Roval Rapide Cockpitレビュー:Tarmac SL8以外に装着するとどうなるか。

今所有しているバイクのひとつ「SuperSix EVO」の純正のハンドルとステムには、購入当初から重量面、剛性面で物足りなさを感じていました。
そんな折、「Roval Rapide Cockpit(以下Rapide Cockpit)」 の存在が目に入ってきます。Rapide Cockpitは、Tarmac SL8が発表される前に先行して注目を浴び、今年5月頃にはすでに、スペシャライズドのサポートを受けるチームの選手たちが使用する姿が、各媒体を通じて僕たち一般ユーザーにも届いていました。
そして8月、正式に発売されたTarmac SL8のS-Worksグレード完成車には、このRapide Cockpitが標準装備され、同時にコックピット単体での販売も開始されます。

SuperSix EVOのコックピットで感じていた物足りなさを解消すべく、軽量化と高剛性化が図られたRapide Cockpitを試さないという選択肢はあり得ませんでした。

スペシャライズドは“Rapide CockpitをSL8との相性を最優先に開発した”としていますが、果たしてRapide CockpitはSL8以外のバイクにもフィットし、期待するような性能が得られるのか。コックピット単体での性能について、詳しく見ていきたいと思います。

*本レビューのRapide CockpitはSpecialized Japan提供のものです。

レビュアー

Ryuji@ryuji_ride
Love Cyclistプランナー。スポーツバイク歴14年。MAAPアンバサダー、POCアンバサダー。過去には競技者として打ち込み、表彰台に上がった経験も持つ。自転車専門誌の編集者、サイクルウェアメーカーといった経歴から業界にも精通。所有バイクはCannondale SuperSix EVO Leichtbau、S-Works Tarmac SL7、Factor Ostro VAMの3台。

text & photo / Ryuji@ryuji_ride
edit / Tats@tats_lovecyclist

1. 課せられた3つのミッション

Rapide Cockpitに課せられたのは、以下3つのミッション。

・多くのライダーにフィットする作り
・空力性能の向上
・剛性対重量比の向上

これらをどのようにクリアしているのか、スペックと実際に使用した感触から見ていきます。

スペック

素材 プレミアムハイモジュラスカーボンファイバー、ステム用チタンボルト
サイズ 15種類、ステム長75mm~135mm、ハンドルバー幅380mm~440mm (日本展開14種類)
ベンド形状 ドロップ125mm、リーチ75mm、下ハンドルのフレアはドロップ部で4度
ステム角度 -6度
ステアラークランプ径 31.8mm
重量 310グラム (100mm x 420mm)
ケーブル配線方式 Shimano、SRAM、Campagnolo (内装式、電動ドライブトレイン対応)
付属品 ボルト式のRovalアクセサリー/コンピューターマウントキット
※取付可能なデバイスの合計重量は200g
価格 ¥85,800(税込)

テストしたハンドルサイズは幅380㎜、ステム長90㎜(実測重量297.2g)

プロダクトデザイン

ステムとハンドルのクランプ部がないため、滑らかで洗練された印象を与えます。
中央に印字されたROVALのロゴに関しても、黒文字の主張の少ないデザインなので、スペシャライズド以外のバイクに取り付けても違和感を感じることはありません
最近流行りのカーボン地を生かしたフレームカラーなら、さらに自然に馴染んでくれます。

インストール前の注意点

Rapide Cockpitのステムのクランプ部は、Tarmac SL7 Stemのようにクランプ部が薄いタイプのステムに比べて、クランプ部に厚みがあるため、インストールの際には注意が必要です。今までステムをヘッドにベタ付けするために、フォークコラムを短くカットしてしまっている場合、Rapide Cockpitのステム部がフォークコラムをクランプするための面積が足りず、取り付けること自体が不可能な場合があります
判断が難しい場合は、先にショップに相談してから購入を検討してください。

 

2. ライダーにフィットするか

サイズ展開

Rapide Cockpitのような、いわゆるステム一体型ハンドルは、ステムの角度やハンドルのおくり、しゃくりの微調整ができないという点がデメリットです。
Rapide Cockpitはそのデメリットを補うために、ステム長とハンドル幅の組み合わせを15種類(日本では14種類)展開し、ライダーの特性に合わせて最適なものを選べるようになっています。

サイズ展開は、Retülのプロフィッターやサポートしているワールドツアーの選手たちからのフィードバックを参考にしており、ハンドル幅とステム長の組み合わせを見ると、複雑なサイズ展開となっていることがわかります

