
サイコンを買い替えるタイミングは数年に一度だ。数年前はGarminが覇権を握っていたため、今もGarminを使うユーザーは多い。
ただ現時点でサイコンを買い替えるGarminユーザーの話を聞くと、「GarminかWahooか迷っている」という話が多い。そしてすでにWahooユーザー(=Wahooligan)になっているサイクリストの話を聞くと、「もうGarminには戻れない」と言う。
世界的にはWahooとGarminがシェアを二分するなか、国内でもWahooの勢力が徐々に伸びている理由とは。
2025年に最新世代が出揃った「BOLT 3」「ROAM 3」「ACE」の全3機種を使いながら、その理由を紐解いていく。
レビュアー
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Tats(@tats_lovecyclist) |
text & photo / Tats(@tats_lovecyclist)[PR]
レビュー協力 / Taka & Anna
Garminとの決定的な差

GarminとWahooの決定的な差は、その出自にある。1989年創業のGarminは、航空機や船舶のナビゲーションといった多機能で複雑な情報処理がルーツであり、GPSを用いた高度なテクノロジーに重点を置いて製品が開発されてきた。それにに対し、Wahooはスマートフォンの普及が進んだデジタルネイティブな2009年に生まれた。この背景の違いが、「ハードウェア主導のGarmin vs ソフトウェア主導のWahoo」という構図を生んでいる。
Wahooの創業者チップ・ホーキンズは、かつてインタビューでこう語っている。
「私はガーミンが嫌いだった。ソフトウェアのインターフェースが気に入らなかった。ハードウェアはいいが、ソフトウェアの使い勝手がひどくて不便だ」
“ガーミン嫌い”がWahooの躍進の原動力だ。スマートフォンとシームレスに連携し、面倒な設定をすべてアプリ側で完結させるという設計思想は、多くのサイクリストをGarminが持つメニュー階層の迷宮から解放し、「もうGarminには戻れない」と言わせた。
また物理ボタンによる確実な操作性と、直感的な視認性に特化したデバイスは、ハードウェアとしても極めて洗練されている。Wahooを選ぶということは、多機能なガジェットを所有することではなく、ハードとソフトがスマートに統合された唯一のユーザー体験を手に入れることを意味する。
対して、あえてGarminを使い続ける理由は、デバイス以上にエコシステム『Garmin Connect』の存在だろう。ライドログの管理だけでなく、Garminウォッチと併用したときに睡眠やストレスを含む24時間のログが統合され、単なる走行記録を超えた「自分の身体の履歴書」が形成される。ライド単体にフォーカスした他メーカーへの移行は、その利便性を手放すことになる。
ただ、ウォッチによるライフログ管理を行っておらず、ライドの記録と分析のみを目的としているサイクリストであれば(おそらくほとんどがそうだろうと思う)、Wahooへのスイッチングコストは限りなく低い。

LOVE CYCLISTメンバーも次々にWahooへスイッチしている
最新機種スペック比較
![]() ELEMNT BOLT 3 |
![]() ELEMNT ROAM 3 |
![]() ELEMNT ACE |
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| 発売 | 2025.4 | 2025.4 | 2024.12 |
| ディスプレイ | 2.3インチ | 2.8インチ | 3.8インチ |
| 重量 | 85g | 107.7g | 210g |
| タッチ操作 | – | ● | ● |
| 内蔵メモリ | 32GB | 64GB | 64GB |
| 稼働時間 | 20hrs | 25hrs | 30hrs |
| GPS | デュアルバンドGPS | デュアルバンドGPS | デュアルバンドGPS |
| ウィンドセンサー | – | – | ● |
| 音声スピーカー | – | ● | ● |
| 税抜価格 | ¥58,000 | ¥76,000 | ¥99,000 |
| 特徴 | 小型軽量 | バランス | 大画面 空力センサー |
Wahooの最新ラインナップは、軽さと空力の「BOLT 3」、バランスタイプの「ROAM 3」、大画面と空力センサーを備えた「ACE」の3モデルで構成されている。プラットフォームは共通しているので、基本的な表示項目に差はないが、その中で、ライダーが求める付加価値によって最適解が決まる。
●サイズと重量:ROAM 3がバイクに取り付けたときの見た目も含めて一番バランスが良い。ACEは見やすいがハンドル周りが一般的なサイコンより100g以上重くなる。
●稼働時間:ACEのカタログ値30時間は実感としても差はなく、200km以上のライドでも安心感が大きい。BOLT 3でも1日のライドは十分持つので、バッテリーの劣化を考慮しても、ブルベのような長距離ライダー以外はどのモデルでも問題はない。
●タッチスクリーン(ROAM 3とACEのみ):地図やナビを重視するなら必須。特にACEの大画面はタッチスクリーンと相性よく、スマートフォンの操作性とほとんど差がない。
●音声スピーカー(ROAM 3とACEのみ):ナビの音声ガイドや電子ベル用。必要な場面は少ないかもしれないが、あると便利。
●ウィンドセンサー(ACEのみ):目新しい機能で、「対気速度」を見るのは面白いが、現時点で実用性は薄い。今後のアップデートでライダーのフォーム込みのCDA値が計測できるようになることに期待したい。
自分に最適なELEMNTは?
ELEMNT BOLT 3:純粋なレーシングモデル

