S-Works POWER vs POWER ARC サドル比較レビュー

S-Works POWER vs POWER ARC

サドル沼の終焉へ向かうレビュー。

サドルは体と触れ合う機材の中でもっともセンシティブなものであり、カラダの相性の良さ/悪さがはっきりと出る部分。
合わないサドルはライド中に苦痛を生むだけでなく、血行障害やEDなど、サドルを降りたあとにも負の影響が及ぶ可能性もあります。
だからどれだけ予算に制限があろうとも、サドルにだけは費用を出し渋ってはいけないもの。

そうやっていくつものサドル沼を自力で乗り越えて、ようやく辿り着いた先のサンクチュアリに「S-Works POWER」があるというケースは珍しいことではありません。
僕が以前Vengeを試乗したとき運命的な出会いを感じたように、ほかのサドルとは明らかに違う座り心地を与えるPOWER。周囲からも「POWERは良い」という話は頻繁に聞きます。

そこで「S-Works POWER」が持つ真の“パワー”を、2017年からラインナップに加わった同価格帯の「S-Works POWER ARC」と乗り比べ、男女それぞれの視点からレビューしていきます。

※本レビューで使用している「POWER」はSpecialized社より提供、「POWER ARC」は貸与いただいたものです。

1. POWER & POWER ARCの特徴

スペック比較

  POWER POWER ARC
発売年 2015 2017
重量(143mm) 159g 141g
座面 フラット ラウンド
パッド 硬い やや硬い
レール FACTカーボン
価格(税抜) ¥27,000

両者の違いは座面の形状パッドの硬さ
特に座面は、フラットが合うサイクリストとラウンドが合うサイクリストがくっきり分かれるため、フラット形状の「POWER」への追加ラインナップとして「POWER ARC」が登場した形。
加えてパッドは、ARCの方が少しクッション性がプラスされています。

POWERシリーズの特徴

左: S-Works POWER/右: Astute Skylite VT

他社のフラット形状サドルと並べると、POWERのノーズの短さが顕著で、穴も長く広く取られていることがわかります。そして座面の幅も広い。

ここからわかることはPOWERは前傾での股間の痛みを最大限軽減するために作られていて、合わせてサドルに骨盤をしっかり乗せることができる形状をしているということ。

POWER & POWER ARC 比較

次にPOWER ARC(左)とPOWER(右)を比較。

デザインは、POWER ARCの方がパッドが多いため、よりマットな質感。POWERが文字も形状も強めの主張なのに対して、POWER ARCはあえて目立つことを避けたステルスデザインという印象。

後発のARCがあえてこの仕上がりにしているのは、Specializedフレーム以外にも違和感なく合わせられるようにとメーカー側が考慮してのことかもしれません。

形状の違いは前後から見たときが最も顕著。
ラウンド形状のPOWER ARCの方が、湾曲の始まる位置が内側寄りで、幅が短め。少しだけ高さもあります。
逆にPOWERはフラットな部分が長く、のっぺりと横幅も広く取られています。

そして両モデルとも、シェルとレールにはSpecializedオリジナルのFACTカーボン素材を贅沢に使い、最大限に軽量化。
見えない裏面のフォルムがものすごく格好良い。

POWERシリーズの最たる特徴であるショートノーズをベースに、座面の形状を選択できるように展開されているのが「POWER(フラット)」と「POWER ARC(ラウンド)」の2種類。
実際にその形状がライドでどのような影響が出るかをテストしていきます。

※サドルは個人の骨盤の幅や形状によって感じ方が異なるため、僕のレビューが万人に該当するわけではありませんが、ラウンド形状よりもフラット形状が合う方、また穴あきを好む方にとっては参考になると思います。

 

2. 比較レビュー

評価点

  POWER POWER ARC
ペダリング – 平坦 ★★★★☆ ★★★★★
ペダリング – 上り ★★★★★ ★★★★☆
ポジションの安定性 ★★★★★ ★★★★★
ポジションの可動性 ★★★★☆ ★★★☆☆
痛み耐性 ★★★★★ ★★★☆☆
デザイン ★★★★★ ★★★★☆

総合評価で「POWER」に軍配が上がります。

特にポイントとなった点は、「痛み耐性」と「上りでのペダリングのしやすさ」の2つ。
僕自身のサドルの選択基準は、股間に優しいことが最も重要な点なので、POWERの高い痛み耐性は大きなプラスポイント。
そして上りでのトルクのかけやすさという点もPOWERは優れていると感じました。

POWER ARCについては、「ペダリング」という基準で見る限り、ラウンド形状による高い安定性がかなりプラスに働きました。
しかしそれ以上に、100km以上の長時間ライドにおいて股間に違和感を覚えてしまう状態になったため、最終的には長く付き合うことはできないと判断することに(この点はこれまでの経験からある程度予測はできていました)。

異なる座面の圧力

この図は、サドルにまたがったときに、座面のどこに圧がかかっているかを感覚的に示したもの。

「POWER」はどちらかというと後ろ側にがっつり荷重でき、お尻全体から太ももの付け根あたりを使って体重を支える感覚。荷重が座面全体に分散され、ラクに長時間座っていられることができるように。

対して「POWER ARC」はPOWERほど後ろには意識は向かず、座面のセンター部分に縦長に荷重される感覚です。僕自身は、この股間寄りの縦に2本走る圧に対して負荷を感じる状態。

 

3. POWER詳細レビュー

S-Works POWER 1

座面のマットと淵のグロスの調和が美しい“POWER”

「しっかり座れている」感

ほかのサドルよりも幅の広いフラットな座面がPOWERの大きなポイント。
今までは「サドルに乗っかっている」状態だったのに対して、POWERは「サドルに支えられている」ような感覚。

