最速バイクの一角を担うオールラウンダー。「Storck – Fascenario.3 Platinum」レビュー

Text by Tats(@tats_lovecyclist

まさにクイックトリック。

ドイツのバイクメーカー「Storck(ストーク)」。
色で選ぶメーカーではない」と経営者が言い切るほど、乗り味そのものに対するこだわりを自社のバイクに注入するドイツ職人の気質が入ったメーカーであり、ハイエンドの高価なカーボンバイクを製造することでも知られています。

そのStrockが“過去最高”と評するフラッグシップモデルが「Fascenario.3 Platinum(ファシナリオ3 プラチナム)」。エアロ形状を取り入れたオールラウンダーとして開発されたこのモデルが、実際にどんな乗り味を感じさせるバイクなのか、詳しくレビューしていきます。

※本レビューで使用するバイクはCYCLISMより一定期間貸与されたもので、レビューはLOVE CYCLISTオリジナルの中立的なものです。

1. Storckラインナップ

Storckラインナップ

Storckのロードレース用バイクは3カテゴリに分類されます。

Fascenario.3(ファシナリオ3) オールラウンドフレーム
Aernario.2(アエロナリオ2) 高剛性の軽量フレーム
Aerfast(アエロファスト) エアロフレーム

それぞれにPlatinum(プラチナム)・Pro(プロ)・Comp(コンプ)の3グレードをラインナップ。

本記事でレビューする「Fascenario.3 Platinum」は、オールラウンドフレームの最上級モデルです。

 

2. テストバイクのスペック

Fascenario.3 Platinum(¥699,000)

テストに使用したバイクは、ドイツのStorck本社で組み立てられたもの。
そのためフラッグシップモデルにベストな機材がアセンブルされています。

フレームセット Fascenario.3 Platinum(フレーム770g、フォーク330g)
グループセット Shimano Dura-Ace Di2 R9150
ステム Storck ST115
ハンドル Storck Roadbars RBC170
ホイール DT-SWiSS PRC1400 Spline35
タイヤ Schwalbe One

※完成車重量 約7.1kg

 

3. Fascenario.3 Platinumレビュー

Fascenarioというバイクの特性

新たなバイクのレビューをするとき、その特性を感じやすい瞬間が2つあると感じます。

ひとつは(当たり前ですが)最初の踏み出しの直後。ポジションがしっかり出ている前提で、最初にバイクから伝わるフィードバックは、これまで乗っていたバイクとの差異が明確に体に伝わるため、新しいバイクに体が慣れる前にその差異を捉えるようにしています。

S-Works Roubaixであれば「すごく乗りやすくて気持ち良い」、Cento10 Airであれば「足当たりが良くてすーっとまっすぐ進む」、Vengeであれば「風を切るのがわかる戦闘機のような鋭さ」といったように。

もうひとつは、自分の体を酷使したあと
脚を酷使してぎりぎりの状態になるほど、そのバイクのどの部分が自分を後押ししてくれるか、逆に枷になる部分があるのかといったところがわかりやすく見えます。

これらを意識した上で、Fascenarioでスプリント、ヒルクライム、ロングライドといった複数の乗り方を試しました。
その中で見えたFascenarioというバイクの特性は、「俊敏で、シンプルに速いオールラウンダー」。

クイック&クイック

まず最初にFascenarioを操って最も強く表れた感覚は、「驚くほどハンドリングがクイック」ということ。ほかのバイクよりもサクサクした操作感で、思い通りにバイクコントロールができる敏捷さ。

クイックなほど安定性は下がる傾向があるため、操るサイクリストのスキルが重要になってきますが(初心者向きではない)、Storckを検討するレベルのサイクリストであれば、そのあたりの感覚は全く問題ないと思います。

この操作感は、テーパードのヘッドチューブと幅広のフォーク形状によるもの。フォークの幅があることで、地面を広く捉えることができ、ハンドル操作にダイレクト感や軽やかさが出ます

Dogma F8に採用されていた形状にも似ているフォーク。

最初は軽過ぎてふわふわ地に足が着かない操作感だと思っていたものの、慣れていくうちに扱いやすさへと変化。ダンシング時にもこちらの意図通りにリズミカルにキックできる感覚もあり、しばらくハンドリングが重いエアロロードに乗ってきたので、余計にこの俊敏性が生む扱いやすさはすごく新鮮。ホイール固定用のシャフト“RWSスキュワー”による剛性感の高さもプラスに働いているよう。

ただあまりにもクイックなので、どんな路面状況でもハンドリングを間違いなく制御できるように、アグレッシブな前傾ポジションでセッティングする必要はあると感じます。集中力が途切れてしまうようなときも、ハンドルを切りすぎてバランスを崩さないように注意が必要。

ソリッドな推進力

しばらく乗っているうちに表れたもう一つの感覚が「ソリッドですごく速い」というもの。

ほかのフレームと比べて肉厚なダウンチューブとBBから伝わる剛性感は高く、ペダルの入力に対するパワーロスを感じさせません
これはバイクフィーリングでは大切な要素で、ソリッドな脚当たりが体全体を高揚させます。

