新生S-Works Roubaixレビュー – 次世代の“オールロード”バイク登場。

Text by Tats(@tats_lovecyclist

2019年4月にリリースされたスペシャライズドの新生“Roubaix(ルーベ)”。
今回第6世代にアップデートされましたが、新しいルーベに乗った誰もが口を揃えて「良い」と言います。

前作までのルーベはエンデュランスカテゴリで売り出されていたため、僕自身はヴェンジやターマックと比べるとあまり興味の対象にはなりづらかったモデルでしたが、「今回のルーベは違うよ」と周りから聞くにつれ、その真意を確認したくなりました。

だから今回は、Specializedのバイクを深く知る仲間2人を誘って新型ルーベでライド。そこで感じたルーベの性能や価値を、3人それぞれの視点から鼎談レビューしていきます。

※本レビューで使用しているRoubaixはSpecializedから一定期間貸与されたものであり、内容はLOVE CYCLISTオリジナルの中立的なレビューです。

インプレッションライダー

Ryuji@marusa8478:東京都在住、ロードバイク歴10年。自転車専門誌の編集、サイクルウェアメーカーでの勤務を経て、現在はアパレル業界のEC運営職に携わる。
自転車を競技としてだけでなくライフスタイルの一部として楽しむ術を追求。主な所有バイクはFocus Izalco Max。

Ken:NHK BS1「チャリダー★」のロードレース男子部に出演中の“健さん”。昨年ランナーからロードサイクリストに転向し、現在は筧五郎氏に師事。主な所有バイクはS-Works TarmacとVenge。

Tats(筆者): LOVE CYCLIST運営者でロードバイク歴5年。昨年VengeやPowerサドルなどレース界の先端を拓くSpecialized機材の詳細を記事を通して伝える。主な所有バイクはWilier Cento10 Air。

 

ずるいバイク、ルーベ。

── 3人とも、乗り始めてすぐに「これいい…!」って思わず声が漏れましたね。ルーベは乗りやすさの次元が違うことが乗った瞬間にわかるバイクでした。
ヴェンジやターマックのときも思ったのですが、乗った瞬間にそのバイクの個性がわかって、しかもそれが良いと感じさせるのってSpecializedのバイクづくりが巧いんだなと思います。

Ryuji:ユーザーに買ってもらうためには最初のフィーリングって大事ですからね。Specializedはホイールとかタイヤ含めて開発しているからトータルのフィーリングまで調整できてしまう。
その中でルーベの場合、まったく気を遣わなくて良い乗りやすいバイクでした。しかもやっぱり長距離乗っても疲れない。大げさっぽく聞こえるかもしれませんが、驚きを隠せないです。

Kenこれ、ずるいバイクです(笑) 乗りやす過ぎる。どんなペダリングしてもどんな路面でも、バイクに任せればそれなりに走ってくれる。

── はい、ルーベを返却したあとで自分のバイクに乗ったとき「なんか今日は気を遣って乗っているな」と思ってしまいました。それくらい乗り心地が別次元に達している感じ。

 

前モデルからの進化

── Ryujiくんは編集部時代に前モデルのルーベでテストライドしていますが、そのときと比べてどうでした?

Ryuji:二世代前との比較になるんですが、当時のルーベはフレーム全体で路面からのショックをいなしていた感じでした。だからちょっと踏みたいときには反応が遅れてしまうなと。

でも今のルーベは、明確にフレームの場所ごとで違う役割を持っています
ダウンチューブやBB周りは硬くて、踏んだときにパリッとした感じがありました。それだけだとただ硬いだけのバイクになってしまうので、フューチャーショック*とかシートポストで乗り味のバランスを取っています。この設計、率直にすごいです。
*ヘッドに内蔵されたサスペンション機構

── BB周りが硬いとレーシーな走りもできますからね。走れるバイクというフィーリングもちゃんと味わせてくれる。
あとタイヤがターボコットンなのも、バランスを取る役割を担っていると感じました。普段使っているタイヤよりもフィードバックが柔らかくてふわふわした感触で。

Ryuji:本当にパッケージでの設計が巧いです。
ディスクブレーキだと、普通フォークとかチェーンステーのエンド部分は硬くなって快適性が失われるはずなんですが、ルーベはそんなこと全然ない。ここはターボコットンとロヴァールの組み合わせのおかげなんだと思います。

