Wahoo ELEMNT ROAM v2レビュー:なぜWahooを選ぶか。

Wahoo ELEMNT Roam v2レビュー

現在GPSサイコンの市場には数多くのメーカーが参入している。国内を見ると、Garminを筆頭に、Wahooや中華系メーカーがシェアを奪おうとしている状況が見られる。

しかしグローバル規模になると、「WahooかGarminか、それ以外か」という勢力図に置き換えられる。実際に、訪日外国人のサイクリストが使用しているGPSサイコンを観察すると、Wahooが多くを占めることがわかる。日本のサイクリストの状況からは意外だが、Garminを見るケースの方がレアだ。

なぜ今Wahooが選ばれているのだろうか。最新のELEMNT ROAM v2を使いながら、その理由を紐解いていく。

text / Tats@tats_lovecyclist)[PR]

Wahoo vs Garmin

生い立ちの違い

「Wahoo ELEMNT」と「Garmin Edge」。ライドステータスを表示するという目的に対して、両社のデバイスに大差はないように思えるが、実際に使い比べると、明らかに思想の違いがある。

端的に言えば、Garminはハードウェア主導であり、Wahooはソフトウェア主導だということだ

Garminが創業した1989年頃は、ちょうどGPSシステムが一般に広く利用可能になったタイミングであり、GPSを用いた高度なテクノロジーに重点を置いて製品が開発された。それから長年業界に君臨し、サイクルコンピュータだけでなく、多様なニーズに対応する幅広いラインナップが展開されている。

一方Wahooが生まれた2009年は、フィットネス機器が注目を集めていたタイミングであり、またUX(ユーザーエクスペリエンス)という言葉が一般に広く浸透した時期でもある。
テクノロジーだけでなく、アプリケーションにおけるユーザー体験が重要視されるようになり、多くの製品やサービス設計にUXという概念が使われるようになったタイミングだ。

Wahooの創業者チップ・ホーキンズは、VELOによるインタビューでGarminの製品について触れている。

私はガーミンが嫌いだった。ソフトウェアのインターフェースが気に入らなかった。ハードウェアはいいんだけど、ソフトウェアの使い勝手がひどくて不便だ。

Wahoo ELEMNT開発の出発点は、Garminよりも優れたUXの製品が作れるという確信から始まっている。完成までに数年を費やし、スマートフォンとシームレスに連携するGPSサイコン「ELEMNT」が生まれた。

Garminは確かにメニュー構成がわかりづらく、操作も直感的ではないため、必要な設定にたどり着くまでにひどく時間がかかる

スペックの違い

Wahoo ELEMNTシリーズは[Bolt / Roam]の2機種が発売されている。
対してGarmin Edgeシリーズは[130 / 540 / 840 / 1040 / Explore2]の計5機種があるが、ELEMNTシリーズの競合モデルとして 540 / 840 / 1040の3機種をピックアップして比較する。

  Wahoo ELEMNTシリーズ Garmin Edgeシリーズ
バッテリー Elemnt Bolt: 15hrs
Elemnt Roam: 17hrs
Edge540: 26hrs
Edge 840solar: 32hrs
Edge 1040solar: 45hrs
GPS デュアルバンドGPS
*Roamのみ
デュアルバンドGPS
本体操作 物理ボタンのみ タッチスクリーン
*540のみ物理ボタン
設定方法 スマートフォンで設定 本体で設定
ストレージ Elemnt Bolt v2: 16GB
Elemnt Roam v2: 32GB
Edge540: 16GB
Edge 840solar: 32GB
Edge 1040solar: 64GB
防水性能 IPX7 IPX7
データ管理 ELEMNTアプリ / SYSTM または
Strava等の外部サービス
Garmin Connect または
Strava等の外部サービス
価格 Elemnt Bolt: ¥37,000
Elemnt Roam: ¥58,500
Edge 540: ¥54,800
Edge 840solar: ¥74,800
Edge 1040solar: ¥109,800

スペック表だけで見ると、Garminのバッテリー寿命が圧倒的に見える。Wahooの強みは価格くらいにしか感じられない(それはそれで十分な強みかもしれないが)。
日本でこれだけGarminが覇権を握っている理由のひとつがここだろう。ブルベをはじめとする長距離ライドに傾倒するライダーが多く、またそういった人々の発信を参考にするサイクリストは必然的にGarminを選ぶ。
またGarminには「Garmin Connect」があり、ライド記録、コース作成、ワークアウト作成などライドに関するあらゆるアクティビティをひとつのサービス上にまとめられる。

