができます。

無駄のないフォントデザインと広いレタースペースにより、とても洗練されたブランドイメージが形成されているのがわかると思います。近年これらのブランドが人気なのも、このロゴイメージが大きく寄与していそうです。

ロゴは時代に合わせて変化していくもので、従来の「速さ」をイメージさせるということは今でも大事な要素のひとつになっているものの、個々がライドスタイルをSNSで外に向けて発信するようになってからは、人に見せるための「スマートさ」を意識したものがより人気を集めるようになっています。

インスタのような視覚重視の発信ツールが主流の現代において、このように速さだけが権力を持つ古い価値観から脱却していく傾向はひとつのキーファクターとなります。

 

2. フレームデザインの変化

フレームの場合、その形状(プロダクトデザイン)とペイント(グラフィックデザイン)の両側面から変化を見ることができます。
カテゴリー別に代表的なものをピックアップして見ていきます。

オールラウンドフレーム

Specialized – Tarmac

Specializedオールラウンドロード比較

S-WORKSのトップモデル・ターマックは、今から8年前と比較するとかなり時代の変化を感じることが出来ます。

まずフレーム形状自体が大幅に変わり、一番大きな変化はシートステーの接合部が下がっているというところ。Specializedは「反応性を向上するため」と説明していますが、下位モデルは2010の頃とフレーム形状が似ているため、単純に見た目の差別化を優先してのことかもしれません。

また今でこそケーブルをフレーム内に通すのは当たり前ですが、当時はハイエンドモデルでさえケーブルを外に回していました。ケーブルルーティングでかなり見た目の差が生じています。

ほかにも細かい点では、タイヤクリアランスが変更されて28cタイヤが付けられるようになったり、各チューブの形状がエアロっぽくなっていたり、外見上の差は歴然としています。

グラフィックもロゴだけのシンプルなデザインに。

エアロフレーム①

Wilier – Cento1 Air vs Cento10 Air

Wilierエアロロード比較

同一ブランドで2つのエアロフレームを発売しているWilierの比較で、エアロ形状の流行を読み取ることができます。

Wilierはエアロフレーム“Cento1 Air”を2014年に発売(現在も販売継続中)。それに加えて、2017年に上位モデルとして全く別の形状を持った“Cento10 Air”が発売されました。2つのエアロフレームが併売されている状況ですが、比較するとリリースされた時代で大きく形状が変わっていることがわかります。

Cento10はフレーム自体が細くなっていることに加え、形状がより直線的に。またハンドルも一体で設計されているため、完成車としての統一感も生まれています。グラフィックを含めてすっきりのっぺりした外観は無駄を感じさせません。

Cento1のような曲線的なエアロフレームは艶やかで美しく、グラフィックも凝っていますが、今の時代に見ると少し前のエアロという印象を受けてしまいます。

エアロフレーム②

Giant – Propel

Giantエアロロード比較

同じエアロフレームの比較でも、次は同一車種であるプロペルの5年の経年変化を見てみます。

トップチューブの角度などいくつかの変化の中で最も顕著なのが、一切の配線が表から消えたこと。電動コンポとディスクブレーキ化により必要なケーブルは最低限になり、またプロペルは完成車全体でプロダクト設計されているため、表に配線を出さないバイクを作ることに成功しています。特にコックピット周りのエアロ感が顕著に。

グラフィックはどちらも派手ですが、2018モデルの方がよりスピード感を感じさせるものとなっています。特にシートピラーからシートステーに続くラインが斬新。

アルミフレーム

Cannondale – CAAD10 vs CAAD12

Cannondaleアルミロード比較

アルミの成形はカーボンほど自由度がないため、フレーム形状に大きな変化は起こりづらいもの。
それでもアルミの代表格CAADのトップモデルを5年前と比較すると、写真からはわかりづらいですが、CAAD12の方がトップチューブが細くなっていたり、ダウンチューブが円形から台形になったりと、エアロ形状や剛性感を強調した形状へと変化しています。

グラフィックもロゴ以外の目立ったものはなく、シンプルに削ぎ落とされているのが今っぽい。

個々に差はあるものの、全体的な傾向として、プロダクトデザインは直線的ですっきりとしたシルエットでエアロ化が進み、そしてグラフィックデザインは細かい装飾を省くことでより洗練されたスピード感を表すような外観になっていて、今のバイクの方が直感的に「速そう」と感じられるようになっているのが大きな特徴です。

