
2016年にドイツで生まれた『FINGERSCROSSED』は、サイクリングソックスブランドとして一躍有名になり、世界中のスタイルコンシャスなサイクリストの足元を支えてきた。
そのFINGERSCROSSEDがウェアを展開したのが去年のこと。今年初めて春夏シーズンを通して着たのだけれど、今ではすっかりこのウェアに惚れ込んでいる。ただ最初からそうだったわけではない。
model / Anna, Saad, & Tats
text & photo / Tats(@tats_lovecyclist)
*本レビューのウェアはFINGERSCROSSED提供によるものです
アクセサリーブランドであってほしかった

『FINGERSCROSSED(フィンガーズクロスド, 以下FC)』といえば、ソックスやウォーマーを中心としたアクセサリーブランドだと認識している人が多いと思う。僕らもそうだった。だから昨年、FCがサイクルウェアの展開を始めると知ったとき、本音を言えばやってほしくないと思った。

5年前。この頃からずっとFCを履いていた
僕らは色々なブランドのウェアを着たい。デンマークのウェアを着る日もあれば、英国やオーストラリアのウェアを着るときもある。どれに合わせても浮かず、スタイリングをまとめられるアクセサリーブランドは、FCがもっとも適していた。ウェアブランドのソックスは自社のウェアとの相性を前提にデザインされているので、ロゴがぶつかってしまう。FCはどのブランドとも噛み合う中立の立場にいたからこそ、僕らは足元をFCで統一してきた。
FCがウェアを展開するということは、その中立性を手放すことを意味するのではないか?他ブランドのジャージにFCのソックスを合わせるとき、どこか後ろめたさのようなものを感じるようになるかもしれない、と。
加えて、初年度のラインナップを見る限り、SKUがまだ少なかった。ウェアブランドとしてこの先どこまで本気で取り組むのか、外から見ている僕らにはまだ判断がつかなかった。
初めて袖を通してみて

今年6月にFCライドが開催された
その印象が大きく変わったのは今年に入ってからで、FCにとってはウェアの2シーズン目にあたる。
6月、本国からマーケティング担当のLukasが来日するのに合わせて、東京でFCのソーシャルライドが開催された(ライドの様子は「Snap Journal【2026年7月】」にまとめている)。

僕らが初めてFCのウェアに袖を通したのはこのときだ。着てみると、それまでの懸念がほとんど消えてしまった。滑らかな生地感、綺麗なシルエット、ポケット類の使い勝手の良さ、身体に馴染む心地よさ。
「ああこれはいいウェアだ」と瞬時に判断した。そういうブランドは意外と少ない。新しいブランドの中には、どこかしらひっかかりが生まれることもあるからだ。

アクセサリーを通して長年サイクルアパレルの世界に関わってきたFCが、なぜ満を持してウェアをリリースしたのか、その意味がここでようやくわかった。創業してすぐ安易にウェアへ手を出すことはせず、アクセサリーブランドとして地盤を固めながら、裏側ではウェアの研究を続けていたのだろう。
そしてほかのブランドを凌駕する品質を出せると判断したタイミングで、初めて世に送り出した。ソックスからウェアへ年月をかけたこの順番が、FCのプロダクトの完成度を説明しているように思う。
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このライドをきっかけにFCの虜になったメンバーのAnnaは、その後FCのアンバサダーになっている
ブランド名の読み方と意味

指をクロスさせると…?
少し悲しいのが、日本ではFINGERSCROSSED(フィンガーズクロスド)を正しく読むサイクリストに出会うことが非常に少ないことだ。フィンガークロスだったり、フィンガーズドクロスだったり…。
“ふたつの指(フィンガーズ)を交差させる(クロスド)”という意味だと理解すれば覚えやすいだろうか。
この指のかたちは、魔を払うためにキリストの十字架を模したことが由来だとも言われ、「幸運/成功を祈る」という意味がある。読者の中でも「バリア!」と言ってキッズ時代に鬼から身を守ってきた方も多いのではないだろうか。
シンプルさの中に、特別なものを見出す

FCはこう言っている。
FINGERSCROSSED sees the extraordinary in simplicity.
(FINGERSCROSSEDは、シンプルさの中に特別な価値を見出す。)
品質、機能、時代に左右されないデザインに妥協なく向き合い、本当に必要な要素だけにそぎ落とす。そうして生まれた製品は存在を主張せず、ライダーが走ることそのものに集中できるようにする。FCが目指しているのは、着る人が「こうありたい」と思う気分のままでいられるプロダクトだという。

