新たな価値観を切り開いてきたモデル「Synapse」。第5世代となる新型は、前世代をベースにしながら、さらにオールロード仕様に&さらにユーザーフレンドリーに仕上がっていることがPart1で把握できました。この設計とSmart Senseが実際のライドにどんな体験をもたらすのか。
Part2では、Synapseの特性や遊び方、そして可能性についてMeiと対談します。
テストライダー
Tats(@tats_lovecyclist) ・身長177cm/体重60kg ・Synapse試乗サイズ 54 ・所有バイク Factor O2 Love Cyclist編集長。スポーツバイク歴8年。ロードバイクを中心としたスポーツバイク業界を、マーケティング視点を絡めながら論じることが好き。同時に海外のアパレルブランドと幅広い交友関係を持ち、メディアを通じてさまざまなスタイルの提案を行っている。 |
Mei(@meisan_no_yakata) ・身長167cm ・Synapse試乗サイズ 51 ・所有バイク Cervélo Caledonia-5 Love Cyclistアソシエイト。デジタルマーケティング会社勤務。ブルベやツーリングなどさまざまな自転車の楽しみ方に触れてきた中で、「ひと山、ひとカフェ」というスタイルを確立。動画撮影・編集もこなし、瑞々しい感性でVlogを撮る。 |
Review/Mei & Tats
Text/Tats
Photo/Rin
Contents
1. ライドクオリティ
Mei:Synapseはスタック&リーチの位置から、やはりエンデュランスロードの系譜を受け継いだバイクという感じですね。普段レース系バイクに乗り慣れていたのもあって、乗り始めはハンドルバーをもっと下げたいと思いました。
Tats:同感です。ハンドル位置は慣れの問題もあって、長時間乗っていると、次第にこの位置が自然でちょうどいいと感じるようになりました。そこからは良いフィーリングで、ハンドリングにも癖がない。
カーブは軽快だし、ダウンヒルでもオーバーステアやアンダーステアになるとは感じませんでした。
Mei:下りの安定感は本当に良かったです。道がガレていても安心してライン取りできるところは、30cのタイヤとハンドリングが効いているんだな、と。
登るときはシッティングで淡々と進む乗り方に合っています。クライミングバイクではないので、アタックしたりハイケイデンスでさくさく登っていくのではなく、アップライトなポジションで景色や仲間とのコミュニケーションを一緒に楽しむ感じ。
Tats:最近は僕らみんな昔みたいにタイムアタックしていないからね。峠に行くと、環境と向き合いながら好きなペースで登るのが最高に心地良い。Synapseはそんな思いとシンクロしていた。
ガシガシ走って爽快感を得る派手なバイクではなく、自分のペースで走って最後に心地よさが残るような、大人っぽい味付けだなと。
Mei:加速や高速域はレースバイクには及ばないけれど、各項目を加算した総合点で見ると同じになるという感じでしょうか。
Tats:そうそう。そもそもエンデュランス系って尖っていないというか、SuperSixやTopstoneに比べると明確な得意分野がないんですが、Synapseはロードライディングのすべてをバランス良くハイレベルに楽しめるバイクという印象です。
Mei:私が普段乗っているCervéloのCaledonia-5もオールロードの括りで語られることがありますが、Synapseと比べるとまったく別物です。
Caledoniaはジオメトリも加速感も、レースバイクがベースになっているので、走る爽快感はCaledoniaの方が圧倒的に強い。逆に安定感はSynapseが強いというのが乗り比べて顕著でしたね。
ホイールを替えて
Tats:僕とMeiさんが借りたバイクはグレードが異なるので、ホイールも違います。
Mei:私の方は「Synapse Carbon LTD RLE(¥792,000)」で、ホイールはHollowGram 45 KNØT(カーボン)ですね。Tatsさんは「Synapse Carbon 2 RLE(¥715,000)」で、ホイールはFulcrum Rapid Red 500(アルミ)。
Tats: Fulcrumについては、どうしても初速や登坂のもっさり感が気になったので、後日普段履いている「Black Inc THIRTY」に履き替えて走りました。タイヤは28cです。
ホイールを同一条件にしてテスト
Mei:どうでした?
