text/Tats(@tats_lovecyclist)
photo/Tats & Ryuji(@ryuji_ride)
グランツールの覇者であるアルベルト・コンタドールとイヴァン・バッソが立ち上げたバイクブランド「AURUM」。クライミングを得意とする2人のオールラウンダーが手掛けたバイク「Magma」は、“彼らの時代”のロードバイクが持っていた美しさを兼ね備えたバイクに仕上がっていたことがPart1で把握できました。
その造形は、実際のライディングでどう感じさせてくれるか。Part2では、約1ヶ月のテスト期間で感じられたMagmaの特性と、どんなサイクリストに向いているかについて対談します。
*本レビューで使用したMagmaは、AURUM日本正規販売店(CYCLISM)から貸与されたものです。
テストライダー
Tats(@tats_lovecyclist) 身長177cm/体重60kg AURUM Magma試乗サイズ: 54 所有バイク: Factor O2 ロードバイク歴: 8年 |
Ryuji(@ryuji_ride) 身長169cm/体重58kg AURUM Magma試乗サイズ: 52 所有バイク: Cannondale Supersix EVO Hi-Mod ロードバイク歴:13年 |
1. コンタドールに思いを馳せる
Ryuji:このバイクに乗ったとき、ちょっと懐かしい感じがしたんですよ。ディスクブレーキに移行してからの、Tarmac SL7とかSupersix Evoといった今トレンドのバイクとはまた違って、リムブレーキ全盛時代のハイエンドバイクに乗っているような感じ。それこそ2017年あたりのコンタドール時代終盤のバイクもそうですね。
これだけだと誤解されそうですが、Magmaの性能がほかの最新バイクに劣っているというわけではなくて、あくまで“味付け”がそうなっているという話です。
Tats:この価格で身構えるところはありましたね。やっぱり価格帯の近い北米バイクの派手な乗り心地を知っていると、似たようなフィーリングなんじゃないかって。そういう意味で意外だったというか。
Ryuji:そのせいもあって、Magmaの特性を理解するのに少し時間がかかりました。テストバイクでポジションが完全に出せないこともありますが、普段乗っているSupersix Evoとは全然性格の違うバイクなので、同じ踏み方で乗っても本来持つ特性を活かせない。
でも数回乗ったあとだと印象は変わって、「Magma速い…!」という実感が自然と出てきた。
Tats:なので今回はテスト期間が多めにとれたのが本当に良かった。Magmaと僕の普段乗っているFactor O2についても、ジオメトリはほとんど同じなんですが乗り心地は似て非なるものでした。1回乗っただけだとちゃんとしたレビューは難しいかっただろうなと思います。
Ryuji:僕ら最初「硬い硬い」って言いながら走ってましたもん。
Tats:(笑)。第一印象はそれですね。それこそRyujiくんの言ったように、少し前にあった剛性と軽量性を極端に重視したクライミングバイクのような硬さはあります。だから平坦をいつもの感覚でごりごり乗っていると、普通に脚が削られていたという。
Ryuji:そう。Magmaに変えた直後のライドだと、感覚がつかめなくてトレーニング途中で脚が終わってしまったんです。
でも何度目かのライドで、4〜5kmの峠を複数挟む170kmコースを走力の近い仲間7人と走ったら、仲間の中でも最後までめちゃめちゃ走れたんですね。Magma用に踏み方を変えたことで特性を活かせるようになったことが実感できたし、上りが明らかにラクなので峠でSupersix以上に温存できた。だからヒルクライムだけじゃなくて、平坦・上り・下りトータルで走ったときにこそ速さを感じられるバイクなんだなっていう印象に変わりました。
Tats:平坦基調だけだと良さは感じにくいですね。設計コンセプトから「グランツールで戦うためのバイク」だってことはわかるので、アップダウンがあったり登り基調のロングコースで真価を発揮すると。
Ryuji:コンタドールとバッソがクライマー寄りのオールラウンダーだったので、その性能値がバイクに現れています。なにより「これがコンタドールが乗りたかったバイクなのか!」っていうのが感じられて、コンタドール好きな自分としてはそれが嬉しくなりましたね。
Tats:元トッププロが表立ってプロデュースしたバイクって今のラインナップには少ないよね。
Ryuji:珍しいですね。ちょっと前の世代の選手が立ち上げたブランドだとCOPPI、CIPOLLINI、Eddy Merckxとかはあります。最近だとFactorはデヴィッド・ミラーが、Canyonはエリック・ツァベルが関わっていることはよく知られていますが、表立ってプロデュースしているのはAURUMだけだと思います。しかもコンタドールですよ。ランス引退後に活躍し始めて、フルーム時代が来るまでの2007年〜2015年、あらゆるステージレースでトップを張っていた。
