Text/Ryuji(@marusa8478)
パワーメーターは、“パワメ”という単語で通じてしまうほど、今やサイクリストにとっては一般的な機材となりました。
僕がロードに乗り始めた当時(12年くらい前)に流通していたパワーメーターというと、クランク(スパイダーアーム)計測型のSRM(当時の価格で60万円ほど)とハブ計測型のPowerTapの2メーカーくらい。
SRMは高価すぎる、PowerTapもハブに組み込むタイプとなりホイール自体を組み直す必要があったりと、参入障壁自体が高かったので、ほとんど導入している人は見かけませんでした。
ただここ数年は、必要十分な機能を備えながらも比較的リーズナブルなモデルが出回るようになったことで、パフォーマンス思考のサイクリストに限らず、さまざまなサイクリストに広く普及してきています。
今回レビューするFavero『Assioma(アシオマ)』は、そんな新興モデルの中でも特に注目されているペダル計測型のパワーメーター。Assiomaは計測ユニットが左右に組み込まれた「DUO」と左側のみの「UNO」の2種類が展開されています。
その中で定価¥80,000という驚きの価格で登場したAssioma DUO。2ヶ月間使用したレビューを詳しくお伝えします。
*本レビューのAssioma DUOはFavero Electronics社提供のもので、レビュー内容はLOVE CYCLISTオリジナルの中立的なものです。
レビュアー Ryuji
学生時代には積極的に走り込み、競技として自転車を楽しんでいたが、長い間レース強度の走りからは遠ざかっていた。2020年末頃からは、また高い強度の走りに目覚めつつあり、今回Assiomaを導入したことで、レビューする間も少しずつ成果を感じている。
Contents
1. Favero Assioma
Assiomaを開発したFavero Electronics(ファベロ・エレクトロニクス)社は、イタリア・トレビーゾを拠点に、30年以上スポーツ電子機器のデザインから製造まで手掛けてきた企業。現在は110か国に対してスポーツ電子機器を販売しています。
Assioma DUO/ Assioma UNOスペック
重量 | 151.5g(片側) |
Qファクター | 54mm |
通信規格 | ANT+/Bluetooth v4.0 |
防滴防塵 | 有り(IP67) |
最大パワー | 3000W |
パワー計測精度 | ±1% |
ケイデンスセンサー | 内蔵 |
対応クリート | Look Keoクリート/Keoグリップ(オリジナルのみ) |
保証 | 2年 |
価格(税抜) | Assioma DUO:80,000円 Assioma UNO:51,000円 |
Assiomaのようなペダル計測型のパワーメーターは、複数台バイクを所有している場合、ペダルを別のバイクに取り付けてすぐにパワー計測ができるというメリットがあります。
現時点ではLook Keoクリートしか選択肢がありませんが、導入のハードルはパワーメーターの中で最も低く、パワー計測を手軽に始めたいサイクリストにとっては最も優れた選択肢となりました。
スペックを見ると、Assiomaは競合含めたパワーペダルの中で最も軽量で(Garmin Vector3は約162g)、計測精度が最も高く、そして最も低価格*。
このスペックが本当に信頼できるものか、以下より見ていきます。
*参考:パワーメーター購入ガイド
2. セットアップ手順
①アーレンキーで取り付ける
ペダル計測型のパワーメーターは、指定されたトルクで締めないと正確にデータが取り出せないタイプと、そうではないタイプがあります。
有名なペダル型モデルにGarmin「Vector3」がありますが、Vector3は前者のトルク管理が必要なタイプ。
対してAssiomaは後者です。付属の8mmアーレンキーを使ってクランクに取り付けるだけでOK。外部センサーなどの取り付けも必要ないのでとても手軽です。
②専用アプリで同期する
取り付け作業と同時に、Assiomaアプリ(iOS | Android)をインストールしてクランクに取り付けたペダルを同期します。
同期するには、アプリを起動して画面右上の虫眼鏡をタップ。ペダルを空転させれば自動的に電源が入り、アプリが信号を拾ってくれます。
アプリは日本語対応
あとは同期された状態で、アプリ内のクランク長などの情報を更新。
クランクを地面と水平にした状態で、アプリからキャリブレーションをすればセットアップ完了です(サイクルコンピュータからも可能)。
ここまで実際にやってみても、何も迷うことなく、ユーザーフレンドリーな印象を持ちました。
3. 可視化できる項目
Assiomaはパワーだけでなく、さまざまなデータ解析も可能。
DUOの場合は、左右のペダリングパワーバランスはもちろん、「ペダリングパワーフェーズ(ペダルに力が入り始めてから終わるまでの範囲)」、「ピークパワーフェーズ(最大トルクが入り始めてから終わるまでの範囲)」や「ダンシング/シッティングタイム」を計測できます。
これらのデータの活用法は個々の目的によって変わってきますが、僕は主にバイクフィッティングの際に有効だと思います。
例えば、ポジションを調整してもらった後の改善効果は、今までであれば感覚的な評価しか得られませんでしたが、これらの指標があることで変化を定量的に把握することができます。
逆に悪化してきた場合も同様で、常に自分のペダリングの状態を確認することに役立ちます。
4. 計測精度検証
計測精度はパワーメーターにとって一番重要な指標です。ここでは計測精度と、データ抽出や通信面の安定性についてみていきます。
スマートトレーナーで精度を確認
精度を確かめるために行ったのは、「Assiomaの計測精度と同等のスマートトレーナーを用意して、約1時間同時に使用した時の数値の差を確認する」という方法です。
