2010年代前半からサイクリングアパレルの新興ブランドが数多く登場し、2023年現在、ブランドは飽和状態にあります。コンセプトやデザインは同じ方向に集約されつつあり、サイクルウェアは今や完全に成熟期に入ったと言えます。
2〜3年前からいくつかのブランドが、ロゴのリニューアルや大幅なリブランディングを行っているのは、こうした背景があることは間違いありません。それらがどうリブランディングしているかを見ていきます。
text/Tats(@tats_lovecyclist)
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ロゴをリニューアルする背景
ブランドがロゴをリニューアルする理由はさまざまです。
- ・時代やトレンドの変化に対応するため
・ブランドのアイデンティティが変化したため
・視認性を上げるため(プリントやデジタルデバイス対応)
・マーケティング戦略変更のため(ターゲットの変更、主要製品の変化)
これは一例ですが、いくつかの理由が複合的に重なるケースがほとんどです。
ロゴ変更はプロダクトや広告などを一新するため、多額のコストがかかるにも関わらず、新しい価値がユーザーに受けいられるかどうかは不透明です。
いまくいけば新たなブランド価値が浸透し、期待を裏切った場合はブランド価値が下がるリスクもあります。
以下に紹介するブランドの新たなロゴについてみなさんはどう感じるでしょうか。
1. Isadore
グランツールで活躍した元プロ選手であるヴェリトス兄弟が立ち上げたIsadore。
2023年にロゴやラインナップを刷新しており、本記事で紹介するブランドの中では最もドラスティックなリブランディングを行っています。
カリグラフィーの旧ロゴには2つの問題があったと考えられます。
ひとつは線の太さが一定ではないため、ウェアにプリントするとロゴの歪みが目立つという点。
もうひとつはロゴのデザイン性が強すぎるため、ウェアに大きくプリントすることができず、またクリエイティブにおいてほかのフォントやデザイン要素と組み合わせにくいという点。
新ロゴのデザインはその問題をすべて解消しています。スペースを空けて配置された文字は“サイクリストがプロトンで等間隔で走ることにインスパイアされた”とヴェリトス氏が語っており、前のめりで躍動感のあるフォントは明るくポジティブな未来を想像させます。
新ロゴは旧ロゴよりも大きく配置できるようになり、ブランド認知に貢献しそう
2. Attaquer
2012年にシドニーで創業したAttaquerは、身に付けることで“別人格の自分になる(Be your alter ego)”ことをコンセプトとしています。
「もう一人の自分」を表すような旧ロゴのドクロマークは、新ロゴでは黒く塗りつぶされ、どんな人格になるかはユーザー側に委ねられるようになっています。Attaquerの文字は、流れていくような斜体をはっきりしたウェイトで配置されたことで、視認性が上がりスタイリッシュな印象を受けます。
主要ラインナップの「Race」はシンプルで、ロゴは最小限
3. Café du Cycliste
フランスのリゾート地ニースの開放的な海辺の雰囲気がそのままウェアに落とし込まれているようなCafé du Cycliste(CDC)。
旧ロゴは「Côte d’Azur(コートダジュール)」のカリグラフィーによってまるでリゾートホテル名のような雰囲気でしたが、ブランドの成長に伴って新ロゴでは地名を廃しました。フォントはウェイトを上げて字間を詰めることで縦横のまとまりを生んでいます。
それだけだと個性は失われるため、CDCのシグネチャーであるフライングフィッシュをロゴマークに採用することで、従来このブランドが持つ“抜け感”がうまく表現されていると感じます。
ロゴは製品にプリントされないことが多いが、それでもCDCのものだとひと目でわかる唯一のデザイン性を持つ
4. Pedla
オーストラリアのメルボルンで生まれたPedla。パフォーマンスとデザイン性の高さを両立させており、特に袖や裾まわりの着心地がすばらしいブランドです。
旧ロゴは2つの円が絡まり合うようなロゴマークが印象的でしたが、新ロゴは全体を大幅に刷新しています。
4つの●が並ぶペドラドットは先頭ローテをする集団の動きを模しているかのよう。丸みのあるPedlaは、親しみやすさを与えるだけでなく、下のペドラドットと並ぶことで音符のようなリズミカルで楽しいイメージを形成しています。