Tats:だからこういう剛性感にしたんだな、とわかります。上りをダンシングで加速してライバルを突き放すコンタドールのスタイルが最高に発揮できる。「乗り心地と剛性をバランスさせた」とAURUMは言っていますが、正直剛性感の方が強く性格に出ています。
Ryuji:これは完全に意図的なものでしょうね。今年のジロのゾンコランでフォルトゥナートが勝ったときも、ダンシングを織り交ぜながらがしがし踏んで、ひとり先に逃げていたトラトニクを激坂で突き放していった。そういうことをするためにつくったバイクなんだろうな、と。
Tats:あの勝ち方は象徴的でした。
2. ハンドリングが活きる
Tats:上りに強い、というのは明らかでしたが、ほかにも得意な部分と苦手な部分があったので、Magmaの特性を掘り下げていこうと思います。
Ryuji:特に良いと感じたのがハンドリングですね。
Tats:Magmaはハンドリングから設計されていますが、特徴は俊敏でなめらか。すごく扱いやすい仕上がりです。クイック過ぎたり、もっさりした感じがあるバイクもあるけれど、Magmaはどちらにも寄っていない。乗り手の意図を素直に反映させてくれます。
Ryuji:ちょうど良い塩梅にストレスなく自然なんですね。ダンシングの振りが軽いのはさすがだなと思いました。
Tats:少し前のディスクロードにありがちだったガチガチ感とかアンバランス感がない感じ。
Ryuji:ダウンヒルはアンダーステアにもオーバーステアにもなり過ぎないのでコーナリングが怖くない。Supersixはどちらかというとアンダー気味になるので、意識して内側にハンドリングしていましたが、Magmaだとそういう意識が必要ありません。適度に路面に張り付きながら良いラインを辿ってくれます。
Tats:ダウンヒルも楽しいですね。どうせ上ったら下らなきゃいけないので、長距離走るなら下り性能も合わせて考えないといけない。Magmaが危なくないと感じられるのはこのステアリングの仕上げが効いているんだなと。
Ryuji:ブレーキングについても、強くかけたときフォークがたわむ感じがないので、下りは総じて安心できましたね。
3. Magmaの弱み
Ryuji:加速性能については、低速域の伸びが強みだと感じます。ダンシングで踏み込むと一気に伸びる。
Tats:加速鋭いですね。これは完全に登坂のアタックを意図したものでしょう。
Ryuji:平坦でも信号ストップからスピードに乗るまではかなりラクです。で、そこからどうなのかというと、40km/h近くなると伸びにくいな、と。
Tats:同感で、気持ち良い速度域が30km/h台後半あたりまでだと感じます。空力について風洞実験のデータは公開されていないので他社のバイクとどれくらい差があるのかはわかりませんが、高速域になるとやっぱりエアロロードのような形状でもう少しホイールベースの長いバイクの方が推進力がある。だからさっき話したように平坦基調のコースだとこのバイクの良さはスポイルされてしまう。
Ryuji:ですね。スピードを出せないという意味ではなくて、低速の伸びのスカッとした感じと比べると、高速域はもたつきがあると感じてしまうんです。で、がんばってもっと出していこうとすると脚がなくなってしまう。
だからMagmaの場合、高速域は必要以上に無理せず、上り区間でしっかり踏むという走り方が合っているんです。
Tats:Ryujiくんと一緒に走ったとき、平坦でいつものようにがんばって1時間以上踏んでいたら、峠に着いたときには脚がプルプルしてたんだよね(笑)。長距離を走るときは、ほかのバイク以上に脚の残りをマネジメントする必要があることをそのとき学びました…。
Ryuji:ロングのときは平坦をちょっとだけ抜く、というのがポイントです。
4. ホイールによる違い
Tats:完成車にアセンブルされるホイールも特性が違うものだと思うので、そこにも目を向けてみます。
Ryuji:ホイールの組み合わせで結構変わってきますからね。
Tats:僕のテストバイクは「Lightweight マイレンシュタインEvo Disc TL」、Ryujiくんは「Enve SES 3.4 Disc」でした。もうひとつ「Zipp 404 NSW Tubeless Disc」の選択肢もありますが、今回はテストできなかったので割愛します。
Lightweightに関しては、以前リムブレーキ版のマイレンシュタインを少し乗ったときと似たフィーリングでした。特徴としては、ダイレクト感が強くて縦方向に硬い感じ。軽快感や加速性能が非常に強いです。
Ryuji:僕もリム版は乗ったことがありますが、Lightweightに対しては同じような印象でしたね。
