Text by Ryuji(@marusa8478)
ディスクロードに関して、数年前までは「今後もディスクモデルとリムモデルが共存するのではないか」「ディスクロード不要論」といった声を頻繁に耳にすることがありましたが、最近はパタリと聞こえなくなったように感じます。
2020年現在、マーケットは完全にディスクに移行し、各メーカーの最新モデルをみてもディスク一色。それらの最新ディスクロードに乗ってみるとどれも完成度が高く、これまで乗ってきたFocus Izalco max(2014モデル)との性能差を徐々に感じることが多くなってきたため、今回新車の購入を決めました。
選んだバイクはCannondale「SuperSix EVO Hi-MOD」(以下: EVO)。言わずと知れたオールラウンド系バイクの中でも最高峰に位置するモデルのひとつです。今回EVOを購入するにあたって、事前の試乗などはせず購入に踏み切りましたが、それは以下の理由からです。
・洗練されたグラフィックデザイン
・Hi-MODグレードはディスク仕様のみ展開
・信頼できるライダーからの高い口コミ評価
・前作までのEVO試乗経験に基づく同社への信頼
これだけのモノを試乗せずに購入するのは少し勇気が必要でしたが、手元に届いて3ヶ月弱実際に走ってみて感じたことを詳細にお伝えしていきます。
インプレッションライダー:Ryuji
高校生の頃にロードバイクを始め、自転車歴は約12年。実業団チームでのレース経験、自転車専門誌の編集、サイクルウェアメーカーでの勤務を経て、これまで数多くのバイクを試乗してきた経験を持つ。ディスクロードに対しては、2〜3年前まではどちらかというと否定的なタイプであったが、ここ数年のディスクロードの著しい進化を感じ購入に踏み切る。
Contents
1. 完成に近づくディスクロードバイク
初期のディスクロードバイクの欠点
僕はもともとディスクロードに対してあまり肯定的ではありませんでした。
それは数年前、ディスクロードが出始めた頃に試乗したいくつかのディスクブレーキモデルが、リムブレーキモデルに比べて「重い」「乗り心地が悪い」「反応が鈍い」と、多分にテコ入れする余地があると感じられたからです。
そう感じた要因としては、以前までのディスクロードの多くは、リムブレーキモデルの設計図を使い、ディスクブレーキに対応させただけの「リムブレーキモデルのディスクver.」だったからではないかと考えています(そうではないモデルもあった)。
つまり本当の意味でのディスクロードバイクはそれほど多くなかったわけです。
そして現れたディスクブレーキ専用モデル
今欧米のロードバイクマーケットでは、トップレンジモデルはディスクブレーキがマストとなっており、ディスクブレーキのみで展開されるモデルもいくつか登場してきました。
特にアメリカ系のビッグメーカーはその傾向が強く、Specialized「Venge」「Roubaix」、Scott「Addict RC」、Trek「Madone」そしてCannondale「SuperSix EVO Hi-MOD」(Standard MODモデルはリムブレーキ展開あり)がその代表例です。
ディスクブレーキ仕様しかラインナップしないモデルが登場したという事はつまり、ディスクブレーキを搭載した状態で最適化しながら開発した証とも言えるでしょう。
それらのバイクは(いくつか試乗してきた中でわかったことですが)どれも僕が今まで体験したことないほどの高い完成度を持ち、これからのマーケットを牽引していくモデルになるだろうと感じました。
2. Cannondaleブランドの新たな価値
こうして高性能なバイクが次々と登場したことで、他社との差別化を図っていくには、“速さ”と言う技術的な指標だけでなく、このバイクに乗るとどんな体験ができるのか、またどんなライドスタイルを目指せるのかという“体験価値”をブランドの世界観とともに訴求していくことが重要になってきています。
実際僕の周りでは、どれだけ速く走れるかということよりも、そのバイクを手にしたことで「気分が上がるか」といった、ルックスやスタイルを重視する人たちが以前よりも増えています。
それはロードバイクという機材を、ウェアのようなファッションアイテムと同様に自分のライドスタイルを表現するためのツールのひとつとして捉えているということの現れ。
