
エンデュランスロードというカテゴリを評価するのは常々難しいと感じている。ピュアレーシングロードのような派手さがなく、スペックや見た目だけでは魅力が伝わりにくい。「快適性」は強みではあるものの、キャッチコピーとしてはありふれている。一方で、“ロングライド向け”と言われるように、実際のライドでは多くの時間を共にする存在でもある。
Cannondaleの『Synapse(シナプス)』はエンデュランスロードの代表格とも言える存在だが、2025年に登場した新型は、これまでのSynapseの系譜から大きく変化したものだと感じた。フル内装化、SmartSenseの刷新、1xドライブトレインの採用など、個々の要素もそうだが、完成車としての構成やジオメトリを含め、どのようなロードバイクとして提示されているのかを改めて整理する必要があるモデルだ。
それは実走を通して見えてくる部分が多いため、普段SuperSix EVOに乗っているHirokoととも、新型Synapseがどのようなロードバイクなのかを、デザイン、構成、実走フィーリングを通して見ていく。
レビュアー
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Hiroko – ヒロコ
学生時代にサイクリングサークルに所属し、クロモリバイクで全国をツーリングしていた。山で遊ぶことが好きで、自転車以外にも北アルプスの山々を縦走したり、基礎スキーをしたりと、さまざまなアクティビティに精通。2024年からCannondale SuperSixEVO Hi-MODに乗る。 |
review / Hiroko[PR]
edit & photo / Tats
※本レビューは、国内代理店インターテックよりバイク貸与を受け、一定期間にわたって実走テストを行ったものです。
エンデュランスロードの歴史を紡ぐ

初代Synapseの誕生から19年がすでに経っている。今でこそ「エンデュランスロード」というカテゴリは一般的だが、その黎明期から歴史を紡いできたバイクがSynapseだ。ただその立ち位置から、レースバイクと比べると見た目や走りが控えめに映っていたのも事実だ。「速さを求めない人の選択肢」と受け取られるケースも少なくなかった。

SmartSenseに目が行く前世代Synapse
前世代Synapseになると、SmartSenseが搭載されたことで、余計に評価が難しくなった。バッテリーを統合管理できるという利便性はあるにしても、あまりにSmartSenseが目立っていたせいで、前世代Synapseの評価=SmartSenseの評価に繋がっていたことは否めない。3年前にLOVE CYCLISTでレビューしたときも、なるべくバイクそのものについて書くことに留意したが、それでも使ってみて未完成だと感じたSmartSenseのことに触れないわけにはいかなかった。エアロシェイプになったバイク自体のフィーリングが良かっただけに、メーカーの人間ではないにもかかわらず、とても歯がゆい思いだったことを覚えている。

新型Synapseの登場は、旧SmartSenseの呪縛から逃れ、そのイメージを大きく更新した。
外観、ジオメトリ、機能のすべてを見直し、CannondaleがSynapseを“Road Reimagined”というコピーで紹介するように、レース基準と現実的なライド基準の2つのアプローチから再構築されている。

スタックとリーチは前世代と同じで、安定感のあるポジションは変わらない。シートアングル73°も同様で、ペダリング効率を損なわない位置に設定されている。
ただヘッド角71.3°(54サイズ)はEVOの71.2°に近くなり、よりシャープなハンドリングの方向へと変更された。高速域の安定性と下りでの安心感につながるホイールベースは前世代98.7mmよりやや長めの102.6mm。SuperSix EVOのような反応の鋭さに寄せつつ、長時間安定して気持ちよく走り続けるためのジオメトリとなっている。

シートチューブは、上部はEVOに近いが、下部はSuperXと同じ先細りの湾曲した形状。オールロード/グラベルバイク寄りの雰囲気を出している

タイヤクリアランスは最大42mm。前モデルの35mmから大きく広がった。数値だけを見るとグラベルバイクかと思うが、Synapseの方向性はあくまでロードバイクにある。未舗装路へ積極的に踏み込むためというより、荒れた舗装路や長距離ライドでの快適性と安心感を確保するための余白として設けられている印象だ(テストバイクのタイヤは32cを装着)。

今回レビューするSynapse LAB71は、そのハイエンドモデルだ。普段SuperSixEVOに乗っているHirokoは、EVOとSynapseの性格はかなり異なるにもかかわらず、「新しいSynapseなら自分のバイク選びの選択肢に入る」と語る。ジオメトリから見える特性と、実際の走行感はどのようにリンクしてくるだろう。

Synapseは、軽量レーシングロードSuperSix EVOとレーシンググラベルSuperXの要素がミックスされている
現代的なロードバイクとしての佇まい

そもそもエンデュランスロードは、性能以前に見た目で敬遠されることが少なくない。にもかかわらず、新型Synapseを初めて見たとき「ものすごくスッキリして純粋にカッコいい」と思えた。前作までのSynapseが持っていた、エンデュランスロードらしい厚みが薄れ、全体としてとてもクリーンな印象に仕上がっている。
スローピングは前作より緩やかになり、フレーム全体のプロポーションが整っただけでなく、チューブ断面やラインはシンプルで、結果として「速そう」「よく走りそう」という印象を自然に与えている。いわゆるレースバイクと並べても違和感は少ない。見た目の時点で「これは選択肢に入らない」と感じさせないことは、このモデルにとって大きな意味を持つ。

