冬用ウェアの定番カラーは「黒」。
黒は日差しのぬくもりを蓄える冬に最適な色。デザイン的にも黒がよく選ばれるのは、長袖は生地面積が大きいので派手な色柄との相性が良くないことから。そしてどこかほの暗い冬の雰囲気に、黒はよく似合います。
黒いウェアは、色柄モノと違ってウェアの“素のクオリティ”がはっきりわかるのでチョイスの難しい色ですが、それだけ優れたウェアほど良さが引き立つもの。
英国のハイブランド“Vertex London”に2019秋冬シーズンから新たに加わった黒のキットをひと目見たとき、なんて綺麗な黒なんだろうと思いました。これをちゃんと自分なりに冬のスタイルに活かして着こなしたいと強く感じ、その魅力を詳しくレビューしたいと思います。
※本ウェアはVertex Londonより提供いただいたものです。
Essence Winter ロングスリーブジャージ & タイツ
Essence Winter Long Sleeve Jersey($105.00) & Essence Winter Tights($125.00)
極限まで無駄を排除するVertexらしい、上下ともシンプルな黒の冬用キット。
この“Essense”シリーズジャージの対応気温の目安は7〜15℃あたり(“Team”シリーズジャージもほぼ同等の対応気温)。もちろん、この上からほかの冬用ジャケットを羽織るのもOK。細身なのでミドルレイヤーとしても優秀で、冬の間ずっと使えます。
ビブタイツの方は0〜5℃あたりで使える冬用装備。
ほかの何よりも美しく、抜け感のある「黒」
ジャージ:サイズS(身長177cm/胸囲86cm)
2本ストライプをアクセントとする以外は、ただただ黒いデザインですが、これがものすごく良い色。深淵を覗くように、ムラのない一定の色調。
なぜこの色が再現できるか。
サイクルウェアの価格は、さまざまな要素によって決められます。設計・生地・生産地など数ありますが、見落とされがちなのが「生地への染色方法」の違い。
多くのエントリー向けのウェアは、織り上がった生地に“昇華プリント”して色柄を付けています。
プリント式はコストが安く生産ロットを抑えられるのがメリットですが、あくまで印刷なので色の再現性は低く、紫外線や洗濯による退色も早いというデメリットも。
逆にVertexのような高級ラインの多くは、糸の段階で色を染める“先染め”式を採用しており、生地の裏側まで染まっているため鮮明な発色が再現可能。ほとんど色落ちすることもありません。
ただ先染めは生地から発注する必要があるのでコストが上がり、ある程度販売数の見込める世界をマーケットにするブランドが主流とする方式です。
昇華プリントの黒と先染めの黒、見え方がどう異なるか。
左: 昇華プリント / 右: 先染め(Vertex)
太陽光を当てたときの状態。プリント生地は少し赤みがかった黒になり、光を反射してチラツキが見えるのに対し、先染めは光を吸収して一定のトーンが保たれています。
一見微妙な違いかもしれませんが、全身で見るとその違いはさらに明確に。
Vertexのウェアは先染めの深みのある黒だからこそ、たとえ真っ黒でもスタイリッシュな印象になり、着るだけでサイクリストが映える。本当に良いものの雰囲気をまとうことができます。
Vertexでしか味わえない着心地の良さ
よく「品質が良いブランドはどこか?」と聞かれるときに、僕のこれまでのウェア体験から回答するブランドリストの中にVertex Londonは必ず入ります。
写真だけでそれを伝えられないことがすごく歯がゆいのですが、手にとった瞬間の生地の滑らかさ、袖を通してジッパーを閉めたときのフィットする気持ちよさは、ほとんどのブランドの体験を超える随一のもの。
そんなVertexのウェアづくりをシンプルに表現するなら「繊細」「徹底的」「贅沢」という3つの言葉がぴったり。
キメの細かく伸縮性の高い生地、高級ラインのジッパーやパッド、サイクリストらしさを出すシルエットを徹底的な品質管理で作り上げています。素材のセレクトが絶妙であり、着るサイクリストがより映えるようにつくられています。
バックポケットもしっかり補強されて扱いやすく、もちろん便利な4thポケット付き。
ビブタイツ:サイズS(ウエスト74cm)
タイツも薄いのに温かい。これ1枚で十分に冬を越せます。そして黒がやはり美しい。
着ていることを忘れるような着心地を実現したとのことですが、本当に伸縮性が高くてストレスフリー。
ただかなりタイトなので、脱ぎ着するときはちょっと時間がかかります。
シャモアパッドはサイテック製を採用。
サイテックのパッドはライドスタイルに応じて10種類以上のロード用パッドを揃えていますが、このタイツに用いられているはブルベのような超長距離ライドに最適な“Road Performance Force”。
股間中央部にかかる圧を軽減して、血流やしびれを改善するタイプです。これは僕のように股間の痛みなどの状態を気にする男性にとって重要なポイントであり、今使っているPOWERサドルとの相性も抜群。座面がものすごく安定して、長時間のシッティングでも違和感を覚えません。
黒を基本に、着こなしの幅を広げる
同じブランドばかりでのコーディネートはときにブランド広告塔のようになりがちですが、Vertexは自社ロゴでさえ極力排除することを理想としているため、全身Vertexで揃えても嫌味がないのが素晴らしい。
上下真っ黒が面白くなければ、同じVertexのIllusionsソックスシリーズとの組み合わせは最高の相性。
少し小物でソフトな柄を足すことで、もともとあった抜け感がさらに増幅します。
あるいは春秋用限定版のCamo Long Sleeveジャージ($125)を中に着るのだってもう最高。
ジャージを重ねる着こなしは普段あまりしませんが、究極にシンプルなEssenseジャージ1枚があると、薄手と厚手のジャージで組み合わせたりして、新しい着回しに挑戦してみることができます。
そうやってサイクルファッションのステージを一歩上げてくれるような都会的な雰囲気をまとったウェア。これらが手元にあることで、次の週末は何を着ようかと考えることが、今まで以上に楽しくなりました。
本当に良いものを探している感度の高いサイクリストに、Vertex Londonは強くおすすめしたいブランドです。
Highs
– 色へのこだわりが表現された美しい黒
– なめらかな生地感と着心地
– スマートなシルエット
Lows
– ビブタイツの装着に少し時間がかかる