text by Tats(@tats_lovecyclist)
「インドアサイクリングは冬の間だけやるもの」という考えはこの1年で覆され、インドアマーケットは大きく伸びることとなりました。
仮想空間への没入感を高めて、室内にいる人々を健康にするための新たな動き──KICKR BIKEのようなスピンバイク型スマートトレーナー、ZwiftやOnelapのようなバーチャルライドアプリ、Pelotonのようなホームフィットネス事業などは、話題に事欠きません。
その中で、インドア用ウェアについて言えばまだ始まったばかりですが、先駆けてスタイルある専用設計のウェアを2年かけて開発し、2020年にリリースしたブランドが、英国の『idō(イドー)』。
「そもそもインドアに専用ウェアが必要なのか?」
「専用ウェアでインドア体験が変化するのか?」
こうした観点を元に、このウェアの価値をレビューしていきます。
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*本レビューで着用するウェアはidō提供のものです。
1. なぜインドア専用が必要なのか
idoでWatopiaを走っていると、インドアの特性を本質的に理解して設計されているということがわかります。一見普通のサイクルウェアに見えるかもしれませんが、タイトフィットである以外、既存の屋外用ウェアとはまったく異なる設計です。
そもそも専用ウェアが必要な理由は何か。
屋内と屋外ではライド体験は大きく異なります。ペダルの回転運動以外はほとんど別物と言っても良いかもしれません。
巨大な冷却システム(=風)がない、乗車姿勢がほとんど変わらない、どこにも移動しない、そしてカフェストップがない…!
そういった環境で着るウェアが、屋外用の設計と同じもので良いのか?と考え始めるところが開発のスタートラインです。
実際に、今室内で走るサイクリストの48%※は上半身にジャージを着ない状態で走っており、それはインドア特有のライド環境に既存のウェアが対応していないことを表しています。
※2021年1月当メディア調べ
2. どこがインドア専用設計なのか
idoは3つの観点からウェアを設計しています。
①冷却できること
風のないインドアで最も重要なことは、体の冷却。
体がオーバーヒートすると、エネルギー効率が悪くなりパフォーマンスが低下するため、積極的な冷却が必要です。
冷房や扇風機だけでなく、ウェアもその役割を担うことで室内環境を最大限快適にしようとしています。
②快適であること
一度走り始めたら、終わるまではほぼ同じ姿勢でペダルを回し続けるインドアライド。右左折や後方確認などさまざまな動きが必要となる屋外とは全く異なります。
姿勢が変わらないということは、体の同じ部分にストレスを与え続けるということ。ウェアのパターンと生地で、そのストレスを可能な限り軽減します。
③パフォーマンスを上げること
ペダリング運動だけは屋内でも変わらず激しく動き続けます。
段階的なコンプレッションで、筋肉をサポートして疲労を軽減。体のラインに沿ったカットは、軽量でペダリングの動きをサポートします。
3. どれだけインドア体験を変えるか
Mens Jersey(£90)/Mens Bib Short(£120)
このようにインドアの特性を元に開発されたidoのジャージとビブショーツ。とはいえ、通常のサイクルウェアと比較するとどれだけインドア体験に差が生まれるのか。
ベタつかない生地
ライトを当てるとわかる、スケスケな障子メッシュ
idoの中で最も目新しいのが、極薄と薄手のラインがストライプ状に編まれた“障子メッシュ生地”。
極薄の部分は普通に肌が透けますが、インドアなので気にする必要はありません。
idoがなぜこのような織り方の生地を採用したのか?水を垂らしてみると、その特性が理解できます。
←横に広がる障子メッシュ/その場にとどまる通常の生地→
通常のジャージ生地だと水分がその場にとどまるものが多いのですが、障子メッシュは水分を吸収すると素早く横方向に広がる性質があります。
