
ライド中の装備は最小限にしたい。携帯工具も然り。
スイスのDaysaver(デイセイバー)が放つ『Essential8』は、一見ただのL字レンチだが、携帯工具の合理性を突き詰めたプロダクトだと言える。その詳細をレビューする。
text / Tats(@tats_lovecyclist)
Contents
スペック

Essential8(¥10,670)
「Daysaver」はスイスを拠点とするサイクリングツールブランド。ブランド初のモデル『Original9』は、同じスイスの大手工具メーカー「PB Swiss Tools」との共同開発によって世に放たれた。
そのOriginal9を改良して生まれたのが『Essential8』だ。最大の特徴は、ネオジム磁石*による入れ子構造にある。L字型のメインボディの両端にビットを収納し、さらにその先端にマトリョーシカのように小さなビットを重ねることで、複数のビットがボディの中にスリムに収まっている。
*現存する磁石の中で最も高い磁気特性を持つ

4つのビットを磁石で付け替えて使用する
| ビット | ヘックス 8/6/5/4/3/2.5/2 トルクス 25 |
| 重量 | 33g |
| 全長 | 93 x 43mm(ビット装着時) |
| 素材 | 耐食ステンレススチール |
| 税込価格 | ¥10,670 |
導入の目的

ツールボトルの最適化
ライド中の装備は、最小限にするために日々アップデートを繰り返している。基本的にはバッグ類は取り付けないため(取り付けるときは撮影機材用)、マルチツールなどの緊急用キットはツールボトルにまとめて収めている。
それでも必要なものは多く、電動ポンプ、予備チューブ、レバー、鍵などを入れるといっぱいになってしまう。
Essential8は「L字レンチ」という、工具として最も原始的で力が伝わりやすい形状のまま、手のひらサイズに8つのビットを搭載している。伝統と最新のアイデアを融合した最小の形状が、持ち物のミニマル化を求める今のセットアップに完全に合致した。
Pros & Cons
Pros
精度の高さと狭い場所へのアクセス性:六角穴への食いつきが良く、ビットの精度が高いことがわかるため、安心してトルクをかけられる。
また一般的なマルチツールと違って、Essential8の形状はL字レンチそのものなので、狭い場所へのアクセスもしやすく、長辺と短辺を使い分けて締め付けトルクの微調整もできる。
ちなみに別売の「Coworking5(¥7,590)」と組み合わせることで、チェーン切りやタイヤレバーの機能を追加できる。

ボトルケージの増し締めや、奥まった場所にあるシートポストのクランプなどがストレスなく作業できる
圧倒的な軽さと小ささ:重量33gは一般的なマルチツールの半分以下。余計な出っ張りもないL字型なので、ツールボトルへの収まりも良い。ジャージのポケットにも入るが、先端が生地に刺さる可能性もあるのであまり推奨できない。

実測値32.3g(カタログ値33g)
精緻なビット保持システム:ネオジム磁石のビット固定力が高い。ビット入れ替えのカチッとした感触や、ボルトに差し込んだときのハマり具合は、スイス製らしい精密な工作精度を感じさせて、単純に使っていて心地よい。
強力なネオジム磁石でカチッと付け替える
素材のラグジュアリー感:ボディはステンレススチールにプラズマコーティングを施したマットな素材で、高級感に溢れる。手馴染みも良く、滑りづらいので作業がしやすい。雨の腐食にも強いので長く使える。

質感高く滑りづらい
Cons
ビット付け替えの手間:六角穴に合わせて都度ビットを付け替えなければならない手間はある。使用頻度が少ないぶん、毎回「この穴だとどのビットだ?」と迷う。またトルクの微調整で長辺と短辺を使い分けたいときも、ビットの付け替えが必要になるのが少し煩わしい。
ビット紛失のリスク:現場で付け替えるときに、小さなビットを落としそうになる。こればっかりはビブの裾に挟むなどして失くさないよう注意するしかない。一応ビット単体でも販売しているので、紛失したら泣きながら注文する。
結論

有力な携帯工具の選択肢はほかにもある
スイス製工具を語る上で、PB Swiss Toolsの『PB 470(Bike Tool)』を無視することはできない。PB 470はビット式携帯工具の決定版として長く君臨している。
PBは5mmのアーレンキー自体をハンドルとし、そこに高精度なビットを差し替えて使用する。ビットの食いつきの良さや耐久性を含め、道具としての堅牢さと信頼性は、今も他を寄せ付けない完成度だ。
対してEssential8は、PBが築いたビット式工具の合理性をさらに突き詰め、ミニマリズムの文脈で再構築されたプロダクトと言える。
Essential8はPBとのプロジェクトで培われた高精度なビット設計のDNAを色濃く受け継いでいるため、どちらが優れているかではなく、サイクリストが何を優先するかで選ぶものは変わる。
整備の対応範囲を最優先するなら『PB 470』という選択肢は揺るがない。
スタイルの軽快さを損なわず、それでいて緊急時に必要な最小限のビットで良いなら、『Essential8』は唯一無二の選択肢だ。
手に触れるときの心地よい質感を何度も味わいながら、Essential8はミニマルな志向を持つ現代のサイクリストにとって最も洗練された解決策だと感じている。

L字の中に詰められたすべて
著者情報
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Tats Shimizu(@tats_lovecyclist) 編集長&フォトグラファー。スポーツバイク歴12年。海外ブランドと幅広い交友関係を持ち、メディアを通じてさまざまなスタイルの提案を行っている。同時にフォトグラファーとして国内外の自転車ブランドの撮影を多数手掛ける。メインバイクはStandert(ロード)とFactor(グラベル)。 |
















