ロードバイクの「色選び」ガイド:ORBEAのカラーオーダーから考えよう〈基礎知識編〉

ブランドや性能について触れられることは多い自転車だが、これまで『』について語られることはほとんどなかった。
でも自分の自転車を選ぶとき、多くのサイクリストはフレームの色が決め手のひとつとなったことだろう。「パキッとした青が格好いい」「光で変化する色合いが綺麗」「黒が落ち着く」といったように。

自転車選びでは、色はどのような価値をもたらす要素だろうのか。
ここでは、大手自動車メーカーのカラーデザイナーであるNaokoと、自転車選びでは業界随一の経歴を持つ吉本氏を迎え、ORBEA(オルベア)のカラーオーダーシステム「MyO」を使いながら、自転車の色選びの考え方について話していく。新しい『色』の世界へようこそ。

語り手

Naoko@pas.a.pas.22
車会社のカラーデザイナー職。スポーツバイク歴3年。デザイナーとしての圧倒的な知識と経験を活かして、ウェアや自転車の色合わせにも落とし込んでいる。
自転車はレースではなくライフスタイルの中に取り込んでいる勢で、自転車遊びも自転車選びも生活の中に溶け込むバランスで楽しむ。
吉本 司@kop_2014
月刊自転車専門誌「Cycle Sports」の前編集長を務めた吉本司氏。現在は自転車を軸に様々な活動を行っている。スポーツバイク歴は35年以上で、ロードバイクのみならずすべての自転車選びを好み、機材からウェアまでジャンルを問わず幅広い知識を持つ。
Tats@tats_lovecyclist
Love Cyclist編集長。スポーツバイク歴10年。ロードバイクを中心としたスポーツバイク業界を、マーケティング視点を絡めながら論じることが好き。同時に海外のアパレルブランドと幅広い交友関係を持ち、メディアを通じてさまざまなスタイルの提案を行っている。

Photo & Edit / Tats [PR]

色選びって重要だよね

Tats:今回は自転車の『色』について話そう、ということで、車のカラーデザイナーをしている自転車仲間のNaokoさんにも加わってもらいました。

Naoko:自転車の色について語る企画って斬新ですね。わくわくします。

カラーデザイナーのNaoko

Tats:色って自転車の中でどんな価値をもたらす要素なんだろう?ということで、色の持つ力、素材と色、ウェアとの色合わせといったさまざまな切り口で話していければと。
まずは僕らがどう自転車の色を選んできたかをベースに話しながら、色選びをロジカルに紐解いていきたいと思います。
吉本さんはもう50台以上自転車を乗り継いていますが、これまでどんな観点から色を決めてきましたか。

吉本:そうですね、感覚的に「来たー!」って思う色があるとすぐに手が出てしまうことが多いですかね。

Tats:ぜんぜんロジカルじゃなかった(笑)。でも確かに、みんな感覚的に選ぶことがほとんどだと思います。

スポーツバイク歴35年を超える吉本氏は、さまざまなカテゴリの自転車を50台以上乗り継いできた

吉本:『色買い』というんですかね。もう随分前になりますが、Canyonがまだ日本に上陸していなかったとき、超絶欲しいアップルグリーンカラーのフレームがあったんです。どうしても欲しくて、直接Canyonにメールして売ってもらいました。そのフレームは一度壊してしまったんですが、あまりにお気に入りすぎて、またメールをしてもう一台買いたいと話をするほどです。
ひとつ前に乗っていたBMCも、形と色が好きで、乗り味とか性能は二の次で選びました。

Tats:そのときどきで気になる色って変わっていきますよね。

吉本:色の好みって、わりと時代とか気分とかで変わるのものなで、「いつもこれ」という色はないですね。そういう意味でいつもそのときどきで好きなカラーに色替えしています。
逆に自転車って色が気に入らなくて買うっていうことはないんですよね。性能はある程度目をつぶることはあっても、色は妥協できない。

Naoko:そこは妥協したくないですよね。色って形よりもファーストインプレッションが強いので。車でもそうですが、パッと見たときに色がもたらすインパクトってものすごく強いんです。街中でスポーツカーとか見ても、私の場合、最初に目に飛び込んでくるのは色ですね。

