サドルの新たな形状として2017年頃からトレンド入りした「ショートノーズ」。
もともとはトライアスリートが好んで使っていた形状ですが、2015年にSpecializedがPOWERサドルを発売したことがきっかけで、サイクリストにもショートノーズが定着するようになりました。
それを受けて各メーカーからショートノーズのサドルが出揃ったのがここ2〜3年。
よりアグレッシブに走りたいサイクリストや、股間の痛みを気にするサイクリストは、積極的にショートサドルを試せるタイミングにあります。
ここではSpecializedを含む6メーカーの各モデルを比較紹介。自分に合ったサドル選びのマイルストーンにしてください。
1. ショートサドルがもたらす新世界
ショートサドルは、通常のサドルと比較すると「全長が短い」&「座面の幅が広い」という特長があります。
通常のサドルの多くが全長280mm前後なのに対し、ショートサドルは全長250mm前後。
また座面の幅は、通常のサドルが幅130mm前後からラインナップされているのに対し、ショートサドルは幅140mm以上のものがほとんど。
その特徴的な形状によって、通常のサドルとは異なるいくつかの違いが生まれます。
①ライドポジションの変化
ニュートラルポジションよりも前側に着座して、体重を乗せたトルクがかけやすくなる「前乗り」。
強度の高いライドスタイルのサイクリストにとって前乗りポジションは一般的ですが、通常のサドルで前乗りした場合、ノーズがペダリングを阻害したり、股間の痛みを生む原因となることがあります。
ショートサドルはノーズがカットされていることで、サドルを前側にセッティングすることが可能。
さらにワイドな後部座面によって骨盤が安定し、前乗りのエアロポジションを無理なく維持することができるようになります。
前乗りポジションを可能にするショートサドル。ニュートラルポジションよりも膝が前に出ることで体重を乗せやすくなる。骨盤を立てたきれいなエアロポジションも可能に。
②サドル沼を終わらせるポテンシャル
サイクリストがサドル探しを終わらすことができない理由のほとんどが「現状のサドルで不快な症状が出る」ということ。その症状が股の痛みだとすれば、ショートサドルはサドル沼を終わらせるポテンシャルがあります。
ショートサドルの形状は、短いノーズで股間の圧迫が軽減され、幅広の座面によって圧が分散されます。だから骨盤でしっかり着座できて、長時間乗っても痛みが出にくい。
男性・女性問わず、通常のサドルで不快感を感じていた場合は、理想のサドルに出会うための新たな抜け道となります。
③外観もスマート
重量は通常のサドルとそれほど大きな差はありませんが(モデル差があるので一概に比較はできない)、短いノーズがバイク全体の見た目をすっきりさせる効果は絶大。
ショートサドルの外観に慣れると、通常のサドルは見た目が重く感じてしまうかもしれません。
スマートな印象のショートサドル
2. ショートサドルは誰に向けたものか
177cm以下のサイクリストはショートノーズを好む傾向があると言われています*。それは身長が低いほど着座位置の可動域が少なくて済むから。
だからほとんどの日本人にとって、ショートサドルは適正のある形状。
ただ一概にどんなサイクリストでも適しているというわけではなく、少なくとも今使っているサドルがロングノーズで、少しも不満を抱いていないのであればショートサドルを選ぶ必要はありません。
その代わり、ショートサドルは前乗りポジション向けであり、また股の不快感を軽減させる形状であることから、
- ・トルクをかけた高強度の走りを好む
・ヒルクライムを好む
・現状のサドルに不快感がある
といったタイプのサイクリストに向いています。
*出典: 4 Things To Know About Short Saddles(Road Bike Action)
セッティングの注意点
ショートサドルは前後の可動域が狭いため、通常のサドル以上にセッティングがシビアになります。
その分、自分にとって最適な位置にピンポイントでセッティングできれば、最大限のポテンシャルを引き出すことが可能。
そのため、できる限りフィッティングを受けることが推奨されます。
3. ショートサドル6メーカー&24モデル比較
総合メーカーのSpecializedからショートサドルのトレンドが生まれ、現在では各サドルメーカーからもラインナップが揃い踏み。代表的なメーカーごとのロード用モデルの特長と、それぞれのスペックを比較していきます。
① Specialized – スペシャライズド
あらゆるニーズに応える死角のないサドル
ショートサドルの代名詞となるほど、「サドルとしては異例のヒット作」(Specialized担当者談)となったSpecializedの「POWER」シリーズ。
フラット座面の「POWER」とラウンド座面の「POWER ARC」に大きく分類され、その中でカーボンレールの“S-Works”モデルとチタンレールの“Expert”モデルでグレード分けされています。
