ロードバイクデザインの変化とその先に訪れる時代

Text by Tats@tats.cyclist

ロードバイクは舗装路をいかに速く走ることができるかという観点で開発が進められており、「前モデルより49g軽量化」「空気抵抗12%削減」「BB周りの剛性アップ」といった訴求コピーがこれまでは一般的でした。
年々テクノロジーがアップデートされてきたとはいえ、スピードという観点でロードバイクの性能はほぼ行き着くところまで来たことで、リムブレーキモデルはフレーム個性の差異が薄れるほど完成された域に達しました。

しかし現在、ディスクブレーキモデルが台頭することによって、メーカーもユーザーも、従来のロードバイクに対する向き合い方から変化を求められるような転換がもたらされています。

今現在、マーケットにどういった変化が起きているのか?

それを把握する上で重要なポイントが“デザイン”です。
ここで言うデザインとはただ見た目のことではなく、カラーリングやロゴといったブランディングに直結する「グラフィックデザイン」と、フレームの形状や組み合わせる機材の規格といったバイクの性格を決める「プロダクトデザイン」の2つ。
この2つの側面から、今起きているマーケットのニーズや変化を把握することができます。

そこで、これまでグラフィックデザインやプロダクトデザインがどのように変化しているのかを振り返り、今後ロードバイクを取り巻く世界がどう展開していくのかを見ていきたいと思います。

※本記事は2018年公開記事「ロードバイクデザインの変化とその先にあるもの」を現状に即して大幅に加筆・修正したものです。

1. ロゴデザインから見るトレンドの変化

まずはグラフィックデザインの観点で、各メーカーのブランドロゴからそれぞれの時代における価値観を読み解いていきます。

トラディショナルブランドの変化 – より速く

20世紀前半より以前に創業したイタリアの伝統的なブランド──ピナレロ、ビアンキ、ウィリエールなどのヴィンテージロゴは、何度かリニューアルしている例もありますが、時代に合わせて変化をしていることが見て取れます。

いずれも従来の雰囲気を大きく変え、細いスチールフレームから太いアルミやカーボンフレームに大きくデザインされることを前提に、文字の視認性を上げ、速さをイメージさせる斜体へとイメージ転換

Wilierはもともと斜体でしたが、強弱をはっきりつけ、ダウンチューブに並行に収まるようにロゴの上下ラインを揃えています。

こういった、「フレームにおける視認性を高めること」と「斜体によるスピード感の表現」は、以後ほかのブランドも含めほとんどのロゴデザインの基本となっていきます。

モダンブランドの変化 – よりストイックに

20世紀後半に登場して斜体のロゴを使っていたスコット、フェルト、ジャイアントなどのモダンブランドも、2010年代にロゴの変更を行っています(Giantだけはコーポレートロゴは変更せず、フレーム用のロゴだけ変更)。

そのリニューアル傾向は共通していて、従来は少し丸みを帯びて柔らかい雰囲気を持っていたものを、いずれも角張ったシャープなデザインに変更し、より勝負の場で戦えるようなイメージを形成しています。

これは、「ロードバイクはもっとストイックにスピードを求めるべき」という観念が2010年代に業界全体を覆ったため、ロゴデザインをよりシャープにすることでその流れに合わせてきていることが読み取れます。

ポストモダンブランドの登場 – よりスマートに

しかし、ミレニアム世代に登場したポストモダンブランドであるキャニオン、ファクター、チャプター2などのロゴは、明確にそれ以前とは異なる雰囲気を持っています。それは以下2つの特徴によるものです。

ひとつは「装飾」を抑えているということ。“A”を簡素化したり(CANYON、FACTOR)、文字の底をカットしたり(CANYON)、従来に少なかった横に長い平体のフォントを並べたり(Chapter2)と、全体的にすっきりしたデザインフォントを採用しながら自社オリジナルのデザインに加工しています。

もうひとつはレタースペース(文字間隔)に余裕があること。文字間が詰まっている前述のモダンブランドが「スピードに対するストイックさ」を感じさせるのに対して、ポストモダンブランドは「ゆとりのあるスマートさ」を感じることができます。

無駄のないフォントデザインと広いレタースペースにより、洗練されたブランドイメージが形成されていることがわかると思います。近年これらのブランドが人気なのも、このロゴイメージが大きく寄与していそうです。

メジャーブランドのリブランディング – 多様性への転換

そして欧米でディスクブレーキ車が普及した2010年代終盤は、キャノンデールをはじめとしたメジャーブランドのロゴ変更によるリブランディングが目立った年でした。

変更点はポストモダンブランドと似た特徴をなぞっていますが、すでにファンが根付いているブランドによるロゴ変更はリスクを伴うため、従来イメージを崩さないように踏襲するか(コルナゴ)、あるいは大胆に刷新するか(キャノンデール、デローザ)でそのブランドのスタンスが見えてきます。

