Ranの『#伊能忠敬プロジェクト』完結編。国道6号で日本地図を結ぶ。

Ranによる、GPSのログで日本地図を描く「#伊能忠敬プロジェクト」。
2020年からスタートし、仕事の休暇ごとに日本中を走り回って地図を描いてきた。そんな途方もないプロジェクトがまもなく完成を迎えると聞いて、日本の海岸線がすべて繋がる最後のライドに同行させてもらうことになった。
最後の線を描くのは、南相馬市からいわき市までの国道6号沿い約90km。仲間たちと一緒に走ったプロジェクトの締めを記録として残す。

Ran@31_ran_
基本自転車乗り、時々お医者さんのギャル。FUNRIDEでのコラム連載や、GPSで日本地図を描く#伊能忠敬プロジェクト、自転車の楽しみ方を追求するラジオ「ペダミミ」の運営など自転車に関わる幅広い活動をしている。

Starring / Ran
Edit & Photo / Tats

朝9時、原ノ町駅

スタートは朝9時の原ノ町駅。Ranを応援してきた仲間が集う計10人のライド。前泊で仙台入りしていたり、当日車を飛ばしてきたりしたメンバーが続々と集まり、賑やかなライドが始まる。

国道6号はトラックの往来が多いため、一本海沿いに入った道を中心に走る

11月に入ったというのに福島はとても暖かく、穏やかな風がすごく心地よい

Ranのパートナーであるアンガスも参加。100km以上走るのは3回目とのことだが、綺麗なペダリングですいすい進んでいく。

かつて人の手が入っていた平野部は、一面にススキが実っていた。その一方で、新しい道が敷かれたり、ソーラーパネルが設置されたり、施設が建てられたり、自然と人間の境界が再び変化している。

海沿いは新しい道がどんどん作られている。地図データと実際の道が一致しない箇所もあるが、路面はとても綺麗で走りやすい。

ほかのサイクリストのグループにも何度かすれ違った

社会科見学に連れていって

途中でRanが「社会科見学」と僕たちに言って、震災遺構となった請戸小学校に立ち寄る。
海岸から300mの位置にあるこの学校は、登校していた児童全員が避難したあと、2階部分まで津波が押し寄せた。

瓦礫などは片付けられ、建物がどのような被害に遭ったかがよくわかる。当時起きたひとつひとつの出来事に思いを馳せる。かなりの時間をかけて校舎中を見て回った。

海沿いには工事車両が至るところにある

福島第一原発への道は封鎖されていて、ゲートで検問をしている。通行証がないと入れない

このプロジェクトが始まった当初は、福島第一原発事故の影響で、国道6号のこの区画は封鎖されていた。その後除染が進んで、2022年8月から自転車でも全面通行が可能になった。
復興が進むこの区画を、プロジェクトの最後の道として選んだ。

いわきを目指すのだ

第二原発がよく見える道

プロジェクトが終わることについて

2019年に開業したばかりの、Jヴィレッジ駅。Jヴィレッジは日本初のサッカー用ナショナルトレーニングセンターだったが、原発事故を受けて収束作業のための拠点となっていた。その後駅が開業したことで、今再びトレーニングやイベントで利用されるようになった。

立体的な無人駅の構造が面白い

Jヴィレッジ駅まできたら、終着点のいわき駅まではもう少し。

大勢で走ると、どうしても話に花が咲いて時間が押してしまう。日が傾いてきたので、足早にペダルを回していく。

ライドの終盤に、地図描きが終わることについて感慨深いものがあるかRanに聞いたところ、「終わることについては、そうでもないね」とさらっと答える。
最後にみんなと走れたことが良かったかな。

 

いわき駅で結ばれる

ゴール間近でテンション上がる

いわき駅前の街並みが見えてきた。夕暮れぎりぎりに間に合う

駅前に着くと、すぐにGPSのログを上げる

GPSログで日本の海岸線がすべて繋がった瞬間────!!

「おめでとうー!!」
みんなでRanのプロジェクト完成を祝う。本当にすごい。

#伊能忠敬プロジェクトは2020年11月にスタートし、忙しい仕事の合間を縫いながら3年にわたって続けられた。
日本の海岸線は入り組んでいるので、総走行距離は10,000km以上にも及ぶ。都度海岸まで移動して自転車で走ると考えると途方もないが、休暇のたびに綿密な計画のもと飛行機や新幹線で飛び回り、少しずつ地図を描いてきた。道中では、大量の虫に襲われたり、道が崩落していたり、クランクが剥がれたり、熊に出逢ったり、トラブルを数えるとキリがない。そして今日、復興が進む国道6号ですべての線が結ばれた。

プロジェクトを通して得たものを聞くと、「やめなければ終わるということかな。継続・イズ・パワー」。
誰にもお願いされるわけでもなく、上司に催促されるわけでもなく、自分で立ち上げて自分で進み続けるプロジェクト。それを“やめない”という選択でやり通した。

ひとつのプロジェクトが完成したが、Ranは11月に米国に移住し、これからも旅は続く。正直Ranが近くにいなくなるのは寂しくて仕方がないけれど、向こうでの活躍も楽しみで仕方がないし、離れていてもお互いを応援するのは変わらない。僕らはこの日Ranの精神を受け継いで、“継続・イズ・パワー”を心に刻んだ。

#伊能忠敬プロジェクト

開始日:2020年11月 名古屋-豊橋から
総距離:10,141.37km
累計時間:709時間(29日と半日)
累計獲得標高:75,632m

*プロジェクトをまとめたWebサイトは12月初旬公開予定

みんなと一緒に、最後にRanと走れてよかった。

Starring / Ran
Co-starring / Angus, Masao, Naoko, Natsuki, Michi, Mei, Hiroki, Nabetaka
Edit & Photo / Tats