そういったマーケットの多様化に対応して、Cannondaleは2020年からブランドロゴを変更し、新たな体験価値を僕たちに提供しようとしているように感じられます。
ロゴやグラフィックデザインを刷新した経緯については個人的にも気になっていたので、Cannondale Japanに問い合わせたところ回答を得ることができました。
ロゴ変更の意図(Cannondale Japanより)
旧ロゴが果たしていた役割
旧ロゴは少し斜めがかったイタリック体を使用することで、スポーツバイクの「スピード感」を表現してきました。そしてレースシーンをメインビジュアルに使い、“レーシーなブランド”というイメージを築いてきました。
また、ブランドカラーのグリーンは、好みの分かれるポイントでもありましたが、とても印象的なカラーであり、キャノンデールマニアを分かりやすく表現することに大きな役割を果たしてきました。
多様性に対応する新ロゴ
今スポーツバイクの世界では多様性が増し、さまざまなタイプのサイクリストやライディングスタイルで楽しんでいます。少しアグレッシブなイメージを抑え、よりモダンで多くの人にとって親しみやすいブランドに進化していくために、世界戦略としてコーポレートカラーとロゴデザインの変更を決定しました。
コーポレートカラーは「白黒」を採用し、ロゴは、これまでのイタリック体から親しみやすい小文字のモダンなオリジナルフォントを制作、採用しました。
またバイクそのものが一番綺麗に見えるように、ロゴは小さく控えめな位置に配置。これまでの「ロゴファースト」から「プロダクトファースト」なデザインへ変更しました(アスリートバイクは除く)。
* * *
僕がロードバイクに乗り始めた頃は、バイクには100万円以上投資しても、ウェアにはこだわりがなくセール時に特価品しか買わないというライダーが多く、僕も例外ではありませんでした。
またそれまでの既存のウェアのデザインには派手な色使いや、主張の強いロゴが散りばめられていて非日常的なプロダクトが多かったように感じています。現在も同様のプロダクトは一定数存在していますが、僕はそういったデザインを見るたびに自転車界と社会とのつながりがまだ薄れたままのように感じます。
しかし近年ウェア系を中心にブランドの数が増えたことでユーザーにはマインドチェンジが起こり、バイク以外のアイテムにも投資をしていく流れになってきました。
こういった思考を持ったユーザーはウェア類を含めたトータルコーディネートでバイクを選択するようになり、ウェアと合わせやすいスタイリッシュなデザインやコンセプトを持ったブランドのバイクを選ぶようになっています。
Cannondaleのロゴ変更はそういったマーケットの変化と今後の拡大を意識したものであると思いますし、これからの自転車マーケットをより社会的な存在に広げていくための大きな舵取りになると思います。
3. SuperSix EVO Hi-MODスペック
新型のEVOは前作に比べると大きくその容姿を変化させましたが、テクニカルな側面はさまざまなメディアが既に丁寧な解説をしてくれていると思うので、LOVE CYCLISTではさらっとおさらいしていきます。
カムテール形状のパイプ
前作のEVOは円形のパイプで構成されていましたが、今回はエアロ化にも積極的に取り組み、空力・剛性・快適性のバランスが取りやすいカムテール形状へ変更。
コンパクトになったリア三角
近年の多くのモデルに見られるコンパクトなリア三角デザイン。全面投影面積の削減による空力性と、シートチューブのしなりによる快適性の向上を狙った設計。
シンプル&クリーンな外観
EVOと言えば、無駄のないトラッドなスタイルが特徴的でしたが、今作もその思想は受け継がれています。
ケーブル類はほとんど内装化され、すっきりとした見た目に。
最近のロードバイクは、ぱっと見た時のシルエットがほとんど同じと言われますが、その中でもEVOはフレーム表面の湾曲やシルエットが美しいと感じます。エアロを意識しつつもロードバイクとしての美しさを纏った佇まいはさすがEVOといったところ。
またグラフィックデザインに関しても、新しいブランドロゴがフレームの造形美をより引き立てるためトップチューブに控えめに入るだけのスタイリッシュなデザインへと変化しました。
