
すべてを記録し、振り返る。
走行データをあらゆる角度から数値化することで、ライド中・ライド後に確認し、そして次のライドへとつなげるためのGPSサイコン。サイクリスト自身が上のステージを目指すためには欠かせないもの。
かつてGPSサイコンといえばGarminが市場を独占していましたが、ここ3〜4年で競争力のあるプレイヤーが次々とこのマーケットに参入し、僕らサイクリストにとって新たな選択肢が生まれています。
しかしその分だけ、多種多様な機種が存在することで自分に最適な1台への絞り込みは手間になったとも言えます。
ここではGarminを含むGPSサイコン主要5プレイヤーから発売されている各モデルを、クラス別に機能比較。自分に合ったGPSサイコン選びのマイルストーンにしてください。
1. ライドの質を高めるGPSサイコン
GPSモデルは、スピードやケイデンスといった基本的なデータに加え、GPSによる走行ログの記録やナビゲーション、気圧計を用いた勾配や獲得標高の表示、Strava連携やパワーメーター接続などさまざまな計測が可能。
それらはライド中に必要なものと、ライド前後に見るものに分けられ、その中で「ナビゲーション目的の機能」と「トレーニング目的の機能」のものがあります。
GPSサイコンで見る主なデータ
目的 | ライド中 | ライド前後 |
ナビゲーション | 周辺地図 | ルート作成 |
ルートナビ | ルートログ | |
トレーニング | スピード | 走行距離 |
ケイデンス | 獲得標高 | |
心拍 | TSS | |
斜度 | NP | |
パワー | Strava連携 |
特にトレーニング目的の場合は「GPSサイコンで計測→スマートフォンに記録をアップして振り返る」という流れの中で、トレーニングの精度と質を上げていくことができます。
そこで見る指標は、距離を稼ぎたい人なら走行距離、山好きは獲得標高、パワートレーニング中の人はTSSやNPなど、ライド指向に合ったものが蓄積可能。
通常のサイクルコンピュータからGPSモデルにすることで、サドルを降りているときも含めてロードサイクリングを楽しめるようになります。
2. GPSサイコン主要5メーカー
Garminが切り開いたGPSサイコンの市場、その大きなシェアの切り崩しを狙うメーカーは複数。
どのGPSサイコンでも基本的な表示項目は変わりませんが、メーカーやモデルによって使い勝手や拡張性の違いがあります。
Garmin – サイコン界の巨人

GarminはGPSサイコンの代名詞であり、「ガーミン買った」という宣誓はサイクリストとして一段レベルアップしたことを感じさせる象徴的なセリフ。
そのGPSモデル“Edge”シリーズは、スタンダードの500系、フラッグシップの800系、大画面の1000系という馴染みのある区分けが従来からあり、2018年には機能を削ぎ落としたエントリー向け100系が新たに追加。
全方位に向けた死角のないラインナップを揃え、GPSサイコンのデファクトスタンダードとしての地位を確固たるものにしています。
Wahoo – ジャイアントキリングの最有力となる拡張性

ポストガーミンとして有力なWahooの“ELEMNT(エレメント)”シリーズ。
そのGPSモデルは、「ELEMNT BOLT」「ELEMNT」「ELEMNT ROAM」の3つをラインナップしています。
最たる特徴は、光と音を駆使したナビゲーションや情報のわかりやすさ。
そしてスマートフォン側ですべてセッティングして端末に即同期されるため、ファームウェアや地図のアップデートが容易に可能。
またトップシェアを誇るスマートトレーナー“KICKR”との連携機能もあり、拡張性の高さも大きな強みです。
ELEMNT ROAMのレビューはこちら
Lezyne – 圧倒的なバッテリー&価格競争力

最も意欲的にラインナップを出しているLezyne(レザイン)。
GPSタイプは9モデルと豊富にありますが、機能面でも価格面でも他社より競争力をもつのが「SUPER」系と「MEGA」系の上位4機種*。
これらは価格競争力の高さもさるところながら、最たる特徴はバッテリーの持ちがほかのメーカーにくらべて圧倒時に優れているところ。中でもMEGA XLは最長48時間と、長時間のブルベにも対応可能な最高レベル。
*下位機種の「MACRO」系は、加速センサー・気圧高度計が非搭載、およびAnt+非対応なので注意が必要。
Xplova – スマートフォンのようにあやつる操作性