Tats:パフォーマンスが変わってライドがずっとずっと楽しくなりました。Black Incは剛性感が適度で回転性能のレベルが非常に高いホイールなので、Synapseとも相性良く、舗装路の走行性能が上がります。
グラベルメインで走りたいときはFulcrumのままでも良かったんですが、都心エリアから走り出す場合は未舗装路区間が少ない。そうなると舗装路の走行性能を中心に考えた方がトータルで楽しくなるのは間違いありません。
Mei:舗装路区間の多い日本だと、予算が許せばカーボンホイールの付いたグレードを選びたいですね。
Tats:あとホイールを同一条件にすることで、フレーム自体の特性もよりわかりました。
まず一定の剛性感があり、踏む楽しさが十二分にあること。また振動は完全に吸収するのではなく、角を取るというフィーリングです。
味付けのバランスがちゃんとしていますね。やっぱりただ快適なだけのバイクって、走る楽しさを半減すると思っていて、踏んだときの気持ち良さはどこかに残しておいてほしい。Cannondaleはそこをわかっている感じ。
スタイルが自然と広がる
Mei: Synapseを借りている期間中は、舗装路だけのコースと、舗装路とグラベルを組み合わせたコースを走ってみました。
それで思ったんですが、Synapseは、完全舗装路コースよりも未舗装路をMIXする方がだんぜん楽しいです。ライドの幅がかなり広がる。
Tats:毎週のように舗装路を走っていると、道に飽きてきてライド幅広げたいな、と思うようになるんだよね。僕らと同じように、新しい道を開拓していきたいというサイクリスト結構多いと思う。
Mei:だからこれまでのスタイルの枠をはみ出していこうとするときにSynapseは合うと思います。ガレた道にも抵抗感がなくなるので、開拓したい気持ちが自然と湧いてくる。
ロードとしての楽しみではなく、「オールロードとしての楽しみ」というのが新しくできるようになるんじゃないかな。
ウェアリングをSynapseに合わせて
Tats:そういう期待もあって、一緒にテストライドしたときは、ウェアリングもSynapseに合わせたんだよね。タイトなレース系ジャージではなく、Café du Cyclisteのグラベルジャージ。あえてグラベル系に寄せて。
Mei:スタイルの切り替えってバイクだけじゃなく着るものでもできますからね。イージーな感じで走りたいときに、このグラベルジャージのスウェット感は最高に気持ちを抜いてくれました。
Tats:走り方だけじゃなく、スタイリングも遊べるのめっちゃ良いよね。Synapseだとグラベル系も違和感なくできるので、それだけで楽しみが増幅された。
Café du Cycliste – リディ
メンズXS(身長177cm/胸囲86cm)/ウィメンズXS(身長167cm)
スウェットのように抜け感のあるグラベルジャージ「リディ」(¥21,235)。
10〜20℃あたりを中心に活躍し(ベースレイヤーが半袖か長袖かで対応力が異なる)、さらっと着られるので、着心地は私服のよう。
5つの部屋に分かれたユニークなバックポケット、「Wanderlust(放浪癖)」と書かれたアウトドアモチーフのイラスト、肩周りの切り替えデザインなど、細部まで徹底されたプロダクトデザインがCafé du Cyclisteらしくて素敵。
2. ポジショニング
Cannondale各バイクのポジション
Mei:次はマーケティング観点から、新型Synapseはロードバイクカテゴリ全体の中でどのポジションにいて、私たちを含むどんなターゲットに合うのか、という点を明らかにしたいです。
Tats:Synapseの立ち位置はマッピングするとわかりやすいかなと思うので、↓表にまとめました。
Cannondaleバイクのポジショニングマップ
Tats:レース用に作られたものか(レース系)/一般ライダーのために作られたものか(スタイル系)という横軸と、舗装路用/グラベル用という縦軸でCannondaleのロードバイクを配置しています。一応補足ですが、これはLoveCyclistとしての解釈であり、Cannondale公式の見解ではありません。
従来のマーケットは、[②舗装路×レース系]が主戦場で、この中でSuperSixやSystemSixなどジャンルが細分化していました。先代のSynapseもここに含まれていた。それがグラベルロードの台頭によって、Topstoneをはじめとする[③グラベル×スタイル系]のバイクが登場します。また近年グラベルレースが盛んになったことで、SuperSix EVO SEのように新しいバイクが続々と投入されているのが[④グラベル×レース系]です。
残る[①舗装路×スタイル系]カテゴリは、それこそクロモリやチタンなどの伝統的な素材が該当すると思いますが、大手メーカーによるカーボンバイクに該当するモデルは多くありません。
Mei:最近になって少しずつ出てきた感じですね。
Tats:レース用エンデュランスだった第4世代までのSynapseは、レースとスタイルの中間に位置するようなバイクでしたが、新型はSmartSenseを搭載したことでレースから脱却しました。だから 舗装路をメインとして、未舗装路もカバーするスタイル系バイクという位置づけのように感じられます。
Mei:[①舗装路×スタイル系]はポジションがぽっかり空いていますが、ブルーオーシャンとは言えないですね。そもそもマーケットが潤沢に存在しているか、あるいは今後存在するようになるかが未知数です。
Tats:そこなんです。今は「カーボンバイク=レース」というイメージが強く、また高価な素材なので、なかなかスタイル寄りのカーボンバイクにこれだけの値段を出すユーザーはそれほど多くないのが現状だと思います。
だからこそ、価値観を切り開くバイク「Synapse」はあえてそこに踏み込んだと言える。
どんなサイクリストが選ぶバイクか
Mei:今は[②舗装路×レース系]のバイクを持っているサイクリストがほとんどです。で、次に買うバイクとしてどんなサイクリストがSynapseを選ぶかですね。
Tats:その人のスタイル次第だけれど、例えばSuperSixを持っていて、新しいバイクを買い足す場合は、カテゴリの重複が少ない方が遊びの幅が広がる。だから対極の象限にいるTopstoneという選択が最も面白いとも言える。あるいは現在ロードレースをやっていて、グラベルレースも挑戦したいとなれば、SEという選択が最適になる。
じゃあSynapseってどんなスタイルで選ばれるのか?