バイクスペック
SuperSix EVO Hi-MOD Disc Ultegra Di2
フレーム | Hi-MOD |
フォーク | Hi-MOD |
コンポーネント | シマノ・アルテグラ R8070 Di2 |
ホイール | ホログラム 45 SL KNOT |
タイヤ | ヴィットリア・コルサ 25C |
サイズ | 48/ 51/ 54/ 56 |
価格 | ¥795,000 |
多くがオリジナルパーツで構成されており、社外品はコンポーネントとサドルくらいです。
こういったパッケージ売りが増えた背景として、メーカーは開発段階でフレームが持つパフォーマンスを最大化させるため、性能をコントロールしやすい自社製品で構成していく傾向があります。
ですから例えば社外品のホイールに履き替えようものなら、それは開発側の企画意図を無視したデチューンになる可能性もあります。
4. SuperSix EVO Hi-MODインプレッション
トータルフィーリング
まず今作のEVOの特出すべき点を箇条書きにするならば、以下が優れていると言えます。
- ・軽快に加速するが不快な硬さがない
・高速巡航性能が高い
・快適性能がとても高い
・癖がなく乗り手をあまり選ばない
上記をまとめると、今作のEVOはロードバイクにとって必要と思われる要素をほぼ全方位でカバーしており、オールラウンドバイクとしての資質は十分です。
加速感
前作までのEVOは、足掛かりのいいソリッド且つ軽い加速感が持ち味で、多くのファンを獲得してきました。僕も例外なくそんなEVOの唯一無二の走りのファンの一人でしたから、このバイクにも少なからずそういった側面の走りを期待していました。
今作も軽い加速感が持ち味といっていいのですが、軽さの質が違います。前作のソリッドな軽さではなく、滑らかでスムーズな軽さといったイメージ。
トルクをかけた脚を優しく受け止めつつも、ロスなく流れるようにスピードに変換される感覚は、ついもっと脚を使って加速したくなってしまうほどの楽しさを覚えます。
そのスムーズな加速感を、初期加速と後期加速の速度域別に分けて見ていきます。
初期加速(0〜30㎞/h)★★★★☆
初期加速となるこの領域においては、優しい脚あたりに反して、しっかりとスピードが乗っていくので、今あるロードバイク全体で比較するならば、トップレベルの加速性能を持っていると言えます。
ただ前作に比べると、入力から加速まで気持ちラグを感じるようになりました。
後期加速(30〜45㎞/h)★★★★★
後期加速となるこの領域においては、前作を凌ぐ性能を持っています。ディスクロード特有の重心の低さと安定感から、しっかりと路面を追従している感覚が強く、高速になってもバイクが暴れないので、トルクをかけることに集中させてくれます。
高速巡航性 ★★★★★
個人的に前作までのEVOは、加速したあと40㎞/h以降のスピードの維持に多少課題があったように感じますが、今作はその点においても明らかに進化しています。
先ほどの加速感の中で感じた“スムーズに流れるような感覚”が巡航性にも寄与しており、加速の勢いからそのまま流れるように走り続けてくれるイメージで、随所に見られるエアロ化の恩恵なのか、高速域でもスピードを維持しやすくなっています。
Hollowgram – 45 SL KNOT
この辺りはフレームの性能に加えて、ホイールの効果が大きく影響していると思われるので、個人的にはこれから購入を検討されている方には、是非この「45 SL KNOT」が搭載されたモデルで検討されることをお勧めします。
乗り心地 ★★★★★
僕は今まで、出力から加速までのラグが少ない硬質で軽量なフレームを好んで乗ってきましたが、その多くは路面からのフィードバックに対してはあまりいい印象がなく、反応の良さと快適性はトレードオフの関係にあると感じていました。
しかし、今作のEVOは非常に高い推進力を持ちながらも、路面からの振動に対しては優しく、振動の角を全て処理して伝達してくれるような高い快適性を持っています。
これはリア三角がコンパクト化したことで大幅に快適性を向上させたフレームはもちろん、ホイール、ハンドルなど、多くのパーツがトータルで影響しているように感じました。
