Text by Ryuji(@marusa8478)
自転車にまつわる機材やアイテムに関して、女性用に開発されたものは枯渇していると言ってもいい自転車界。女性にとっては、機材を扱うこともさることながら、自分に合ったものが見つけられないといった点においてはかなり参入障壁の高いスポーツと言えます。
ことサドルにおいては男性以上にデリケートな問題であり、シビアに相性が分かれるパーツであるにも関わらず、ウィメンズ向けサドルを発売しているブランドはそれほど多くありません。
そんな業界において、ウィメンズモデルの開発に真摯に向き合い、バイクから細かなものに至るまで多彩なラインナップを展開するスペシャライズド。
その中でもメンズモデルとしてリリースされた“POWER”シリーズは、サドル界に大きなインパクトを与えました。そんなPOWERシリーズに、2018年からウィメンズモデルの“POWER with MIMIC”(以降:MIMIC)がラインナップに追加されました。
今回、2018年の富士ヒルクライムチャンピオンに輝いた実力者で、僕の友人でもあるNaoにMIMICを試してもらい、以前からS-Works POWERを愛用するTatsとともにその実力についてレビューしていきます。
※本レビューで使用するサドルはSpecialized Japan提供のものです。
インプレッションライダー
Nao with Focus Izalco Max
Nao:普段はフルタイムで働くオフィスワーカーでありながら、ロードバイク歴約2年で富士ヒルクライムの表彰台に2度も登ってしまうほどの才能を持つ。これまで使用してきたサドルは、ロードバイクを始めた当初から特に気にせず使い続けていた。主な所有バイクはFocus Izalco Max。
Tats(@tats_lovecyclist):LOVE CYCLIST編集長。ロードバイク歴は5年。自転車を始めてから自分の体にあったサドルを探し続けていたが、去年S-Works POWERと出会い“サドル探しの旅”に終焉を迎えた。以来メインバイクのWilier Cento10 AirにはPOWERを装着し愛用している。
男性以上に深い、女性の「サドル沼」
── Tatsは以前POWERのレビュー記事を書いたとき、“サドル沼”と表現していましたね。今一度その意味について聞かせて下さい。
Tats:サドルは体と密に接する部分なので、製品ごとの相性がはっきりと分かれる機材です。サドルが合わずにお尻が痛くなると、走りたいという気持ちが大きく削がれてしまう。
でもたくさんの製品の中から自分に合ったものを見つけることは難しくて、買ってみて「やっぱりこれ違ったな…」となるリスクもあったりと、「沼」にはまったようにベストなサドルを見つけられなくなってしまう状態ですね。
── まさに多くのサイクリストが陥りやすい悩みですね。Naoは今までサドルに対する悩みはありましたか?
Nao:言われてみれば、トルクをかけて踏み込むタイミングとか、長時間ライドしているときに痛みを感じていました。
でもそれが普通だと思っていたというか、痛くなるのは自分の走り方のせいだと思っていました…!
女性用サドルの存在は知っていましたが選択肢が少なく、性能や見た目を考慮すると手が出しづらかったということもあります。
そういった意味では、男性におけるサドル沼と女性におけるサドル沼では少し状況が違いますよね。女性の場合、圧倒的にアイテムの選択肢が少ない。男性以上にシビアな問題です。
Tats:競技人口の大半を男性が占めるサイクルスポーツだと、男性向けのアイテムは充実していますが、マーケット規模などの問題で女性に向けて開発されるアイテムがとても少ないのが現状ですね。
女性にとってのサドル沼の方が、男性よりも遥かに深いのかもしれないです。
もうMIMICじゃないと走りたくない
Women’s S-Works Power with MIMIC – 143mm(¥28,080)
── そんな女性のサドル沼問題に対して、スペシャライズドから新たにリリースされたショートノーズサドルがMIMICですね。
”Biomimicry(生体模倣)”という言葉が語源のようで、デリケート部分の痛みや痺れを抑える新しいテクノロジーが採用されているMIMIC。今回初めて導入して、どんなことを感じました?
Nao:まず、痛みが出ないサドルがあるということに衝撃を受けました。これまで周りに薦められてあまり考えずにAstuteのサドルを使っていましたが、MIMICと比較するとロングノーズで100km走ると痛くなり、それでも我慢して走っていました。
MIMICだと100km走っても全然平気です。
あとペダリングのしやすさも格段に上がっています。トルクもかけやすいし、上りもずっしり腰をおろして力をかけられる。
MIMICにしてからもう1,500km以上走って、レースにも出場しましたが、もうMIMICじゃないと走りたくないと思えるくらい馴染んでいます。
フィッティングが重要なPOWERシリーズ
── POWERシリーズのサドルといえばノーズの短さが特徴的で、従来のサドルを見慣れている人には「逆に痛そうじゃない?」と言った不安を感じる人もいると思いますが、問題はなかったですか?