小さなエアロ形状の筐体は、空力に優れ、1gでも軽く仕上げたいヒルクライマーや、レース志向のサイクリストに最適。画面サイズは最小だが、ハイコントラストな液晶により視認性に不足はない。ハンドル周りをスッキリさせたいミニマル派にもいい。
ELEMNT ROAM 3:Wahooの哲学が最もバランス良く結実したモデル

2.7インチディスプレイと、デュアルバンドGPSによる高い測位精度。視認性と操作性がちょうど良く、実用性と価格のバランスを考えれば、ほとんどのサイクリストにとっての正解はここにある。
ELEMNT ACE:最先端の技術を搭載したフラッグシップ

3.8インチの大画面。操作性や視認性に優れるだけでなく、最先端の風速センサーを体験できのはACEだけの特権。初期のバグ問題を乗り越え、ようやく完成形に近づいた今、あらゆるサイクリストにとって最高の選択肢のひとつとなった。その分重量は犠牲になっている。
発売当初にACEが酷評されたワケ

ソフトウェアが未完成のまま発売されたACE
2024に登場したフラッグシップ機「ELEMNT ACE」は、発売直後に海外各メディア(特にDC Rainmaker氏)から酷評されたのだが、その理由は、主にソフトウェアのアップデートが遅れていたことにある。
- 「ELEMNT」アプリから新しい「Wahoo」アプリへ移行したが、設定が複雑化し、デバイス側のUIも不完全だった
- Stravaライブセグメント、ライブトラッキング、補給通知といった、既存のモデルでは使えていた機能が、発売時点のACEでは非対応だった
- パッケージや広告に記載されている機能(ルートの高度プロフィール表示など)の一部が、実際には実装されていない状態で出荷された
- 30時間の持続時間を謳っていたが、実走行テストでは、その値に遠く及ばない結果が相次いだ
- 向かい風や追い風を測定する風速センサーは、対気速度データを表示するのみで、トレーニングへの活用方法がほとんどない
※空気抵抗の計算(CDA値)機能は将来のアップデートで追加予定
リリースしてからファームウェアアップデートで改良していくという方針はスタートアップ企業によくあることだが、それにしてもあまりにも更新を待たなければならない機能が多い状態だったことが、「ベータ版を使わされている」と評価を下げる理由になった。
ただ、当時から1年が経過した現在、アップデートが頻繁に行われたことで、上記1〜4はすでに解消されている。実際の使用感は次の章で細かく見ていく。
BOLT 3/ROAM 3/ACEレビュー

僕はELEMNT ROAMを初代から使い続けている生粋のWahooliganだ。これまでELEMNT ROAM v2を使っていたため、Wahooの利便性を十分把握しているつもりだが、今回は前モデルの体験からどう変化しているかという点も含めてレビューしていく。
新モデルの3機種はいずれもWahooアプリをベースにしており、プラットフォームは共通しているので、基本的な表示項目やルート機能に差はない。デバイス特有の機能については各項目に対応するデバイスを記載する。
見た目

単純な話だが、Wahooデバイスはプロダクトデザインがいい。質感、操作感、デザインが機器の高級感につながるが、高価なロードバイクに取り付けても遜色ないのは、国内で入手できる中ではWahooかGarminしかないだろう。その中でも、 Wahooのマットな質感はバイク全体の雰囲気を崩さない。第3世代になって、光のナビゲーションがなくなったことで見た目もすっきりした。所有者の美意識を裏切らないし、勢いのあるWahooを取り付ける満足感は高い。

←BOLT 3 | ↑ROAM 3 | ACE→
取り付けたときに一番バランスが良いと感じるのは真ん中のROAM 3。ACEは見た瞬間誰もが「でかい」とコメントする。

一番小さいBOLT 3は空力特性に優れる
操作性
スマートフォン連携を重視してきたWahooだが、最新モデルになってデバイスからも設定変更がやりやすくなったのが良い。
起動時の「Ready-To-Ride」でその日のナビ設定やセンサー追加が簡単にできるし、UIがわかりやすいおかげで、何か設定を変えたいときも「あの設定どこにあったっけ?」と迷う必要がない。バックライトやアラートの設定など、ロングライド中に細かく設定を変えたいときに、信号ストップでスマートフォンを取り出す必要がないので、とにかく細かいところが便利になった。