Black Marbleのカラーは、SRAM Redのメタリックなシルバーやブラックの質感と相まって、洗練された印象を与える。フレーム形状の美しさと素材感が素直に伝わる仕上がりで、LAB71という位置づけにも違和感がない。

このサイズで最大800ルーメン。前世代が350ルーメンだったことを考えると、SmartSenseがやっと実用的になったと言える
SmartSenseのフロントライトはコンパクトになり、バッテリーもダウンチューブ内に収められたことで、見た目の主張は最小限に抑えられている。旧SmartSenseのように、機能を追加した結果としてゴチャつくのではなく、ロードバイクとしての造形の美しさを優先してまとめきたと感じた。

見た目で敬遠されがちなエンデュランスロードだが、新型Synapseは、その入り口を確実に広げている。快適性や利便性を前面に押し出したような見た目ではなく、まず現代的なロードバイクとしての佇まいを整えるということ。ディスクブレーキ時代になってロードバイクの洗練が加速しているなか、その思想が新型Synapseから溢れ出ている。
削ぎ落とされた要素
Synapse LAB71の完成車は、ほかのロードバイクにはない1xドライブトレインとSmartSense(第2世代)という独特の要素を持つ。どちらも目新しい要素だが、これらを搭載することで得られてたのは、機能の追加というよりも、判断や操作のレイヤーが削ぎ落とされた状態だ。
1xドライブトレイン

SRAM Red AXS XPLR(フロント44T/リア10-46T)
SynapseにはSRAM Red AXS XPLRの1xドライブトレインが完成車に採用されている。
LOVE CYCLISTではこれまで、フロントシングルは効率面やメンテナンス性の観点から、ロードバイクにおいても今後より一般的になっていくと伝えてきた。変速トラブルの減少、操作のシンプルさ、実使用における合理性を考えれば、必然的な流れだと考えている。
Synapse LAB71に1xがアセンブルされたことは、その考えをメーカー側が明確に形にした例と言える。2025年3月のE3サクソ・クラシックで、リドル・トレックの選手がRed XPLRの1×13構成を使っているが、レース用の一時的なセットアップだけではなく、フラッグシップの完成車として成立させてきた点に意味がある。
実際に使ってみても、フロントシングルで不便さを感じる場面はほぼなく、メリットのほうが大きい。ギアのつながりは自然で、巡航から登りまで対応範囲も広い。変速操作に意識を割く必要がなく、ペダリングやライン取りに集中できる点は、Synapseの性格ともよく合っている。
エンデュランスカテゴリーで「どこまで効率化できるか」という問いに対し、1xドライブトレインはひとつの明確な答えを示している。そしてその答えは、これまでLOVE CYCLISTが伝えてきた考え方とも自然に重なっていた。
SmartSense Gen 2.0

SmartSenseは第2世代にアップデートされ、フロントライトとリアレーダーだけでなく、eTapも統合されたことで、充電に関する煩わしさがひとつ減っている。ただSmartSenseは、これ単体として評価するよりも、完成車としての構成の一部として捉えるべきだと感じた。

バッテリーはダウンチューブ内にある
まず従来モデルと比べて各ユニットはコンパクトになり、バッテリーもダウンチューブ内に収められているため、SmartSenseの存在を意識しないかたちで組み込まれている。実走でも、ライトやレーダーを「使っている」という感覚よりも、ライド体験に自然に組み込まれているという感覚だった。ライトは自動でON/OFFされるし、勝手にサイコンにレーダーが通知されるし、走行中に余計な判断を挟まずに済む状態が続く。

走行中の安心感や余裕を静かに下支えする役割に徹しており、日が暮れるまで長距離を走るSynapseとの相性が最高に良い。

帰ってきたらType-Cの充電口にケーブルを差し込むだけで、ライトもeTapも充電される。サイコンやスマホに加えてSynapseの充電もライド後のルーティンに組み込めば、充電忘れがなくなる

ダウンチューブには専用のケースが収納でき、パンク修理キットはすべて中に入れればOK。現実のライドのための合理的な設計だ
SuperSix EVOと対比して見えるもの

←SuperSix EVO | Synapse LAB71→
Synapse LAB71(以下Synapse)は、乗り心地も漕ぎ心地も「滑らか」という表現がぴったりだった。ペダルを回すと、力を誇張することなくスルスルと前に進む。踏んだ瞬間に反応を返してくるというより、常に半歩先で背中をやさしく押し続けてくれているような感覚というのが正しい。このフィーリングは、SuperSix EVO(以下EVO)と比べると分かりやすい。

