近年、欧米ブランドを中心に、自転車界にも“ちゃんとデザインされたプロダクト”が増えています。
ここで言う「デザインされたもの」とは、表面的な見た目のことではなく、アートや服飾といった専門的な知識や美的感覚を持ち、さらにマーケット感覚を加えて生み出されたプロダクトのことを指しています。
僕自身はそういった専門的な教育を受けたわけではありませんが、現在の本職(アパレル)の仕事柄、よくデザインされたアパレルが購買につながるという傾向を見てきており、自転車に置き換えても、個人的に同じ体験をしています。
イギリスで創業した『QUOC(クオック)』は、服飾デザインとスポーツ両方の視点からものづくりをしている、サイクリングシューズの専門ブランド。国内ではまだ馴染みが薄いかもしれませんが、これまでにリリースしてきたシューズは、どれもプロダクトデザインとして優れたものばかりだと感じてきました。
それらシューズのラインナップに、2021年新たに追加された「MONOⅡ」もまた、美しい外観を纏い、個人的にも非常に魅了されたロードシューズです。今回はその見た目だけではなく、サイクリングシューズとしての性能にも迫りながら詳しくレビューしていきます。
*本レビューのシューズはCircles提供のものです。
1. QUOC MONO II
モデル | 特徴 | 定価(税込) |
MONO II | 軽量レースグレードモデル | ¥43,450 |
NIGHT | シューレースのパフォーマンスモデル | ¥34,980 |
NIGHT MONO | ストラップ式レースモデル | – |
QUOCは、ロード、グラベル、シティの3カテゴリのシューズを展開。
ロードカテゴリーの既存モデルには、NIGHT(シューレース)とNIGHT MONO(ベルクロ)がありましたが、新作のMONOⅡ(ダイヤル式クロージャー)は、これまで以上にパフォーマンス志向のシューズとして登場しています。
QUOC
©QUOC
QUOCの創業者のQuoc Pham(クオック・ファム)は、ポール・スミスやThe Clashのジョン・ガリアーノ、ポール・シムノンを輩出したロンドン芸術大学セントラル・セント・マーチンズ・カレッジ・オブ・アート・アンド・デザインズを卒業。そして服飾のデザインとスポーツ(特にサイクリング)への情熱を掛け合わせ、今までにないプロダクトを生み出すサイクリングシューズ専門ブランドのQUOCを2009年に立ち上げました。
2. 美しい外観に惚れる
QUOC MONO II – ¥43,450
QUOCのシューズといえば、まずその見た目の美しさが目を奪います。
既存ラインナップのNIGHTやNIGHT MONOは、まるでテーラーが仕立てたドレスシューズのような美しさがありました。
初のダイヤル式クロージャーのMONOⅡにおいても、QUOCならではの洗練されたミニマリズムデザインに仕上げられています。
ブローグシューズのようなタンのステッチが美しい
綺麗な曲線を描くアッパーは、足に吸い付きそうなほど薄く滑らか。またブローグシューズさながらのジグザグのステッチが、さりげなくドレッシーな雰囲気まで漂わせる。
シューズのデザイン性を損なわない程度の厚みを備えたカーボンソールは、大きなパワーを受け止めてくれる堅牢さを感じるもので、”美しく、速い”シューズを体現したようなMONOⅡに、思わず一目惚れしてしまいました。
3. 履き心地
ちょっとしたサイクリングからレースシーンまで想定したMONOⅡは、パワー伝達性に加えて、履きやすさにも焦点を当てていることが各所から見て取れます。
しなやかなアウトソールの剛性感
美しいカーボンアウトソールは、少しのしなやかさがある、とてもいい落とし所の剛性感。
硬すぎるカーボンソールの場合、踏み込むと力の逃げ場がなくなって足に跳ね返ってきますが、MONOⅡのしなやかさは長時間履いていても疲れにくい感覚があります。
併用しているS-Works VENTと比較すると、MONOⅡは700W以上で踏み込んだときに少したわむ感じがします。スプリンタータイプのレーサーよりも、ルーラー向きの塩梅になっているようです。
完全ホールドするアッパー
ダイヤルを締めていったときのアッパーのホールド力は素晴らしく、一切足が動かなくなるくらいに足を完全ロックできます。
逆にダイヤルを緩めた場合、緩めた分だけちゃんとゆとりが出せるので、メリハリのあるホールド感が得られます。
調整可能なアーチサポート付きインソール
ラインナップの中で最もコンペティティブなライドを想定しているMONOⅡのインソールは、足のアーチに合わせて左右それぞれカスタマイズできるように、大・中・小のアーチサポートが標準で同梱されます。
