
TREKから、2024年に3種類のロードシューズがリリースされた。それぞれ『RSL Knit』『RSL Road』『Velocis』と名付けられ、新しい設計によって従来モデルよりも快適性の向上を目指した。そして今年3月には『Velocis』が早くもモデルチェンジし、さらなる高性能化を果たしている。
今回は注目の新型ミドルグレード『Velocis』と、先進的な構造が目を引くハイエンドグレード『RSL Knit』の2足にフォーカスし、その実力を詳しく見ていく。
レビュアー
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Ryuji(@ryuji_ride) |
*本レビューのシューズはトレック・ジャパン提供のものです。
Contents
TREKのバイクに乗っていないけれど?

そもそもの話だけれど、僕はTREKに乗っていない。バイクブランドが展開するシューズを履くなら、そのブランドのバイクに乗っていた方がまとまりがあると感じるのは当然の感覚だ。
かつてその感覚をぶち壊したブランドがSpecializedで、Specializedのシューズだけは、どんなバイクに乗っていようがあらゆるサイクリストの選択肢になってきた。PowerサドルやRovalホイールも然り。これはプロダクトの良さとかマーケティングの巧さとか言うべきか。
その点TREK (かつてはボントレガー)のシューズは、孤高のポジションを保ってきた。「TREKのシューズ?バイクがTREKじゃないし…」と敬遠されることが多かった。ただなぜか、僕の周りには、TREKのロードシューズを好むユーザーがいつも一定数存在している。TREKのバイクに乗っていないにも関わらず、だ。
彼らにあえてTREKのシューズを履く理由を聞くと、「アジア系の足でも痛くならない」とフィット感の良さを評価するものが多い。僕自身も幅広の足型で、これまでシューズ選びに苦戦してきた類いであり、それを聞くとTREKのシューズを一度使ってみたいと思うようになっていた。
他ブランドのバイクに乗る身として、果たしてシューズがトレックなのは“アリ”なのだろうか。そういった美的感覚を含めてレビューしていこうと思う。
2つの最新ロードシューズ
Velocisロードシューズ(ミドルグレード)

Velocis Road Shoes – ¥44,900
最高級ラインのRSLシリーズの技術を多く採用し、ファンライドからレースまであらゆるライドで求められる性能を幅広く提供する高性能ミドルグレード。2024年に前作が登場したばかりだが、早くも2025年3月にモデルチェンジを果たした。
*前作からのアップデート点
・ハイエンドのRSL Roadと同型の新型Proラスト採用
・MetNetテクノロジーが進化して履き心地が改善
・外装ヒールカップが付きヒールのホールド感が向上
・BOAがL6 BOAダイヤルにアップグレード
RSL Knitロードシューズ(ハイエンドグレード)

RSL Knit Road Shoes – ¥67,900
高機能ニットアッパーとMETNETテクノロジーを組み合わせ、快適な履き心地とパフォーマンス、そして他にはないフィット感を実現したフラッグシップモデル。
スペック比較

←Velocis | RSL Knit→
Velocis | RSL Knit | |
ラスト | Trek Pro Last | Trek Pro Last |
アッパー素材 | 95% Thermoplastic Polyurethane 6% ナイロン |
92% メッシュ (ポリエステル/弾性素材/熱接着糸) 8% ナイロン (ウェビング) |
ソール素材 | 70% カーボン 30% グラスファイバー |
100% カーボン |
クロージャー | BOA® L6 Dials | BOA® Li2 Dials |
アウトソール | OCLV Carbon composite plate | OCLV Carbon plate |
カラー | White | White/Silver、Black/Gold |
重量 | 269g(42サイズ) | 243g(42サイズ) |
サイズ展開 | 39-45 (ハーフサイズ 41.5-42.5) |
39-45 (ハーフサイズ 41.5-42.5) |
発売日 | 2025年3月 | 2024年3月 |
価格 | ¥44,900 | ¥67,900 |
快適性とバランス重視のVelocis、高剛性かつ軽量なRSL Knit。ソール素材、アッパー構造、重量など、目的に応じて選びたい要素が明確に分かれる2モデル。どちらも「Trek Pro Last」を採用し、アジア人の足型にも対応しやすい設計は共通している。
TREKロードシューズの新しいテクノロジー
新型PROラスト:人間工学に基づいて人の足の平均的な形状を算出した結果、母指球側を4mm、小四球側を3mmワイドにすることとなった。またトーボックス部も広く設計されており、僅かに足先に自由度が生まれている。この改良によって、特に日本人の足型にフレンドリーな形状となった。
MetNetテクノロジー:MetNetは、シューズの前足部に反応性の高い伸縮素材を配置。特に、不快感や痛みが生じやすい第1中足骨・第5中足骨の骨頭部、そして第5中足骨骨隆起部を中心に伸縮し、圧力を分散させながらペダリング効率を損なわない設計を行なっている。

