サイクルウェアの洗濯術〈完全保存版〉:匂いも汚れも残さない洗い方のすべて。

衣類は消耗品ではあるものの、お気に入りのウェアはできる限り大切に、長く使いたいもの。そのためのケアはちゃんとできている?
正しい洗濯方法を実践すれば、匂いも汚れもきれいさっぱり。少しの手間で、ちゃんと長持ちだってする。クリーンなウェアを身にまとって、清潔感溢れる気持ちの良いライドに出掛けよう。

特別監修:吉本 司@kop_2014
自転車ジャーナリストとしてサイクリング専門誌を中心に活動。取材活動の傍ら、クリーニング専門店に足を運び、サイクルウェアの洗濯・ケアに関する知識を深めてきた。実践的なアドバイスがサイクリスト界で広く支持されている。
聞き手:Anna@annannanna1002
Specializedライダー(S-Crew)。走ることが大好きで、休みのたびにさまざまな山に遠征。ウェアの正しい洗濯方法を知りたい。

edit & photo / Tats@tats_lovecyclist

基礎知識編:汚れは何で落ちる?

ラブサイメンバーのAnnaが、自転車ジャーナリスト・吉本司氏のもとを訪ねた。
吉本氏は、これまで複数のクリーニング店への取材を重ね、サイクルウェアの洗濯を知り尽くしている。我々がなんとなくで済ませていたウェアの洗濯について、基礎から応用まで、丁寧に教えてもらう。

意外と知らないことが多いサイクルウェアの洗い方

Anna: 吉本さん、今日はよろしくお願いします。実は以前ライド仲間にジャージの洗い方をダメ出しされたことがありまして、ちゃんとしたサイクルウェアの洗濯方法を知っておければと思い、今回お話を伺う機会をいただきました。

吉本: こちらこそよろしくお願いします。そうだったんですね。ちなみにどんなダメ出しをされました?

Anna: お恥ずかしいのですが、ライドから帰ってきてすぐ洗わないことや、洗剤を大量に入れていること、いつも室内干しをしているといったことです…(恥)。

吉本: なるほど。実はその中でひとつだけ正解があって、室内干しはサイクルウェアにとっていいことなんです。

Anna: あ、そうだったのですか…!

吉本: はい、ただ室内干しにも正しい干し方があるので、そこも含めて洗濯方法について順を追って見ていきましょう。

Anna: よろしくお願いします!

主役は水。

繊維の細かい隙間には汚れが入り込みやすい

吉本: まずはサイクルウェアがどういう汚れと戦っているか、という点から整理しますね。
サイクルウェアに使われているポリエステルなどの化学繊維は、繊維一本一本が非常に細い。その細い繊維を密に編み上げているので吸湿速乾性が高くなっているんですが、裏を返すと、その細かい隙間に汚れが入り込んで蓄積しやすい構造でもあるんです。

Anna: なんとなく、速乾性が高いから汚れも落ちやすいんじゃないかと思っていました。

吉本: その逆で、乾きやすさと汚れの落ちにくさが表裏一体なんですね。しかも走行中にウェアに付着する汚れは種類が多いのも厄介です。汗はもちろん、砂埃や泥、チェーンオイル、エナジージェルの液残りといったものですね。こういう汚れは性質がそれぞれ異なっていて、大きく分けると「水溶性」「不溶性「油溶性」の3つになります。

Anna: その違いが洗い方にも関係してくるということですか?

吉本: 大いに関係してきます。水溶性の汗汚れは水に溶けやすいので、軽度なものは普通に洗えば落ちます。でも、泥のような不溶性の汚れや、チェーンオイルのような油溶性の汚れは水だけでは溶けない。だから洗濯機で洗ってもなかなか落ちないんです。

Anna: そういった汚れはどうすればいいんでしょう?

吉本: プレウォッシュ、つまり予洗いの出番なんですが、その前にもう一つ大事な話があります。それは「洗濯の主役は水だ」ということです。

Anna: 洗剤じゃなくて、水?