お尻の広い場所にバランス良く荷重されるので、圧迫や痛みを気にすることなくサドルに体重を安心して預けられる安心感・安定感がもたらされます。

POWERの名を体現する、トルクのかけやすさ

そして座面の安定感は、そのままトルクのかけやすさにつながることに。
特に後ろ荷重になる「上り」におけるペダリングの変化が顕著。平坦よりもケイデンスが落ちてペダルパワーがさらに必要となりますが、荷重された坐骨が広く安定しているため、回転の力がダイレクトに伝わるように感じます。
これがかなり気持ちよく、POWERにすると上りの楽しさがアップ。


機材を変えたときに違いを感じると興奮するのはサイクリストの性癖ですが、POWERにおける僕のクライマックスは、この上りでのペダリングでした。

ショートノーズがもたらす前傾ポジション

POWERシリーズの最たる特徴のショートノーズ。前傾姿勢での股間の圧迫を防ぎ、長時間のエアロポジションの維持が可能になる形状。僕自身いつも前傾気味に走るため、この部分に関しては大きなメリットを感じます。
特に「POWER」の場合は、広い座面にお尻を安定させた上で深いポジションに入ることができるように。

またショートノーズのデメリットとして、前後のポジション移動範囲が狭くなるという点はありますが、個人的にはあまりノーズ側に移動することはないため、特に不自由は感じません。

フラット形状の弊害

座面はグリップ力がある程度あるものの、 120rpmあたりを超えると少しだけ座面からお尻が動いてしまいます
ペダリングスキルも関係していますが、 ARCではまったくブレが出ないため、フラット面によるお尻の動きやすさが、ケイデンスを上げたときのペダリングに影響してしまっていることは理解した上で使用する必要があります。

 

4. POWER ARC詳細レビュー

S-Works POWER ARC 1

全面マットなステルスデザインの“POWER ARC”

凹凸のピースがハマる曲線座面

ラウンド形状のPOWER ARCは「サドルがお尻に吸い付く」ような感覚。
お尻のスイートスポットに対して、一番気持ち良いと感じられる形状でぴたっとくっついてくれるかのよう

坐骨全体を「広い面」で支えるPOWERに対し、座面の窪みに対して「太い線」で吸い付くPOWER ARCは全く性格が異なります。

ペダリングに高い安定性を

サドルと座面の凹凸がぴたっとハマるため、ペダリングの安定性は随一。高いケイデンスでブレずに回し続けることができます。

また、POWERと比べるとウィング部分が少し後退しているため、太ももの裏がサドル当たらないようになっています。もちろんノーズも短いので、ペダリングを阻害するものはすべて排除されている形状がARC

ラウンド形状の弊害

座面のハマり具合は素晴らしいものの、その分だけセンター部分に荷重がかかる形状はラウンド特有の問題。もともとラウンドが合わずフラットを使っていた経緯があるため、同じ問題が出ることは予測できていましたが、POWER ARCにおいても例外はありませんでした。

特に違和感を覚えたのが恥骨部分
穴の両サイドがPOWERよりも少しだけ鋭角の形状になっているため、両サイドの恥骨を突き上げるような圧迫がかかります。前傾姿勢を多用すると痛みに近い違和感まで感じるように。

サドルを少し前さがりにセッティングすることでこの点は解消されますが、逆に後ろ側の安定感が下がるため、POWERシリーズらしいお尻のフィット感が損なわれてしまいます。

これは完全に「カラダの相性の問題」なので、POWER ARCそのものに問題があるわけではありませんが、フラットを好むサイクリストにとっては、POWERの方が理想的になると思います。

 

5. 女性のインプレッション

サイクリストの妻も、同じようにサドルを付け替えて使用感をテスト。
彼女はノーズの長いサドルだと股間の痛みが出やすいという悩みがあります。
そこで、ショートノーズのPOWER系サドルでどれくらい違いが生まれるかを試します。

POWERの感想

いい!
・おしりの骨が乗せやすくて、骨盤を立ててしっかり乗れる感じ
坂が走りやすく、よりラクに進めるようになったと思う
・前傾するとサドルに穴があることをよく感じて、股間の真ん中が圧迫されない
・どこか一点に圧が集中しない

POWER ARCの感想

・うん、いい
・後ろ側の安定感は変わらない
・前傾しづらい
・ノーズ側が痛いから後ろ寄りしか座れない

ノーズ側の感じ方が僕と同じような意見で、やはりPOWERの方が望ましい形状。すっかり気に入っていました。
骨盤を立ててしっかり乗れる」という感覚は、POWERの安定感の高さがそのまま表現されています。

 

6. サドル沼を終わらせよう

S-Works POWER 2

イタリアンバイクに馴染むアメリカンサドル

POWERがもたらしたのは、僕のサドル沼の終焉
長距離を走りながら、股間への負担が改善されたことを感じ、またペダリングの楽しさまで効果が波及しました。

ショートノーズ+ワイド座面を持った2つのハイエンドサドルは、僕だけでなく多くのサイクリストが抱えているサドル沼という先の見えない旅を終着させるポテンシャルを持っています。
今までお尻が感じていた世界がまったく違うものになるPOWER。まだ座ったことのない方には、一度その座り心地を試してみてほしいと思います。

ちなみに僕はPOWERによってSpecializedへの信仰心が激しく芽生え、少しずつSpecializedのアイテムが増えている次第です。

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「スペシャライズド新宿店」では、1週間¥1,000でSpecializedの各種サドルをレンタルすることができます。
僕みたいに2種類を借りて比較することも可能なので、近くにお住まいの方はまずこちらで試すのがおすすめ。

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