Text/Ryuji(@marusa8478)
2019年に発売されたPOCのヘルメット「VENTRAL AIR SPIN(以下:VENTRAL AIR)」。前作OCTALのデザインを踏襲しつつ、空力性能に特化した「VENTRAL SPIN」のエッセンスが注ぎ込まれたことで、さらにミニマルで機能的に進化しました。
そのアジアンフィットモデル『VENTRAL AIR SPIN AF(以下:VENTRAL AIR AF)』が2020年に新たにリリース(※OMNE AIR SPIN AFも同時リリース)。
実際に使うとわかるのですが、このモデルはただアジア人用に形状を変化させただけではありませんでした。その本質を、今も愛用しているVENTRAL AIR(ユーロフィット版)との比較も踏まえ、僕Ryujiが詳しくレビューします。
*本レビューのヘルメットはTOKYO WHEELS提供のものです。
1. VENTRAL AIR SPIN AF
Ventral Air Spin AF(¥33,000)
サイズ | S(55-58cm)、M(59-61cm) |
実測重量 | 222g(Sサイズ) |
価格 | ¥33,000(税込) |
カラー | ホワイト、マットブラック |
ユーロフィット版の「VENTRAL AIR」は、洗練されたデザインと高い機能性を備えたヘルメットではありますが、僕の肌感覚では、発売から2年近く経った現在でも日本国内のユーザーはそれほど多くなっていないように感じています。
理由は欧米人向けの形状にあると予想していましたが、販売店に勤務するライド仲間に尋ねてみたところ、案の定「頭の形状に合わず、購入を諦める人が多い」とのこと。
そういった僕たち日本人の気持ちを知ってか、これまでアジアマーケットに着手してこなかった同社が、ついにアジアンフィットモデルを出してきました。
レビュー前提条件
・VENTRAL AIR AFはSサイズを着用
・VENTRAL AIR(ユーロフィット)はMサイズ
・頭部の周長57㎝
・ユーロフィット/アジアンフィットの2モデルが展開されている場合は基本的にユーロフィットを使用
2. 万能性を持った存在
ロードヘルメットは、プロテクターとしてだけでなくファッションとしての役割も担うようになりました。僕もコーディネートに合わせて組み合わせを楽しむために、今ではヘルメットを複数使い分けています。
このようにヘルメットを複数持つ人なら同じ思いをするかと思いますが、ライドに出かける前どれにしようかと迷うわけです。
基本的にその日のメンバーや強度、コーディネートに合わせて選ぶことになりますが、どうしても迷ってしまったとき、最終的に選ぶものはどんなライドスタイルにもハマってくれる、万能性のあるヘルメット。
「VENTRAL AIR AF」は、まさにそんな万能性を持った存在です。
例えば、競技色がおさえられたぱっと見の外観。
全体的に丸みがあって、ロゴやギミックなど余分な要素が少ないので、普段着にすら組み込めるデザインのシンプルさがあります。
それでいて、ハイテンポなライドスタイルにもしっくりくる懐の広さ。
アジャスターは1ノッチずつ細かく調整可能
背面のツートンカラーとエアロを感じるギミックは、このヘルメットのアクセントになっています(かなりツボのデザインです)。
滑り止め付きのアイウェアホルダー。特にPOC製品との相性は◎
3. アジアンフィットとユーロフィットの違い
サイズ選択の注意点
アジアンフィット | ユーロフィット |
S(55-58cm) M(59-61cm) |
S(50-56cm) M(54-59cm) L(56-61cm) |
↑フィット別サイズ表
従来のユーロフィットはS/M/Lの3サイズ展開なのに対して、アジアンフィットはS/Mの2サイズ展開となります。アジアンフィットとユーロフィットでは同じサイズでも周長が異なるので、サイズ選びには注意が必要。
例えば、僕はこれまでユーロフィットのMサイズ(54−59cm)を使用してきましたが、今回アジアンフィットではSサイズ(55−58cm)を選択。Sサイズの周長がユーロフィットのMサイズとほぼ同等なので、1つ小さいサイズにしました。
被り心地
比較的頭囲の形状が縦方向に長めな僕は、ユーロフィットのVENTRAL AIRを特に不満なく使用してきました。しかし、改めて両者を被り比べてみると、アジアンフィットはユーロフィットに比べて頭に深くフィットして包み込んでくれている感覚を得られます。