吉本: はい、よく誤解されるんですが、洗剤の役割は、あくまで汚れを繊維から浮かせて水に溶けやすくすることです。実際に汚れを押し流すのは水の力であって、「すすぎ」と「脱水」の工程で落ちるものなんです。だから水を惜しんではいけない。洗濯の仕上がりが悪いという方に話を聞くと、ほぼ例外なく水が足りていない。

Anna: 最近の洗濯機って、特にドラム式だと節水性の高さをうたっていますよね。

吉本: まさにそこが落とし穴です。自動設定のままでは水量が不足しがちになる。そうなると洗剤の濃度が上がって、水ですすぎきれなくなり、洗剤や汚れが残るというサイクルに陥ってしまう。だから水量だけは自分で設定することが大切です。

生乾き臭の原因

吉本: もう一つ知っておいてほしいのが、匂いの話です。洗濯したはずなのに、何とも言えない生乾き臭が残ることってありますよね。

Anna: 古いウェアだと特にそうなります…!よくオキシクリーンに漬けて匂いを落としていました。

吉本: あの正体は「モラクセラ菌」という細菌です。落としきれなかった汗に含まれる皮脂成分を栄養にして繁殖し、臭いの原因物質を放出する。シミにはならなくても臭いが残る、という厄介な汚れが汗汚れなんです。これを防ぐには、汚れをしっかり落とし切ることと、乾燥に時間をかけないことがものすごく大切です。

Anna: 洗濯臭以外にも、洗い残しが引き起こすトラブルはありますか?

吉本: はい、さらに深刻なのが、素材の「加水分解」です。サイクルウェアの伸縮性を担っているポリウレタン(エラスタン)は、汗汚れが残ったまま保管すると、水分と化学反応を起こして繊維が分解されてしまうことがあるんです。一度加水分解が進んだ繊維は、どれだけ洗っても弾力は戻らない。タイトだったはずのウェアが、だんだんゆるくなってきたら、加水分解が始まっているサインかもしれません。

Anna: ちゃんと洗えてないから起きることなんですね。汗汚れをしっかり落とし切ることは、臭い対策になるし、ウェアの寿命を伸ばすことでもあるんですね。

吉本: そうです。このことを頭に入れておくと、「なぜちゃんと洗うのか」の理由が腑に落ちると思います。

 

実践編①:洗濯機の設定

サイクルウェア洗濯の基本フロー

① 脱ぐ– 脱いだらなるべく早く洗う
– 裏返す、ファスナーを開ける
– 1点ずつネットに入れる
– ほかの衣類と分けて洗う
② 洗濯機設定– 水量/すすぎを多めにセット
– 水温は30〜40℃推奨
③ 洗濯開始– 洗剤は弱アルカリ性を使用(ウールは中性)
– 柔軟剤/漂白剤NG
④ 干す– 部屋干し推奨。立体的に干す
– サーキュレーターの風を直接当てる
– 乾燥機は非推奨

*泥やオイル汚れがひどい場合、または臭いが気になる場合は②の前に「プレウォッシュ(予洗い)」を追加

Anna: では実際の洗い方を教えてもらえますか。

吉本: まず、脱いだらすぐに洗います。汗汚れは時間が経つほど繊維に定着しますし、モラクセラ菌の繁殖も早まります。帰宅後すぐに洗濯機を回す習慣をつけましょう。

Anna: ウェアを洗い終わるまでがライドですね。
帰宅が夜遅くてすぐに洗濯機が回せないときは何かしておいた方が良いですか?

吉本: お風呂に入るついでにウェアを一緒に浴室へ持ち込んで、シャワーでジャブジャブと汗を完全に洗い流しましょう。汗の成分のほとんどは、このステップだけで9割方抜けるので、洗剤を使う必要はありません。その後、軽く手で絞るかタオルに挟んで水気を切って、浴室のハンガーにかけておきます。これだけやっておけば、翌朝洗濯機にかけても菌の繁殖はかなり抑えられます。
雨やグラベルライドで泥砂が付いているときは、着替える前にウェアを着たまま浴室に入って、シャワーで身体と一緒にウェアも洗い流してしまうのが一番です。

Anna: 普段着と一緒に洗濯機に入れても大丈夫ですか?

吉本: サイクルウェアは、ほかの衣類とは分けて洗濯機を回します。色移りしないためと、ベルクロやファスナーで生地を傷つけないためです。生地や機能を守るために、サイクルウェアは単体で洗うのが基本です。

洗濯前の準備

洗濯ネット

服のサイズに合ったネットを使う

Anna: 洗濯ネットは使いますよね。

吉本: はい、生地を傷めないためにもネットを使いましょう。ジッパーの金属と生地との摩擦や、洗濯槽との擦れから生地を守ることができます。
ただしネットの中に衣類をぎゅうぎゅうに詰め込まないようにしてください。1ネットに1着が基本で、それぞれウェアのサイズに合った適切な大きさのネットを使いましょう。またウェアに対してネットが大きすぎると、衣類がネットの中で一方向に偏って、かえって水や洗剤が全体に行き渡らなくなります。適切なサイズであれば、ネット越しでも、繊維の奥まで水や洗剤は十分に届きます。

Anna: う、大きいネットにまとめてジャージとベースレイヤーを入れてしまっていました…!これからちゃんと分けるようにします。

吉本: もちろん1アイテム1ネットが理想ですが、毎回やるとなると大変なので、ある程度余裕があってパンパンにならなければ良いかと思います。

Anna: それくらいの心構えだと嬉しいです。あと、ウェアは裏返しますよね?

