S-Works Power with Mirrorレビュー:3Dプリント×ショートノーズサドルの革新

text by Tats@tats.cyclist

サドル界に”ショートノーズ”というカテゴリを定着させた「Power」サドル。
そのPowerシリーズに、3Dプリント加工の「Power with Mirror」が加わりました。

Mirrorに乗ってすぐ感じたのは、ショートノーズ化が近年のサドル界に起きた最初のインパクトだとすると、3Dプリント加工はそれに並ぶ二度目の革新になり得るということ。
僕はPowerによってサドルの痛みから解放されて沼を抜け出しましたが、抜け出した者がたどり着く領域にPower with Mirrorという選択肢が新たに生まれたと感じています。

3Dプリント加工によって何がもたらされるようになったのか、そのパフォーマンスを詳しくインプレしていきます。

*本レビューで使用するPower with MirrorはSpecialized Japan提供のものであり、レビュー内容はMirror導入後2ヶ月間走行した上での中立的なものです。

1. Power with Mirrorスペック

S-Works Power with Mirror
発売 2020年6月
重量 190g(143mm)/ 194g(155mm)
形状 フラット
座面 液状ポリマーの3Dプリント加工
シェル FACTカーボンファイバーシェル
レール FACTカーボンオーバーサイズレール
価格(税抜) ¥49,500(税込)

液状ポリマーの3Dプリント加工によるサドル「S-Works Power with Mirror」(以下Mirror)。同様の加工方法でつくられたものとして、Fizikの「Adaptive」が3月にリリースされましたが、開発自体はSpecializedが先行していました。そしてショートノーズ×3Dプリントという組み合わせはMirrorのみ。

S-Works Power with Mirror

 

2. S-Works Powerとの比較

ショートサドルの代表的モデルであるS-Works Power(以下Power)と比較しながら、Mirrorの特徴を明確にしていきます。

表面

サイズ・形状は両者とも似通っていますが、Mirrorはマットで格子状の質感が特徴的。
デザイン面では、Mirrorは内部に「S」のロゴがあるだけで、 Specialized製品であることがすぐにはわからない点が素晴らしい。どんなフレームにも合わせられる。

裏面

裏面はFACTカーボンシェル&カーボンレール。
ほかのSpecializedサドル同様にSWAT対応マウントが設けられています。

背面

両者ともフラット形状ですが、座面を見るとMirrorの方が約5mmほど厚みがあります。Powerから乗り換える場合は、沈み込む部分を考慮して2-3mm程度サドル高を低く調整する必要があります。

座面形状

Mirrorの座面はノーズほど柔らかく、バック側ほど高反発になる構造。硬さが均質なPowerのフォームと比較すると全くの別物です。
またノーズ側を見ると、Mirrorはフラットになっていますが、コンプレッションが柔らかいため深い前傾にも対応します。

重量

重量は143mmサイズで実測189g(カタログ値190g)。格子形状で風通しが良くなっていますが、それが軽量化に結びついているわけではないもよう。
軽さだけを求めるのであれば、Powerの159g(カタログ値も同様)があらゆるショートサドルの中でも最軽量の部類。つまりMirrorが意図しているのは、軽量化ではないことがわかります。

* * *

アウトラインはおおよそ似通っているものの、フォーム座面のPowerと3Dプリント座面によるMirrorという違いがあります。それが実際にライドでどのような影響が出るか、以下より項目別にレビューします。

※サドルは骨盤の幅や形状によって感じ方が異なるため、僕のレビューが万人に該当するわけではありませんが、ラウンド形状よりもフラット形状が合う方、また穴あきやショートサドルを好む方にとっては参考になると思います。

 

3. Power with Mirror詳細レビュー

評価点

項目 Mirror Power
ペダリング – 平坦 ★★★★★ ★★★★☆
ペダリング – 上り ★★★★★ ★★★★★
グリップ力 ★★★★★ ★★★★☆
ポジション可動性 ★★★☆☆ ★★★★☆
痛み耐性 ★★★★★+ ★★★★★
デザイン ★★★★★+ ★★★★★
総合評価 ★★★★★+ ★★★★★

