さあ、才能に目覚めよう。
人は自分自身に隠し持った才能があるのではないかと思うときがあります。
若い頃はその自意識が中二病という形で発病することがありますが、それを通過して大人になってからロードバイクをはじめたときでさえ、もしかしたら自分には小野田くんのように潜在的な力があって、ちょっと練習するだけでレースで簡単に周りをぶち抜けるのではないかとさえ考えることもあります。
実際はそんなことは全然ないのですが、でももしかしたらまだ秘めた潜在能力が開花していないのかもしれない、とポジティブに考えるものです。
そんな自分の隠れた才能を見つけるために、あるいは隠れていなかった現実を明るみにするために遺伝子検査はあります。
光るものを見つけることができるのか、僕も検査を受けることに。
text/Tats(@tats_lovecyclist)
1. 遺伝子検査でわかる潜在力
スポーツ遺伝子検査では3つの潜在能力を把握することができます。
1. ACTN3:筋肉のタイプ(速筋↔遅筋)
ACTN3遺伝子の検査によって、運動することで速筋がつきやすいか、遅筋がつきやすいかということがということがわかります。
その度合いによって「RR型」「RX 型」「XX 型」の3タイプに分類。下のパーセント値は日本人の比率を表します。
自転車競技であれば、ルーラーのような脚質で長距離を一定高出力するなら「XX型」が最適。パンチャーやスプリンターのような脚質、またはトラックレースのような短距離競技では「RR型」に適正があります。「RX型」はその間をとったバランスタイプ。
ACTN3(アクチニン3タンパク質遺伝子):収縮タンパクのアクチン同士を結合する構造タンパク質で、速筋の形成に関わる遺伝子
2. ACE:トレーニング効果の出やすさ
ACE遺伝子の検査によって、筋肉へ酸素や栄養を送り届ける⼒(血管拡張能)が把握でき、トレーニング効果=持久力が出やすい体質かどうかがわかります。
「I/I型」「I/D型」「D/D型」に分かれ、「I/I型」が最もトレーニング効果が出やすいタイプ。栄養・酸素を筋肉へ送る力が強く、運動で疲労を感じにくいため、筋持久力に優れています。
「D/D型」は瞬発的な運動に向いているものの、トレーニング効果が他のタイプより出づらいという悲しいタイプとなっています。
ACE(アンジオテンシン変換酵素):アンジオテンシンⅠをアンジオテンシンⅡに変換する酵素
3. PPARGC1A:長時間×高強度運動への適正
PPARGC1Aの検査によってミトコンドリア増殖能が把握でき、長時間高強度の運動が行えるかどうかがわかります。
ミトコンドリアは運動時にエネルギーをつくり出す役割。
「G/G型」「G/S型」「S/S型」に分かれ、「G/G型」が最もミトコンドリア増殖能が高く、高強度の運動でも⻑時間持続することができます。
「S/S型」はミトコンドリアが増えにくく、持久力が低いタイプ。。
PPARGC1A:骨格筋の中のミトコンドリア生成や、ミトコンドリアの機能を調整するPGC-1αたんぱく質の遺伝子
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LOVE CYCLISTの読者の多くが好むロングライドを主体とするライドスタイルであれば、遅筋寄りの「R/XまたはXX型」・持久力の付きやすい「I/I型」・エネルギー供給力の高い「G/G型」が理想的であると言えます。
ACTN3 | R/R | R/X | X/X |
ACE | I/I | I/D | D/D |
PPARGC1A | G/G | G/S | S/S |
ロングライドタイプに最適と思われる遺伝子
2. 検査キット「GeneLife」と「ハーセリーズ」の比較
スポーツ遺伝子検査ができる代表的なパッケージは、“GeneLife”と“ハーセリーズ”の2つ。
これらは価格と検査項目に違いがあります。
検査項目 | GeneLife | ハーセリーズ |
ACTN3 | ● | ● |
ACE | – | ● |
PPARGC1A | – | ● |
検査日数 | 2週間 | 15営業日 |
納品物 | ・検査結果報告書(PDF/8P) ・レシピブック(PDF/4P) |
・検査結果レポート(PDF/12P) |
価格 | ¥4,980 | ¥5,685 |
“GeneLife”の検査項目はACTN3(筋繊維タイプ)のみ。安価なので、速筋/遅筋タイプだけを知りたければこちらを選択します。オプションとしてレシピブックがあり、結果に合わせてタンパク質を中心としたパワーアップメニューや糖質を補うスタミナアップメニューを計10種類紹介してくれます。
対して“ハーセリーズ”はすべての項目が検査可能。その分高価になりますが、検査結果レポートの情報量はGeneLifeよりも充実。
ハーセリーズはWebレポート版のほかに郵送で結果が届くタイプもありますが、中身は変わらないので、スピーディなWebレポート版をおすすめします。
検査方法と期間
検査方法はどちらも同じ。
郵送されてくる検査キットに含まれる綿棒を使って、1分くらい頬の内側をぐりぐりとこすって唾液からDNAを採取します。痛みもなく(ちょっとおえっとなりますが)簡単に採取できるので安心。
あとは封筒に入れて返送するだけ。2つともおよそ2週間後にメールで結果が返ってきました。
どちらがおすすめ?