つまり200kmを超えるような長距離ライドを頻繁にする場合や、Garmin Connectをベースにトレーニングやライフログを一元管理する場合は、ほかのメーカーを選ぶ理由がなくなる。

ただそうしたサイクリストの数は一部に限られる。多くのライダーは“適切な”距離を走るし、ギアやルート、または一緒に走る人によってライドスタイルを気ままに変化させることもある。その場合、サイコン側はライダーに合わせて走りの変化に柔軟に対応する「UX」の部分が重要になる。それはスペック表には現れない部分だ
“ソフトウェア主導”のWahooが、そこでどのようなユーザー体験を作り上げているか。

 

新機能“Ready To Ride”が意味するもの

ELEMNTの最新機種『ELEMNT ROAM v2』は、2022年10月に発売された。デュアルバンドGPSが採用され、充電ポートがType-Cに変更されたことで、最新のスペックを備えたトップモデルのひとつとなっている。

そして当初から、Wahooはデバイス設定をすべてスマートフォン側で完結させるという体験を提供してきた。慣れたスマートフォンのUIを使うか、サイコン独自のUIに慣れるか、どちらのユーザー体験が優れているかをWahooはちゃんとわかっているように思える。

以前はメニューの日本語におかしい部分があったが(「パワー」が「電源」だった)、今は解消されている。

アプリで設定変更してELEMNTに反映されるまでのリードタイムが限りなく少なく(1秒に満たない)、もはや小さなサイコンのタッチスクリーンをちまちま操作する必要がない。

Ready To Ride

「Ready To Ride」にはライド前に欲しい項目がほぼ網羅されている(ただしカスタマイズはできない)

その後2023年11月にソフトウェアがアップデートされ、「Ready To Ride」機能が搭載された(ELEMNT BOLTとROAM両方に対応)。
電源ON後、よく利用する機能が起動画面に表示され、ルートやワークアウトなど、ライド前に設定しておきたい機能にすぐにアクセスできる。

起動→ルート選択の流れがスムーズになった

センサーを変えたときも、この画面からできる。これまでペアリングは心底面倒な作業だった

サイコンでストレスになるのは、「どこで設定すれば良いか」を迷う部分だ。ライド当日は走ることに集中するため、それ以外の操作は極力最小限に抑えたい。短い時間でも設定を見直すためには、UIが「直感的」である必要がある。

新しく1画面挟むという変更は、Garminの現状のUIだったらできないだろうと思う。Wahooはスマートフォン側ですべての設定を完結させるため、デバイス側のUIは融通が効きやすくなっている。
両社の違いは、直感的なインターフェースのiOS(≒Wahoo)と、カスタマイズ性の高いAndroid(≒Garmin)といえばイメージに近いかもしれない。

Ready To Rideはユーザーのフィードバックを元に生まれた機能であり、Wahooはより良いユーザー体験をもたらすためにソフトウェアを更新し続けていることがわかる。

 

Garminユーザーが次々と道に迷う中で

ルート設定がとにかく楽

ルートまわりの設定も本当に便利になった。
ルートを設定するためには、

ルート作成(PC)→ルート読み込み(アプリ)→ルート設定(サイコン)

というプロセスを踏むことが多いが、Wahooの場合すべてがシームレスにつながる。

個人的には、ルート作成はRideWithGPS(RWGPS)で行っている。
ELEMNTアプリでRWGPSにログインしておくと、RWGPSで作成したルートは自動的にアプリ側に読み込まれる。
そしてELEMNT ROAMを起動すると、Ready to Rideの画面でそのルートが選択できる。
つまりRWGPSでルートを作っておくだけで、ELEMNT Roamを起動したときにルート設定できるようになる

いちいちgpxファイルを取り込んだりする必要がない。仲間からKomootやRWGPSでルート共有を受けた場合でも、ルートを保存しておけば同様のことができる(Garmin Connectはできないけれど)。

これだけでも、積極的に自分で新しいルートを引こうという気持ちになる。

ナビゲーションのわかりやすさがレースに影響する

2023年10月に開催され、いろんな意味で過酷だと評判だったグラベルレース『GRINDURO 2023』のときの話だ。
「コース案内が非常にわかりづらかった」という声がイベント終了後に聞こえたが、このとき一部のコースでは、Garminユーザーだけが迷って、Wahooユーザーは正しいコースを走ったという現象が起きたという。
どちらもルートをサイコンに入れていたのだが、なぜそのようなことになってしまったのか。

