
自転車の楽しみ方が広がる昨今。メンバー、スタイリング、目的、時代性など、違った要素が組み合わさることで、ライドは毎回全く異なるセッションになる。
Snap Journal(スナップジャーナル)では、そのときどきの自転車スタイルを残すように、ライドの空気感を感じられるスナップ写真を掲載していく。
今回は和歌山へ遠征。2日間にわたって西部の海沿い、中紀エリア(有田・日高沿岸)をめいっぱい堪能するライドに出かけた。
text & photo / Tats(@tats_lovecyclist)
Day 1: 有田川町からの山岳ルート


関西国際空港から車で約1時間。前夜入りして、有田川町の「TADONO the bedroom」に泊まる。かつて保育所だった場所をリノベした宿で、当時の建物の雰囲気を残したまま、モダンな内装へと生まれ変わっている。

←OzzyとRyuji→
一緒に走ったのは、愛媛に住むラブサイメンバーのRyujiと、以前大阪で知り合ったOzzyのふたり。
Ryujiが『Global Ride』というさまざまなライド紀行を発信するメディアで、和歌山のサイクリングルートを紹介する記事を執筆するため、僕はフォトグラファーとしてふたりの旅に同行する。

最初の目的地『生石(おいし)高原』に向けて出発

いきなり綺麗な川を発見したので、予定にはなかったが朝風呂を浴びた。「いつも東京のドブ川でドボンして大変ですなぁ」と僕を煽るRyuji。水質が全然違うので言い返せない。

冷えて体温が下がると身体が軽くなり、漕ぎ出しがかなり楽

生石高原へのアプローチは、距離9.7㎞、標高差710m(平均勾配7.2%)と歯ごたえがある。加えて朝から気温が高く、いつも気持ちが乗るとスピードを出しがちな彼らも、あまり踏みすぎないように進んでいく。川で冷えた体がすでに暑い。




険しい森林の登りを経てようやく視界が開けてくる

生石高原にたどり着くと、自転車を置いて散策する。遮るものがないため、風が気持ちよく通り、上りで火照っていた身体が少しずつ絆されていく。



ひらけた場所の一角で、RCプレーンを飛ばすコミュニティと出会い、少しだけ時間をともにさせてもらった。
その中のひとりが元シマノ社員で、かつてのDura-Aceを設計した方だという。ここへ来るときに僕らが停めていたバイクを見たらしく「全員スラムだったね」っと冗談交じりに話す。こうした偶然の出会いは自転車旅の喜びのひとつだと思う。


高原を下り、有田川町の観光名所「あらぎ島」の棚田を見学する。有田川が蛇行してできた三日月形状の地形の上に、綺麗な棚田が広がっている。

←有田川流域の発展に大きく貢献してきた『二川ダム』 | 観光名所となっている吊橋『蔵王橋』→


下りきった先で、再び目に入った川に入る。走りながら行き先を細かく調整できることは自転車の強みで、ルートをつくることも大事だけれど、そこに縛られ過ぎないことも、僕らには同じくらい大事なことだ。


出発した宿に戻り、敷地内にある「GOLDEN RIVER」で、ノンアルコールビールとハンバーガーでDay 1のライドを締める。

1日目ですでに充実度が半端ない。信号も車通りもほとんどないルートで、心地よい疲労感が体を覆っている。
【Day1】
走行距離:75.33km
獲得標高:1,197m
Day 2: 海沿いの絶景ルート

Day2は昨日の山間部とは打って変わって、中紀エリアの海沿いを走る。帰りの飛行機(ふたりはフェリー)の時間が決まっているので、早朝に出発して午前中に約58kmのコースを撮影しながら走り終える工程だ。


海岸沿いのビーチは、早朝にもかかわらずキャンプや水浴びを楽しむ地元住民で賑わっていた。僕らも昨日の疲れは残りつつ、心地よい海風を受けながら少し早いペースで踏んでいく。

『由良海つり公園』でのんびり海釣りをする人たち


由良町の海岸にある『白崎海浜公園』の一帯は、真っ白な石灰岩が海に突き出す独特の景観から“日本のエーゲ海”とも呼ばれる場所だ。ライドの途中に現れるその風景は強烈で、思わず足を止めたくなる。

非日常的な白の風景はずっと印象に残っている
石灰岩は、太古の海で堆積したサンゴや貝の殻が地殻変動によって隆起してできたもので、この一帯がかつて海底であったことを物語っている。その地質的な特異性から白崎の石灰岩は採掘の対象となり、また海に突き出す岬は、かつて軍事施設としても利用された歴史を持つ。

リアス式海岸はアップダウンで構成されるため、短いコースながら脚が削られていく



ちょっと小腹が空いて、ふと目にして入った喫茶店がモーニングをやっていたのでいただく。地元民の方々が利用するお店で、店員さんもお客さんも皆優しい空間の中で、とても心地よい休憩時間となった。

このあと紀伊半島最西端の『紀伊日ノ御埼灯台』へと向かうのだが、このルートが非常に厳しく、ほとんど写真を撮ることができなかった。距離は2kmと短いものの、平均勾配9%の急坂が続く。涼しければどうとでもなる坂だが、日陰も補給スポットもなく、真夏の業火のような太陽に、水分と体力がすべて奪われ、最後は脚をつくしか選択肢がなかった。

ボトルの水が空に。もちろん自販機もない

それでも灯台にたどり着くと、海風が吹き付けて心地よさを感じることができた。夕日も見える場所なので、涼しいときに来たら最高だろうなと汗を垂らしながら想像する。

こうしてDay2が終わりを迎えた。アップダウンが続き、景色が次々と変化していくのでまったく飽きないコース。最後の灯台だけ補給を失敗したことが悔やまれるが、下ったあとに見つけた自販機で飲んだコーラの味はこの世の喜びのすべてだった。

最後にOzzyにシャッターを切ってもらってRyujiと一緒に撮影

2日間の旅を終えたふたり
今回の和歌山旅は、Ryujiが声をかけてくれたことから実現した。
Ryujiはラブサイ黎明期から一緒に取り組んできた仲間だ。3年前に東京から愛媛に移住しているのだが、移住を聞いた当初は、表向きは問題ないと取り繕っていたが、内心はこれからどうすればいいかと不安になっていた。
今では問題なく続けられているが、彼が運営のコアから外れたことの穴は大きいと未だに感じている。
それでもこうしてお互いに連絡を取り合って、年に何回か会うほか、定期的に自転車関係の仕事を一緒に取り組めていることはとてもラッキーだと思う(年内にあと2本一緒にやる仕事も決まっている)。
気の置けない仲間と、歯ごたえのある和歌山の道と、印象的な景色が揃って、撮影にもかかわらずとても満たされる2日間になった。
* * *
Ryujiが書いた記事は『Global Ride』にアップされている。情緒的に描かれた和歌山サイクリングの魅力をぜひ読んでほしい。
・和歌山県サイクリング紀行〜山と海を巡る2泊3日の旅〜(前編)
・和歌山県サイクリング紀行〜山と海を巡る2泊3日の旅〜(後編)
著者情報
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Tats Shimizu(@tats_lovecyclist) 編集長&フォトグラファー。スポーツバイク歴12年。海外ブランドと幅広い交友関係を持ち、メディアを通じてさまざまなスタイルの提案を行っている。同時にフォトグラファーとして国内外の自転車ブランドの撮影を多数手掛ける。メインバイクはStandert(ロード)とFactor(グラベル)。 |
text & photo / Tats(@tats_lovecyclist)
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