Powerとの相対評価

Mirrorに載せ替えてから、140km程度のロングライド、荒れた林道、ヒルクライムなど条件を変えてテストしてきましたが、ほとんどの項目でPowerを上回るパフォーマンスとなっています。
特にグリップ力の高まりと痛み耐性の強化が大きく、ほとんど死角のない仕上がり。

Mirror使用感

“意識させない”サドル

良いサドルの条件は、「ライド中にサドルを意識させない」ことだと思います。
走っているうちにサドルに意識が向いて、「恥骨部が当たるな」といった違和感が現れるものは最終的には合わないことが多い。

Mirrorについて言えば、付け替えたあとしばらく走ると「新しいサドルに乗っている」ということを完全に忘れていました。それほど違和感を感じさせる要素がない。

Mirrorは合わせ鏡のようにお尻の形状を再現することからそう名付けられているように、お尻に合わせて座面が自由に変化します。サドルに包まれるようにハマる感覚は、ほかのモデルでは味わったことがないもの。

とはいっても見た目以上に反発力が高いため、ぶ厚いフォームサドルのようにふわふわして力が逃げることはなく、ペダリングのパフォーマンスをほとんど損ないません(ただしパワーのあるサイクリストがレースで使用する場合は沈む感触が気になるかも)。

圧倒的な快適性

この図は、座面のどこに圧がかかっているかを感覚的に示しています。
どちらも圧がかかる部分は似ていますが、Mirrorの方が広い範囲をカバーすることで力が分散されていることがわかります。
Powerもほとんど痛みの出ないサドルではあったものの、乗り比べるとMirrorはより長時間乗っても痛くならない圧倒的な快適性

深く前傾するときはこの図よりもノーズ寄りに荷重されますが、ノーズ側の座面はより柔らかくなっているので、Power同様股間が圧迫されることはありません。

強いグリップ力

Powerで唯一の不満だった点が、表面が滑りやすいこと。前後のポジション移動がしやすい点はメリットですが、ペダリングを変化させたときに座面が安定しない感じが気になっていました。
Mirrorはお尻を再現する座面と格子状の表面によってその問題が解消されており、ラウンド形状のPower Arcのようにペダリングが安定します。

逆に前後移動はしづらくなってはいますが、感覚的にはPrologoのショートサドル並のグリップ力なので不満になるほどではありません。

上質なプロダクトデザイン

先行したFizikのAdaptiveによって目が慣らされていたおかげか、最初は違和感のあったディンプル状の表面も、今ではサドルの新世代を感じさせる上質なデザインという印象に変わっています。
次のスタンダードになるであろうマットで美しい形状は目でも楽しめる。

ただし雨の後に走ると(構造上仕方のないことですが)内部に泥汚れが入り込みます。この場合、ホースで水洗いすれば綺麗になります。

 

4. サドル沼を抜けた先にあるMirror

未だお尻を乗せるたびに心弾むMirror。かつてPowerを使い始めたときと同じ気持ちが帰ってきています。

Mirrorによって手に入れられるのは、「圧倒的な快適性」と「座面のグリップ力」。
サドルの上で長く過ごすロングライダーやトライアスリート、また荒れた道を行くグラベルライダーに合うのは言うまでもなく、僕のようにPowerで抱えていた座面グリップに対する不満を解消する点でも最適解のサドルです。

3Dレンダリング→プリント→テストを70回繰り返し、10ヶ月で製品化されたMirror

Powerシリーズは多くのサイクリストのサドル沼を終わらせてきましたが、Mirrorのポテンシャルはそれ以上のサイクリストをカバーすることができるもの。

税込¥49,500という価格は全然安くありませんが、対価としてもたらされる価値はサドル界の“End of Discussion”。間違いなくショートサドルの頂点に位置するサドルであり、今後多くのメーカーがベンチマークにしてくるだろうと思います。

Highs

  • ・全く痛みが出ない
    ・ペダリングが圧倒的に安定する
    ・どんなフレームにも馴染むステルスデザイン

Lows

  • ・カーボンレールだが若干重い(189g)
    ・内部に泥汚れが入り込む

S-Works Power with Mirror(Specializedオンラインストア)

text by Tats@tats.cyclist

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