また業界初の女性用ショートサドル“POWER with MIMIC”や3Dプリント加工の“POWER with Mirror”を新たに加え、この界隈では最も死角のないラインナップが揃い踏み。
143mm幅は毎回入荷後すぐに売り切れるため、気になっていれば即決が必要。
Specialized主要ラインナップ
POWER系 |
POWER ARC系 |
||||
モデル | S-Works Power with Mirror |
S-Works Power |
Power Expert |
S-Works Power Arc |
Power Arc Expert |
幅(mm) | 143/155 |
143/155 | 143/155/168 | 143/155 | 143/155 |
重量(g) | 190/194 | 159/161 | 233/235/238 | 141/145 | 243/256 |
税抜価格 | ¥49,500 | ¥26,000 | ¥15,000 | ¥26,000 | ¥15,000 |
特徴 | ・フラット ・カーボンレール |
・フラット ・カーボンレール |
・フラット ・チタンレール |
・ラウンド ・カーボンレール |
・ラウンド ・チタンレール |
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Powerサドルのレビューはこちら
② Prologo – プロロゴ
ピュアレーサーにも刺さる魅力的なオプション
Prologoのショートサドルは「Dimension(ディメンション)」シリーズ。
レールやパッドの厚みなどで派生モデルが複数存在するところはサドルメーカーならでは。名前の後ろに付けられた以下モデル名によってスペックを判別します(“Dimension CPC Nack”のように)。
レール |
表面加工 | パッド量 | |||
モデル名 | Nack | Tirox | T4.0 | CPC | NDR |
特徴 | カーボンレール | ステンレスレール | クロム合金レール | 座面のグリップ向上 | 通常のパッド+3mm |
レールは上記3つのうちいずれかですが、表面加工とパッド量については複数の特徴が組み合わされることもあるため、“DIMENSION NDR CPC TiroX”のように長い名前のモデルも。
どれを選ぶか迷うところですが、特にCPC加工はPrologoならではのグリップテクノロジーで、ハイケイデンスでもブレないペダリングを実現したいピュアレーサーにとっては魅力的なオプション。
自分の乗り方に合う特徴があれば試す価値の高いモデルが揃っています。
Prologo主要ラインナップ
モデル | Dimension Nack |
Dimension CPC Nack |
Dimension Tirox |
Dimension CPC Tirox |
幅(mm) | 143 | 143 |
143 | 143 |
重量(g) | 149 | 159 | 179 | 189 |
税抜価格 | ¥28,000 | ¥32,500 | ¥14,800 | ¥20,500 |
特徴 | ・セミラウンド ・カーボンレール |
・セミラウンド ・カーボンレール ・CPC加工 |
・セミラウンド ・ステンレスレール |
・セミラウンド ・ステンレスレール ・CPC加工 |
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③ Fizik – フィジーク
スマートなデザインとラインナップ
Fizikはデザイン性の高い2種類のショートサドル「VENTO ARGO(ヴェント・アルゴ)」「TEMPO ARGO(テンポ・アルゴ)」を展開(ほかにグラベル用の「TERRA ARGO」もあり)。
「VENTO」はレーサーモデルで、パッドは薄く、前傾姿勢でペダリングがスムーズに行えるようにノーズが湾曲しています。
対して「TEMPO」はエンデュランスモデル。より骨盤を立てたアップライトなポジションに合うように、後部に厚めのパッドを配し、ノーズはストレートになっています。
いずれもカーボンレールの「R1」、キウムレール(Fizikオリジナルの金属レール)の「R3」、S-Alloyレールの「R5」という3グレードから選択可能。
Fizikラインナップ
Vento系 | Tempo系 | |||||
モデル | Vento Argo R1 |
Vento Argo R3 |
Tempo Argo R5 |
Tempo Argo R1 |
Tempo Argo R3 |
Tempo Argo R5 |
幅(mm) | 140/150 | 140/150 | 140/150 | 140/150 | 140/150 | 140/150 |
重量(g) | 176/186 | 213/220 | 241/247 | 195/202 | 229/235 | 241/247 |
税抜価格 | ¥22,200 | ¥15,800 | ¥11,800 | ¥21,600 | ¥15,200 | ¥12,760 |
特徴 | ・ラウンド ・レーサー用 ・カーボンレール |