ハンドリング ★★★★☆
最近の高性能なディスクロードに乗っていて少し気になることがあります。それはライダーよりもバイク側に主導権がある感覚が強いこと。
特にエアロロード系はその傾向が強く、VENGEはその最たるモデルです。バイク自体の性能の高すぎるからか、勝手に走っていく印象すら受けるほど。
実際に速く走ってくれるので問題はないのですが、これまでのリムブレーキモデルにあった、ライダーに寄り添ってくれる人懐っこさみたいなものが減ってしまったように感じることが多々ありました。
そして前作ファンの方の中には、思うがままに操作できる癖のない乗り味の部分を高く評価する人が多く、今作はどう変わってしまうのかという不安を抱く人が少なくないのではないかと思います。
結論から言うと、乗り味に変な癖はなく素直で扱いやすい仕上がりとなっています。コーナーではフレーム全体の安定感から車体を深く倒し込んでも路面をしっかりと捉えている感覚があります。
またフレームに内装されるブレーキホース類の影響に関しても、降車時にハンドルを左右に降った時には多少の癖を感じますが、組み立て時のブレーキホースの取り回し次第で解消できる範囲ですし、走行時には全くその癖を感じることはありません。
しかし(上位グレードにのみ)今作からセットされたオリジナルのKNOTステムとSAVEハンドルバーに対しては、高い快適性の反面、変なこじり方で力を加えるとやや剛性の低さを感じる場面がありました。
何が原因かはっきりとはわかりませんでしたが、強いて言えばハンドルとステムが特殊なクランプ方法でホールドされているところに要因があるのかもしれません。
とはいえハンドルを変にこじって走らなければスプリントもこなせますし、快適性の高さも含めるとメリットの方が上回るかと思います。
また専用ハンドルと聞くと調整域の狭さが心配されますが、ハンドルの角度を±8度までは調整が可能。社外品にも対応しているので交換も視野に入れやすい設計となっています。
登坂性 ★★★★☆
国内のヒルクライムレース上位入賞者のバイクを見ると、かなりの確率で目にしていた前作までのEVO。登坂性能には絶対的な実力を持っていたEVOですが、その点では今作はやや大人しめな印象に。
低重心で安定したバイクとなったことで、前作と比較するとヒラヒラと軽い感じが弱まり、急斜面でダンシングしたりすると少し重さを感じました。
ただこの評価はあくまで前作比較です。他社のバイクと比較するならば、今作のEVOはヒルクライム向きのバイクといっても過言ではないほどの登坂力を持っています。
そしてこの評価に対してもホイールの影響が大きかったと思います。もしヒルクライム一発ならば、カリカリに絞った軽量ホイールを履かせる事でまだまだ登坂性能を高められるポテンシャルを秘めているように感じました。
5. ディスクロードの“今”を表す新世代バイク
今回EVOを評価するにあたっては、主にディスク専用設計として登場した何台かのモデルに前作のEVOを加えて比較の対象としてきました。
特にディスク専用設計とされていたモデルは、今までリムブレーキモデルでは到達できなかったであろう洗練された性能を備え、飽和状態となっていた開発競争はまた一段高いフェーズへ引き上げられていく予感も感じさせてくれました。
その中でも今作のEVOは、剛性・快適性・空力など、ロードバイクに求められる全て要素のレベルを底上げすると同時に、それらを完璧にバランス良く仕上げたスーパーオールラウンダー。
今後何年かの間は、このバイクをベンチマークにして各メーカーが技術を磨いてくることになるのは間違いなく、“ディスクロードの今”を語る上では欠かせない存在と言えます。
ブランディングの方針転換に対しても、マーケットの変化を柔軟に受け入れ、勇気を持って変化していく姿勢と先見の眼差しに対して、個人的にとても称賛したい気持ちになりました。
スタイルも走りのクオリティに対しても、一切妥協したくない僕のようなわがままなライダーの願いを叶えてくれる今作のSuperSix EVO。このバイクを購入したことは、これからの僕の自転車ライフを豊かにしてくれる最良の選択だったと感じています。
Text by Ryuji(@marusa8478)