特にキャノンデールとデローザの刷新はそれぞれまったく別のベクトルを向いており、ロゴデザインの多様化から自転車を取り巻く価値観までもが多様化していく未来を感じさせます。

キャノンデールはクセのないサンセリフの「Nimbus Sans」を採用。一般的に、大衆に認知されるようになったブランドやサービスのロゴは過度な装飾を省くようになります(InstagramやAirbnbが行ったロゴ変更のように)。それと同様に、キャノンデールがここまでシンプルなロゴを採用することができたのは大手総合メーカーだからこそ。メーカーのスケール感にマッチし、そして従来のスピード感重視から完全に脱却したロゴ変更を大手メーカーの中で先駆けて実行したという点で、より自転車業界が社会とのつながりを強めていく世界的な流れを感じさせます。

一方でデローザは、新たなコンセプト「レトロフューチャー」を打ち出した全く異なるイメージのロゴをリリースしました。イタリアのオーナー企業であるデローザは、おそらく資金力のある大手メーカーとは異なる戦略をとる必要があると判断し、“古きを重んじながら未来へ進む”という独特な理念へシフトすることになりました。ロゴであえて尖ったイメージを押し出すことで、マスではなくコンセプトに適合する特定ユーザー層の獲得を狙っていることが読み取れます。

このようにロゴは時代に合わせて変化していき、従来主流だった「速さ」をイメージさせるデザインは少なくなりつつあります。
そして個々がライドスタイルをSNSで外に向けて発信するようになった頃から、人に見せるための「スマートさ」を意識したものがより人気を集めるようになりました。

また近年のロゴリニューアル傾向から、これまで斜体一辺倒だったロゴはさらに多様化していくものと思われます。それはそのまま、ライドスタイルが多様化していくことにも直結していきます。

つまり、

  • ・速さだけが権力を持つ価値観からの脱却
    ・スマートなイメージの形成
    ・ライドスタイルの多様化

ということが、ロードバイクの新たな局面を示すキーファクターとなります。

 

2. プロダクトデザインが抱く未来

ロゴの変遷からわかるように、プロダクトデザインにおいても、これから先起こることはさらなる速さを実現するブレークスルーではなく、実直な改善によるマイナーアップデートとロードバイクへの向き合い方を変えるパラダイムシフトだということが伺えます。
スマートに、あるいは個々が好きなように楽しめる乗り物という価値観が色濃く加わるタイミングに来ています。

その価値観を実現するロードバイクのデザインを考える上で、鍵となるポイントを挙げていきたいと思います。

エアロ、エアロ、すべてエアロ化

アルミフレームでもエアロチュービングとなるCAAD13

いくら速さだけがすべてではないとはいえ、ロードバイクが人の力で進む機材である限り、「より少ない力で速く走れる」という設計コンセプトは根底にあり続けます。
そのために今求められている仕様は、「エアロ」であること。

少し前までは「軽量化」が全面に押し出されていましたが、昨今台頭してきたディスクブレーキモデルはリムブレーキよりも必然的に重量増となるため、ディスクを売り出すためにも訴求ポイントがエアロに移行しました。

現状ほとんどのロードバイクのチューブはカムテールやそれをベースにした形状で、エアロモデルだけでなく、軽量モデルやエンデュランスモデル、さらにグラベルモデルにもエアロチュービングが採用されているものがあります。

またコックピットまわりも、ケーブル内蔵処理の専用一体型ハンドルによってエアロ効果がもたらされており、あらゆるモデルがエアロ形状を採用するようになっています。

ディスクブレーキがもたらす本質的な恩恵

レース性能と快適性が共存するRoubaix

ディスクブレーキのメリットは「雨の日でも制動力が落ちない」「ダウンヒルが楽になる」といったことがよく言われますが、プロダクトデザインを考える上で本質的な部分は「広いタイヤクリアランスを備えられるようになったこと」にあります。

先述の“すべてエアロ化”に加え、レース用ハイエンドバイクでさえ30c以上のタイヤクリアランスを設けるモデルが出てきたことで、従来のエアロモデル・軽量モデル・エンデュランスモデル・グラベルモデルというカテゴリ別の役割がクロスオーバーするように。だから、1台でより多くのライドスタイルを実現できるようになっています

たとえば、かつてはハイテンポで走りたいときはエアロモデル、パッキングしたいときはエンデュランスモデルといった2台持ちで使い分ける必要があったライドスタイルが、ホイールさえ替えれば1台で複数の走り方を実現できるようになります(普段は25cを履かせておいて、パッキングのときだけ32cにするといったように)。
こうしたミニマムなモノの運用は、現代のライフスタイルにもフィットします。