僕の場合は“中”の高さに変更したことで、ソールがピッタリと足にフィット。踏み込んだ時のダイレクト感がより強く感じられました。
インソールも相性があるので、こうして調整可能なところがうれしく思います。
4. 機能面
独自のダイヤル式クロージャーシステム
MONOⅡに搭載されているダイヤルは、締めつけは1ノッチずつですが、開放時は全開放のみの方式。
ちなみにこの方式だと少しだけ緩めたい時に緩み過ぎてしまう心配がありますが、開放方向に回しても一気に緩むわけではなく、一度全開放して、再度1ノッチ分締めることで少しだけ緩んだ状態にすることができます。
そのため使っていて不便さを感じることはありません。
通気性
カーボンアウトソールの通気性に関してですが、アウトソールのベンチレーションはつま先の一箇所のみ。
30°ほどの夏日でのライドではなんとも感じませんでしたが、僕はシューズの中が暑くなるのが苦手なので、真夏の猛暑日になると気になるかなと感じています。
重量
見た目のスマートさを裏切らない軽量性もこのシューズの魅力の一つ。
42サイズの実測値は233g。同じダイヤル式クロージャーでかなり軽い部類になるS-works VENT(41.5/220g)と比較してもほぼ同等の軽量性といえます。
実際にペダリングしていても、VENTとの違いはほとんど感じられません。
5. 【重要】サイズ選び
41〜43サイズをテスト
レビューにあたっては国内代理店のCirclesさんのご協力で、サイズ感の検証のために3サイズ*(EU/41、42、43)のMONOⅡを送って頂きました。
*ハーフサイズ展開なし
普段僕は馴染みのないブランドのシューズに足を入れるときは、まず42から試すので、今回はその前後サイズを踏まえて、MONOⅡのサイズ感についてお伝えします。
まずクリートをつけないで試着した際には、全体的に少しゆとりのある作りだと感じました。特に甲からつま先にかけての横幅の作りに比較的余裕があり、いわゆる細長い欧米の靴ではないため、僕のような幅の広い日本人的な足でもすんなり履ける感覚がありました。
この時の履き比べで、43はつま先にかなり余裕があったので選択肢から外れましたが、41と42で迷うことになったのは意外でした。
というのも、今まで他ブランドのシューズ(ワイドモデルを除く)で41は履けたことはなかったから。MONOⅡは他ブランドのシューズに比べて全体的にゆとりがありながら、甲の部分の幅が広めに作られているため、アジア系の足に適性があるのだと感じました。
結果的には42を選択し、クリートをつけて何度かライドする中で、僕はこの選択が正解だったと感じています。
41は足にはピッタリだったのですが、あまり力を入れないリラックスしたペダリングをしているときには、シューズの中で多少足を動かすスペースがあることが好みな僕にとって、41は少し窮屈に感じました。
とはいえ、僕は典型的な日本人の足の形なので、今回は普段通りの42を選択しましたが、そうではない人がMONOⅡを履くならワンサイズ小さめを選択することをお勧めします。
参考までに、僕がフィットする各シューズメーカーのサイズを記載します。
※普段のスニーカーのサイズは27cm
メーカー | サイズ |
QUOC | 42 |
Specialized | 41.5 |
Fizik | 42 |
GIRO | 42 |
Mavic | 42 |
6. “靴”としての本質を履いて
ファッションでは歳を重ねる程、トレンドアイテムよりもスタンダードで本質的で長く使えるものを好むようになる傾向があります。
これは自転車でも同じこと。だからファッションとサイクリングのどちらの本質もよく理解して、自分が選んだものを使いこなしたいと思っています。
普段MONOⅡを履いていて思うのは、このシューズにはそういった本質がしっかりと存在するということです。ドレスシューズの要素を取り入れたミニマリストアプローチの優れた外観だけでなく、ロードシューズとしてのフィットや剛性感は深い部分まで追求されていて、「靴のデザイン」というのはこういうアウトプットができてこそだと感じさせてくれる。
これまでに色々なシューズを履き継いできましたが、これからはこのMONOⅡとも一緒に、サイクリストとして本質を追求する道を進みたいと思います。
Highs
・ドレッシーで美しいデザイン
・日本人の足にも合う幅広形状
・レースシーンに対応するハイスペックなフィットと剛性感
・調整可能なインソールが付属
Lows
・通気性は高くない