・ラウンド ・レーサー用 ・キウムレール |
・ラウンド ・レーサー用 ・S-Alloyレール |
・ラウンド ・エンデュランス用 ・カーボンレール |
・ラウンド ・エンデュランス用 ・キウムレール |
・ラウンド ・エンデュランス用 ・S-Alloyレール |
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④ Supacaz – スパカズ
カラーバリエーション&価格の魅力
色とりどりのバーテープで知られるSupacazによる「Ignite Ti(イグナイト)」。
ショートノーズモデルは1種のみですが、カラーラインナップが14種あり、バーテープと揃えたコーディネートが可能な点が魅力的。
全体的に柔らかめのフォームが配されているためエンデュランス向き。求めやすい価格もGood。
Supacazラインナップ
モデル | Ignite Ti Saddle |
幅(mm) | 143/155 |
重量(g) | 255/266 |
税抜価格 | ¥13,700 |
特徴 | ・フラット ・チタンレール |
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⑤ Bontrager – ボントレガー
ロードでもグラベルでも使える高い柔軟性
Specializedサドルのヒットに呼応するように、TREK傘下のBontragerもショートサドル「Aeolus(アイオロス)」をリリース。
左右に分割されたシンプルな形状は、股やお尻にかかる圧迫感を軽減するだけでなく、とてもスマートな印象。TREKバイク以外に取り付けても違和感のないデザインです。
また、この形状とノーズ先端まで伸びたレールによって、しなりを生み振動吸収性を高める効果も。
レール素材によってPro/Elite/Compの3種に分かれ、Proだけは座面が固めの仕様。
Bontragerラインナップ
モデル | Aeolus Pro | Aeolus Elite | Aeolus Comp |
幅(mm) | 145/155 | 145/155 | 145/155 |
重量(g) | 170/173 | 219/222 | 286/289 |
税抜価格 | ¥22,400 | ¥13,600 | ¥8,300 |
特徴 | ・セミラウンド ・カーボンレール |
・セミラウンド ・オーステナイトレール |
・セミラウンド ・スチールレール |
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⑥ Selle Italia – セライタリア
オールドファンに応える豊富なバリエーション
サンマルコとともに「世界2大サドルブランド」と呼ばれるセライタリア。1897年創業と古い歴史を持つメーカーは、旧くからのファンに応えるように、既存のシリーズを改良するかたちでショートサドルを展開しています。
ショートサドルがラインナップされているのは以下4シリーズ。いずれもレールのグレードや穴あき/穴なしで複数モデルが存在します。
Flite | ノーズ〜中央部のラインが細く、ペダリングが安定する代表的レーシングモデル |
SP-01 | 分割したサドル後部でペダリングを安定させる中長距離向けモデル |
SLR | フラットな座面で、最も軽量な短距離向けレーシングモデル |
NOVUS | ホールド感が高い座面で、着座時の安定性・快適性を高めた中長距離向けモデル |
ほかのメーカーと比較すると全体的に値が張るのは、歴史あるブランドの信頼によるものかもしれません。
Selle Italia主要ラインナップ
Flite | SP-01 | SLR |
Novus | |||||
モデル | Flite Boost KIT |
Flite Boost Ti316 |
SP-01 Boost KIT |
SP-01 Boost Ti316 |
SLR BOOST KIT |
SLR BOOST |
Novus Boost KIT |
Novus Boost |
幅(mm) | 135/145 | 135/145 |
130/146 | 130/146 | 130/145 | 130/145 |
135/146 | 135/146 |
重量(g) | 173/180 | 210/218 | 160/165 | 188/194 | 132/139 | 170/175 | 182/187 | 240/245 |
税抜価格 | ¥34,800 | ¥26,200 | ¥33,500 | ¥24,400 | ¥36,600 | ¥27,400 | ¥30,500 | ¥20,400 |
特徴 | ・フラット ・カーボンレール ・レース向き |
・フラット ・チタンレール ・レース向き |
・ラウンド ・カーボンレール ・中長距離向き |
・ラウンド ・チタンレール ・中長距離向き |
・フラット ・カーボンレール ・短距離向き |
・フラット ・チタンレール ・短距離向き |
・フラット ・カーボンレール ・中長距離向き |