バッテリーの状況に応じてバックライトON/OFF、通知ON/OFFなど素早く変更できる
またタッチパネルが主流となる中で、Wahooは物理ボタンの押しさすさも大切にしていることが感じられる。これだけボタンのはっきりしたデザインはほかのメーカーにはないし、どのモデルもクリック感がはっきりしているため、グローブを着用していても「確実に押した」という感覚が得られる。

ボタンははっきりとクリック感があって押しやすい
「Wahoo」アプリ
最新デバイスから、連携アプリは「ELEMNT」から「Wahoo」に移行された。メニュー構成はかなり変わったが、どこに何があるかは直感的にわかるので、ヘルプを見なくても最初の設定は難なく完了した。
この専用アプリによるセットアップの簡便さはやはりWahooだと感嘆せざるを得ない。BOLT 3でも小さな画面で格闘することなく、手元のスマートフォンでデータフィールドの配置やセンサーのペアリングを完結できる体験は、一度味わうと元には戻れない。アプリを起動すればすぐにペアリングしてくれるし、クラウドを介した設定の同期も速い。

アクティビティの振り返りもできる
ナビゲーション
ナビの設定は従来のモデルと変わらない。ほとんどのライダーは、ルートを『Ride with GPS』『Strava』などのサードパーティアプリで作っていると思う(あるいは仲間からファイルが共有される)。そのGPX/FIT/TCXファイルをWahooアプリで開けば、自動でデバイス側にも同期される。取り込み作業のような煩わしさが発生しないのがWahooの良さだ。
ナビゲーションの画面は相変わらずわかりやすい。WahooはV字型の矢印が線状に表示される。勾配があるところは色が黄色から赤に変わる。ほかのGPSサイコンを借りて使うこともあるが、Wahooのルート表示が一番わかりやすいと感じている。

V字の矢印のおかげで方向を見失わない
地図の表示レイヤーも設定でき、「POI」「町名」「風」「自転車専用道路」「サミットセグメント」などを表示させることができる。町名は“明治通り”“昭和通り”といった通り名も表示されるため、標識との整合性も取れてわかりやすい。「風」は天気予報データではなく空力センサーから読み取ったものが表示される(そのため正確性についてはあまり判断できなかった)。

地図の表示項目を細かく設定できる。町名は便利なレイヤー
Googleマップ連携
Googleマップの目的地をデバイスに連携できる機能が本当に素晴らしい。これだけでも最新のELEMNTを使う価値があると感じている。
最近はルートをがちっと決めず、わりと行き当たりばったりなライドをすることが多いが、そんなとき飲食店はGoogleマップで探すことが多い。今まではGoogleマップ上でルートを表示して、信号ストップのたびにスマートフォンを取り出してルートを確認していた。
でもWahooなら、Googleマップで行き先を表示したあと「Wahooアプリに送る」を押すだけで、目的地までのルートをELEMNTが引いてくれる。

①Googleマップの行き先を開いて[共有]ボタンを押す→②Wahooアプリを選択→③Wahooアプリで[ナビゲート]を押す
Googleマップで行き先を探す→Wahooアプリに送る→ELEMNTに表示という3ステップでルートが引かれるため、もちろんGPXをDLする必要もなく、スマホ上の体験がシームレスにELEMNTに連携される。こんなに嬉しいことはない。
バッテリー
ELEMNT前世代で、唯一競合に劣る点がバッテリー持続時間だった。中国や台湾などの新興メーカーが30〜50時間は当たり前になっている中で、ELEMNT ROAM v2は最長17時間だった。
それが最新世代では、BOLT3:20時間、ROAM3:25時間、ACE:30時間と大幅に向上している。Garminが最新モデルでバッテリーの持続時間を最大20時間に減らしているが、Wahooはロングライドの実用性に耐えるスペックに仕上げてきている。
特にACEの30時間は強力だ。発売当初は半分も持たないというレビューが相次いだが、アルゴリズムの改善で稼働時間はスペックに近いものになっている。
実際、仲間が270kmのライドをした際にも、ゴール時に53%も残っていた。バッテリー節約のためにしたことは、昼間にバックライトをオフにしたことだけ。通知はONのままだし、ナビも常時使っていたため、使い勝手を損なわない範囲でのこの持続性はとても心強い。