トレンドに乗ったプロダクトづくりをする新鋭台湾メーカーXplova(エクスプローヴァ)。
GPSサイコンは“X3”と“X5 Evo”の2ラインナップのみですが、Android OSをベースにしたフラッグシップの“X5 Evo”は、これまでもっさりしていたサイコンのUIに新感覚のサクサク動作をもたらし、スマートフォンに飼い慣らされた僕らの指に馴染みのある触覚を思い出させてくれます。
カメラ付きサイコンという新しいジャンルにも、ガジェット好きの食指が思わず動くもの。
X5 Evoのレビューはこちら
Bryton – GPSサイコンを最も身近にするラインナップ

台湾メーカーBryton(ブライトン)のGPSサイコンは、エントリー層が求めやすい1万〜2万円台がメインの価格帯。
安価な分、画面解像度が粗く、またナビまわりの使い勝手は他メーカーに劣る点は留意する必要がありますが、エントリーグレードの“Rider420”と、ミドルグレードの“Aero60”“Rider450”はGPS精度が向上。国内ではチーム右京とスポンサー契約を結ぶように、プロユースにおいても問題のない機能性を持ちます(Rider420からナビ機能を除いた“Rider320”もあり)。
また2020年には待望のハイエンドモデル“Rider750”と“Rider860”が登場し、Garmin800系と近い機能の中、価格面で勝負をかけています。
*
各メーカーの中で際立つのは、やはりGarminの安定性。
ほかのメーカーは操作性・価格・拡張性などそれぞれ突出した部分があるものの、モデルによってはトータルバランスでGarminに及ばない部分も。
しかし追随するメーカーは、積極的なファームウェアアップデートで徐々に機能・使いやすさが改善されており、通常使用の中ではほぼ気にならないレベルになっています。
ここからは価格帯別に各メーカーのモデルを比較。それぞれの特徴を踏まえてベストなモデルを見つけてください。
3. 主要ラインナップ クラス別比較表
エントリークラス4機種
必要最低限の機能を備える¥20,000前後のエントリー機は、ここ2年で新機種が続々登場。
ほとんどのモデルは地図表示できないものの、ナビは備えているので、新たな道を開拓することもある程度は可能です。
メーカー | Garmin | Lezyne |
Xplova | Bryton | |
モデル |
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発売 | 2020.7 | 2016.12 | 2019.11 | 2018.3 | 2019.10 |
定価 | ¥20,800 | ¥16,800 | ¥19,800 | ¥19,800 | ¥14,300 |
ディスプレイ | 1.8インチ モノクロ | 2.0インチ モノクロ | 2.0インチ モノクロ |
2.2インチ カラー | 2.3インチ モノクロ |
重量 | 33g | 76g | 60g | 80g | 67g |
操作 | ボタン | ボタン | ボタン |
ボタン | ボタン |
バッテリー | 13時間 | 24時間 | 28時間 |
20時間 | 35時間 |
地図 | – | – | ● | – | – |
ナビ | ● | ● | ● |
● | ● |
特徴 | 軽量 | 長持ちバッテリー | 地図搭載 | カラー液晶 | 低価格 |
購入リンク | Amazon(セット) Amazon(単体) |
Amazon |
Amazon | Amazon |
Amazon |
各モデルの特徴
Garmin Edge130 Plus:パワー計測が平均/ラップ/最大しか表示できない制限はありますが、それ以外はGarminらしさを体験できる安定の仕上がり。ディスプレイがかなり小さいので視認性は劣ります。
Lezyne SUPER GPS:Lezyneらしくバッテリーの持ちが良く、値段もナビ付きの中でかなり魅力的。
Lezyne SUPER PRO GPS:SUPER GPSの進化版。価格は上がりましたが、縦横表示・地図搭載・バッテリー強化・軽量化など価格差に見合う内容が魅力。
Xplova X3:機能的な特徴は薄いものの、ほかにはない大きなカラー液晶の見やすさが特徴。意外とバッテリーも強い。
Bryton Rider420:前モデル“Rider410”になかった簡易ナビ機能が追加され、またパワーメーター接続もできるためトレーニングには必要十分なスペックを持つ、いわゆる“コスパ最強”と言われるモデル。
どのモデルを選ぶ?