吉本: はい、肌に直接触れて汗や皮脂がたまっている方を水に直接さらすために裏返します。ビブショーツも、パッドの汚れを落とすために基本的には裏返します。泥汚れなどで表面の汚れがひどい場合は、逆に表向きのほうが効果的なので、落としたい汚れの種類で使い分けてください。

洗濯機の設定

水量を多く設定するか、すすぎの回数を+1回

Anna: 洗濯機はおまかせモードで良いですか?

吉本: 洗濯機任せでなく、最低限「水量」を変更するようにしましょう。最初に“洗濯は水が主役”とお伝えしたように、水の使い方で汚れの落ち方が変わります。水量が少ないと、洗剤の濃度が上がり過ぎて、すすぎきれなくなる。汚れと洗剤成分が繊維に残ってしまうんです。
縦型洗濯機の場合は、自動計測された水位から+1段階上にする。ドラム式洗濯機の場合は、水量を変更するオプションがないこともあるので、その場合は「すすぎ回数」をプラス1回すると同じ効果が得られます(標準が2回なら3回に設定する)。

Anna: お風呂の残り湯は使わない方良いですか?

吉本: はい、残り湯を使うのは絶対にNGです。残り湯は皮脂汚れが含まれているので、かえって汚れを付着させます。普通の衣類もそうですが、これが原因で洗濯臭になっているご家庭もいらっしゃいます。

Anna: なんとなく残り湯は使いたくないなと思っていたので、その感覚は合っていたんですね。

吉本: ぬるま湯を使ったほうが、水の分子の動きが活性化して、繊維の奥に入り込んだ汚れが浮き出しやすくなるのは確かなので、洗濯機側で30〜40℃に設定するのは効果的です。ただ洗濯の度に設定するのは面倒だしコストもかかるので、日々の洗濯は普通の水で良いかと思います。汚れがひどいとき、シーズン末のリセット洗濯のときはぬるま湯を使いましょう。また洗濯槽の汚れをケアしていない人も多いので、大前提として、まず洗濯槽クリーナーを定期的に使うことも大切ですね。

洗剤選び

液性の表記を確認。基本は弱アルカリ性で、ウール素材は中性

Anna: 洗剤は何を使えばいいですか?なんとなく、おしゃれ着洗いの方が良い気がするのですが…。

吉本: おしゃれ着洗いは中性なので、汗汚れには効きにくいんです。化繊のサイクルウェアを洗うには、『アタック』や『アリエール』のような弱アルカリ性の液体タイプが基本です。日常の洗濯でこのタイプを使っているのであれば、そのままサイクルウェアに使ってもらっても大丈夫です。ただ濃縮液体洗剤には、繊維を柔らかくしたり香りをつけたりするための「マイルド成分(各種界面活性剤や添加物)」が元からブレンドされていることが多く、これが繊維の奥に残りやすい。すすぎ残しがないように、水量を多めにする、あるいはすすぎ+1回を設定する必要があります。

洗剤は指定の量に従う。多めに入れてもすすぎ残りが付着するだけ

最もウエアの機能を損なわないのは、「スポーツウェア専用洗剤」です。これは弱アルカリ性(または汚れを落とすプロ仕様の中性)でありながら、繊維に成分を残さず完全に水に抜ける設計になっています。

洗剤の種類と適正

洗剤の種類主な液性ウェア適性と注意点
スポーツウェア専用洗剤弱アルカリ性〜中性◎ 最適
家庭用液体洗剤
(アタック、アリエールなど)
弱アルカリ性 適しており皮脂汚れに強い
※すすぎ残しがないように「ぬるま湯・水量/すすぎ多め」で洗う
※蛍光剤無配合を選ぶこと
家庭用粉末洗剤
(アタック、アリエールなど)
弱アルカリ性 適しているが注意が必要
※液体洗剤より洗剤濃度が高く、溶け残りやすいため「ぬるま湯・水量多め」を推奨
※蛍光剤無配合を選ぶこと
おしゃれ着洗剤
(エマール、アクロンなど)
中性 素材による
– 化繊ジャージ:皮脂が落ちきらないため△
– ウール素材:生地を傷めないために◎

Anna: ウール素材はどうすれば良いですか?