それは、単に内側の円型を欧米人向けの楕円型からアジア人向けの真円型に近づけただけではなく、おそらく内部の形状まで立体的にデフォルメされたからなのではないかと推察されます。そのおかげで、ヘルメットの形状に僕の頭全体がすっぽりフィットするようになっています。
◯で囲った部分がユーロフィットよりも深く切削されているからか、着用した際のフィット感と安心感は全くの別物
とはいえ、これは僕の頭の形状での感覚であり、日本人だからといって必ずしもアジアンフィットが良いというわけではなく、あくまで選択肢が増えただけのことと思った方が良いかもしれません。
ユーロフィット/アジアンフィットのどちらにするか迷っている場合は、TOKYO WHEELSなど取扱店で試着をさせてもらってからジャッジすることをお勧めします。
外観
POCの製品に限らず、アジアンフィットモデルのデメリットを上げるとすれば、外観のフォルムの違いです。内部の形状の影響を受けて多少横に広い作りになってしまうことが多くあります。
左:ユーロフィットM/右:アジアンフィットS
VENTRAL AIRのユーロフィットとアジアンフィットを、表記数値上の同等サイズ同士で比較してみると、若干アジアンフィットの方が横に広い感じがしますが、ほとんど分からないレベルです。
アジアンフィットであっても、被ったときにキノコになる要素は限りなく抑えられています。
4. 機能レビュー
通気性
見るからに通気性の良さを感じる開口部ですが、見た目通りの涼しさを体感することができます。
後頭部は「VENTRAL SPIN」の形状が完全に踏襲されていて、取り込んだ空気が効率的に排気されるような形になっています。
その分冬のライドでは寒いので、キャップなどで対策するのが良いかもしれません。
重量
重量はSサイズ実測値で222gと軽量性も優れています(他社だとProtoneとほぼ同じ)。
僕の場合、200g台後半ともなると150kmを超えるようなロングでは首や肩に重さを感じるのですが、VENTRAL AIR AFはそのような重さを感じることはありませんでした。
安全性
ロードヘルメットは、昨今のエアロブームの影響によって削減ワット数などの走行アドバンテージに対する優位性を“機能”として唱えるプロダクトが増加しましたが、個人的にはそんなマーケターの惹句には少し違和感を感じていました。
ライド時に身に着けるものの中で、唯一プロテクターの役割を果たすヘルメットは、まず安全性が担保されてこそ機能が優れていると言えるからです。
その点でPOCの製品は、衝撃緩和機能のあるインナーパッドの開発や医療用タグ付きモデル「VENTRAL AIR SPIN NFC」がラインナップされるなど、安全性を高めるノウハウが訴求されていて、常に“安全性”に軸足が置かれている印象があります。
“ユニボディシェル”と名付けられた丸いフォルムは、転倒時の衝撃分散を目的としつつも、見た目の美しさとも繋がっています。
独自開発の衝撃緩和インナーパッドSPIN(Shearing Pad INside)は特許出願中
また派生モデルの「VENTRAL AIR SPIN NFC」は、内蔵されるNFC(Near Field Communication)タグによって緊急時に医療スタッフが速やかにケアできる仕様。安全性を追求するメーカーの姿勢がわかります。
5. アジア系がちゃんと被れる北欧ヘルメット
おしゃれは我慢とよく言ったものですが、ことサイクリング用のヘルメットにおいては、おしゃれだからといっても、頭に合わなければ絵に描いた餅。
でも“ちゃんと頭に合う”という前提条件をクリアした後に、デザインも含めて選択肢として残るブランドはそれほど多くないことも事実。
僕たち日本人の頭に合うヘルメットの選択肢として、新たに加わったVENTRAL AIR AFは、今までは限られたサイクリストにしか味わえなかったPOCの世界観を、より多くの人が体感できる架け橋となるモデルです。
Highs
- ・スタイルを選ばないミニマルデザイン
・軽くて涼しい
・アジアンフィットでもキノコ頭に見えづらい
Lows
- ・現状ではホワイト/マットブラックの2色しか選べない(※2021年春に新色発売予定)
VENTRAL AIR SPIN AFを購入する(TOKYO WHEELS)
Text/Ryuji(@marusa8478)
Photo/Tats(@tats_lovecyclist)