・フラット ・チタンレール ・中長距離向き |
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Appendix. 価格帯別比較表
ハイエンドグレード(¥25,000〜)
メーカー | Specialized | Prologo | Fizik | Bontrager | Selle Italia |
||||
モデル | S-Works Power |
S-Works Power Arc |
Dimension Nack |
Vento Argo R1 |
Tempo Argo R1 |
Aeolus Pro | SP-01 Boost KIT |
Novus Boost KIT |
Flite Boost KIT |
幅(mm) | 143/155 | 143/155 | 143 | 140/150 | 140/150 | 145/155 | 130/146 | 135/146 | 135/145 |
重量(g) | 159/161 | 141/145 | 149 | 176/186 | 195/202 | 170/173 | 163/166 | 182/187 | 173/180 |
税抜価格 | ¥26,000 | ¥26,000 | ¥28,000 | ¥22,200 | ¥21,600 | ¥22,400 | ¥33,500 | ¥36,600 | ¥34,800 |
特徴 | ・フラット ・カーボンレール |
・ラウンド ・カーボンレール |
・ラウンド ・カーボンレール |
・ラウンド ・レーサー用 ・カーボンレール |
・ラウンド ・エンデュランス用 ・カーボンレール |
・セミラウンド ・カーボンレール |
・ラウンド ・カーボンレール ・中長距離向き |
・フラット ・カーボンレール ・中長距離向き |
・フラット ・カーボンレール ・レース向き |
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ミドルグレード(¥15,000〜25,000)
メーカー | Specialized | Prologo | Fizik | Bontrager | Selle Italia |
Supacaz | ||||
モデル | Power Expert |
Power Arc Expert |
Dimension Tirox |
Vento Argo R3 |
Tempo Argo R3 |
Aeolus Elite |
SP-01 Boost TM |
Novus Boost |
Flite Boost Ti316 |
IgniteTi |
幅(mm) | 143/155/168 | 143/155 | 143 | 140/150 | 140/150 | 145/155 | 130/146 | 135/146 | 135/145 |
143/155 |
重量(g) | 233/235/238 | 243/256 | 179 | 213/220 | 229/235 | 219/222 | 213/218 | 235/240 | 210/218 |
255/266 |
税抜価格 | ¥15,000 | ¥15,000 | ¥14,800 | ¥15,800 | ¥15,200 | ¥13,600 | ¥20,000 | ¥20,000 | ¥26,200 |
¥13,700 |
特徴 | ・フラット ・チタンレール |
・ラウンド |
・ラウンド ・ステンレスレール |
・ラウンド ・レーサー用 ・キウムレール |
・ラウンド ・エンデュランス用 ・キウムレール |
・セミラウンド ・オーステナイトレール |
・ラウンド ・チタンレール ・中長距離向き |
・フラット ・チタンレール ・中長距離向き |
・フラット ・チタンレール ・レース向き |
・フラット ・チタンレール |
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* * *
サドルは個々の相性の問題が大きく、どのモデルがおすすめということは断言することができません。ただショートモデルだけでもこれだけの数があるため、サドル沼から連れ出してくれる運命のモデルは必ずどこかにあると思います。
ことショートサドルに関しては、僕自身も周囲も「導入して良かった」と感じるケースがほとんど。
ショート未経験の方はぜひ試してみて、最終的に良いサドルと巡り合えることを願っています。
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サドル選びの基本を知る
著者情報
Tats Shimizu(@tats_lovecyclist) 編集長&フォトグラファー。スポーツバイク歴11年。ロードバイクを中心としたスポーツバイク業界を、マーケティング視点を絡めながら紐解くことを好む。同時に海外ブランドと幅広い交友関係を持ち、メディアを通じてさまざまなスタイルの提案を行っている。メインバイクはStandert(ロード)とFactor(グラベル)。 |