吉本: ウール素材のウェアだけは、生地を傷めないように中性タイプを使ってください。
柔軟剤もNGです。柔軟剤は繊維をコーティングして柔らかく感じさせるものなんですが、そのコーティングが吸汗速乾性を損なってしまうんです。洗ったのにウェアがベタつくという方は、柔軟剤が原因のことが多い。

 

実践編②:汚れがひどいときは?

泥汚れや油汚れはバケツをつかって予洗い

Anna: ここまでは汗や皮脂汚れの話なので、普段ならこれで良いと思うのですが、もし泥汚れや油汚れが付いたらどうすればいいですか?

吉本: ここでプレウォッシュ(予洗い)の出番です。雨やグラベルライドのあとは、泥砂がウェアに付着しているので、予洗いは必須です。泥砂が付いたまま洗濯機へ入れると、洗濯槽の中で砂をかき混ぜながら洗うことになって、生地を傷める原因にもなってしまうんです。
手順は4ステップです。

プレウォッシュの手順

①洗剤をスプレー汚れが気になる部分に洗剤をスプレー
②ブラシで汚れを軽く叩く使わなくなった歯ブラシなどで汚れの上からトントンと叩く(絶対に擦らない)。 泥・油・汗ジミなどの目に見える汚れは、色が薄くなるまで繰り返す
③バケツでつけ置き&押し洗いバケツに水を張り、弱アルカリ性洗剤を投入してよく混ぜてから、ウェアを入れる。軽く押し洗いをした後、30~60分ほどつけ置きする。
※汚れがひどい場合は、30~40℃のぬるま湯(洗濯表示を要確認)を使用
④脱水洗濯機で1~3分ほど脱水する

まず①汚れが気になる部分にスプレー洗剤をかける。専用品がなければ弱アルカリ性の液体洗剤を水で1:1に薄めたもので代用できます。使用する洗剤は不溶性でも油溶性でもすべて共通で大丈夫です。
次に②ブラシで汚れを軽く叩く。このとき絶対に擦らないことが大事です、擦ると生地を傷めてしまいます。叩くことで洗剤が繊維の奥まで浸透するイメージです。

Anna: たたくだけで落ちるんですね。

吉本: はい。そこから③バケツに水を張り、弱アルカリ性洗剤を混ぜた液に入れて、30〜60分つけ置きする。汚れがひどいときは30〜40℃のぬるま湯が効果的です(洗濯表示は要確認)。最後に④洗濯機で1〜3分脱水して、「実践編①」の本洗いへ進みます。

Anna: 油汚れのときはどうしますか?

吉本: チェーンオイルなどの油汚れは、通常の洗剤と洗濯では落ちにくいので、汚れた部分にエタノールを吹き付けて、すぐに台所用中性洗剤でもみ洗いしてください。綺麗になったら水で流します。一度で落ちない場合は何度か繰り返してください。そのあとは「実践編①」の本洗いへ進めばOKです。

 

実践編③:干し方〜保管方法

干し方

Anna: 本洗いが洗い終わったら、次は乾燥ですね。最初に部屋干しが正解とおっしゃっていましたが…。

吉本: 部屋干しまたは陰干しがおすすめです。直射日光は色あせや生地の劣化を引き起こしますし、花粉やPM2.5が付着するリスクもある。乾燥機の使用も、高温で機能性素材を傷めるのであまり良くないです。サイクルウェアは吸湿速乾性に優れているので、部屋干し/陰干しで十分乾きます。
ただし干してそのままではなく、必ずサーキュレーターを衣類に直接当て続けてください。室内の空気を循環させるだけでなく、風を直接当てることで乾燥効率が上がります。除湿機と組み合わせるとさらに効果的です。

Anna: 厚手のベースレイヤーなどは室内だと渇きが悪くて、匂いの原因になってしまうなど感じていました。

吉本: 厚手のウェアが臭くなってしまうのは、乾燥時間がかかりすぎているのが原因ですね。モラクセラ菌は乾燥に時間がかかるほど繁殖する。だからサーキュレーターが効果的です。

Anna: ビブショーツのパッド部分もなかなか乾かないですね。

吉本: ビブショーツは立体縫製の上にパッドの厚みがありますから、ハンガーを使って着用時に近い立体的な形を保って干します。生地同士が重なっていると、そこだけ乾きにくいので、内側に空気の通り道を作るイメージです。

ビブショーツは立体的に干すと乾きやすい

ウェアの保管方法

Anna: 洗った後のウェアの保管方法についても教えてもらえますか?