Turbo Cotton 28C & Roval CLX32

登れるルーベでFTP更新

Ken:それでいてトラクションが良いので28c履いている感じがしませんでした。28cでも全然走れるんだってことが新鮮。

── 実際、そういう構成のお陰でヒルクライムも全然イケましたね。

Ken今回ルーベでヒルクライムして、20分FTP更新してしまいました
バイクとの因果関係はわかりませんが、ルーベは上りでもそれほど重さを感じません。54サイズで7.3kgくらいとのことですが、もっと軽いんじゃないかと思うくらい。

Ken:あとヒルクライムって荒れた山道を通ることも多々あるので、上りでも下りでもルーベだとかなり安心感がありましたね。

── 路面が変化するシーンはフューチャーショックの効き具合を切り替えて、物理的に変化に対応できるのも効いてきますね。
登っているときやトルクかけるときはファームにしておいて、ダウンヒルとか抜きたいときはソフトにするみたいな。1台で2つの乗り味を作れるというお得感もあって。

ファーム/ソフトの切り替えを行うノブ

Ryuji:ノブの切り替えは面白いし、走りの自由度を高めてくれますよね。
あとシートポストを見てみると、ターマックと同じD断面で、クランプ部分がトップから少し下にオフセットされています。これによって出代を増やして、シートポスト側でもしならせる効果を生んでいるようです。
実際にはしなりをはっきりとは感じませんでしたが、疲れにくいのは多分うまく余計な振動を逃してくれているんだろうなと思います。

しなりを生む特徴的な形状の“パヴェポスト”

 

レースでルーベを選ぶケースはないかも。

── Kenさんは普段ターマックとヴェンジに乗っていますが、今回ルーベに乗ってみてどんな違いを感じました?

Ken:ひとつは「踏みポイントの違い」が大きいです。
ヴェンジはとにかく踏めるポイントがすごく狭い。ピンポイントで「ここ」ってところを踏まないとちゃんと進んでくれないです。
逆にターマックやルーベは踏みポイントも広めなのでとても乗りやすく、乗り手のペダリングに対して柔軟に対応してくれます。

Ken:ルーベならではの良さだと、低速の軽快感がすごいということですね。凸凹道で気を遣わなくても進める気楽さと快適性があるし、舗装路の場合でも低速域は軽快なターマックに近い感じでした。乗り心地自体は割とターマックに寄せたバイクなのかなと。

ただ40km/hを越えてくるとルーベはもっさり感が出てしまいます。フューチャーショックをファームにしてハンドル周りを硬くしてもその感覚は変わらなかった。
平坦コースは普段ヴェンジに乗ってるから、その伸びと比べると全然違う。

── となるとルーベをレースで使うことは?

Ken正直、レースの種類を問わずルーベを選ぶケースはないかも…。ヒルクライムだと重量がやっぱり気になるし、クリテリウムも機敏な動きができるターマックが全然上。あと平坦基調のレースならもちろんヴェンジ。
だから本番ではなくて、アップダウンがあるコースで練習に使うのであれば欲しい1台という感じです。

ルーベが活きるシーンは?

── レースでの使用は限定的となると、ほかにどんなシーンでルーベが活きるのかっていうのが結構論点になりますね。
もともとパリ〜ルーベで勝つために選手のフィードバックを受けて作られたバイクだから、パヴェで強いのは山道とか砂利道を走ってみて明らかだったんですが、ちゃんと舗装された道が多い国内だとルーベの本領を発揮できる道がそんなにあるのかという。

悪路を遊べる道はそんなにない

Ryuji:これ、Specializedの売り出し方の話になっちゃいますが、いつも機能面で訴求していますよね。
ロジカルに開発していてすごいことはもちろん伝わるんですが、日本でどう遊べるかというところはあまり提示されていない感じです。

例えば日本だとグラベルロードバイクって遊べる場所が少なくて中途半端なポジションになりがちですが、ルーベはもっとロードに寄ったグラベルロードバイクという考え方はできますね。