Mei: SupersixやSystemSixを持っているサイクリストがSynapseを買い足すという選択は少ない気がします。遊び方に重複する部分があるので。どちらかというと買い替えですね。
Tats:ですね。舗装路を速く走ることよりも、道の開拓を楽しみたい。でも事情によって2台持ちはできないから1台ですべてカバーしたい、というときに最もフィットするバイクがSynapseだと感じます。
Mei: おそらくCannondaleバイクの中で1台でのカバー範囲が最も広いんですよね。包容力のあるバイクというか。
新規ユーザーの場合
Mei:ここまでは既存ユーザーの話ですが、もし新規ユーザーがどんなバイクを選ぶかといったときにも、Synapseはかなり良い選択になるんじゃないかな、と。
Tats:ちょうどテストライド中に話していたよね、「ロードを持っている方が、パートナーのために買うバイクにちょうど良い」って。
Mei:安全性を高めるSmart Senseがプリセットされているのは、道路を走るのが怖いという心理的な障壁を下げることができます。
あと、私の父(56)が昨年知人にエアロロードを譲ってもらってときどき走っているのですが、この間唐突に「グラベルバイクが欲しい」って言い出したんですよ。「別に速くなくていいから、グラベルならゆったり色んなところ楽しめそう」って。そのとき「Synapseぴったりじゃん!」って話しました(笑)。
Tats:めっちゃ良いタイミング(笑)。だから割と自転車を始めたばかりのユーザーにもすごくフィットするだろうなと思います。
逆に、新型では機材いじりが好きな“自転車オタク”はターゲットにならなくなった。あえてそこを狙っていないバイクというのは明確です。
Mei:スタイルの定まっていないビギナーか、あるいは、ある程度乗りこなしてスタイルの方向性が見えたライダーか。そのあたりがSynapseのメインターゲットになるんでしょうね。
Tats:新たなユーザー層を獲得しようというCannondaleの企業姿勢は、やっぱり自転車界を良い方向に進める気がします。
ダウンチューブ看板をなくしてトップチューブの小さいロゴになったのもすでに定着しているし、新しい価値観をどんどん見せてくれるのは関わっていて本当に楽しい。
3. スマートセンス
交通量が少ないほど活きる
Tats:最後に、誰もが気になるSmart Senseについて、実際の使用感を話してみたいと思います。
Mei:さっき峠を登るとき、ヒルクライムの気持ちよさとSynapseの乗り心地がシンクロしていたと話しましたが、Smart Senseもそこが一番活きていましたね。
Tats:うん、活きてた。交通量が少ないほどリアビューレーダーが効果的になるんだよね。峠だと、呼吸が苦しいときに車が来るかを気にしながら登るのは、やっぱり疲労が余計に溜まる。
このレーダーは140m後方から検知してくれるようなので、目視よりも早く把握できて回避がギリギリにならない。
Mei:車にとってもストレスかからないし、お互いWin-Winですよね。
Tats:そう。すごいと思ったのが、カーブで車体が見えないときも検知してくれたことですね。アラートが鳴って後ろを振り返ると見えない。「え、見えないんだけど来てるの?」と思っていると数秒後に本当に現れる。僕を含めてロード歴の長いサイクリストほど「ジブンレーダー」に自信を持っていて、外部のレーダーは不要だと考えがちだけれど、実際は自分の感覚よりも正確に、早く通知してくれるので、安心感も疲労度も全然違う。
Mei:だからSynapseを返却したあと自分のバイクで走っていると、「レーダーがあったらいいな」と思うシーンが何度もありました。
Tats:ないと不便だと感じるときがあったよね。
ただ、僕は数年前にGarminのレーダー(RTL 510)を購入して、数回使って手放しているんです。この理由が都市部ではレーダーが必要ないと判断したから。基本的に常に車が走っているので、頻繁に通知が表示される状態になります。サイコンが鳴りっぱなしになるのでこれが逆にストレスになることもあった。
Mei:レーダーの是非は走るエリアによって大きく変わってくるな、というのが正直なところですね。
Tats:そう、レーダーは基本常時ONなので、今後ソフトウェアアップデートでレーダーだけOFFにできるようにしてほしいです。それだけで都市部のユーザーにも受け入れられると思います。
統合されたライト
Mei:ただSmart Senseはライトがパッケージになっているので、トータルで考えるとまた違うかもしれません。
Tats:充電が楽になるというのは本当にそうで、帰ってきてからバッテリーパックを取り外して1つだけ充電すれば良いのは意外と便利です。あとmicro-USBケーブルを使わなくて良い…!