やはりバッテリーの持ちの違いからSUPER PRO GPSかRider420の使い勝手が良くなると思います。価格対スペックを見ても、Garminと比較するとかなり良心的。
ミドルクラス5機種
スタンダードモデルが揃う¥30,000前後は最も人気の価格帯。あらゆる機種のベンチマークとなるGarmin Edge530を筆頭に、多機能なモデルが揃っています。
メーカー | Garmin | Wahoo | Lezyne | Bryton |
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モデル |
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発売 | 2019.7 | 2017.6 | 2016.7 | 2018.6 | 2018.6 |
2018.10 | 2019.4 |
定価 | ¥37,800 | ¥32,000 | ¥35,820 | ¥24,000 | ¥24,000 | ¥23,800 | ¥22,000 |
ディスプレイ | 2.6インチ カラー | 2.2インチ モノクロ | 2.7インチ モノクロ | 2.2インチ カラー | 2.7インチ モノクロ | 2.3インチ モノクロ | 2.3インチ モノクロ |
重量 | 75.8g | 60g |
99.2g | 73g | 83g | 71g | 71g |
操作 | ボタン | ボタン |
ボタン | ボタン | ボタン | ボタン | ボタン |
バッテリー | 20時間 | 15時間 |
17時間 | 32時間 | 48時間 | 32時間 | 32時間 |
地図 | ● | ● |
● | ● | ● | ● |
● |
ナビ | ● | ● |
● | ● | ● | ● |
● |
特徴 | ・多機能 ・ベンチマークモデル |
・エアロ形状 ・KICKRとの連動 ・LEDナビ ・ペダモニ対応 |
・Boltより大画面 ・KICKRとの連動 ・LEDナビ ・ペダモニ対応 |
・長持ちバッテリー ・見やすいカラー液晶 |
・圧倒的バッテリー ・大画面 |
・長持ちバッテリー ・エアロ形状 ・専用マウント |
・長持ちバッテリー ・通常マウント |
購入リンク | Amazon(単体) Amazon(セット) |
Amazon | Amazon | Amazon |
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Amazon | Amazon |
各モデルの特徴
Garmin Edge530:520Jから機能・バッテリー・拡張性すべてパワーアップ。ナビ機能、平均勾配表示、盗難アラームなど、コンパクトな筐体に最新機能を揃え、定番モデルの地位を確固たるものに。
Wahoo ELEMNT BOLT/ELEMNT:LEDを用いた色覚的なインターフェイスがわかりやすく、KICKR連動やPioneerペダリングモニター対応などの拡張性が強み。小型のBOLTは空力を考慮したエアロ形状。
Lezyne MEGA C GPS:シャープ製カラー液晶を採用して「見やすさ」を重視したモデルで、特にナビゲーション時に進むべき道が見やすいのが特徴。
Lezyne MEGA XL GPS:圧倒的48時間バッテリーで泊りがけのライドでもOK。そしてディスプレイも大きく、縦・横どちらでも使える新しいサイコン。
Bryton Aero 60/Rider 450:地図+ナビが付き、他メーカーの機能と肉薄する安価な機種。この2機種に機能差はありませんが、Aero60の方はエアロ形状や、アウトフロントマウントが強み。
どのモデルを選ぶ?
