こんにちは。最近のトピックや業界の話題に触れたりする、半年に一度くらいの定例企画です。今回は6つのトピックをお届けします。
text / Tats(@tats_lovecyclist)
photo / Takayuki(@tkyk6911)
Contents
宗教とマーケティングとオイル
自転車の製品がうたう効果の中には、一般のサイクリストにとっては定量的に判断できないものが溢れています(“40km/hで5W削減”とか“使うと100日寿命が伸びる”みたいなやつ)。
特に実験データに基づかないものは宗教の領域です。実際に使ってもはっきり差はわからないけれど、セールスコピーを信じると効果があるように感じる。
チェーンオイルもそう。メーカーが出すデータ以外に把握できる数値はなく、オイルによる違いを正確に把握できるサイクリストは稀です。
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最近コスメのような小瓶に入った『COOPY』という高価なチェーンオイルが発売されました。洗車で有名なラバッジョが開発したもので、従来のメーカーが行ってきた「いかに摩擦抵抗を減らすか」という開発競争には加わらず、「キレイでパーツ寿命が伸びる」という別の切り口から参入することで、開発コストをかけずに新しいポジションを狙おうとしていることが読み取れます。
確かに汚れるイメージのオイルをきらびやかに包み変えるコンセプトは一見目新しく感じますが、小瓶のパッケージは、『Glitch Oil』というブランドの容器そのままであり、この商品のオリジナルではありません。
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Glitch Oilとパッケージが全く同じなので、おそらく商品のプロデュースに関わっている人物が同じで、ガワだけを変えている
また肝心の中身については、オイルの開発プロセスがかなり大雑把だったということを関係者から聞いています。
見た目や使用感で“キレイ”という表面的な部分は実現されているかもしれませんが、実際の使用では、開発者のモノづくりに対する姿勢まで感じ取ることはできないし、ほかのオイルと比べて寿命が伸びるかどうかも把握できません。
こういった背景を知った上で、改めてこの商品の売り方を見ると、チェーンオイルに必要な持続性や耐水性などには一切触れず、ガワが非常にきれいに整えられていて、ストーリーテリングの巧さを感じます。この高価なチェーンオイルを使えば、僕/私にきらびやかな自転車体験をもたらしてくれる、と。
良い商品をマーケティングの力で世に広める、というのは普通にやることですが、この場合は、どんな商品でもマーケティング次第で売ることができる、という事例のひとつになるかもしれません。
これから先は消費者側が“宗教”的なものに対してどう向き合うかを見ることができます。
中国ブランド進出と“中華”脱却
価格高騰によって欧米ブランドに手が出づらくなっている昨今、中国ブランドの日本進出が目立つようになりました。
フレームで言えば『YOELEO』『ELVES』『Winspace』といったブランドが挙げられます。カーボンフレームセットが10万円台と格安にも関わらず、いずれもUCI認証取得済み、チームへも機材供給あり(Winspaceはスパークル大分に提供している)と、ちゃんとブランド構築をしてきています。ホイールや変速機のブランドも続々と参入していて、こうした中国ブランドの一部は、ひと昔前の“中華カーボン”とは別モノと考えたほうが良さそう。
アパレルでは『GRC』や『MBO』などを目にするようになりました。これらもいわゆる“中華ジャージ”とは違い、デザインも生地も欧州ブランドを意識したつくりです。
特にMBOはSNS上のサイクリストにばらまくことで認知を広げています(数年前は韓国のOSSが同じことをやっていた)。
MBOについて関心するのは、一見中国のブランドとわからないようにしているところ。SNSもウェブサイトも「中国」に関するワードはひとつも出さず、モデルは欧米系を中心に用いているので、あたかもヨーロッパのブランドのように思えてしまう。これが長期的にブランド資産となるかはわかりませんが、中国側も従来の安かろう悪かろうのイメージを払拭しようとしていることが伝わってきます。
いずれにせよ、機材もウェアもかなり手を出しやすい価格なので、特にスタイルにこだわりがなければ、欧米ブランドに代わる選択肢として使うユーザーが増えてくるだろうと思います。
ロードバイクに1xの時代
1x ドライブトレインはグラベルバイクには一般的なオプションですが、ロードバイクにも1xを搭載する時代に入ろうとしています。
TDF2023で、ヴィンゲゴーやファンアールトなどが、一部のステージでSRAMの1xドライブトレインを使用したことが話題になりました。しかもスポンサーの意向ではなく、選手の意志です。