吉本: 大事なポイントが二つあります。まず「完全に乾かしてからしまうこと」。生地の奥に湿気が残ったまま収納すると、菌が繁殖して臭いが出たり、生地の加水分解が進んだりする原因になります。干した後、手で触れて完全に乾いていることを確認してからしまってください。除湿剤や乾燥剤を入れておくのも良いですね。
もう一つは「圧縮しないこと」です。引き出しにぎゅうぎゅうに詰め込んだり、重いものを上に載せたりすると、エラスタンの弾力が損なわれます。ハンガーに掛けるか、軽く畳んで重ねすぎない形で収納するのが理想です。高温多湿になる場所、たとえば浴室まわり、夏場の締め切った部屋、ベランダのような場所は避けてください。

Anna: ゆったりした保管場所の確保もマストですね。

なるべく空気の通り道を確保して保管するのが理想。難しい場合は除湿剤を使う

吉本: そうです。洗濯から保管まで一連のケアとして考えてもらえると、ウェアの持ちが全然違ってきます。
ただ、ここまでお話しした内容はかなり細かいので、全部いっぺんにやろうとすると続かない方も出てくると思います。「ライドが終わったらすぐに洗う」「水は多めに使う」「しっかり乾かしてからしまう」。まずはこの3つだけでも意識してもらえれば十分かなと思います。

コラム:ウェアの寿命は?

ウェアにも確実に寿命はあるが、何年という決まった数字で語るよりも状態で判断するのが正しい。わかりやすいサインが4つある。

1. 洗っても臭いが取れなくなった:正しい洗い方を実践しても臭いが消えないなら、繊維の奥にモラクセラ菌が完全に根付いてしまっている状態だ。オキシクリーンで漬け置きしても数回のライドで戻ってしまうなら、もう洗濯では解決できない。

2. フィット感が緩くなった: サイクルウェアの伸縮性を担っているのはポリウレタン(エラスタン)という素材だが、汗汚れが残ったままの保管や繰り返しの洗濯によって、この素材は加水分解を起こして弾力を失っていく。タイトフィットだったはずのウェアがぶかっとしてきたら、繊維レベルで限界を迎えている。

3. 生地が薄くなった・透けるようになった:肌が透けて見えるほど生地が摩耗しているウェアは、吸湿速乾性も紫外線カット機能も当然落ちている。見た目の問題だけではない。

4. ビブショーツのパッドがペタンコになった:パッドはクッションであると同時に、抗菌処理が施されているものがほとんどだ。繰り返しの使用と洗濯でその両方が失われていく。薄くなったパッドで長時間走ることは、ライドの快適性だけでなく、身体へのダメージという観点からも避けたい。

* * *

こうした劣化は、洗い方が雑なほど早まるので、お気に入りのウェアを長く着るための一番の近道は、正しいケアを続けることに尽きる。

 

応用編:アイテム別ケア方法

防水・防風ジャケット

防水ジャケットの脱水は短く

Anna: アイテム別にも細かく教えてください。防水ジャケットやウィンドジャケットは普通に洗って大丈夫ですか?

吉本: 防水や防風フィルムがラミネートされているジャケットは、洗濯機はかけられますが、ちゃんとした脱水は避けてください。水や風を通さない特殊な生地なので、洗濯機で脱水をかけると水が抜けず、ウェアが痛む危険性があります。脱水するなら時間は短く、1分程度で大丈夫です。

Anna: 着ても毎回洗う必要はないのでしょうか?「あまり洗わない方が防水性能が長持ちする」と耳にもしますが…。

吉本: 汗をかいたのであれば毎回洗ったほうが良いですし、防寒用に数分着用しただけでも2〜3回に1回は洗うことを目安にしてください。
防水透湿ジャケットの最大の天敵は、雨よりも内側からの皮脂と汗なんです。汗汚れを放置すると、防水フィルムが生地から剥がれる「剥離(デラミネーション)」を引き起こす。また、目に見えない微細な通気孔が皮脂で詰まると、汗が外に抜けなくなり、ただの蒸れるカッパになってしまう。だから裏返してしっかり汗汚れを落としてください。

シューズ

基本的には丸洗いせず、素材に合わせてケア

Anna: シューズはどうでしょう?白いシューズはすぐに汚れるので、頻繁にケアが必要だなと感じています。

吉本: シューズは丸洗いしないのが基本です。アッパーへのダメージと型崩れを防ぐために、濡れた柔らかい布で拭き掃除するのが正解です。落ちにくい汚れは中性洗剤を少量使って、歯ブラシで優しく擦ります。ニット素材のアッパーはブラシで擦ると毛羽立つので避けてください。

Anna: Lakeのような革製シューズはどうでしょう?