左足のワンポイントだけでFCのソックスだとわかる
ソックスの白地に小さなワンポイントのリベットだけを置くというデザインは、まさにこの考え方から生まれたものだったのだとわかる。アクセサリーで培ってきた引き算の美学を、そのままウェアに持ち込んでいる。

もうひとつ印象的なのは、ブランドの規模に対する考え方だ。FCは自らの小さな規模、コミュニティとの距離の近さ、そして意思決定の速さが、キャンペーンやローンチ、ひいてはブランド全体をかたちづくると明言している。
アンバサダーの選び方もそれに沿っていて、フォロワー数やアルゴリズムは二の次であり、その人自身のストーリーやサイクリングコミュニティにもたらすものを重視するのだという。東京のライドが、Lukasの来日に合わせて地元のサイクリストと一緒に走るかたちで企画されたのも、この姿勢の表れだろう。
生地も、着心地も、色も。

ジャージ/#ROAD JERSEY SUPER LIGHT(¥29,500)、ビブショーツ/#ROAD BIB LIGHT PLUS+(¥38,500)
SS26のラインナップをみたとき、カラーパレットがとても素晴らしいと感じた。去年のラインナップから大幅に増え、組み合わせを選ぶ楽しみが広がった。3人が自分の好きな色を選んで、それぞれの色がバラバラでも一体感が生まれるのは、FCの完全に構築された世界観によるものだ。
#ROAD JERSEY SUPER LIGHT

ジャージには、夏場の暑いライドを想定して通気性を高めたイタリア製のメッシュ生地が使われている。

縫製はリトアニアで行われていて、一着ずつ熟練の職人が裁断から縫製、仕上げまで手がけているという。縫い目やグリッパーはすべて生地と同じ色で揃えられていて、遠目に見ても近くで見ても、ウェアの表情にノイズがない。

僕らが特に気に入っているのが、ロゴの入れ方だ。脇のプリントのほかに、胸と背中にタグが縫い付けられていて、これがとても可愛い。さりげないけれど、FCのウェアだというアイデンティティになっていて、シンプルさの中の特別感がここで表れている。

カラー名のHimmelblau(ヒンメルブラウ)はドイツ語で「空色」を意味する。淡く澄んだブルー。
フィット感は本当に素晴らしい。生地が余らないし、通気性も良いし、ウェアの存在を忘れるくらい身体に馴染む。
#ROAD BIB LIGHT PLUS+

ビブショーツのメイン生地もイタリア製で、背面にはメッシュのインサートを入れて通気を確保している。コンプレッションはしっかり効かせつつ、空気の流れを妨げないことを狙った設計だ。

パッドにはElastic Interfaceの「HCS Pro Peloton」を採用している。高密度フォームを用い、抗菌性も備えた男女別設計のパッド。ハワイで160km走ったときもこれを着用したが、長距離のライドでもまったくお尻が痛くなることはなかった。

左脚にはカーゴポケットがあるのが便利。レーシーなカットなので、ポケットもさりげない。
中立性はなくなったか?

毎シーズンデザインが可愛いソックス
ソックスについて、当初感じていた「FCソックスの中立性がなくなるのでは?」という懸念だけれど、まったくの杞憂だった。ソックスはソックスとして完全に中立なプロダクトとして存在しており(ソックスにはロゴが入っていないからだろう)、今でもほかのブランドのウェアと組み合わせて違和感がない。

秋冬のカラーパレットは、赤のJaspisと緑のZederという補色を軸に、落ち着いたBlackとGroundを加えた4色。強い色でも組み合わせで浮くことはなく、秋冬の景色に収まる考えられたトーン
AW26コレクションも、ラインナップが厚みを増している。長袖ジャージの「#ROAD JERSEY LS」と、その裏起毛版である「#ROAD JERSEY LS THERMAL」、ビブショーツとロングビブのサーマルモデルに加え、ウインドジャケット、中綿入りのインサレーテッドジャケット、レインジャケット、ウインドベスト、ベースレイヤーまで揃った。
ウェアによってFCはブランド価値を上げ、ソックスの中立性はそのまま保たれる。すごくうまいやり方をしているな、と感じている。
アンバサダーAnnaはすでにFCの秋冬モノを手にして、そのつくりの良さに感動している。これから彼女のInstagram上の発信も楽しみにしていてほしい。

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model / Anna, Saad, & Tats
text & photo / Tats(@tats_lovecyclist)