Tats:色が視界に入って「この車の色いい!」ってなりますもんね。そのあとに形を見る。僕がプジョーを選んだきっかけも、街中で見た208の黄色が強く心に残っていたからでした。

Naoko:自転車を選ぶときって形とかスペックはもちろん気になるし、買ってからもその部分を発信することは多いんですが、自分を含めてどう見せるかを考えるなら、色はめちゃめちゃ気合を入れるべきところなんです。

吉本:色選びって実はものすごく重要なんだよ、ということを前提としてわかっておきたいですね。

車でも自転車でも、色はファーストインプレッションに効く

 

ウェアとの相性を考えるべきか

Tats:Naokoさんはどうフレームカラーを選んできましたか?

Naoko:私も乗り継ぐたびに考え方が変わってきていますね。1台目のTREKは黒でした。最初から色んなウェアを着たいなーと考えていたので、どんなウェアを着ても喧嘩しない色って黒か白が定番だなと思って、ストレートに黒で。わりと守りに入ったかもですが。

最初のロードバイクに選んだ色は黒

Tats:定番中の定番で、トータルコーデに困らないですからね。

Naoko:そうなんです。でも2台目を買うときに「黒の自転車ってみんな持ってるんだよなー」と思っていて、人と被りたくないという気持ちから黒以外を探していました。
決めたのがChapter2のマルーン×クリームのコンビカラーに水色ロゴだったのですが、完全に一目惚れでした。黒と比べるとウェアの色合わせが難しくなるんですが、あまりにこの組み合わせが好きすぎて、「逆に自転車に合わせて服を買えばいいじゃん」と思えました。

Tats:色選びの主軸がウェアからバイクに変わったんですね。心底惚れられるフレームに出会うと、考え方ががらっと変わるというのが面白いです。
僕も立場上色々なウェアを着るようになってから、基本的にどの色でも合うように無彩色のフレームを選んできました。でも次に乗るフレームはパキッと明るい色がビビッと来て、そのカラーでも乗りたいと思えました。2台持ちなので、1台はどのウェアにも合う黒フレーム、もう一台はフレームをベースにコーデを決める色という考え方で運用すればいい、となっています。

吉本:よくある「ウェアとの色合わせを考えるべきか?」という問いに対しては、よほどウェアが好きでたくさんの色を着たいというケースを除けば、惚れたフレームの色を選んだほうがトータルで自転車ライフが幸せになれるんだろうなと思います。ウェアは買い換えで融通が効きますが、フレームは一度決めたらそれに乗り続けるので。

「自転車に合わせて服を選ぶ」でもぜんぜんOK

 

素材と色の関係性

Tats:あと同じ色でも、素材によって見え方が全然違いますよね。先ほどNaokoさんが「黒フレームはみんな持っている」と話していましたが、黒もいろんな黒があって奥が深いなと思います。

吉本:黒フレームは何で組んでも外しがない定番なんですが、意外と上級カラーなんですよね。
ファッションの黒で考えるとわかりやすいと思いますが、シルエットや質感があらわになるので、服の良さそのもので勝負しなければならない
自転車も同様です。ただ黒フレームに黒いパーツを組み合わせれば完璧というわけではなく、同じ黒でもカーボンの黒と塗装の黒ではニュアンスが全然違うし、塗装でもグロス/マットの違いがあって、それぞれに最適なパーツの組み合わせが変わってくる。

Naoko:例えばシルバーっぽいステムを入れてキリッとさせるとか、3Dプリンタのサドルでディティールを出してあげるとか、ハズしができるとまた面白いですね。黒だけど素材感で遊べるようになると、よりパーツ選びが楽しくなると思います。
ここを語りだすと色選びからめちゃめちゃ脱線しそう(笑)。
ちなみに3台目はチタンなんですが、これはあえてチタンの素材そのままのものを選んでいます。

3Dプリンタサドルのディティール感は真っ黒な黒バイクでも印象をさり気なく変える

吉本:素材の色だけで勝負するの、いいですね。チタンは自然な光沢と質感があるのでそれができる。仕上がりに高級感があって、マシンとしての素の格好良さが出るんですよね。
先程のウェア合わせの話だと、「バイク×自分」という掛け算で色を考える話でしたが、こっちは「バイク×パーツ」という掛け算になるんですよね。自転車の色っていろんな切り口から選択できる要素があって、考えること自体がものすごく楽しい。
自転車ってどうしてもスペックとか性能が最初に語られることが多くて、その内容に踊らされがちですが、色を元にした遊び方って正解がないから、果ては自分が納得できるまで突き詰めることができます。こういった自由こそ自転車を趣味にする醍醐味のひとつですよね。