小指部分が柔らかさがわかるMetNet
シューズ選びにはずっと悩んできた

前述の通り、僕の足型は典型的なアジア系の幅広なので、タイトな形状が多いサイクリングシューズの選択に悩みを抱えてきた。
これまでサイクリングシューズのサイズを決める際に意識してきたことは、足長(足の全長)ではなく、足幅(中足骨部の幅)のほうだ。足長でサイズを決めてしまうと、中足骨が締め付けられてしまうため、必ず実際の足長よりも大きいサイズを選択していた。
ただ大きなサイズになってしまうことで、踵やつま先に隙間が空いてしまい、シューズとの一体感が生まれづらい。
TREKシューズの場合、『Velocis』は41.5、『RSL Knit』は41サイズを選択することになった。特にアッパーの伸縮性が高い『RSL Knit』では、自転車を始めて以来、一度も選択しなかった41サイズがフィットしたことに驚いている。
※2020年頃まで使っていたGiroやFizikの一般的なナローフィットモデルでは42サイズを着用
Velocisレビュー
デザイン
前作はBOAダイヤルやインナーに黒色が使われていたが、新型では各パーツの配色が同系色に統一され、前作よりも洗練された印象になった。

白ソックスとの組み合わせも美しい。ロードシューズの白トレンドにちゃんと乗っかるデザインだ
フィット感
つくりはBOAクロージャー式の一般的なシューズだが、つま先からシュータン部分にかけてゆとりがある。アッパーは硬めだが、新型のラスト形状とMetNetのおかげで中足骨部の窮屈さは感じない。
トーボックス部分は幅も高さもゆとりがあり、BOA ダイヤルを締め込んでも少し遊びが残る感じがしたので、しっかりとホールドさせたい人には少し物足りなさを感じるかもしれない。

ヒールカップには今作からのアップデートで滑り止め素材が使用されていて、踵のホールド力は高い
剛性感
Velocisに搭載されるアウトソールは、カーボンとグラスファイバーのコンポジット素材になっていて、TREKのアウトソールの剛性指数では10/14とされている。僕の脚力でも柔らかさやたわfみを感じることはできないほど十分な剛性がある。
アッパーに関しては、MetNetの部分以外は硬さがありシッティングの時はパワーロスもなく不満はない。ダンシングなどで捻れる力が加わると、トーボックス部のゆとりも相まってシューズ内で少し足が動く感じがした。これはインソールを手持ちのSolestarに変更したら解決した。

通気性
アウトソールのベンチレーションは開口部が大きくとられていて、足裏の蒸れを軽減してくれている。アッパーもパンチング加工によって並程度の通気性は確保している印象。

サイズ選び
前述の通り、新型のVelocisはトーボックスの作りにゆとりがあるので、一般的なサイズよりも大きめの印象を受けやすい。
普段僕は42サイズを使用することがほとんどだが、新型Velocisは41.5サイズでテストした。感覚的には、41サイズでも良かったかなと思うので、ハーフサイズかワンサイズダウンが良いかもしれない。当然試着して決めるに越した事はない*。
*直営店ではフルサイズ在庫していないのが現状だが、
RSL Knitレビュー
デザイン
前衛的な見た目に好みは分かれそうだが、個人的にはソックスのようなスリムなシルエットは、足元を美しく見せてくれるのでアリだと思う。一見すると靴下のような見た目だが、要所にヌバック系の毛羽立つ素材を使用する事で高級感も感じられる。
デメリットとしては汚れやすいということ。表面が繊維状なので、合皮なら弾かれる汚れなどが付着してしまう。防水スプレーを定期的にかけつつ、こまめに洗浄して清潔さを保つしかない。

スリムなシルエットが綺麗
フィット感
RSL Knitを一言で表すと、「カーボンプレートが付いた靴下」だ。靴下だから誰にでもフィットするし、靴下のままカーボンプレートに足を乗せるような感覚はとても新鮮だ。伸縮性を持たせつつもタイトな作りのアッパーは、痛みを生じやすい部分がMetNetによってさらに伸縮性が高められ、まるでコンプレッション系の靴下を履いているかのように足に吸い付く。

BOAダイヤルで締め込むときも、痛みを生じやすい第一、第五中足骨の部分をうまく回避しながら、足全体をカーボンプレートに押し付けてくれるような感覚。合皮素材のシューズとは一線を画すこのフィット感は、僕のシューズ歴の中で間違いなく過去一のものだと言える。

