Text by Tats(@tats_lovecyclist)
ライドするためには、どの機材を使うか/どんなウェアを着るか/どんな小物を持ち運ぶか、といったさまざまな“モノ”に関する選択が僕たちに求められます。
モノ選びの価値基準は、サイクリストによって本当にさまざま。
そこからはライフスタイルを含めたそのサイクリスト自身が持つ「ルール」のようなものが見えてきます。
そういった観点で、LOVE CYCLISTのメンバーが今どういうルールで自転車関連のモノを選んでいるか、いくつかテーマを分けて紹介したいと思います。
初回のテーマは「フレーム」。2020年に入ってバイクを一新した僕TatsとRyujiが、どうそれぞれのバイクを絞り込んでいったかを語ります。
1. ディスク/リムの選択
Tats:今年に入ってふたりともリム車からディスク車に切り替えました。お互い1年以上前から乗り換えは考えていたと思うけれど、昨年末に欲しいモデルが絞り込めたという感じ。
Ryuji:やっと納得できるバイクに出会えました。
思い返すと2018年頃はまだ決定打に欠けていたんですよね。それはディスクかリムか、という選択肢も含めて。
Tats:そのころはディスクvsリム論争がすごく活発でした。特にRyujiくんは雑誌編集部時代に黎明期のディスク車に色々乗ってきたから、ディスクに関しては気になるところがいっぱいあったと思う。
Ryuji:はい、以前はディスクに対して肯定的ではなかったですね。たとえば前世代のSupersix Evoの場合、リム/ディスク両方ラインナップしていたんですが、明らかにリムの方がよく走る。ディスクは重かったり、反応が鈍かったりとアンバランスな部分が感じられました。おそらくですが、当時はリムのジオメトリのフレームをディスクに対応させただけだったんじゃないかと思います。
Tats:モデルによって違いはあるのかもしれないけれど、そう感じてしまうと躊躇してしまいますね。
Ryuji:Tatsさんが最初にディスク乗ったのっていつでした?
Tats:たしか3年くらい前が最初だったと思うけれど…ちゃんと乗ったのは第3世代Vengeのプレス発表会のときで、「なんだこれは」と思いましたね。リム車にはないエンドの剛性感とか、制動性や重量含めたトータルの完成度とか、ディスクすごいと思った最初のきっかけでした。それが2018年の夏。
Ryuji:やっぱりそのあたりのモデルがきっかけですよね、「ディスクロードでいい」から「ディスクロード“が”いい」みたいなニュアンスになるのって。
僕も昨年Venge, Tarmac, Roubaix, Madone, Addictあたりのディスク車を試乗して、今までのリム車とは“フェーズの違う性能”というのを感じました。
Tats:Roubaixの体験は決定的でしたね。“違うフェーズ”というのは、速さだけじゃなくて、バイクに対して気を遣わなくて良い安心感だったり、勝手にぐんぐん進んでくれるマシン感みたいなもの。
特にSpecializedのディスク完成車がそういう味付けになっているのもありますが。
Ryuji:バイクに主導権があると言い換えてもいいかもしれないですね。それが好きか嫌いかはまた別の話として、少なくともホイールやコンポーネント含め「完成車の状態でパッケージ開発している大手メーカー」であれば、ディスク車でも間違いないというフェーズになっている。
Tats:今はそういう時期ですね。あとはディスク専用設計しているフレームかどうかというのも目安になると思います。
だからディスクフレームにサードパーティ製ホイールを組み合わせたとき、リム車と同じレベルでバランスが崩れにくい完成度を持つ時期はもう少し先なのかも。
Ryuji:それはホイール側の問題も大きくて、今はまだ手探りなメーカーもある印象ですね。有名どころだと、Bora WTO 45のディスク版はちゃんと走るんですが、RovalやHollowgramなどの最新ディスクホイールと比べると剛性感が荒削りな感じでした。ただMavicとかDT Swissで普通に良いと思えるホイールはあるし、ディスクメインで開発している新興メーカーにも期待できます。
Tats:HUNTとかPrinceton CarbonWorksあたりね。
Ryuji:ですです。今性能重視で選ぶなら完パケ車だけど、来年・再来年あたりのモデルだとこういったホイールで組むのもありかもしれません。