遠回りできるのは趣味ならではの楽しみ

 

ブランドと色の関係性

Tats:ブランド自体が持っている雰囲気とかイメージもあって、そのブランドのトーン&マナーが自分に合うかどうかもひとつ考えるポイントですね。

吉本:国とか地方によってかなり変わってきますよね。PinarelloやColnagoのようなイタリア車は華やかで、Canyonのようなドイツ車は質実剛健で、TREKやCannondaleのようなアメ車はパキッとしている、というように、ブランド自体にある程度イメージの方向性がある。

Naoko:そういうざっくりしたイメージから入っていって、個別のブランドが持つストーリーを知った上でプロダクトを判断すると、自転車に対する愛着がさらに増していきますね。

Tats:このあとORBEAのカラーオーダーシステムを実際にやってみるんですが、ORBEAはすごく綺麗なバイクをつくっているんですよね。特に第7世代になった新型ORCAの造形は、初めて見たときに心底惚れ惚れしました。最近Fumyが2年間のパートナーシップを結んだこともあって注目されていると思います。

ORBEA ORCA AERO

吉本:ORBEAってスペインのブランドなんですが、本社は北のバスク地方にあるんです。バスクは南のマドリードのような活気に満ちた明るい都市とは違って、自然の多い環境と独自の文化の中で、ちょっとしっとりした感じなんですね。いい意味での暗さがあるというか。そういった土地のメンタリティとか道の文化がプロダクトに反映されていますね。
あとバスクの人たちってすごく生真面目なんですよ。だからイタ車やアメ車のようなはっきりしたキャラクターがあるというわけではなく、押し出しが濃くない奥ゆかしさがあります。

Tats:試乗してみてもそれはすごく感じました。ORCAは北米メーカーのような派手な乗り心地ではなく、癖がなくて軽やかで、上っていて楽しいと自然と感じさせてくれるバイクでした。
試乗車の色も、明るい色ですが、決してパキッとしているわけではなく、くすみっぽいニュアンスカラーがちょうど良い雰囲気です。

美しい色合いは欧州車ならではと感じる

Naoko:地域の特色を知った上で色を見ると面白いですよね。この色はスペインではどういう意味かとか、そういうことを理解しているかどうかでも、自転車に対する向き合い方って変わってくるんです。

Tats:自分のバイクについて話すときにドヤ顔で説明できますしね…。

Naoko:ですね…。メーカー側もそういうストーリーを積極的にユーザーに伝えていってほしいなと思います。世代的にはモノ消費→コト消費→意味消費へと移っている中で、「意味」がどんなものかをブランドはちゃんとアピールしていかなければならない時代に入っていると思います。

吉本:ディスクブレーキになってから自転車の全体的な基本性能は高まっているので、「ちゃんと走れるのはわかった。じゃあそれにプラスしてどんな楽しみを得られるか?」というところをユーザーは求めています。
自転車も”意味”の領域にどんどん踏み込んでいくとみんなが幸せになるでしょうね。

Tats:というわけで、後篇では実際に3人で、テーマ別にORBEAバイクのカラーアイデアを計10パターン出ししてみました。それぞれ違う切り口からアイデアを出しているので「なぜその色を選ぶか?」という“意味”を考える上で、かなり参考になるラインナップになっていると思います。
ちなみに僕と吉本さんが出したカラーは、最終的にNaokoさんにブラッシュアップしてもらっています。

吉本:調整してもらってすごく良くなりましたよね。

Tats:さすがデザイナー…!と本気で感動しました。

Naoko:えへへ(笑)。配色を含めてデザインは感覚だと思われがちですが、実は知識とロジックがベースなので、読者の方が自分で色を選ぶとき参考になるように、そのあたり詳しくお伝えできればと思います!

ロードバイクの「色選び」ガイド〈実践編〉へ続く

Photo & Edit / Tats
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提供 / ORBEA JAPAN