▼Rapide Cockpitのサイズ展開

ハンドル幅 ステム長
380㎜ 75㎜、90㎜、115㎜
400㎜、420㎜ 90㎜、100㎜、110㎜、120㎜、135㎜
440㎜ 110㎜

握り心地

ステム角度に関してはオーソドックスな-6度のみですが、実際にバイクに装着してハンドルを握ってみると、フラットポジションとブラケットポジションでは、-6度よりも気持ち前のめりな角度になっています(感覚的には-8度〜-9度くらいの感じ)。
おそらくは選手からの要望で、これほどレーシーな仕上がりになっているのではないかと推測します。

フラットバー部の形状は、Rapide Handlebarの曲率を踏襲しています。これまでRapide Handlebarを使っていた僕にとっては、違和感なく使い始めることができました。

Rapide Cockpitのドロップ部(下ハン)はブラケット部に対して4度のフレア角が付けられています。フレア形状は、ダンシングする際のバイクの振りやすさに関わりますが、下ハンでダンシングをしてみても、バイクの振りの軽さが感じられるほどの広がりではないように思いました。

下ハンはそれほどフレアではない

 

3. 空力性能は如何に

風の接触面を可視化する蛍光塗料©Specialized

吹きかけられた蛍光色塗料は、バイクに向かって吹いた風の接触面を表現しています。これを見るとバイクの空力性能を決める上で特に重要となるのがバイク先頭部である事がわかります。

SL7からSL8へとアップデートする際、空力性能向上という課題をクリアするためにはハンドル周りでの形状改善が避けては通れない必須要件だったはず。つまりRapide Cockpitはバイクの速さの要とも言える重要なパーツであると捉えることができます。

空力性能を体感できるのか?

スペシャライズド製品の中でもっとも空力性能に優れているという本コックピット。正直な感想となりますが、30〜40km/h程度の巡行速度でははその効果はほとんど分かりません。ダウンヒルやスプリントで50km/hを超えるシチュエーションでは、ハンドル部の空気がスムーズに抜けているのを感じられました。ただし、これについて個人で定量的なデータを得ることは困難です*。

*スペシャライズドは、Rapide HandlebarsとTarmac SL7 Stemの組み合わせから4ワット削減できるとしている(計測条件は不明)

 

4. 剛性対重量比

ハンドリング

Rapide Cockpitは従来の別体式だったRapide HandlebarとTarmac SL7 Stemの組み合わせより50g軽量化しており(ハンドル幅420㎜/ステム長100㎜の場合)、高品質なカーボン繊維で成形することで剛性対重量比も向上しています。

実際に僕がSL7で使用しているRapide Handlebar(400㎜)とTarmac SL7 Stem(90㎜)の総重量は367gだったのに対して、Rapide Cockpit(ハンドル幅380㎜/ステム長90㎜)は297.2gと、約70gの差。ハンドル幅が1サイズダウンしたという点を考慮してもかなりの軽量化になっているといえます。

またSuper Six Evoに装着していたハンドルバーとステムの合計重量は517gだったので、ハンドルとステムを交換しただけで約220gも軽量化されます。ここまで軽くなると回頭性能はもはや別次元の領域に進化します
複雑にコーナーが連続する区間でも、クイックにバイクをコントロールでき、ハンドルを切った後の前輪との連動にタイムラグのようなものが全くありません。

剛性感と乗り心地

Rapide Cockpitはステム一体型ハンドルの中でもかなり軽量な部類に属しながら、剛性感は非常に高く感じます。

そのため乗り心地はあまり良いものではなく、今まで剛性が低かったり快適性の高いハンドルを使用していたライダーからすると、路面からのインフォメーションを今まで以上にダイレクトに感じるようになり、ダンシングのリズムすら変わってしまう可能性もあるように思います

反面、高い剛性感のおかげで、入力時にはバイクの全体の一体感が増し、推進力への変換も非常に高く感じられます。スプリント、アタックのような場面では本領を発揮してくれていると感じます。

 

5. 高速を狙うならあり。

他社バイクであるSuperSix EVOを通して、Rapide Cockpit単体は、快適性を捨てて“速さ”へパラメータを全振りしていることがわかりました。つまりRapide Cockpitは多くのライダーにフィットする製品ではないし、特にスピードを重視しないライダーにとっては、その長所を持て余すことは間違いありません。

とはいえ、レーシングの世界から見れば、空力性能、剛性対重量比、多様なサイズ展開など、現状のラインナップの性能を軽く超える高性能な製品でもあることは確かです。

Tarmac SL8以外のバイクでもその恩恵を受けられる超高速コックピット。今回のレビュー体験を通して、僕のSuperSix EVOのコックピットは、純正のものからRapide Cockpitに取って代わられることになりました。

Roval Rapide Cockpit(公式オンラインストア)

text & photo / Ryuji@ryuji_ride
edit / Tats@tats_lovecyclist