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インソールを替えようと考えるとき、それはサイクリストが何か足元に課題を抱えているときだと思います。シューズのフィットが良くない、膝が痛む、パワーロスを感じる。
僕がインソール「Solestar BLK」を使い始めたのは5年前で、当時はパワー伝達の効率化を目的に導入しました。
ただ5年でSolestarに慣れきった今、普通のインソールを使う機会があると、パワー伝達だけでなくフィットも全く物足りないことに気づきます。
Solestarが既存のインソールとは一線を画す存在であることは一度使うだけでもわかりますが、それほどSolestarとそれ以外を分けるものは何か。
硬さの異なる「Solestar BLK」「Solestar KONTROL」の2種を比較しながら、長期使用の観点を含めレビューします。
*本レビューのSolestar BLKは私物、Solestar KONTROLはSolestar Japan提供のものです。
Contents
1. Solestarの設計思想
サイクリング専用に開発されたドイツ製インソール『Solestar(ソールスター)』。
プロ選手ではグライペル、ファンアールト、新城選手などが使用しているように、トップクラスのレーサーにも定着しているこのインソールの狙いは、「最も安定するポジションに足を固定する」こと。
足は歩く・走る・跳ぶなど様々な動きに柔軟に対応するために、たくさんの骨と関節で構成されています。でもサイクリングとなると、必要な可動域は足首の曲げ伸ばしのみ。逆に足が持つ柔軟性は、パワーのロスやつま先の痺れなどデメリットに働いてしまいます。
だからSolestarの設計思想は、ただ足を安定させることに集約されています。
そのために最適なインソールの形状は、どんな人の足でもひとつだけ。熱成形によるカスタムメイドは必要ないという考え方で作られています(熱成形は個々の悪い癖までカスタムしてしまう)。
Solestarラインナップ
BLK | KONTROL | TOUR | IP 3 | |
コア素材 | カーボン | ファイバーグラス | ファイバーグラス | プラスチック |
片足重量 | 56g(実測値) | 53g(実測値) | – | – |
安定性 | ★★★★★ | ★★★★☆ | ★★★☆☆ | ★★☆☆☆ |
振動吸収性 | ★★★★☆ | ★★★★☆ | ★★★★★ | ★★★★☆ |
歩きやすさ | ★★☆☆☆ | ★★★☆☆ | ★★★★☆ | ★★★★☆ |
価格 | ¥18,000 | ¥14,800 | ¥11,800 | ¥7,000 |
Solestarのサイクリング用インソールは、コア素材の異なる4つのグレードが用意されていますが、一定以上の強度が必要なロードサイクリングでは、上位2モデルの「BLK(ブラック)」と「KONTROL(コントロール)」が最適。「TOUR」や「IP3」は硬さが抑えられているのでツーリングやMTB向きとなっています。
Solestarを形成する4つの要素
Solestarはインソールとしてはかなりクセが強い使用感になっており、それは以下の4つの要素から成ります。
①非常に硬いインソールコア
軽量で硬いコア(モデルによって硬さが異なる)は、踏み込んだときにしならないためのもの。
②強力な土踏まずのサポート
土踏まず部分がかなり高くせり上がっています。これは足首の内転を防いで、踏み込んだときに足をまっすぐ踏み降ろせるようにするためのもの。
③前足のサポートとグリップ
前足の外側も若干高くなっており、滑りを防止して、足を正しい位置に維持します。
またインソールの表面はグリップの効く素材。
④ダイレクト感を生む母指球まわり
力が最も伝わる母指球まわりを薄くすることで、ペダルとの距離を近づけてパワー伝達を最適化しています。
*
これらの要素が実際にペダリングにどう影響するか、以下より細かく見ていきます。
2. レビュー① Solestarのメリット
BLKとKONTROLが異なるのはソールの素材のみ。ほかの部分はまったく同じなので、まずはソールの硬さ以外の部分で共通するメリットを挙げます。
指先のグリップが効く
インソール表面のグリップが超強力であること。
多くのレビューでは語られていないものの、僕がSolestarを手放せない一番大きな理由がこれです。
トルクをかけるときは自然と足先にぐっと力が入りますが、そのときにグリップが効くおかげで指で踏ん張ることができる。通常のインソールでは指がすべるため、指先の力を活かすことができません。
ささいな感覚の違いかもしれませんが、グリップがあるかないかでペダリングの気持ちよさが大きく変わります。
まっすぐ踏み降ろせる
Solestarは足を強制的に“ニュートラルポジション”にします。どんなサイクリストが試しても同じ、足が真っ直ぐになるポジション。
履いてみるとわかりますが、土踏まずや前足のサポートによって、一般的なインソールのように内側や外側へ足が倒れることがなくなるので、ペダリングの上下運動がまっすぐになることを感じられます*。
*ドイツで行われた科学的な検証では平均出力が6.9%上昇
またペダリング運動で膝がブレなくなるので、膝の痛みにも効果的だと言われています(僕自身はもともと膝に悩みを抱えていなかったのでその部分の効果は不明)。
シューズのフィットが最適化する
シューズのフィットが若干でも合わない場合、クロージャーを強めに締めて対処することがあります。そうすると足の一部が圧迫されることも。
対してSolestarはシューズの中のポジションが固定されるので、クロージャーを適切なところで締めることが可能。
これまで自分の足に合わない部分があると感じていたシューズも、ほとんどがSolestarで解決していたので、シューズが本来持つ最適なフィットを実現してくれるインソールだと感じています。
圧が分散して疲れにくい