── 「オールロードバイク」というジャンルですね。グラベルだけに特化していなくて、もっと路面に対してのオールラウンド性が高いバイク。

Ryuji:車で言うなら、スポーツカーからSUVが主流になっていったのと同じ流れが来ているのだと思っています。
ただ速く走れるエンジンを積んだ車よりも、色んなものを積載できて走りも十分楽しめる、スバルのフォレスターとか日産のエクストレイルとか、あとアウディのQシリーズとか。
そんな車が今浸透しているのを見ていると、これからロードバイクもSUV化みたいな流れが大きくなっていくのではないかなと。

── ヴェンジに乗ったときまさにスポーツカーに乗っている感覚で、「これに乗ってると速く走らなきゃいけない」という使命感に駆られるんですよね。そう感じさせるところがヴェンジの凄さではあるけれど、レースで結果を出さなくてはいけない人よりも週末のロードサイクリングを楽しみたい人の方が圧倒的に多いのが現状なので、ルーベは「これ1台あればどこでも行けるし、しかもちゃんと速い」という売り方がぴったりだろうなと思います
ルーベだと、ある日はトレーニングやって、別の日はバイクパッキングやるっていう逆方向の振り切り方だって全然あり。

S-Worksでなくても良いかもしれない

Ken:そうなると、正直S-Worksでなくてもいいかなと。レース向けのS-Worksグレードだったらターマック買っちゃう笑

逆にスポーツグレードのルーベは本当に誰にでも合うんじゃないかと。たとえば初めてロードバイクを選ぶ人で、レース志向になるかロングライド志向になるかとか方向性が定まってない人にとっては、どちらにも対応できるポテンシャルを持ったルーベはすごく頼もしい。
さっきレースには使わないといいましたが、それは「S-Worksのターマックとヴェンジと比べて」という前提がありますからね。

ポテンシャルの高いROUBAIX SPORT DISC(¥291,600)

Ken:でもルーベ乗り続けたら自転車のコントロール力が落ちそう(笑)ちゃんとしたスキル身に付けたい人は、難しい自転車乗りこなしてから買った方が良い気がします。

Ryuji:あの懐の広さに甘えてしまいますね(笑)
あえてS-Worksのルーベを選ぶんだったら、抜け感出しておしゃれに乗るバイクとしてもありだなと思います。

── ヴェンジ、ターマックよりも伸び伸びした雰囲気が出せますね。

ルーベお買い上げですか?

Ryuji:ルーベ、買います?笑

── うーん…今は買わないかな。。

Ryuji:今は?

── 今は(笑)。
買わない理由は趣味性の話になってしまいますが、「完成車として完成され過ぎている」という点ですね。
ロードの面白味って、機材を選んで自分だけの1台を作り上げるという趣味的な部分があって、今だとまだそこを大事にしたい気持ちがあります。S-Worksの完成車はその楽しみができないところが唯一の欠点だと。
今回結構長めに乗り込んだんですが、もし自分のモノにしても「人様があつらえたバイク」感が抜けないかもしれないと思ってしまいます。

Ken:それはありますね。ターマックでも色々な機材を組み替えて試してみたことがあるんですが、微妙だったんです。やっぱり最初の組み合わせがほぼベストなんだって。ルーベもカスタマイズする余地がほとんどないほど完成されていますね。

── そこを自分の中で許容できるようになれば、機能面はケチのつけどころがないし、乗り味はすごく楽しいので、走ること自体もっと好きになれると思います。「オールロード」という自由なイメージを与える称号はこのバイクが最も似合っている

Ryuji:また機会つくって乗りたいですね。

S-Works Roubaix – SRAM Red ETAP AXS

フレーム FACT11R
フォーク Future Shock 2.0
コンポーネント SRAM RED eTAP AXS
タイヤ Turbo Cotton, 700×28
ホイール Roval CLX 32 Disc
サイズ 42, 49, 52, 54, 56, 58
価格 ¥1,242,000

3人とも既存のロードバイクとは次元が違う乗り心地になったと感じた第6世代ルーベ。
前作から大幅にアップデートされたフューチャーショック2.0、パヴェポストなどルーベらしい機構の進化はさることながら、フレームの設計や機材の組み合わせが絶妙にパッケージングされて、オールロードの完成形と感じさせてくれる1台。

S-Works Roubaixの詳細を見る


Text by Tats@tats_lovecyclist
Photo by Ryuji@marusa8478),Tats
Roubaix by Specialized Japan
Speciali Thanks to KenMr. Nagano