ほとんどのデザインが何らかのモチーフの引用やオマージュから派生することを前提とする現在では、モチーフの選択はブランドのアイデンティティそのものになります。
わかりやすい例だと、オランダの通貨をモチーフにするVelobici、80sデザインをモチーフにするMAAPやPedla、レトロフューチャーをモチーフにするWarsaw Cycingなどがあり、そのモチーフによって、トレンドを追うのか、普遍性を狙うのか、独自性を出すのかなどが見えてきます。
その中で、オーストラリアのサイクリングアパレル“Babici – バビチ”がモチーフとするのは、世界各国の古典的ファッションからの引用。
その独特の世界観を見ながら、Krishna Jerseyと呼ばれるウェアを詳しくレビューしていきます。
※本ジャージはBabiciより提供いただいたものです。
Babiciとそのデザインの特異性
Babiciは2009年にKev Babakianがシドニーで設立したブランドです。Kevはシドニー工科大学のデザインマスターとして、20年間クリエイティブディレクターを務めた後に、サイクリングブランドを立ち上げました。
Babiciはイタリアのファブリック工場と提携し、自社ブランドだけでなく、ほかのサイクリングアパレルから委託を受けてウェアの制作も行っています。
2016年9月には実店舗をオープンし、シドニー南部のサリーヒルズ(リコッタパンケーキで有名なビルズの本店があるカフェ激戦区)で、ショッピングとコーヒーを楽しめる空間を提供しています。
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Babiciはニッチなデザインで高性能なウェアを提供することを公言していて、それは古典的なモチーフを使うことからも見て取れます。
着物柄・鯉・七宝柄などをあしらったジャージ、刺青アーティストとコラボしたデザインジャージなど、和を元にしたデザインもいくつかあります。これらを見ると、モチーフに対するストレートな愛情を感じることができます(そして意外と雰囲気が合っている)。
もちろん和だけではなく、スペイン・カリフォルニア・インドなどのモチーフを取り入れているものもあり、一度デザインを見ると、次からは瞬時にBabiciのウェアだと理解できるほどの独自性を備えているのがこのブランドの特性です。
そのラインナップの中で今回レビューするのは、インド神話がモチーフとなっているジャージです。
Krishna Jersey – クリシュナ・ジャージ
ヒンドゥー教では最高位の神“クリシュナ”の名が付けられたジャージ(ゲーマーならその名を聞いたことは一度ではないはず)。その名の通りインドの古典的な装飾を施したデザインで、黒に近いブラウン地の上にキャメル色の柄が配されています。
首元から外側に向かって放射状に展開する象や草花のモチーフは、生命エネルギーが体全体に巡っていくような力強いイメージ。
ガネーシャ神の存在が示すように、ヒンドゥー教では神聖な生き物の象がサイクリストを守護してくれる。よく見ると可愛らしい表情。
襟周り
ジャージとしての機能に目を向けていきます。襟はトレンドに沿った低めのカット。襟元のロゴはゴム素材のものが貼り付けられていて立体感があります。
Bの文字が際立つジッパーは取っ手があるのでとても扱いやすい。ジッパーの装飾はそのブランドのこだわりが表れていて好きです。
袖まわり
袖口はシリコングリッパー付き。汗を排出しやすい脇側はメッシュ素材を丁寧に縫い合わせていて、快適な着心地になります。
裾まわり
イタリア製の生地を謳うタグはBabiciジャージすべてについています。生地はすごく滑らかで伸縮性も高く、体にぴったりとフィット。しっかりUVカット付きです。
裾にもやさしめのシリコングリッパー。
裏面
フラットロックステッチで異なる素材が丁寧に縫い付けられているので、とても丈夫。
バックポケット
センターの容量が大きく、左右は少し小さめ。傾斜がかかっているためモノの取り出しやすさが考慮されています。真ん中に財布を入れ、左右に補給食などの小物を入れるような形になります。
第4のポケットの内側は防水加工が施されていて、iPhone Xや8 Plusも余裕で入る大きさ。ただ最近のスマホは防水がデフォルトになっているので、ここにはハンカチやティッシュなどを入れた方が良いかも。
着用イメージ
177cm・胸囲86cm/S
これまで着たどのジャージとも違う世界観。一見イロモノに見られるようなモチーフデザインですが、実際に着てみるとダークブラウンとキャメルの色合わせがシックでとても格好良く見えます。
シルエットは腕が細いため袖周りに少しゆとりがありますが、それ以外はぴったり。タイトフィットにも関わらず、生地の伸縮性が高いため着心地は快適です。
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ジャージとしての機能性については、 タイトなシルエットや脇の下のメッシュ加工などまったく過不足ないので、オンシーズンで思う存分ライドできます。個人的に所有している中ではBlack Sheepのジャージと近い品質。
だからこのブランドを選択するときのポイントは、このアーティスティックな世界観を体験してみたいかどうか、という点に尽きます。ただかっこいいだけのジャージではなく、週末だけいつもと違う自分になれるジャージを着たい、そんなサイクリストはきっとBabiciのことも気に入るはず。
Babiciのウェアを見る
※ウィンタージャージもラインナップされています