ブランド名は小さく、ドットを各所に大胆に配置している
5. Velobici
2010年に創設され、最高級のメリノウールを贅沢に使ったラグジュアリーブランドVelobici。地元のニット産業を復興させるためにMade in UKをこだわり抜いています。
クラフト感を残したカントリー調の旧ロゴから、新ロゴはクラシカルで洗練されたものに。
ラグジュアリー感を与える広い字間、そしてeのアクセント記号をなくし、代わりに「◀」をそれぞれの文字の共通要素にすることで全体の調和を保ち、ある一定の方向に向かおうとする意思を感じさせるようになりました。
プロダクトのつくりは創業時から大きく変わっていないが、それだけラグジュアリーラインのウェアとして完成されているとも言える
6. LA PASSIONE
イタリアのブランドLA PASSIONEは、芸術、建築、音楽など伝統と革新が融合するイタリア文化をルーツに、デザインを製品の中核に見据えて独自の美的感覚をプロダクトに落とし込んでいます。
カリグラフィーの「la」を廃止した背景はIsadoreと同様だと見受けられますが、新ロゴでは従来のイメージを崩さないようにしつつ、よりイタリアの伝統を受け継いだ重厚感を感じさせる仕上がりになっています。
ちなみにこうしたシンプル化は簡単そうに見えますが、複雑なデザインよりもバランスが難しいため、より洗練されたものになります。
袖部分には新たに開発されたロゴマークも。腹部の白い破線は旧ロゴ時代から引き続き採用(これは4人のサイクリストが縦列走行している様子を表している)
7. Push Hard
イタリアのPush Hardはヴェネト州パドヴァで生まれ、丘陵地帯の魅力を元にエレガントなプロダクトを展開。ロゴ下部の座標(北緯45度25分 東経11度54分)はそのパドヴァの位置を示したもの。ブランドカラーはブルーなので、プロダクトも全体的にクリーンな印象となっています。
旧ロゴの正方形はデザインに制約を生む形状なので、新ロゴで枠を取り払い、「Push Hard」という名前の通り力強さを全面に出しつつ、パドヴァの座標をバランスよく配置することで、ロゴとしてのバランスとアイデンティティを両立しています。
PHを大胆にプリントする手法は新ロゴのデザインありきのもの。従来のイメージから大きく変わっている
8. Morvélo
自転車文化とポップカルチャーを融合させた、鮮やかなプロダクトが特徴の英国ブランドMorvélo。
ブランドの尖った感性を反映するように鋭角なフォントで構成されていた旧ロゴですが、ターゲットユーザーが限定されるためかアップデートが必要でした。
より普遍的に、幅広いユーザーに受け入れるために、字間を広げて視認性を上げ、縦長のフォントを採用することでユニバーサルなロゴへと変化を遂げました。
ロゴは落ち着きを見せたとはいえ、Morveloらしいファンキーな世界観は失っていない
番外:プロダクト用ロゴを変え続けるMAAP
MAAPは、2年前からプロダクトに配置するロゴデザインをシーズンごとに変えるようになりました。
MAAPのデザイナーは、コレクションの背景にあるデザインの意図について語ることはしません(以前に聞いてみたことがあるが、外部には話さない方針だった)。創業当初から、MAAPはあくまでテクニカルなアパレルである、ということを強調しています。
にもかかわらず、ここ2年のMAAPのアパレルは、デザインをコミュニケーション手段のひとつとして重点的に扱うようになりました。それは小ロットで新しいデザインを次々と出し、ブランドイメージを刷新し続けるという手法です。この動きは作り手の体力を要するやり方ですが、テクニカルとファッションを融合させ、サイクリングアパレルブランドとして新たなステージに向かおうとしていることが感じられます。
SS23の新しいイメージ ©MAAP
著者情報
Tats Shimizu(@tats_lovecyclist) 編集長。スポーツバイク歴10年。ロードバイクを中心としたスポーツバイク業界を、マーケティング視点を絡めながら紐解くことを好む。同時に海外ブランドと幅広い交友関係を持ち、メディアを通じてさまざまなスタイルの提案を行っている。メインバイクはFactor O2(ロード)とLS(グラベル)。 |
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