270km完走直後のバッテリーの状態
ひとつだけ不満を上げるとすれば、バックライトを「5秒オフ」の設定をしていると、ナビの曲がるタイミングになってもバックライトが光ってくれない。Garminはちゃんと曲がるときにバックライトが点灯してくれる。この点は今後のアップデートを期待したい。
ディスプレイ
ディスプレイは鮮明で見やすい。3機種を比べると、やはりACEの見やすさが圧倒的だ。BOLT 3は必要最小限の情報を見るには十分だが、ナビをよく見る場合は、やはりROAM 3やACEが便利だと思う。

並べるとACEのわかりやすさが際立つ
またダークモードを搭載しているのが良い。電力の消費を抑えられるし、スマートフォンでダークモードに慣れているため、体験の一貫性が生まれる。

夜間でもバックライトを点灯すればはっきり見える
自転車ベル(ROAM 3とACEのみ)
画面をダブルタップするとベルが鳴る。かなり音量が大きいので実用性は高い(音量調節はできない)。基本的にベルは鳴らすことはないが、山間部の熊よけ目的としても一定使えるのではと思う。ただ誤タップで音が鳴ってびっくりすることもある。

ちなみに地図上だけなぜかタップしても反応しないが、下の「一時停止」ボタン付近をダブルタップすればベルはちゃんとなる
惜しいのが、Garmin Edge最新世代のようにシフターボタンにベルを割り当てることはできない。これは今後のアップデートで実実装されてほしい。
空力センサー(ACEのみ)
空力が測定できるという情報に、発表当初はものすごくワクワクした。ただ現時点で表示できる項目は「対気速度」のみだ。どれだけ風の影響を受けているかを数値で把握できるのだが、この数値がライドやトレーニングに活かせることはほぼなく、単純に「今これだけ風の抵抗があるのか」「ドラフティングすると数字も下がるな」「今日のライドは向かい風が多かった」というのが定量的に把握できるのみに留まっている(面白いと言えば面白い)。

右下に表示されているのが対気速度。風の抵抗を受けるとき、体感値と数値は確かに一致する
今後CdA値を使ったエアロポジションの最適化なども実装予定となっているので、長い目でアップデートを待ちたいと思う。

前方の開口部が空力センサー。GPSサイコンの新たな可能性をこの穴に期待したい
重量(ACEのみ)
ELEMNT ACEは大きいだけでなく重い。Edge1050が161gなのに対し、ACEは210gある。主要メーカーの中では最重量なので、マウントや走り方によっては吹っ飛ぶ可能性があり、使用時は注意が必要だ。特に荒れた道やグラベルでの使用はリスクが増える。
幸いこれまでのライドで外れたことはないが、マウントは適正トルクギリギリまで締めること、万が一外れたときのことを考慮してストラップを取り付けることなど、個々で対策が必要だ。

ライトも付けると300g以上になるため、取り付けには注意が必要
ACEが取り付けられるマウント

K-edgeの一体型用マウントはACEに対応。写真はRoval Rapide Cockpitで使用している
丸ハンドル(31.8mm)の場合は同梱のアルミ合金マウントを使えばOK。
一体型ハンドルの場合、専用マウントを使うことになるが、ACEは筐体が大きいため、クリアランスが足らないと取り付けられないことがある。
もし手持ちのマウントで取り付けられなかった場合は、K-EDGEのELEMNT ACE対応マウント(別売)を使うことを推奨する。
PolymerのハンドルにはFramesandgearのものを使っている(ACE対応品)
Wahooを使う必然性

僕はずっとWahooを好んで使ってきたが、最新の3モデルを使ってみて、やはりWahooでないと満足できないと思った。
もう稼働時間の少ないGarminを使う必然性のあるサイクリストは少ないだろう。あるいは長距離を好むライダーは、COROS DURAやほかの中国製デバイスを選ぶかもしれない。
でもその中で最も心躍る体験をさせてくれるデバイスはどれだろう?ライド中に、景色以外にもっとも視界に入るのがGPSサイコンだ。それが自分の一番のお気に入りでなくて何を選ぶ?

起動時のイラストが季節によって変わるのが可愛い
筐体の質感、画面のUI、サウンドの質、すべてが上質であり、それらをスムーズなユーザー体験で包み込むのがWahooだ。
レビューにあたって、代理店から3デバイスを貸与してもらったが、最終的には「ROAM 3」と「ACE」を自分で所有して、ライドに応じて2つを使い分けるという決断に至った。普段は「ROAM 3」を使い、長距離や旅行では「ACE」を使う。
ELEMNTが最新プラットフォームになって、ライド体験そのものが洗練されたものへと進化していることがとても嬉しく思う。

3モデルとも特徴がはっきりしているので、自分に合ったモデルを選びやすい
text & photo / Tats(@tats_lovecyclist)
レビュー協力 / Taka & Anna
[PR]提供 / 株式会社インターテック
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