汗を自然に分散してくれるので、汗がそのまま滴る裸のライドよりも普通に快適性は上回ります。
さらにストライプ状の生地は肌に触れる部分が通常ジャージの2/3程度なので、ベタつきを感じにくい。
そのまま水分は発散されていくので、汗の不快感が大幅に抑えられています。
またバックポケットがないidoは背中をストレスから解放します。
背中は扇風機が当たらないので、バックポケット付きジャージでインドアライドをすると、汗抜けが悪いことが気になっていましたが、背中が蒸れないことは大きなメリットです。
ビブの肩紐も障子メッシュなのでストレスフリー
走りやすい設計
段階的コンプレッション
短めな裾は「段階的コンプレッション」が特徴。
わずかに見える横線が、裾口に行くほど間隔が狭くなっているのがわかると思います。これは裾口の方が柔軟性が高くなる設計。生地がペダリングの動きに滑らかに追従するようになります。
このストレスのなさは実際に回してみないと体感しづらいものですが、かなり上質な体験。トレーニングメニューでハイケイデンスを求められるインドアに最適化されています。
馴染みのよいパッド
パッドは「Vapor Uni」という比較的薄めのパッド。サポートがしっかりしており、股へのフィット感に優れます。
インドアライドは長くても1〜2時間がほとんどなので、長距離用の厚手パッドよりも、速乾性や低い重心によるコントロール性の方が大切(洗ったあと乾きやすいのも連日使えてgood)。
ダンシングとシッティングの移行も引っかかりがなくスムーズ。姿勢が固定しないようにと、ときどき意識してダンシングすることが苦になりません。
最低限のポケット
ポケットは脇にひとつあり、ちょうどスマートフォンが入る大きさ。インドアであればこれ以上のポケットは不要です。
コンパニオンアプリでメッセージを送ったり、KICKR HEADWINDの風量を調整したり、ワークアウトの音楽を切り替えたり。
もし1時間以上サドルの上に座り続けるのであれば、補給食を入れておくのも良い。
気分が良いデザイン
通気性のために用いられた障子メッシュは、デザイン面でも秀逸。
表面に立体感が生まれ、ダークネイビーの落ち着いたトーンと相まって、ただインドアを走ることに集中できるラグジュアリー感溢れるデザインに仕上がっています。
いつものジャージではなく「専用ウェア」を着て走っている、という事実だけでもモチベーションを上げますが、こうしたスタイルがあるおかげで、身に着けると勝手に気分が良くなってしまいます。
欲を言えば、色の選択肢がないところはさびしいですが、それは今後に期待します。
4. +αのプロダクトとしてのido
正直な話、インドアライドは何を着てもできます。外ライドのようにスタイルを気にする必要はないし、誰も見ていないのであれば裸でもできる。だからインドア専用ウェアは、あえて買う必要はないのかもしれない。
ではidoがもたらす価値は何か?
インドアはときに外よりも過酷です。基本的に退屈だし、最後にはいつも汗だくになる。そのためにZwift戦士たちは、強力な扇風機やNetflixを用意して、環境を少しでも改善します。
そうやってインドア環境を少しでも最適化したい僕たちにとって、まだ改善できる余地があると気づかせてくれたのがido。
着用サイズ:上下ともにS(177cm/B86 W76 H90)
インドアウェアというマーケット自体は未知数で、idōも新しいブランドですが、プロダクト自体はすでに完成されていて(プロでもテストされている)、このクオリティであれば安心して自分のインドア環境をアップデートできます。価格はジャージ£90、ビブショーツ£120と、既存の屋外用ハイブランドウェアと比較すると入手しやすい価格帯。
これからもインドアで走り続けるために、スタイルと機能が備わった専用ウェアは、できるところまで快適性を突き詰めたいサイクリストに刺さるプロダクトです。
Highs
- ・汗抜けが圧倒的に良くベタつかない
・ビブショーツの肩紐がストレスにならない
・ペダリングしやすい裾の柔軟性
Lows
- ・デザインの選択肢に期待したい
※メンズ/ウィメンズあり