滑り止め付きのヒールカップはすっぽりと踵が収まり、ペダリングのダイレクト感を強めてくれるが、歩行時にはアキレス腱に擦れ、あまり歩きやすくはない。
剛性感
アウトソールは、剛性指数14/14のOCLVカーボンソールを搭載。この一枚岩のような硬さのアウトソールは、快適なKnit素材のアッパーとは釣り合わないが、BOAダイヤルを締め込んでいけば足とアウトソールは一体化していく。インソールは環境に配慮されたものが使用されているそうだが、薄い作りでカーボンソールの硬さがダイレクトに伝わりすぎるので、自前のSolestarに変更した。

通気性
抜群の通気性があるので、夏場の暑さが気になる人はこれ一択。冬は寒すぎるのでシューズカバー無しではかなり厳しい。

サイズ選び
靴下のように足型に合わせて形状が変化する素材なので足の形状に悩まされる事なく、足長で素直にサイズを選べば問題ないと思うが、普段のワンサイズダウンが基本となりそうだ。テスト前に普段使用している42サイズのRSL Knitも試着したが、足長が足りずかなりオーバーサイズになっていた。
VelocisとRSL Knitどっちがいい?
2つを履き比べてみると、どちらも最新のTREKシューズらしく細部の完成度が高く、自分のライドスタイルや優先する要素が明確なほど選びやすい構成になっている。

『Velocis』は、アッパーの適度なホールド感と十分な剛性、そして扱いやすさのバランスがとれている。ラスト形状やMetNetテクノロジーによって足幅のある人にもフィットしやすく、BOAダイヤルでの調整も直感的。硬すぎないアッパー素材と新設計のヒールカップは、長時間のライドでもストレスが少なく、シューズとの一体感を無理なく得られる。
こうした特性から、シューズに対して極端な尖りを求めず、快適さとパフォーマンスを両立したいサイクリストにフィットする。たとえば週末のファンライドからロングライド、時折レースイベントにも出るような幅広いスタイルのライダーにとっては、Velocisの“ちょうどよさ”が大きな魅力になるはずだ。

一方の『RSL Knit』は、履いた瞬間からその異質さに驚かされる。足を包み込むようなニットアッパーのフィット感はなかなか得られないものだ。ダイヤルを締め込むと、足がアウトソールと一体化していく感覚は非常にダイレクトで、剛性指数14のOCLVカーボンソールがペダリングを無駄なく伝えてくれる。
このシューズは、限界まで攻めるライドやレース志向の強いライダーに向いている。とくに、フィット感に対してシビアな要求がある人や、夏場の酷暑ライドでも足元の蒸れを最小限にしたい人にとっては、最適解になり得る。ソックスのような履き心地と究極の通気性を両立するRSL Knitは、“用途にハマれば手放せなくなる”タイプの一足だ。
TREKのバイクに乗っていなくても

今回の2モデルを履いて感じたのは、ブランドの垣根を超えて、機能とデザインの両面から“選びたくなる理由がある”ということだ。
実際に使用してみて、フィット感や剛性といった機能面は、これまで選択肢にしてこなかったのがもったいなく思えるほど。アジア人の足型に寄り添った新しいラスト形状や、MetNetによる中足骨部のストレスの軽減など、シューズ選びに悩んできた人ほど刺さる部分が多い。
そしてデザインの完成度も高い。『Velocis』のマットな質感とニュートラルな配色は、ソックスやバイクカラーを選ばずに馴染み、足元に清潔感と統一感を与えてくれる。
『RSL Knit』は、ニット素材が生み出す軽やかな質感とスリムな形状、シルバーのBOAダイヤルによるアクセントが絶妙で、視線を引きつける魅力がある。
どちらもロゴの存在感が極めて控えめで、TREKのシューズであることを過度に主張せず、ほかのブランドに溶け込む汎用性の高さがある。
結果として、たとえTREKのバイクに乗っていなくても、これらのシューズを選ぶことに後ろめたさは感じない。それは、ブランドではなく、ライドに必要な性能と、身につけることで高揚感が得られるかどうかという視点で見たとき、TREKのシューズがしっかり応えてくれるからだ。
見た目、履き心地、そしてライド中のフィーリング——それぞれがきちんと納得できるものであれば、バイクブランドとのミスマッチはもう気にする必要はない。いつか使ってみたいと思っていたTREKのシューズは、僕の悩みを解決する最良の選択だった。

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Velocisロードシューズ(¥44,900)
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text & photo / Ryuji(@ryuji_ride)