つまりディスク化は制動力だけの問題ではなく、ワイドタイヤによる安定性・快適性・滑らかさでロードバイクのポテンシャルを大幅に広げる規格だということを知る必要があります。

僕らはメーカーを宣伝したいわけではない

トップチューブに小さなロゴを配したÁspero

Raphaはスポンサーロゴが大量に貼り付けられたジャージへのアンチテーゼとして生まれ、ロゴを極力排したサイクルウェアをデザインしています。これがきっかけで、ウェアに関しては「メーカーの宣伝」から脱却したミニマムな世界観が定着し、サイクリングがよりライフスタイルに馴染むようになりました。

ただロードバイクのフレームについて言えば、未だに僕たちは“ダウンチューブ看板”を使ってメーカーを大々的に宣伝しながら走っています。

でもこれからは、ウェアと同様にロゴを目立たなくしたスタイリッシュな路線が浸透していくだろうと思います。
現時点でも、Cannondaleのほとんどのバイク、CervéloのÁspero、BMCのURSなどはトップチューブに小さなロゴがあるだけ。このデザインはとてもスマートです。

TIMEも2018モデルで同様のことをチャレンジしましたが、2019モデルは再びダウンチューブにロゴが大きく塗り付けられていました。信仰が根強い伝統ブランドは、オールドファンの反発が避けられないのかもしれませんが、あえて未来へ挑戦するブランドには、強い賛辞を贈りたい気持ちになります。

このようにプロダクトデザインも、「エアロ化による基本性能の向上」「ディスクブレーキがもたらすライドスタイルの多様化」「ライフスタイルに馴染むバイクデザイン」といった未来を抱き、ロードバイクを取り巻く世界は2020年代の新たなフェーズへと突入していきます。

 

3. ライドスタイルの時代

勝者の時代

かつて僕の近くに『ロードバイクに乗る』=『レースに向けてトレーニングする』というスタイルのサイクリストがいました。
彼は「今はトレーニングして速くなれるから楽しいけれど、もし速く走れなくなったらロードバイクを辞めると思う」と話していました。

これはひとつの向き合い方であり、極端な例でもありますが、2010年代においては違和感のない一般的な価値観でもありました。「レースでの勝利」をピラミッドの頂点とし、そこを目標として多くのサイクリストがヨーイドンで走る世界。
今でもメーカーや代理店の一部は、昔と変わらずレースの勝者に機材を提供orレンタルすることでPRするようなビジネスをしています。

ライドスタイルの時代

また、かつて僕の近くに「走力の合う仲間が少ない」というサイクリストがいました。
彼は「チームメイトは速くてついていけないが、初心者と走るとペースが合わないため、一緒に走れる仲間が限られてしまう」という課題を抱えていました。

これは2010年代までの『勝者の時代』が生んだ走力による分断ですが、このような事例はひとつではありません。しかし前章で見たように、2020年代は高性能なプロダクトが多様化することで、走り方により幅を持たせることができるようになっていきます。
もちろん「速さ」という価値観は消えることはないため、一定レベルまでは速く走ることがベースにありますが、ほかのライドスタイルを構成する要素を取り入れることで、従来発生していた分断がゆるやかに解消されていく時代へと転換していきます。

ライドスタイルを構成する要素
コース ロード/グラベルロード/ヒルクライム
強度 レース/トレーニング/ライドイベント/サイクリング&フィットネス/散走
距離 ブルベ/ロング&ツーリング/ミドル/ショート
移動 自走/輪行/車載
時間 早朝/ワンデー/ナイトライド/宿泊
人数 ソロ/ペア/グループ/チーム
趣味 カメラ/グルメ&カフェ/コーヒー/キャンプ など
ソーシャル ファッション/ネットワーキング など
発信 SNS/ブログ/YouTube など

ライドスタイル構成要素の例。特に「趣味」「ソーシャル」「発信」はスタイルを形成する上で重要になっていく

この中でロードバイクという機材は、ライドスタイルを実現するためのいちツールという位置づけになります。

だから機材よりもサイクリストやその走り方がロードバイクを取り巻く世界の中心となり、「どういうスタイルで走るか」が人と人同士を惹きつけるようになる──それが2020年代にロードバイクを覆う価値観なのだと考えられます。

もし次に新しくロードバイクを選ぶときは、自分がロードという乗り物を使ってどういう走り方をしていきたいかで、今までよりもっと自由に選択の幅が持てるはず。
みなさんは次のバイクを選ぶとき、どのようなスタイルを元に選択するでしょうか。

Text by Tats@tats.cyclist