吉本: 革製アッパーの場合は、中性洗剤を使うと革を傷めるので、一般的な革靴と同じように革専用のケア用品を使ってください。

Anna: なるほど。シューズが基本丸洗いNGとなると、『ズックリーンネット』のような、洗濯機でシューズを丸洗いするための厚手のネットは使わないほうが良いでしょうか?ちゃんと汚れが落ちて時短になって助かるなと感じているのですが…。

シューズを丸洗いできるネット

吉本: 「高価なシューズを100%安全に長持ちさせる」という観点だとおすすめできませんが、それでも時短でシューズを綺麗にできるのであれば、革製以外であれば個人の運用としてはいいと思います。シューズ専用ネットは内側に厚手のクッションがあってダメージが抑えられますし、洗濯機の水流とネット内側のブラシで、繊維の奥の泥汚れや汗をきれいに掻き出すこともできる。ただし水に浸る時間をできるだけ短くするために、標準コースではなく、お急ぎコースに設定し、洗剤はエマールのような中性洗剤を使ってください。アルカリ成分が強いと、人工皮革の劣化やソールの変質を早めてしまいます。

Anna: 使い方を誤らなければ一般的には使えるんですね。よかった。洗剤と洗濯機のコース気をつけます。
あと靴乾燥機はやっぱり止めたほうがいいですか?我が家ではふとん乾燥機についているアタッチメントを使ってしまっています。

吉本: 『温風モード』で乾かしてしまうと、アッパーの硬化や接着剤の融解を引き起こす可能性があります。自然乾燥に近いかたちで乾かしたいのであれば、冷風モードや40℃以下の低温モードを使ってください。これであれば、アッパーや接着剤が痛むリスクはほぼ抑えられます。

ヘルメット

Anna: ヘルメットはどうでしょうか?頭皮もけっこう汗をかく方が多いと思います。

吉本: 衝撃から頭を守るライナー部分の丸洗いは避けてください。綺麗にしたいときは、水で薄めた中性洗剤を、やわらかい布に含ませて軽く拭き取ります。
汗が蓄積して白くなったストラップは、中性洗剤をつけた歯ブラシで優しく擦ると綺麗に汚れが落ちます。

ストラップは中性洗剤と歯ブラシで綺麗になる

Anna:内側のインナーパッドは外して洗濯機に放り込んでも大丈夫ですか?

吉本:インナーパッドの洗濯機洗いは止めたほうが良いでしょう。繊細な熱圧着で作られているので、洗面ボウルなどで中性洗剤を使って優しく押し洗い(手洗い)してください。
乾燥させるときは、乾いたタオルに挟んで水気を吸い取って、ヘルメット本体と一緒に風通しの良い日陰で自然乾燥させます。

* * *

Anna: 今日知りたかったことをすべて伺うことができました。今までのやり方では全然ちゃんと洗えていなかったんだな、ということがわかったので、次のライド後からは教えていただいたことをひとつひとつ実践していきます!

吉本: 洗い方ひとつでウェアの持ちは大きく変わります。Annaさんが選んだウェアはお気に入りばかりだと思いますから、乗り終えた後のケアも走ることと同じくらい大切にしてあげてくださいね。

ウェアは消耗品だが、機材と同様に走りのパフォーマンスを左右するものでもある。機材を定期的にメンテナンスするのと同じように、ウェアも正しいケアで長く使ってほしい。本稿で伝えた注意点は多すぎると感じたかもしれないが、その中でも「ライドが終わったらすぐに洗う」「水は多めに使う」「しっかり乾かしてからしまう」の3点だけでも最低限実践してほしい。それだけでも、心地よくウェアを着続けることができるはず。またケアを続けていく中で洗い方に迷ったら、いつでもこの記事を見返してもらえればと思う。

特別監修 / 吉本 司@kop_2014
聞き手 / Anna@annannanna1002
edit & photo / Tats@tats_lovecyclist