Nao:サドルをMIMICに変えたのと一緒に、フィッティングもたまたまタイミングが合ったのでやり直してもらいました。結果的にすごく良かったです!
フィッティング後に乗ってみてわかったことですが、POWERシリーズはノーズが短いので、セッティングがちょっとシビアな感じなんです。でも自分が座る位置にちゃんとピンポイントでセッティングできればものすごく効果を発揮できる、と感じます。
あとセッティングがハマると、ちゃんと坐骨で座れる感覚も得られます。
Tats:POWERシリーズはノーズの短さとは対照的に、幅がフラットで広めにできているので、それが「ちゃんと座れている感覚」に繋がっていきますね。
Nao:今まで使っていたサドルにはなかった感覚ですね。
MIMICのサイズ展開
Naoが使用している「S-Works POWER with MIMIC」は143㎜/155㎜の2サイズ展開ですが、エントリーグレードの「POWER EXPERT with MIMIC」の場合、この2サイズに加えて168㎜もラインナップされています。
こういったところもスペシャライズドのウィメンズモデルへの熱量を感じられるポイント。
購入時にはお店で坐骨幅を計測してもらい、自分に合ったサイズを選択することができます。
サドルの違いだけでパフォーマンスが全然違う
── 先ほどNaoは「ピンポイントでいつも座る位置がある」と言っていましたが、それについてもう少し詳しく聞かせてください。
Nao:私の場合は、流して乗っているときはサドルの後ろ部分で座って、トルクをかけ始めるときは逆に少しサドルの前部分で座るようにしています。特に前部分で座るときに痛みを感じることが多かったのですが、この痛みは私と同じように、わりと多くの女性が悩まれていることじゃないかな、と思います。
MIMICの場合、その悩みに対応するようにサドル前側が柔らかくなっているので、今まであった痛みを感じることが全然なくなって、走りに集中できるようになりました。
サドル前側の中心部分にクッション性の高いエラストマーが入っている
痛みから解放されたことで、フォームに余分な力みが減って、結果的に長く走れたり、翌日に疲れが残りづらいといったメリットも感じました。
サドルの違いだけでパフォーマンスは大きく変わるということを本当に実感しています。
スペシャライズドのプロダクトデザイン
S-Works POWER & Women’s S-Works POWER with MIMIC
── Nao、Tats、そしておそらくLOVE CYCLIST読者の多くが、新しいパーツを品定めする際に最も気にされるのがデザイン面だと思います。POWERやMIMICのデザインについてはどう思います?
Tats:そう、何はともあれ見た目は大事(笑)。やっぱり洗練されたデザインのものには物欲が掻き立てられます。
最近のスペシャライズド製品はブランドカラーがいい塩梅で隠されていて、POWER含めてどんなバイクにもアセンブルさせやすいものが増えましたね。
Nao:MIMICもマット調で主張の少ないデザインなので、どのメーカーのバイクにも合わせられるし、フレームカラーやウェアのデザインで遊びや抜け感を出しやすいなと感じました。今日着ているTenspeed Heroジャージのかわいさもちゃんと引き立ててくれています!
迷ったらとりあえずMIMICを試せばいい
Nao:今回MIMICを試す前、正直ここまでいいとは思っていませんでした。
それが本当にすごく相性の良いサドルだったので、もちろん今後もずっと使い続けたいと思っています。
私のようにこれまで積極的にレースに出てきたサイクリストだけでなくて、どんなサドルを買ったらいいのかわからないとか、痛みを感じて悩んでいる女性のサイクリストの方には、まずこれを試してみてほしいと思います。
それくらいサドルに対する考え方が変わる、私の中で革命的なサドルでした。
Tats:POWERシリーズは本当に良くて、仲間もどんどんPOWER化しています(笑)。「まず試してほしい」というのは同じ気持ちで、POWERの存在が浸透するにつれて、股の痛みのない世界ができあがるんじゃないかと思うくらい。
あと今回はPOWERシリーズにフィーチャーしましたが、スペシャライズドの製品ラインナップには、ホイールとかシューズなども名作と呼べるものがたくさん揃っています。やっぱりほかのメーカーよりも開発資金が潤沢なのが大きいですね。
サドル以外でも、「迷ったらまずはスペシャライズドのアイテムを試す」というのは自転車機材においてひとつの指標になってきていると感じています。
POWER with MIMICを購入する
Women’s S-Works Power with Mimic(Nao使用モデル)
サイズ | 143/155mm |
カラー | Black |
価格 | ¥28,080 |
Women’s Power Expert with Mimic
サイズ | 143/155/168mm |
カラー | Black/Acid Lava |
価格 | ¥16,200 |
※ExpertグレードはS-Worksよりもパッドが厚めで、チタンレールとなっています。
POWER with MIMICをレンタルする
Specialized新宿店では、1日¥200〜でサドルをレンタルすることができます。
Text by Ryuji(@marusa8478)
Photo by Tats(@tats_lovecyclist), Ryuji
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