Tats:ただその分、乗り心地に対する比重はかなり低い。今回はチューブレスタイヤで低圧にしているので従来のモデルよりも快適性は上がっているはずですが、ほかのチューブレスホイールと比べるとハードさが際立ちます。
Magmaとの相性で言うと、Magmaは横剛性がしっかりしているので、Lightweightの縦剛性の高さと組み合わされると、バリバリのレーシングフィールが出ている、という印象です。
縦横それぞれ強い剛性感が出るLightweightとの組み合わせ
Ryuji:僕はホイールの特性とフレームの特性をそれぞれ分けて正確に感じたかったので、Enveホイールで乗ったあと、普段使っている「Hollowgram SL 45 Knot」ホイールを履かせた状態との乗り心地を比較しました。
Tats:その違いを感じるのは面白そう。
Ryuji:ホイールを変えるとやっぱりフレームの性格を感じやすくて、さっき話した「初速が軽い」っていうのがフレームによるものなんだということが再確認できました。
で、ホイールの特性でわかったのは、EnveとMagmaの方向性がどちらも似ていて、シャープだということ。
Hollowgramは高速域が得意で、初速が少しもっさりしているホイールなんですね。Enveはどちらかというと逆で、初速が得意で高速域はある程度まで。だから高速巡航ではMagma x Hollowgramの方がラクでした。
もしバイクの守備範囲を広くしようと思ったら、Hollowgramのような高速域特化タイプのホイールを選ぶと、初速が得意なMagmaとお互いが補えることでバランスがとれるバイクになると思います。
でもEnveであればヒルクライムの速度域がさらに強化されるので、上りが多いコースならEnveを選びますね。
MagmaにHollowgramを履かせた状態
5. 粋なバイクの美学
Tats:こうしてMagmaの特性がわかると、どんなライドスタイルのサイクリストに向いているのかがわかってきます。
Ryuji:Magmaはレース機材として用いるというのはもちろんありますが、サイクリストのほとんどはレースで使うためだけに買うわけではないんですよね。普段のライドでいかに楽しめるバイクか、という観点があってこそです。だからガシガシ使い倒すというよりは、加速感や剛性感を味わいながら、長い目で自分のモノにしていくという丁寧な向き合い方が合っているなと思います。平坦よりも登りが好きで、長距離を楽しみたいスタイルとか、峠で仲間と千切り合いをときどき楽しむとか、そんな感じにハマる。
Tats:一時期レース会場でみんなVengeになっているみたいな現象がありましたが、そういう「最新バイクでごりごり走ってるぜ」みたいなのではないですね。ビッグメーカー全盛のこの時代に、あえてひと世代前の懐かしい乗り味を継承しつつ、ディスクブレーキに最適化させた上で、ビッグメーカーのバイクたちとレースで戦える能力値まで高めている。
テストを通してAURUMが良いと感じたのって、その“粋”な設計コンセプトがあるからなんですよね。
Ryuji:それなんです。僕思うんですが、AURUMが気になっているユーザーって、速さとか乗り心地とか以前に、やっぱりどことなく懐かしさを感じるこのデザインにビビッと来て入ってきているんじゃないかなって。
Tats:そう思います。コンタドールの熱烈なファンという方もいるかもしれませんが、それよりも多くのサイクリストを惹きつける見た目の吸引力がMagmaにはある。
Ryuji:Part1でも書かれていますが、「美しいロードバイクとは何か」という美学がこの形に詰まっている。個人的にあらゆるバイクの中でもFactor O2の形がめちゃめちゃ綺麗だと思っているんですが、同じものをMagmaに感じるんですね。ジオメトリもほとんど同じだし、同じ人が設計しているんじゃないかと思うくらい。
Tats:O2乗りとしては共感しかない…。だからMagmaを借りられると知ったときは本当にうれしかったし、テスト期間中は特別なモノに乗っているスペシャル感がこれまでのどのバイクよりも強かった。
そういったシンパシーを感じるなら、乗り心地とか剛性感とかはあと回しで決めても良いんですよね。
Ryuji:バイク選びってそこが肝ですしね。
Tats:そうそうそう。
色に関しては実物を見るとどちらも高級感があります。カーボンブラックはコンタドールが「レーシングカラー」と表現しましたが、走ることに集中する寡黙な雰囲気が格好良い。グレイシャルブルーは優雅だけど派手ではない大人な色なので、どんなウェアリングでも合わせられます。
あとゼブラ柄も出るという噂もあるので、もし特別なバイクに乗っているということを主張したいのであれば、その選択肢も今後できるんじゃないかと思います。
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photo/Tats & Ryuji(@ryuji_ride)