Mei: USB-Cは正義ですよね。
前後ライトは基本的にデイライトとして機能しますが、フロントライトの350ルーメンは想定以上に明るいので、視認性は全く問題ありませんでした。夜でも街灯があれば走れる。
Tats: Cannondaleとしても「ナイトライド用に光量が足りなかったら別に用意して」というスタンスなので、デイライト用として割り切れます。そもそも長時間ナイトライドするサイクリストの絶対数は少ないので、そのスタンスは正解かなと。
Mei:ちょっと残念だなって思ったのが、標準のマウントだとライトが下に付いているので、ハンドルバーバッグが取り付けられないんですよね。
Tats:これは気になったのでCannondaleの方に問い合わせてみたのですが、レックマウントを使ってライトの取付位置を前にすることで対処できるようです。ライトの配線は余裕があるので。
Mei:調整できる余地はあるんですね。
アプリを基軸にライド体験を包括する
Tats:ほかに個人的に気になったのが、すべてスマートフォンで設定するという点。
ライド中にスマホを取り出す機会ってほとんどないので、手元で設定変更できない。だからバッテリーマネジメントしたいときは、止まってスマホを取り出さなければならない。
Mei:機能をフルに近い状態で使っていると100kmくらいまでしかバッテリーが持たないですからね。私たちの地域ってオールロードをめいっぱい楽しもうと思ったら最低120kmくらい走るのがデフォなので、スマホでの設定変更が必須です。
Tats:だからSmart Senseデバイス側で設定できるようにしてほしいと今回のテスト中ずっと感じていました。
Mei:私はちょっとTatsさんと考え方が違っていて、スマートフォン完結にしているのはありだと思っています。
Tats:おぉ、というと?
Mei:ずっと思っているんですが、今のロードのスタイルってGPSサイコンありきじゃないですか。
スピードセンサーとかパワーメーターを連動させてトレーニング主体で走るスタイルにはGPSサイコンが欠かせない。
Tats:数字見るの大好きだからね。
Mei:でもグラベルバイクでは サイコンを取り付けないケースが多いですし、トレーニングしないならそもそもパワーとかスピード表示はマストではないし。私たちが好むスタイル寄りの走り方がもっと広がっていくと、次第にロードでもハンドルにはGPSサイコンではなくスマートフォンを取り付けるのが一般的になっていくんじゃないかって。
Tats:Quad Lockとかを使うんだね。
Mei:ですです。スマホ自体も、バッテリーやデータ容量が増えているので、普通にStravaアプリでライドログを残す用途で充分に使えます。
Tats:確かに、eバイクではスマートフォン連動が当たり前になっている中で、ロードバイクでもスマートフォンであらゆるものをコントロール時代が徐々に来ている。その中にSmartSenseも含まれていて、すぐに手元で操作できる、ということね。
Mei:実際、リアビューレーダーのアラート音はスマホからも鳴らす設定ができるんです。これはスマートフォンをハンドルに取り付けることを前提とした機能です。
Tats:バッテリーでスマホ充電できるというのもそこを考慮していそうだね。
今は容量に不安があるけれど、拡張バッテリーが発売されればこのあたりの連携はさらに化けると思う。
Mei:あとCannondale純正アプリの使い勝手も良いです。最初ホイールセンサーで接続する体験はぶち上がりましたし、アプリ内でライドログを取ることもできるし、あとインフォグラフィック的な見せ方でレポーティングしてくれるあたり、ライドを楽しませようと頑張っているなぁと。
Tats:マーケターらしい目線(笑)。Cannondaleのエコシステムの中で良い体験を積み上げる仕組みができているよね。
SmartSenseはスマートなのか?という問いがずっと引っかかっていたけれど、ライトやレーダーのスペックだけを見ていても答えが見つからなかった。
そうではなく、アプリを基軸にしてライド体験を包括していくやり方まで見えてくると、スマートな仕組みが構築されつつあることがわかります。
Mei: Cannondaleはスマートフォンとスポーツバイクが当たり前のようにコネクトされる未来まで見据えて、Smart Senseを投入しているような気がします。
Review/Mei & Tats
Text/Tats
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