2つとも受けましたが、同じ検査項目の“ACTN3”は同じ結果だったので、キットによる精度の違いを心配する必要はありません。
そのため、どの項目まで知りたいかという観点で選びますが、ロードサイクリストであれば「ハーセリーズ」がおすすめ。
少し値は張りますが、筋肉のタイプだけでなく、ACEやミトコンドリア生成の検査によって、長時間肉体に高負荷をかけるロードサイクリングへの適正がわかるので、総合的な潜在能力を判断することができます。
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遺伝子検査の結果はペーパーテストと違って努力で変えることはできないものの、良い結果であればこれから言い訳はできないと考えるし、望ましくない結果であれば割り切って走るか、あるいはさらに努力に目を向けるためのブースターにもなります。
検査を受けることで、自分のこれからのライドやトレーニングにかける意識が間違いなく変わることが、遺伝子検査を受けるメリットだと感じます。
3. 自分の遺伝子を受け止めて
遺伝子検査は僕の周囲でも受けた仲間がいて、ちょうど何人かから同時期に「受けてみなよ」と言われて僕も興味を持つことに。
そこで前述の通りGeneLifeとハーセリーズを受けました。
この検査結果は僕のライドスタイルを知らない方にとっては何も面白くないものですが、結果によってこういう解釈ができるものだと、遺伝子検査の受け止め方を知ってもらえればと思います。
ACTN3:R/R型
速筋線維の割合が高く、瞬発⼒を要するスプリント・パワー系の運動に適しているタイプ*
ACE:I/I型
血管拡張能(筋肉への栄養や酸素の供給能)が高く、運動による疲労を感じにくいタイプ*
PPARGC1A:G/S型
ミトコンドリア増殖能は標準的で、運動の継続によりミトコンドリア量(エネルギー産生量)は少しずつですが増え、運動がだんだん楽に⾏えるようになるタイプ*
*ハーセリーズのレポートより引用
総合的に見ればエクササイズに対する適正は比較的ある方だとわかりました。なんか安心。
BMI19.0の痩せ型なのにパワータイプという結果になぜと思いましたが、周りに「意外とガシガシ踏むんですね」と言われたこともあり納得しました。
自分が気持ち良いと感じるペダリングはサイクリストによってさまざまで、僕の場合は90-100回転くらいで筋肉を使って強めに踏むペダリングが一番気持ち良さを感じます。それを一定強度続けやすい体なので、これはパワータイプのR/R型と血管拡張能に優れたI/I型が組み合わされた特性と理解。
ミトコンドリア増殖能は並ということなので、並なりに努力すれば結果はついてくる事実は十分にうれしいもの。(G/G型ならトータルで俺すげー感が出せたかもですが贅沢言わない)
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激しい喜びはなく、そのかわり深い絶望もない結果。
3つのファクトを総合的に判断すれば、R/R型=パワータイプだからといって単純にスプリンターを目指すのではなく、トレーニング効果の高いI/I型の特性を活かして今の気持ち良いペダリングをもっと強く長く持続できるようにし、そしてエネルギー供給力は並のG/S型らしく、淡々と成果が出るように走り続けていけばよいのだと理解しました。
仲間と脚質を把握し合おう
遺伝子検査は、こうやって自分がどんな体質かを把握して、トレーニングやライドの心構えを最適化するツールとして長けています。
さらにいつも走っている仲間にも受けてもらうことで、それぞれの仲間がどのタイプかを把握し、得意・不得意を知ることで、お互いを支え合うような走りができるようになるはず。
ロードサイクリング体験にさらなる深みを与えてくれる遺伝子検査は理屈なしに普通に面白く、未体験のサイクリストはぜひ受けてみて、仲間と結果を語り合ってほしいと思います。
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