 

3. これから先5年のバイクデザイン

今後のロードバイクデザイン

このようにプロダクトデザイン・グラフィックデザインの両観点から「速さの追求」はもう突き詰められる限界に近いところまで来ていて、同一路線ではもう革新的な変化は起こりづらい状態です。

これから先起こることは、さらなる速さを実現するブレークスルーではなく、細かい改善を続けるマイナーアップデートとロードバイクへの向き合い方を変えるパラダイムシフトなのだろうと思います。

より速くなることを求め続けて、ストイックに走ることだけが美徳とされてきた汗臭い価値観に対するアンチテーゼとして、スマートに、あるいは自由に楽しめる乗り物という価値観が色濃く加わるタイミングに来ています。

そのため今後のロードバイクデザインの流れを考える上での鍵となるのは、以下3つの観点です。

フラット&エアロ

フラット&エアロ化

もちろんフレームデザインの傾向で見たように「速さの追求」という観点は今後も残り、よりエアロ化されていくというマイナーアップデートの流れは変わることはありません。エアロ形状のデザインは、性能だけでなく見た目も良くなるため購買意欲をそそらせることができるもの
そしてそのシュッとした外観に合わせて、装飾を省いたトレンドのフラットデザインでペイントすることで、とてもスマートなバイクが仕上がります。

コルナゴC64のようなトラディショナルな細かい装飾のデザインは、SNSでバイクの写真がシェアされた時にスマートフォンの画面ではわかりづらいということもあり、それよりもパッと見でわかりやすいフラットで直線的なデザインがより好まれる傾向が続いていきます。

ディスクブレーキ&スルーアクスル

ディスクブレーキ&スルーアクスル

速さ以外の価値観として近年顕著に表れているのが「安全性」の観点で、より信頼できる制動性が得られるディスクブレーキは完全なトレンドに乗りつつあります。
ディスク&スルーアクスル装備はMTBやシクロ系のサイクリストから見れば当たり前ですが、キャリパー&クイックリリースがメインのロードバイク界隈ではまだ目新しいもの。

是非の論争は続いていますが、将来的なロードのディスク化自体はすでに確実で、あとはローターサイズやスルーアクスルの規格が一本化して次第に既存のラインナップが置き換わっていくのを待つだけになっています。

ワイド&コンフォート

ワイド&コンフォート

新しい価値観への転換先として、より自由な走り方を選択できる快適性重視のバイク設計も今後の主たるトレンドになってきています。

路面の対応力を上げるタイヤのワイド化は従来からの流れで引き続き変わらず、25cが一般的になった現在、28cもより広く使われることになります。かつてストイックさが売りだったSCOTTのFOILでさえ、28cタイヤを装着できるクリアランスを設けて快適性を加味するようになっているほど(キャッチコピーは”Faster for Longer”)。

またフレームの設計でもサスペンションを組み込む事例が増え、例えばWilierのエアロコンフォートバイクCento10 NDRは、写真のようにシートチューブとステーの間にエラストマー(弾性素材)を挟み、数ミリ単位でしなるように設計されています。この設計によりユーロバイク2017でアワードを獲得したことは記憶に新しく、世界的に見て快適性へ流れが動いているのがわかります。
ほかにもPinarello K8やSpecialized Roubaixにも似たようなサスペンション設計が組み込まれています。

* * *

このようにディスクブレーキ化、太いタイヤの実装、サスペンション導入など、今後ロードバイクはマウンテンバイクのスペックに歩み寄っていくような流れになっていきます。

現在がちょうど「速さ」以外の観点を積極的にロードバイク設計に組み込み始めた転換期にあたるタイミングであり、これからはデザインの変化、つまりロードバイクに対する価値観の変化が目に見えて起こる時代になりました。

次に新しくロードバイクを選ぶときは、自分がロードという乗り物に対してどういう向き合い方をしていきたいかで、今までよりもっと自由に選択の幅が持てるはずです。
みなさんは次のバイクを組むとき、どのような価値観を重視するでしょうか。

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参考文献:Why are road bikes becoming more like mountain bikes? (cyclist.co.uk)