2. ブランドの選択
Ryuji:ただそういう前提条件でバイクを絞り込んでいくと、結構選択肢が狭くなってしまうという…
Tats:そうなんですよね。それって北米系の大手メーカーあたりから選べば一番間違いないという話の流れになっていますが、僕たちは性能だけで考えたいわけではないので、そこにブランド資産だったりスタイリング要素だったりが加わってくる。
Ryuji:僕らのライドスタイルとの相性という話になりますね。
Tats:そうそう。そういう観点だと、このメディアのコンセプトにも共通する「社会性」がキーワードになってくる。そのブランドが時代の変化やコミュニティに適合するスタイルなのかというところです。
前に書いた「ロードバイクデザインの変化とその先に訪れる時代」という記事で各ブランドロゴを分類したのですが、ここでそれぞれのブランドの価値観を把握しています。
それを元にすると、今の時代背景や僕たちのスタイルに合うのは、ポストモダンブランドのFactor・Canyon・Chapter2あたりで、そしてロゴをリニューアルしたCannondaleも外せない。
Ryuji:あと個人的にはBMCも入れたいです。
Tats:いいですね。
Ryuji:Cannondaleについては思い切ったロゴ変更がさすがだと思いました。当然賛否があって、「昔のようなバイクを作ってほしい」という声もあるのも理解はできます。
Tats:公式でも言っていますが、“マニア向け”から“多様性”への進化なので、従来のマニアにウケが悪くなるのはわかっててやってる。これマーケットを広げることを目的とした企業体力ありきの戦略で、同時期にロゴ変更したイタリア系ブランドにはできなかった力技だなと。
Ryuji:僕が最終的にCannondaleにしたのって、もともと前のSupersixが好きだったというのもあるけれど、ロゴを変更したことで、従来持っていたイメージを取り払ってまっさらなブランドになったというのが大きかったりします。
Tats:ああ確かに。「このブランドはこういうイメージ」というのが大概あって、それは伝統的なレースでの活躍から来るものだったり、国内だと漫画とかアンバサダーとかが形成していて結構根強いものですからね。そういうイメージはCannondaleが取り除きたかった“マニア感”に通じるものがある。
Ryuji:ロードバイクに対する向き合い方が多様化して、業界がちょっとずつ変わろうとしている今選ぶバイクだからこそ、従来のイメージに引っ張られないブランドを選びたいな、と。
あと余計かもしれないけれど「経営が危なくない」という観点も大切ですね。
Tats:最近よく聞くからね、、、自分が乗ってるブランドがそういう話になったら悲しいし。
3. モデルの選択
Tats:こんな流れで考えて、僕たちのスタイルに合うブランドが絞られていきました。あとはエアロ・軽量・エンデュランスといったバイクのカテゴリをどれにするか。
Ryuji:最近はそれぞれの境界も曖昧ですが。
Tats:確実に統合していく流れになっていますね。グローバルではグラベルやeバイクが主流になっている中で、従来の3カテゴリを開発し続けるというのもメーカー側からすれば非効率でしょう。
Ryuji:そうなると軽量系をベースにエアロ化しているモデルが一番製品寿命は長いし、使い勝手も良い。僕のように小柄なライダーとしては重量を無駄に増やしたくないというもありますし。
Tats:間違いないですね。最近のエアロは軽いんですが、カタログスペック上の重量には表れない“登りづらさ”というのを感じる。リズムがとれないというか。これまで乗ってきたバイクもそこが唯一のストレスポイントでした。
Ryuji:正直、どのカテゴリにしたからといって大してタイムに差が出るわけではないんですよね。Roubaixなんてエンデュランス系のはずなのにめちゃくちゃ走れますし。
でもTatsさんの言うようなエアロ特有のクセみたいなのとか、あと気持ちを鼓舞させるバイクはどのカテゴリなのかとか、そういう観点で考えると、手にしたいバイクはエアロでもエンデュランスでもなくなる。
Tats:というわけでふたりとも軽量バイクですね。
Ryuji:実際はもう少し感覚的に選んでますが、こうやって論理建てて落とし込んでいくと、今選びたいバイクの輪郭がはっきり見えてきますね。