比較のために用意したTacx「Neo 2T Smart」は、数あるスマートトレーナーの中でも計測精度の高さに定評があり、公表値ではAssiomaと同じ±1%。
▼実際の計測値
平均パワー | 最大パワー | 標準化パワー | |
Assioma DUO | 227W | 877W | 232W |
Neo 2T Smart | 225W | 873W | 230W |
こうして実際に比較してみると、Neo 2T Smartの数値とほとんど差がないことが分かります。
またこの比較実験以外でも、野外走行も含めた全期間で、ペダリング中に通信が途絶えたり、おかしな数値を示すことはなく、非常に安定した動作をしていました。
高い計測精度を生み出すテクノロジー
ここまで正確な数値を抽出できる理由は、IAV(Instantaneous Angular Velocity)テクノロジーと呼ばれる、同社独自の計測テクノロジーが採用されているところにあります。
赤い曲線のように実際の角速度の変動を計算に応用することで、精度の高いデータが抽出される ©Favero Electronics
多くのペダル計測型パワーメーターの場合、左の図のようにペダルストロークの加速度をペダル一回転の平均値で計算しますが、Assiomaの場合は、ペダル内部に搭載された三軸ジャイロスコープとIAVパワーシステムによって、右の図のように実際の角速度傾向と変動を検出。
それをパワーの計算に用いることで、瞬間的なパワーの角度と速さを割り出します。
だからペダリングが不安定になりがちな上り坂でのダンシングや、楕円チェーンリングを使用した際のペダリングでも、±1%の正確な数値を抽出してくれるということです。
5. Assiomaを選ぶメリット
バッテリーの取り回し
取り付けが超簡単、計測精度も高い。これだけでもう言うことはありませんが、バッテリー周りもほぼストレスがありませんでした。
新品時はフル充電で50時間稼働。電池式のVector3は120時間なので、比較すると少なめに感じますが、充電がシンプルなので利便性はこちらが上回っていると感じます。
付属の充電用ケーブル(マグネット式)をシャフト部分のコネクターに接続するだけ
残りの稼働時間が8時間になった時点でサイコンに通知が送られるので、充電忘れもなくなります。
また公式サイトでは、実際にバッテリーの耐久性をテストした実験結果が公表されていて、フル充電を500回繰り返した時のバッテリー容量の減少は約20%であったということでした。
つまり、500回充電しても40時間も稼働できるということ。
僕の場合は、週に200㎞ほど走って、2ヶ月のレビュー期間で充電したのは、セットアップの時に満タンにした一度だけだったので、このペースで使用してもざっくりと70年ほど使用できる耐久性を持っています(その前にペダルがヘタってしまいますが)。
防滴・防塵性能
AssiomaはIP67規格を満たした防滴・防塵性能。そのテストの様子は公式サイトに掲載されています。
©Favero Electronics
Assiomaのカットサンプルを見ると、基板やバッテリーが内蔵される部分は、隈なく樹脂が満たされていて水分や塵が入り込む余地はないようです。
少なくとも2ヶ月の使用ではまったく問題ありませんでした。
豊富なスペアパーツ
バイクを寝かしたり、立て掛けたり、転んだりした時など、なにかと傷がつきやすいロードバイクのペダルは、消耗品という側面があります。
Assiomaはパワーメーターの中では低価格と言えますが、高価なものには変わりないので、長く使えるに越したことはありません。Faveroはそういったユーザーの心情に対しても配慮しています。
例えばペダルボディやベアリングの摩耗、落車でスピンドルが曲がってしまったなどのトラブルがあっても、部分的に購入して修理することが可能。
また最初にUNOを購入した場合でも、後からアップグレードキット(¥50,151)を買い足して、両足計測のDUOとして使用していくこともできます。
このように慣れ親しんだパーツを長く使えるように、豊富なスペアパーツの展開によってフォローしてくれている点も好感を持ちました。
6. 気になったポイント
今回Assiomaをレビューする中では、良いところばかり見えてきていたのですが、少し気になった点を挙げるとすれば、54mmというQファクターです。
これまで使用してきたシマノ・デュラエースのペダルは52mm。対してAssiomaは54mmなので、今までよりもペダリングの位置が2mm遠ざかりました。
個人的に2㎜の変化はほとんど気になりませんでしたが、例えば50㎜幅のスピードプレイユーザーや、Qファクターの狭いペダルを好む人、コーナリングで深く倒し込むライディングをする人とっては気になるポイントかもしれません。
※2021年7月追記
SPD-SL対応モデルとなる「Assioma DUO-Shi」が2021年7月にリリースされましたが、Qファクターが64〜65mmとなっており、Assioma DUOと比較すると大幅にスタンスが広がるため注意が必要です。
7. 「パワー」をより身近にする存在
高級機材の代名詞だったパワーメーターも、今や10万円台がボリュームゾーンになり、コモディティ化はさらに加速しています。
価格、精度、使いやすさ、耐久性、どれをとっても申し分ないポテンシャルを持ったAssiomaでの体験は、パワーメーターの黎明期を見た僕にとって、テクノロジーの進化を痛感するものでした。
今後はこのAssiomaを通して、欠かすことのできない指標となった「パワー(ワット)」という概念を、より多くのサイクリストが共有できるようになると確信しています。
Highs
- ・信頼できる計測精度
・入手しやすい価格
・防滴防塵性能
・長持ちするバッテリー
・スペアパーツが豊富
Lows
- ・Qファクターが54mmと広め
・クリート選択肢がLook Keoのみ
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