ROVAL最新トップモデルレビュー〈後編〉: ALPINIST CLX III の本質的な存在意義と3人の結論。

前編ではRAPIDE CLX IIIとSPRINT CLXの2モデルを検証してきた。両モデルが採用した前後異形のリムハイト構成とカーボンスポークの採用は、Ⅲ世代のRAPIDE CLXシリーズで最も大きなトピックであり、業界的にも注目度の高い設計転換だった。

これに対し、ALPINIST CLX IIIは少し異なるアプローチをとっている。カーボンスポークの採用には踏み切っているが、リムハイトは前後同一の33mm。前編の2モデルと比較すると、ALPINIST CLX IIIは技術的なトピックで劣る印象があるが、日本の道における登坂の重要性を考えると、このモデルの需要は確実に存在するはずだ。

後編では、ALPINIST CLX IIIの実走性能を検証し、3モデルの特性の違いを明確にしていく。ライダーの体格や走り方によって、どのモデルが最適なのか——その判断基準を提示しながらロード用ホイールの最前線を紐解いていく。

レビュアー

Ryuji@ryuji_ride
会社経営者。スポーツバイク歴16年。POCアンバサダー。過去には競技者として打ち込み、表彰台に上がった経験も持つ。自転車専門誌の編集者、サイクルウェアメーカーでの勤務といった経歴から業界にも精通。所有バイクはS-Works Tarmac SL8とCannondale SuperX。

text & photo / Ryuji@ryuji_ride
edit / Tats@tats_lovecyclist

※本レビューのALPINIST CLX IIIは、Specialized Japanから貸与を受けて一定期間にわたって実走テストを行ったものです。

ALPINIST CLX III 設計の裏側

ROVALがRAPIDE CLXシリーズを発表した2020年、軽量登坂志向ホイールとして『ALPINIST CLX』も同時に投入された。RAPIDEシリーズが軽量性と空力性能のバランスを追求する一方で、ALPINIST CLXは軽量化に特化した設計として、異なるユーザーを想定している。

初代ALPINIST CLXのリムハイトは33mm。前後同一設計で外幅27mm/内幅21mmというリムの仕様は、その後のモデル進化でも守り続けられている。

2022年のII世代ではチューブレス対応がなされた。この改良はRAPIDE CLX II同様の進化であり、クライミングホイール領域でも軽量性を保ちながら、タイヤの選択肢を広げ、幅広いユーザーのニーズとトレンドに対応させた。

そして2025年、III世代が登場する。新型ALPINIST CLX IIIは、RAPIDEシリーズの2モデル同様にカーボンスポーク採用に踏み切った。軽量化に全振りしているように見えるALPINIST CLX III設計の背景には、どのような技術的な進化があるのか?

スペック

リムハイト 33mm(前後同一)
重量(セット) 1,131g
リム内幅 21mm
リム外幅 27mm
スポーク ARRIS コンポジット
ハブ Roval LF Hub with DT Swiss 180 EXP
価格 フロント180,400円、リア270,600円

リム形状は継承

ALPINIST CLX IIIは登坂での軽さと反応性を最優先にした設計。低めの33mmハイトで、ホイール全体の軽さに貢献しながら低い回転慣性で軽快感も向上する。

リムの寸法は初代ALPINIST CLXと同じで、高さ33mm/外幅27mm/内幅21mmを継続。フックレス化やワイドリム化などのトレンドは存在するが、実績のあるリム形状を継承することで軽量性と信頼性の両立に重点を置いているようだ。

軽量化の要となるARRISのスポーク

ALPINIST CLX IIIは1,131gという前作比134gの軽量化を実現しているが、その約77%がARRIS社製カーボンスポークへの改良によるものだった。ARRIS製スポークは熱可塑性樹脂を用いた特殊な製造法により、従来のカーボンスポークより軽量で、20%高い強度を持つ。これにより高いスポークテンションでの組み上げが可能になり、登坂時のダンシングやパワー伝達性の向上に繋がった。

軽量化を実現したハブシステム

ハブシステムは今作の軽量化を支えるもう一つのファクターだ。新設計のRoval LFハブによって約30.5gの軽量化となった。DT Swiss 180 EXP、セラミックベアリングとの組み合わせは、初代から変わらない。前モデルのLFDハブから反復的に軽量化を進めながらも、実績のある内部機構を採用することで、整備性と長期耐久性を確保している