これはナビゲーションのUIに関係する。

この画面を見ればわかるように、Wahooは進む方向が細かくわかるラインになっている。一方Garminの線は矢印の間隔が広い。一般道では迷うことはあまりないかもしれないけれど、グラインデューロのようにコース内をさまざまな方向から周回するようなルートになると、誤った道へ進む可能性が出てくる。

このレースの事象は、細かなUIでライダーに与える影響が変わってくることを示す実例となった。

ディスプレイ外では、端末上部の光と音でも示す。ターンバイターンが非常に明快。ただし音が大き過ぎると感じるので、音量調整できるとなお良い

 

WahooらしいUX

マウント

Wahooのサイコンマウントは、他メーカーと互換性のないオリジナル形状。ここはGarminからスイッチする場合とても不便だけれど、もしGarminマウントをそのまま使いたい場合は、別売りのマウントアダプター(¥1,999)を使用すればOK。ただしアダプター分の高さが出るので不格好になる。

付属するマウントは、本体を取り付けることでエアロ形状になるような斬新なつくり。レースでの使用をちゃっかり想定したつくりになっている。

画面

コントラストがはっきりしていて視認性が高い画面

表示項目は自由にカスタマイズでき、設定時のメニュー項目がわかりやすくてあまり迷わないのがよかった。初期しか触らない部分ではあるけれど、なるべく設定に時間をかけたくないのでここは大事なポイント。

本体右側にある物理ボタンで表示項目数を変更できる

サミット・セグメント機能(ヒルクライム検知)

ヒルクライムポイント差し掛かると自動的に画面が切り替わり、残り距離や目安の時間を表示してくれるこの機能は、ペース管理に地味に効く。ルート設定しなくても勝手に切り替わるのが地味に良い。

どれくらいの上りでこの画面を表示するかを3段階(すべて / ミディアム以上 / ラージのみ)でフィルタリングできるので、短い坂を意識したくない場合はしきい値を上げれば良い。個人的には普段走るコースではミディアムからがちょうど良い。

ヒルクライムのSmall / Medium / Large分類は距離と平均斜度で決まる

バッテリー

素早く充電できるType-Cはもはやスタンダードになった

Garminが最新モデルにソーラー電池を搭載して、バッテリーにかなり投資しているのに対して、Wahooはバッテリーに対してあっさりした姿勢だ
ELEMNT ROAMは第2世代だが、第1世代からアップデートされたときも、バッテリー寿命は17時間から変わらなかった。このためブルベユーザーはWahooから距離を置くことになったのかもしれないが、1日ライドで使う分には十分過ぎるのだ。
個人的には100km前後で休憩含めて7〜8時間のライドが平均的だが、バッテリー残量はいつも50%以上残っている。
あえて1dayライダーだけをターゲットにすることで、Garminとの衝突を避けているのかな、とも感じる。

 

Wahooの体験を自分のものに。

WahooとGarminは、使い比べてみないと違いがわからないが、実際に使ってみると両者の体験の違いは明らかだ。
Garminを使っているユーザーに、なぜGarminを選んだかと聞くと「なんとなく」「周りが使っているから」という回答がほとんどだった。対してWahooユーザーに同様の質問をすると「デザインが良くてエアロまで考えている」「Garminほどの情報量は要らない」「設定が簡単にできる」といった具体性のある回答が得られた。Wahooを好むユーザー層は、求めている機能・性能をベースに主体的にプロダクトを選んでいることが見えてくる。

ユーザー体験を重視するWahooの姿勢は、子育てにリソースの多くを費やす今の自分の状況にもとても刺さる。1分1秒でも時間を節約したいなかで、ライド前の準備で手間取るインタフェースのサイコンは使いたくない。
クイックなスマホ連携、シームレスなルート設定、新たなReady To Rideと、ソフトウェアが最適化されたELEMENTは、ライド中の使いやすさ、見やすさも相まって、現存のGPSサイコンの中で最も自分のニーズに応えてくれるものだと実感している。

これらの事実は、Wahooのシェアが世界的に伸びてきた(米国でGPSサイコンのシェアをGarminと二分し、欧州でもシェアトップの国々がある)という現状に納得感をもたせるものだ。

「なんとなく」ではなく、明確に選ぶ理由がWahooにはある。

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著者情報

Tats Tats Shimizu@tats_lovecyclist
編集長。スポーツバイク歴10年。ロードバイクを中心としたスポーツバイク業界を、マーケティング視点を絡めながら紐解くことを好む。同時に海外ブランドと幅広い交友関係を持ち、メディアを通じてさまざまなスタイルの提案を行っている。メインバイクはFactor O2(ロード)とLS(グラベル)。

text / Tats@tats_lovecyclist
[PR]提供 / Wahoo Fitness