ラインナップが豊富で、絞り込みが難しいミドルクラス。
失敗しないモデル選びなら、前モデルから大きく進化したEdge530、KICKRを所有している/したい場合やエアロを極めるならELEMNT BOLT、バッテリーとコスパ重視ならMEGA XLあるいはAero60というような観点で選ぶことができます。
ハイエンドクラス4機種
タッチスクリーンモデルが含まれ、操作性や液晶の見やすさが格別に向上するハイエンドクラス。高価なものが多めですが、それぞれ便利な付加価値が備わっています。
メーカー | Garmin | Wahoo | Xplova | Bryton |
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モデル |
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発売 | 2019.7 | 2020.7 | 2019.7 | 2017.10 | 2020.11 | 2020.3 |
定価 | ¥57,800 | ¥86,000 | ¥46,000 | ¥49,800 | ¥29,800 | ¥36,000 |
ディスプレイ | 2.6インチ カラー | 3.5インチ カラー | 2.7インチ カラー | 3インチ カラー | 2.8インチ カラー | 2.8インチ カラー |
重量 | 79.1g | 124g |
93.5g | 120g | 93g | 128g |
操作 | ボタン+ タッチスクリーン |
ボタン+ タッチスクリーン |
ボタン | ボタン+滑らかな タッチスクリーン |
ボタン+ タッチスクリーン |
ボタン+ タッチスクリーン |
バッテリー | 20時間 | 24時間 |
17時間 | 12時間 | 20時間 | 16時間 |
地図 | ● | ● |
● | ● | ● |
● |
ナビ | ● | ● |
● | ● | ● |
● |
特徴 | ・多機能 ・事故検出 |
・巨大な画面サイズ ・拡張バッテリー ・ルート自動生成 |
・エアロ形状 ・KICKRとの連動 ・LEDナビ ・ペダリングモニター対応 |
・滑らかな操作 ・ビデオカメラ |
・低価格 | ・低価格 |
購入リンク | Amazon(セット) | 楽天(セット) | Amazon | Amazon |
– | Amazon |
各モデルの特徴
Garmin Edge830:高感度のタッチスクリーンを搭載したGarminのフラッグシップモデル。530が強化されたことで機能差は薄まりましたが、グローブの上からも使用できるタッチスクリーンでサクサクした操作が可能。
Garmin Edge1030 Plus:GPSサイコンの頂点に君臨するモデル(主に価格的に)。ほぼスマートフォンな大きさに、メッセージング機能や自動ルート生成機能などのさまざまな付加価値。さらに拡張バッテリーもあり、長時間サドルの上で過ごしながら未踏の地を開拓するサイクリストのためのモデルと言えます。
Wahoo ELEMNT ROAM:ELEMNT BOLTをベースに大型化&カラー化したモデル。LEDナビによる情報がわかりやすく、Pioneerペダリングモニターに対応している点も強み。
Xplova X5 Evo:サクサクUIで端末設定やナビもラクラク。ドライブレコーダーとしても使える動画撮影機能付き(バッテリーには注意)。WiFi接続でしかスマートフォンと連動できないところは弱点。
Bryton Rider860/Rider750:ほかのフラッグシップと遜色なく価格競争力に長けているモデル。後発の750はセカンドグレードとされているが、860と機能差はなくバッテリー持ちも750の方が長い(そのため860を選ぶ理由がほとんどない)。
どのモデルを選ぶ?
価格レンジが広いため予算次第というところもありますが、タッチパネル付きスタンダードモデルを求めるならEdge830、予算を抑えたい場合はRider750、開拓精神溢れるライダーはELEMNT ROAMやEdge1030 Plus、ドライブレコーダーが必要だったりサイコンのUIを重視するサイクリストはX5 Evo、というような観点で絞り込むことができます。
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GPSサイコンひとつ取り付けるだけで、走りの質の楽しみも大きく変わるもの。この記事を参考に自分に合ったモデルを見つけ、さらなるロードサイクリングの深みへと駆け出してください。