 

実走評価

前編で試乗したRAPIDE CLXⅢとSPRINT CLXは、ともにレース用でありながら、それぞれ異なるシーンで『最適解』を示すホイールだった。では、ALPINIST CLX IIIはどうか。前編と同じ体格の異なるライダー3人の体験を通して見ていく。

テストライダー

Ryuji(168cm/60kg): スポーツバイク歴17年。学生時代には競技者として打ち込み、自転車専門誌の編集者、サイクルウェアメーカーでの勤務といった経歴から業界にも精通。レースからサイクリングまで幅広いライド経験を有し、ホイールに求める要件も多岐にわたる。初代RAPIDE CLXから5年の使用経験あり。
テスト用バイク】Specialized S-WORKS Tarmac SL8、Cannondale Super X
Ozzy(166cm/48kg):ROVAL RAPIDE CLX IIIユーザー。スポーツバイク歴16年。自転車乗りの両親の影響から学生時代にサイクリングサークルに所属し、全国をツーリングした経験を持つ。現在はWilier filante slやindependent fabricationなど、用途に応じて複数のバイクを所有している。加速感や反応性に敏感であり、軽量モデルの価値を正確に評価できるポジション。
テスト用バイク】Wilier Filante SL
Yuta(180cm/68kg):ROVAL RAPIDE CLX50ユーザー。物心ついた時から自転車に関わり、中学の頃にMTBとトライアルで競技を開始。約10年前にロード競技へ転向し、現在はニセコクラシックで世界選手権の出場枠を獲得するなど国内のハイレベルなレースで活躍する。高パワー出力環境での実走経験が豊富であり、ハイスピード領域でのホイール性能を的確に判断できるライダー。
テスト用バイク】Canyon Aeroad CF SLX

試乗条件

天候:気温8~14℃、曇り時々晴れ、風速6m/s
使用タイヤ:SPECIALIZED TURBO COTTON 28C

 

①加速性(低速)

Ryuji
60kg
出だしの軽さは素晴らしい。リムハイトが低い分バイクの挙動も素直で、ホイールが付いていないかのような軽い加速ができる。普段のソロライドでも、街中から山間部まで、あらゆる場面で気持ちよく走れる感覚がある。
Ozzy
48kg
軽さを活かしたゼロスタートはRAPIDEより圧倒的に鋭く、35km/h以下での加速性で特に良さを感じる。登坂路だけじゃなく、急減速、急加速が続くようなクリテリウムやシクロクロスでも活躍しそう
Yuta
68kg
軽量ホイールらしい出だしの良さ。剛性もそれなりにあり、ダンシング時のハイトルクにもホイールが腰砕けしない。だが同時に、レースではない普段のゆったりした走りでも、この軽快感がバイクに生命を吹き込む。フレーム自体の印象さえ変わる感覚だ。

ALPINISTは、ゼロスタートからの圧倒的な軽快さと、低リムハイトならではの素直なバイクコントロール性が顕著だ。
特に体重の軽いライダーは、35km/h以下でRAPIDEを凌ぐ初動の鋭さを感じ取り、クリテリウムのような加減速の激しいシーンでの優位性が見える。
重量級ライダーにとっても、高トルクでも腰砕けしない十分な剛性を備えているだけでなく、バイク全体の印象に「生命力」を与えるような性質が伝わってくる。

 

②加速性(高速)

Ryuji
60kg
40km/h以上での加速は、慣性の低さからこまめな入力が必要で脚を使わされている感覚があるが、高速域で加速しないというわけでなく、瞬間的な反応の良さは高速域でも感じる
Ozzy
48kg
すでに速度が乗った状態からさらに加速するなら、RAPIDEに軍配が上がる。
Yuta
68kg
35km/h超えると継続的なパワーの入力が必要になってくる。加速が頭打ちになる速度がRAPIDEより低い

高速域でも持ち前の反応の良さは健在だが、低慣性ゆえに速度を維持・向上させるには絶え間ないパワー入力が必要となる。
35〜40km/h付近で加速の伸びが頭打ちになる傾向があり、特にパワーのある重量級ライダーほど加速の天井を早く感じやすい