トルクをかけたとき、エアロフレームと遜色ないほど平坦や下りは速く、そして登りはダイレクトにサクサク回せる力強さがしっかり出せる。また脚を酷使してあまり力が残っていないときも、推進力が維持されることがわかります。

セミエアロ形状のフレーム

近年のトレンド通り、エアロ効果も意識して作られていることも影響しています。
ダウンチューブのように各所にカムテール形状を採用するのはもはや当たり前になっていますが、フォークだけは前述のように独特。弓なりに大きく丸まったブレード状は、ハンドリングの操作性を上げるだけでなく、前輪とフォークの間の空気がスムーズに流れる効果にも寄与しています。

ここにFascenarioが「速いオールラウンダー」だと評価できる理由があります。

DT Swiss PRC1400 スプライン35について

  • ・35ミリハイトはオールラウンドに乗るのに本当に最適
    ・ハブの回転がよく、完成車として推進力の高さを感じさせる要因のひとつになっている
    ・横剛性が高く、ダンシングで強く踏んだときにたわまない
    ・軽妙なハンドリングと合わせて俊敏さを増長し、さくさくしたダンシングのリズムで駆け抜けることができる楽しさを生む
    ・ブレーキの効きがスゴく良い

乗り心地

BB周りの高い剛性感から、エンデュランスモデルのように振動を逃がすという考えはそれほど重要視されてはいないと感じます。荒れた路面は、同じような軽量&高剛性のフレームと同様に、ある程度振動は拾ってしまいます

ただし肉厚な底部とは対象的に、トップチューブやシートステーは繊細な細身のシルエットをしており、硬さが出過ぎないように上部と底部で乗り味のバランスを保つ構造になっているよう。

しなやかさを生むようなシートチューブ周りの構造

乗っているときそれほど振動に対して不快感を感じないのは、そういったバランスのあるフレーム構造に加え、D字型のシートポストやStorckオリジナルのステム&ハンドルバーなどによって、適度にしなやかさを生んでいるからなのだろうと思います。

少なくとも終日走るようなロングライドでも振動を嫌うような疲れがなかったこと、ダウンヒルでの不意な突き上げに対して冷静に対処できたことなどから、基本的な乗り心地は優れていると結論できます(Roubaixのようなものを期待しなければ全然問題のないレベル)。

重量とほかのバイクとの対比

重量はフレーム770g、フォーク330g。完成車重量はペダル込で7.1kg。
ハイエンドバイクの中では最軽量とは言えないものの、より軽量なS-Works Tarmacと比べると、剛性感は似通っていますがクイック感はかなり高め。

また個人的には、ヒルクライムに特化した軽量バイクのWilier Zero 6の感覚を思い出すと対比がわかりやすく感じます。
Zero6は超軽量で速い代わりに、フレーム全体が剛性の塊のため、トレーニングし続けた脚力がないと長距離操ることもハイスピードを維持することも難しいフレームでした。対してFascenarioは重量も剛性もバランスが良いポジションにあるので、シリアスなトレーニングはもちろん、もっと気楽な気分で走ることも全然OK。

このFascenarioによるオールラウンド性は、ただ重量を気にする以上の魅力があります

クイックトリック・バイク

レビューにあたってさまざまなシチュエーションでライドしましたが、PlatinumグレードはStrockの技術と最高のカーボンファイバーを惜しみなくつぎ込んだハイエンドフレームだけあって、不満の出るような部分は全く見えませんでした
操作性とトップスピードに向かう加速が圧倒的に「クイック」、そしてオールラウンダーというカテゴリ以上に、ただシンプルに「速い」。

ここに、70万というフレームセット価格をどう見るかという観点が加わってきます。
Fascenario.3 Platinumは現時点ではリムブレーキ対応のみの展開(ただしディスクの開発は進んでいると思います)。各メーカーはすでにディスクブレーキモデルへと開発リソースを割いているため、現在出ているリムブレーキフレームはこれまでのテクノロジーが集められた「リムブレーキ最後の完成形」となります。

その完成された魅力を味わえる数少ないフレームのひとつ「Fascenario」は、その価格に見合う価値があるモデル。
ソリッドでスピーディな走りができる完成度に加え、マットで漆黒な世界観に魅せられるサイクリストにとって、Storckのバイクは有力な選択肢になるだろうと思います。

Highs

  • ・間違いなく速い
    ・クイックな操作感とゼロ加速
    ・高剛性による気持ち良いフィーリング
    ・疲れにくい乗り心地

Lows

  • ・色の選択肢がない(マットブラック好きには最高)

Storckバイクのラインナップを見る

Storckバイク一覧(CYCLISM)

2019年春よりCYCLISMがStorckの取り扱いを開始。それによって価格設定も見直され、ハイエンドメーカーのバイクを入手しやすくなっています。