Solestarのファーストインプレッションの多くは、「硬いので今までより疲れる」というもの。
でもしばらく使い続けるとわかるのが、疲労はこれまで感じたことのなかった“違和感”によって現れたものであり、数回使用して違和感が消えれば疲れにくくなります。
それは、Solestarがただ硬いだけでなく、足に合わせた厚みの強弱によって、足裏への圧力が全体に分散しているから。長く使うほどそのメリットを受けられます。
ただし後述しますが、BLKとKONTROLで疲れにくさの度合いは変わってきます。
コスパが良い
インソールは使っていくうちにヘタっていくものですが、Solestarは硬いインソールコアのおかげで経年劣化があまりありません。
BLKが¥18,000、KONTROLが¥14,800と高価ではあるものの、数年は使えるので、ほかの機材と比べるとはるかにコストパフォーマンスに優れています。
3. レビュー② BLKとKONTROLの比較
ソールの硬さ
僕はBLKをずっと使ってきたので、レビュー用に提供してもらったKONTROLを履くまでは、ソールの違いだけでそれほどインプレッションに違いは出ないだろうと思っていました。
しかし実際は全然違うものでした。
2つを交互に履くと顕著ですが、BLKは「まったくよじれない」、KONTROLは「足あたりが良い」という印象。
BLKを初めて履いたとき、その硬さに足が疲れやすくなっていましたが(今は慣れた)、KONTROLではその疲労感が出ないように剛性が薄められています。
結果、BLKはどれだけトルクをかけても一定のパワー伝達を可能にする安定性があるが、その硬さが長時間の使用ではストレスになりやすい。KONTROLはある程度しなりを生む柔軟性があるが、トルクをかけたときのパワー伝達はBLKには劣る、という違いが生まれます。
どちらを使うか?
比較してはじめて感じられたのが、「スプリントするのでなければKONTROLで充分」だということ。
これまで硬いBLKでペダリングやフィットが大幅に改善されたことに満足していましたが、KONTROLの足あたりの良さは、ロードバイクに対するそもそもの向き合い方を柔軟にしてくれるものでした。
いつも踏みっぱなしでなくても良い、走りの「余白」のようなものが生まれるので、今の自分のライドスタイルにはKONTROLの方が合っている。
逆に体重があってパワーを出すことに主眼を置くサイクリストは、BLKの特性を引き出せるだろうなと思います。
ちなみにプロでもKONTROLを好むサイクリストは多く、特に冬はKONTROLを使い(BLKは固くなりすぎて寒い)、暖かくなったらBLKに入れ替えるという運用なども行っているようです。
4. レビュー③ Solestarのデメリット
Solestarは矯正力の強いインソールなので、メリットだけではありません。
歩行しづらい
もともとロードシューズのアウトソールは硬いので歩行には向いていませんが、Solestarを差し込むとインソールにも硬さが加わるので、ペンギン歩きがさらに増長します。
数回ライドすれば慣れはするものの、基本的にはカフェ休憩程度の歩行に留めておきます。
合わない人は合わない
Solestarを入れてもほとんど感覚が変わらないというサイクリストは一定数います。
あるいは土踏まず部分の圧迫が強くて、Solestarが逆にストレスになるケースも聞きます。
もともとシューズが運命的にフィットしている場合や、特にペダリングに悩みを抱いていない場合などは、高価なインソールを購入しても意味がない可能性があります。
5. サイズ選択
Solestarのサイズ選びはシューズのメーカーごとに異なります。
とはいえ公式のサイズガイドがあるので、これに則って選択すればOK。
僕は現状NimblとSuplestの42を履いていますが、Solestarも同一サイズを使用しています。
代表的なブランドのサイズガイド
ブランド | Solestarサイズ |
Bont | シューズから1サイズ下げる |
Bontrager | シューズと同じサイズ |
DMT | シューズと同じサイズ |
Fizik | シューズから1サイズ上げる |
Giro | シューズと同じサイズ |
Lake | シューズと同じサイズ |
Mavic | シューズと同じサイズ |
Nimbl | シューズと同じサイズ |
Northwave | シューズから1サイズ上げる |
Rapha | シューズから1サイズ上げる |
Shimano | シューズから1サイズ上げる |
SIDI | シューズから1サイズ下げる |
Specialized | シューズから1サイズ上げる |
Suplest | シューズと同じサイズ |
6. この先も変えない機材のひとつ
体と直接接する部分の機材は繊細であり、人によってフィットするものは限られてきます。でもぴったりのものが見つかれば、自転車に乗り続ける限りそれを永遠に使い続けたくなるもの。
僕にとってはKASKヘルメット、Specialized Powerサドル、そしてSolestarインソールがそう。
普通であればインソールに1万円以上出すなんて馬鹿げていると思うかもしれませんが、それだけの体験価値を持っているのがSolestar。そもそも最初に購入したSolestar BLKが5年経った今も使えていることを考えると、ものすごくコスパの良い機材です。
だからこの先も変えることのない機材のひとつとして、足元の見えない部分でいつまでもライドを支えてもらおうと思います。
誰に向いている?
- ・シューズのフィット感を高めたい
・膝に痛みを抱えている
・出力を向上させたい
・ペダリングを改善したい
Highs
- ・ペダリングが安定する
・どのシューズでも使える
・足裏のグリップが最高
・圧が足裏全体分散するので疲れない
・シューズのフィットが適切になる
・モノが長持ちする
Lows
- ・歩行しづらい
・合わない人は合わない
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