 

③高速巡航性

Ryuji
60kg
40km/h以下の巡航は悪くないレベルで、意外と速い。40km/h以上では回転慣性が弱く、転がる感覚が弱まり脚を使わされる。
Ozzy
48kg
ゆっくり走る時や30km/h前後での巡航は問題ない。ただし40km/h超えで維持していくのは辛い。
Yuta
68kg
ゆっくり走る分には快適に転がり、RAPIDE CLXIIIやSPRINT CLXより快適に走れる。高速になるにつれスピード維持に力を使う。

40km/h以下の領域では、軽量モデルのイメージを覆すほどスムーズで快適な転がりを見せる。
ただ40km/hを超えると慣性の弱さが顕著で、速度を維持するためには連続したパワー入力を強いられる。

 

④登坂性

Ryuji
60kg
6%以上の斜度で恩恵を受け始める。ホイールが軽いおかげでバイクが素直に動き、シッティングでもダンシングでもリズミカルにバイクを操れる。雑なペダリングでもホイールが受け止めてくれる程よい剛性感に仕上がっていて、とにかく上りが楽しくなる。
Ozzy
48kg
斜度がきつくなるほど持ち前の登坂性が生きてくる。踏み込むとタイムラグなくスッとバイクが前に進む感じで、ヒルクライムでは確実にタイムの短縮につながる。同時に、ゆったりしたツーリング中の登りでも、その軽快感は常に登る楽しさを感じられる。
Yuta
68kg
5%程の斜度から良さが出てくる。ダンシング時もたわまず、ラフなペダリングでもペダルがストンと下死点へ落ちていく感覚が気持ちいい。ピュアエアロロードでも、このホイールを装着するだけでクライミングバイクに変身したような軽快さをもたらす。

登る楽しさ」を感じる圧倒的な軽さ。5〜6%以上の斜度からその恩恵は顕著になる。
ラフな入力や高負荷なダンシングでもリズムを崩さず、ストンと足が落ちるような心地よい推進力に変える絶妙な剛性バランスを備えている。
エアロロードと組み合わせても、クライミングバイクのような性格を一変させるほどの振りの軽さと確かなパワー伝達力がある。

 

⑤ハンドリング

Ryuji
60kg
低速コーナーから高速コーナーまで全ての速度域のハンドリングが素直で扱いやすく、バイクを操る楽しさを感じられる。これはレースだけではなく、ツーリングやカジュアルなライドでも同じように活きてくる。
Ozzy
48kg
タイトコーナーが入り乱れるルートでもライン取りがしやすく、ヒラヒラとバイクが方向転換していく。コーナー途中でバイクのバンク角を変えたい時も簡単に調整できる。このハンドリングの扱いやすさはリムブレーキの頃のシャマルやレーゼロっぽい雰囲気を感じる。
Yuta
68kg
低速から高速まで素直に動いてくれる。高速コーナーではやや集中力が必要だが、狭いつづら折りなどの低速コーナーでは、狙ったラインをキープしやすい。自分のフレームはコーナリングにやや癖があるように思うが、このホイールだとそういった癖がかなり軽減される。

低速域でのクイックさと、狙ったラインを正確にトレースできるニュートラルな操作性。
軽量級ライダーはタイトなコーナーでの自由自在なヒラヒラ感が心地よいが、体格が大きくなるほど高速域でピーキーさを感じやすく、一定の集中力を要する。
しかし総じて、フレームの癖さえ補正する素直なハンドリング特性があり、あらゆるシーンで「操る楽しさ」が感じられる。

 

総合評価:ALPINIST CLX IIIが持つ付加価値

Ryuji
60kg
ソロで35km/h程度までなら気楽に使えるし、自転車に乗る楽しさを感じる良いホイールだと思った。ロングライドやハードなライドではRAPIDEを使うが、ソロライドが多い自分なら普段は、ALPINIST CLX IIIを使いたい。
Ozzy
48kg
ソロやカフェライドをするなら、RAPIDEほどのスペック不要。スピードを求めない時はRAPIDEよりも走り心地が良く、平地も登りも楽しくなる。
Yuta
68kg
軽快な加減速と素直なハンドリング、快適性。ゆったりしたライドや急勾配のヒルクライム、アップダウンの多いライドに最適。そういったシーンではこれ以上に良いホイールは今のところ思い当たるものがない。