レースにおける1xのメリットは、軽量化(170gのフロントメカと40gのチェーンリングが消え去る)、エアロ効果などがあります。1xは万能ではありませんが、コースプロファイルによって有効な場面があります。
こうしたプロの利用シーンは、一般のサイクリストにもこういう選択肢があるという示唆を与えてくれます。
ロード用コンポではSRAMしか1xのオプションを提供していないので、すぐに広まるわけではありませんが、ライドの多くは12速でカバーできるし、メンテナンスがシンプルになる1xは新しいオプションとして市民権を得ています。個人的にも、次にロードバイク用に新しいグループセットを揃えるときは、1xドライブトレインが有力な選択肢です。
※参考:Velo’s Predictions for 2024
POLYMERホイール、めっちゃ良い
Pas Normal Studiosで営業と製造部門の責任者を務めていたCasperが立ち上げたデンマークの新生パーツブランド『Polymer Workshop(ポリマー・ワークショップ)』。昨年末からMAGNETで取り扱いが始まり、テストホイールを借りています。
ディスクブレーキ時代になってから、ホイールはフレームメーカーと揃えるのが標準になって(Specialized + Roval、Factor + Black Incのように)、機材選びの幅や楽しみが減っていますが、久しぶりに心にぐさっと刺さるプロダクトが出てきました。
Polymerのホイールは50+52mmハイトの『ENHANCE 50:52』と38mmハイトの『VENTURE 38:38』の2モデル。今回テストしているのは38mmハイトの方です。フックレスリムのチューブレス対応で、30mm以上のタイヤがフィットするオールロードモデル。
外側32mmという太いリムの剛性感、カーボンスポークのしなやかな乗り心地、高級感のあるラチェット音など、乗っていてその特性を把握していくのがとても楽しい現状。これ欲しくなるわ…。
Pas Normal Studiosがグラベルレースに参入
昨年6月 、PNSのセールスマネージャーであるアシュレーに行ったインタビューで、「ワールドツアーへの供給を視野に入れている」ということを聞きましたが、その後の動きがVELOに掲載されています。
最終的にPNSはワールドツアーチームとの合意に達することができませんでしたが、代わりにグラベルシーンへと参入することになりました。
『PAS Racing Team』と名付けられた新しいチームは、2024年に世界中のグラベルレースに参戦する予定だといいます。
欧州、米国、アジア&オセアニアから18人の選手が集められており、その多くは過去にPNSのアンバサダーとして活躍したアスリートです。
チームにバイクのスポンサーは付きませんが、PNSウェアのほかにFizik、Ceramic Speed、Oakley、Sweet Protection、Pirelliなどの提供を受けます。
もともとPNSは、レースに対するリスペクトが根底に流れているため、実際にレースシーンに表れることでブランド哲学がより深まっていくことを期待します。
※参考:Gravel 2024 Updates: PAS Racing Debuts with International Roster
シュッとした白SPDシューズがほしい
現状はS-Works Reconしか選択肢がないように思う
グラベルバイクに乗るようになってから切実に思っていることで、ロードシューズのようなシュッとした白いSPDシューズを求めています。
グラベルシーンは汚れるので暗い色味になるのは理解できるけれど、SPDシューズの使いやすさを知ると、ロードバイクでもそっちを使いたくなるもの。そんなとき色付きやダーク系しか選択肢がないと足元が重くなってしまう。
現状グラベルバイクでも、白いシューズを履きたいときは、ロード用ペダルを取り付けることが多々ある状況なので、選択肢が増えてほしい。
PNSとFizikがコラボしたVento Feroxはめちゃめちゃ良い。が、PNSロゴは目立たないようにして欲しかった
Velosamba、Gran Tourer XC、近いものはあるけど求めるものとはちょっと違う…
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著者情報
Tats Shimizu(@tats_lovecyclist) 編集長&フォトグラファー。スポーツバイク歴11年。ロードバイクを中心としたスポーツバイク業界を、マーケティング視点を絡めながら紐解くことを好む。同時に海外ブランドと幅広い交友関係を持ち、メディアを通じてさまざまなスタイルの提案を行っている。メインバイクはStandert(ロード)とFactor(グラベル)。 |