Tats:まとめると「ライドスタイルと相性の良いブランドの軽量ディスクモデル。完パケ車だとなお良い」ということになります。
具体的には、FactorのO2系、CanyonのUltimate系、Chapter2のTere、CannondaleのSupersix Evo系、 BMCのTeammachine系の5つになるかな。
Ryuji:その中で、よく一緒に走るメンバーが乗っていないブランドが、CannondaleとFactor。
Tats:最後が消去法という。。。
Ryuji:そう見えてしまいますね(笑)
4. ロードバイクデザイン論
Ryuji:実際は手にしたいバイクがちょうどほかのメンバーとかぶっていなくて、TatsさんがFactor O2、僕がCannondale Supersix Evoを選びました。
Tats:RyujiくんのSupersixの方が先に納車されたので、ずっと客観的に見ていましたが、Supersixのように競技っぽさを薄めたグラフィックデザインって、普段のライドにものすごく映えるんですよね。トップチューブの小さいロゴなんかは特に抜け感が出てて。
Ryuji:それは思いました。街中を走っていても違和感がない。
ただ、はっきりした切り替えの配色については、全然悪くないんですが、ファッション業界にいる彼女に「自転車界の人たちって変にデザインしたがるよね」と言われてぐうの音もでなかった。
Tats:特徴的なぶん、“2020年最新バイク”という感じはすごく出ますが…
Ryuji:そのあたりはブランドのサイズ感から来るものだなと。Cannondaleのような大手だとトレンド性も重視する必要があるので、あえてそういうデザインをしているのだと思います。
Tats:トレンド性はバイク選びのとき結構悩むポイントですね。時間経過に耐えられるのかどうかという観点。Supersixはグラフィックデザインの話ですが、バイクの形状、いわゆるプロダクトデザインでも結構そのときどきの流行みたいなものが現れる。
Ryuji:特にエアロロードがそうですね。Venge ViASとかFactor Oneとか、コンセプトデザインをそのまま形にしたようなバイクは時代を感じやすい。
ただFactor O2については、たしか2016年のモデルだと思いますが「変にデザイン」していないので古さがないですね。今年出る第2世代も、ジオメトリは少し変わっていても基本的な形状はほとんど変えていないですし。
あとマットグレーというカラーリングの選択も、業界がスタイル重視にシフトする今選ぶからこそ色褪せない。
Tats:選んだ理由を説明してくれてありがとう(笑)。やっぱりサイクリストを含めた人馬一体のスタイリングで考えたいからですね。バイク単体で見たときに格好良いモデルはいっぱいあるけれど、時代性やカラーが強すぎると着るものが結構制限されたりする。乗ったときのビジュアルで面積のほとんどを占めるのはサイクリスト自身なので、そこを大事にできるバイクを選びたかった。
あれだけ目立つWilierに乗っていたどの口がいうかという話ですが…あれを買った当時とライドスタイルが変わったので赦してほしい…
Ryuji:実際乗ってみてどうですか?Supersixの方はインプレ記事で言いたいことはほとんど書きましたが、最良のバイクを選択できたと満足しています。
Tats:O2は乗り味が本当に気持ち良い。コンポーネント類は本国のテストバイクと同じBlack Incをアセンブルしたので、ディスク完成車としてのバランスは全く問題ないです。硬すぎないし軽やかだし。その中でもバイクコントロールのしやすさが特徴的です。
さっきバイクに主導権があるモデルの話がありましたが、O2はサイクリスト側に主導権があるバイクなんですね。思い通りに操れる。乗り比べてよくわかりますが、これってバイクを駆る本質的な楽しさにつながっています。
Ryuji:なんか羨ましくなってきました(笑)。走る上で一番大事な「乗っていて楽しい」という要素が出てくるって絶対いいバイクですもん。
Tats:お互い乗り込んでいきましょう。これからのライドが楽しみです。
Text by Tats(@tats_lovecyclist)
Talk by Tats & Ryuji(@marusa8478)
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