どちらも速いことに変わりはないが、「速さへのアプローチ」が根本的に異なる。
Cannondaleはこのバイクを“現実のライドのためのワールドツアーパフォーマンス”と打ち出しており(まさにSynapseを言い表したコピーだ)、この速さへのアプローチの違いが“現実のライド”に限りなくフィットする。

漕ぎ出しから巡航域までのつながりもいい。低速域から40km/h前後まで、力の入り方にムラを感じさせず、伸びやかに加速していく。EVOが「踏んだ力を前に変換する」感覚だとすれば、Synapseは「回し続けることで前に運ばれる」感覚に近い。

登りでもこの違いは明確だった。
Synapseの重量は54サイズで約7.8kg(ペダルなし)。LAB71クラスとしては重く感じる数字だが、SmartSenseが460gを占めることから、バイク自体の重量は十分軽い。
5%程度の緩い上りだと、Synapseは平地の延長のようにペダルを回し続けられる。踏み込みの強弱による引っかかりが少なく、終始滑らかに進んでいく。EVOに乗り換えたときにも登りが楽になった記憶はあるが、Synapseはそれ以上に滑らかで、足にかかる負荷が均一だ。

下りでは安定感が際立つ。スピードが上がっても挙動は落ち着いていて、路面の凹凸をフレームが自然にいなしてくれる。32cタイヤの安心感も相まって、荒れた路面でも余計な緊張を強いられない。EVOが軽快さとシャープさで下りを楽しむバイクなのに対し、Synapseは安心感をベースに、安定したスピードで下っていけるバイクだ。

平地巡航では、意外にもEVOとの差は小さい。フロント周りの見た目はEVOとよく似ていて、空力的な不利は感じにくいし、ペダルを止めても失速しにくく、淡々と一定ペースで走り続ける感覚が心地よい。脚力に自信がある人だけでなく、さまざまな走力のライダーが、それぞれの快適な速度域で軽快に巡航できる懐の深さがある。

100kmを超えるライドでも、疲労はかなり少なかった。適度にアップライトなポジションのまま伸びやかに自転車が進んでくれること、またシートチューブの形状のおかげか、振動の伝わりも穏やかで、総合的に体への負荷が少ない。

SuperXと同じシートチューブ形状は穏やかに振動を減衰する
EVOでは「走り切った達成感」が残るのに対し、Synapseでは「まだ走れそうだ」という余裕が残る。自転車が乗り手に寄り添い、一体になって推進してくれるような快適さがあり、一人でもロングライドに出かけたくなる。

総じて、SuperSix EVOが「横でAllez!Allez!と応援されて、踏んで苦しくもがいて反応してくれるのも楽しいバイク」だとすれば、Synapse LAB71は、「やさしく背中を押されながら淡々と進み続けるバイク」だと言える。
速さを誇示することなく、気持ちよく回し続けていれば、速度も距離も自然と伸びていく。その滑らかさと一貫性こそが、Synapseの走りの本質だということがわかる。
パッケージとしての完全体で描くもの


コンセプト、外観、スペック、走行感すべてから得られるSynapse LAB71の最大の強みは、完成車としての“完全体”とも言えるパッケージ力だ。LAB71という位置づけもあり、フレーム単体の完成度が高いのは当然だが、それと同レベルで印象に残るのは「すべてが揃っている」という点。
1xドライブトレイン、SmartSenseによるライト・レーダー・eTapバッテリーの統合管理、パワーメーターまで含めて、ライドに必要な要素がすでに完成された状態で提供されている。できることと言えば、ホイールを1セット買い足して、太いタイヤを履かせることくらいだろう。
その装備を受け止めるだけの包容力を、バイク自体がしっかり備えている。滑らかな走行感、穏やかな振動の伝わり方、クセのないハンドリング、そしてEVOに劣らない総合的な速さ。これらが合わさることで、「これさえ買えば路上はすべてカバーできる。機材について悩まなくていいから、あとはライドに集中すればいい」という、強力な状態が成立している。

日が暮れるまで遊び尽くしたくなるSynapse
新型Synapseは、エンデュランスロードというカテゴリーを、単なる快適志向のバイクとしてではなく、速さと実走環境での合理性を突き詰めたロードバイクとして再定義した。レースバイクの代替でも、グラベルロードの簡易版でもない。舗装路を主戦場に、道の上の高速域の活動をすべてカバーする、独立した立ち位置だ。
もちろん自分好みのバイクを組み上げたいというサイクリストには物足りなく感じるのは確かだ。ただ現代のハイエンドモデル完成車のほとんどは、パーツを換装できる要素があまりない。その中でもSynapse LAB71ほど包容力を備えたパッケージを提供するバイクはないだろう。
機材選びに時間を使うのではなく、長く速く走ることに集中したい。Synapse LAB71はそのための最高の一台だ。


Cannondale Synapse LAB71 SmartSense(公式サイト)
review / Hiroko[PR]
edit & photo / Tats

