ここ数年のロードホイール市場を見ていると、一つの転換点が見える。空力に優れたホイールの軽量化が急速に進み、いまやその軽さは従来の純粋なクライミングホイールと遜色ないレベルに達している。RAPIDE CLX IIIの性能がそれを象徴している。

つまり、「軽いホイール」と「空力の良いホイール」という従来の対立構図が薄まってきている。レースの世界では、エアロロードが登り基調のレイアウトでも使用されるようになり、ホイールも空力と登坂性能を両立したモデルがスタンダードになりつつある。そうなるとALPINISTの主戦場は変わってくる。

試乗を通じて感じたのは、ALPINIST CLX IIIが、そうした市場環境の中で自らの存在意義を問い直し、新しい答えを示していたということだ。3人のライダーが口にしたのは「普段のソロライドでも気持ちよく走れる」「ツーリング中の登りでも軽快感が活きる」といった、必ずしもレース環境ではない話だった。それは、このホイールがレースの世界だけではなく、自転車に乗るすべてのライダーに『走りの楽しさ』という価値を提供していることの証だ。

激化するホイール開発競争の中で、クライミングホイールとしてさらなる磨きがかかったALPINIST CLX IIIは「レース以外の付加価値」においても自らの存在意義を示していると感じた。

 

3名のライダーが選ぶ「最高の1本」

比較テストを通じて、新しい3モデルの明確なポジションの違いが見えた。
今回のテストを経た3名に「どれか1本を選ぶなら?」という質問をしたとき、結論は驚くほどきれいに分かれた。しかし、それぞれのライダーが置かれた環境やスタイルを照らし合わせると、その選択には極めて明快な合理性がある。

Ryuji(60kg)が選ぶ1本 – ALPINIST CLX III

ソロライドを主体とするRyujiは、Alpinist CLX IIIを選んだ。グループライドよりもスピードレンジが速くなりにくいソロライドにおいては、高慣性のエアロホイールよりも、ゼロ発進や加減速のたびに「操る楽しさ」をダイレクトに享受できる低リムハイトの軽快さが、ライドの質をより高めてくれるからだ。愛機であるTarmac SL8との相性も相まって、必要な時には十分な高速走行も可能という「実利と官能のバランス」がまさにぴったりだと感じる。

Ozzy(48kg)が選ぶ1本 – RAPIDE CLX III

48kgのOzzyが選んだのは、意外にもオールラウンドエアロのRapide CLX IIIだった。一般的に軽量ライダーにとって、高ハイト=扱いにくいという図式があったが、最新のRapideが到達した圧倒的な軽さとハンドリングの素直さは、その通念を振り払った。小柄なライダーでも持て余すことなく空力性能をフルに引き出せるという、現代の機材進化が生んだ「総合力の高さ」への信頼が、Ozzyをこの一本へと導いている。

Yuta(68kg)が選ぶ1本 – SPRINT CLX

パワフルな走りを身上とするYutaは、最も剛性の高いSprint CLXを選択した。3名の中で最大の体格を持つ68kgの彼にとって、ほかの2モデルでは高負荷時にわずかに感じていた「加速の天井」が、Sprintには存在しない。800Wを超えるスプリントや45km/h以上の高速巡航において、踏み込んだパワーを一切逃がさず推進力に変換し続ける剛性こそが、重量級ライダーにとっての「速さ」に直結するという、フィジカルに基づいた合理的な選択だ。

* * *

「どのホイールが最速か」という問いに唯一の正解はないが、体格も脚質も異なる3人は、それぞれの視点から自分にとっての“最速”にたどり着いている。
それほどRovalによる新たな3本の選択肢は、どんな体格や脚質のサイクリストであっても納得のいく答えが見つかる守備範囲を持つ。
あなたにとっての最速はどれだろうか?3つの異なる体格からのアプローチを参考にしながら、自身の「最高の一本」にたどり着いてほしい。

Rovalホイール一覧(Specialized公式サイト)

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text & photo / Ryuji@ryuji_ride
edit / Tats@tats_lovecyclist